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【合本版】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
番外編②

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豪End アフターストーリーSS『雨の後の虹』

高校を卒業して、半年が経った。

玲は都内の大学へ通うため上京し、豪はそのまま地元に残って専門学校へ通っている。

遠距離恋愛――なかなか会えない日も多いが、二人はほぼ毎日連絡を取り合いながら、順調に愛を育んでいた。

そんな折、大学の一週間ほどの秋休みを利用して、玲が実家へ帰ることになった。


「明日、帰ってくるんだな。」

「うん。毎日こうやって電話はしてるけど……久しぶりに会えるのは、やっぱり嬉しいよ。」

「ああ、俺も。」

玲は荷造りをしながら、いつものように豪と電話を繋いでいた。


「ところで……。」

豪は一つ咳払いすると、少し言いにくそうに言葉を続けた。

「……東京じゃ、変なやつに絡まれたり、誘われたりはしてないか?」

「……絡まれたり、誘われたり? ない! ない!」

玲がケラケラと笑う。

「私は豪に一途だから。心配しなくていいよ。……逆に、豪は大丈夫?」

「俺!? それこそないだろ!」

豪もつられて笑う。

「俺はお前ほどモテねーよ。」

「そんなことないよ! 豪は優しいから、言わないだけで想ってる人は多いと思うよ?」

「そうかぁ? でも、俺は玲以外、眼中にないけどな。」

「豪……。」

豪は、こうやって自然に嬉しい言葉をかけてくれる。

そういう温かさが、玲は好きだった。


「なぁ、久しぶりに会うんだし……どこか一緒に行かないか?」

「いいね!」

玲は勢いよく返事をした。

「遊園地! 豪と一緒に『ドリームランド』に行きたい!」

「ドリームランド?」

「うん! 高校二年生の時に、生徒会のみんなで行ったけど……あの時は『もう一人の玲』だったから、私は一度も行ったことないんだよね。」

「そうか……!」


高校二年生のちょうど今頃――。

転生してきた玲が『世界のバグ』と見なされ、元の玲の人格に戻った時期。

その時、前の玲を取り戻そうと、生徒会のみんなで遊園地へ来たことがあった。

豪は懐かしむように目を細める。


「そっか……。よし、行こう!」

「え? ほんと? やったぁ〜!」

玲の嬉しそうな声が聞こえる。

その声を聞いて、豪もつられるように微笑んだ。

「じゃあ、明日の朝十時。現地集合な!」

「うん! ありがとう、豪! 楽しみにしてる!」


◇


翌朝。

オープンしたばかりのドリームランドは、すでに多くの家族連れやカップルで賑わっていた。


「おい、玲〜!」

「おまたせ〜!」

入場ゲート前で待ち合わせた二人は、久しぶりの再会を喜ぶようにハグを交わした。

「豪、元気そうで良かった!」

「そっちこそ。それにしても、直接来た割には荷物が少ないな?」

「うん! 昨日のうちに、実家に必要な分は送っておいたからね!」

「なるほどな! じゃあ、今日は思いっきり楽しもうぜ!」

「うん!」

二人は並んで、入場ゲートをくぐった。


園内に入ると、玲はさっそく、昨日徹夜で作った『旅のしおり』をバッグから取り出した。

それを豪にも手渡す。

「すげーな! これ、お前が作ったのか?」

「うん! 楽しみすぎて眠れなくて。めいっぱい楽しめるように計画を立ててきたんだ」

「さすが、元生徒会!」


ふふん、と玲は得意げに笑う。

「じゃあ、まずは――」

そう言うと、玲はしおりを指差した。

「お土産ショップにレッツゴー!」

「お、おい! ちょっと待て!」

豪は慌てて引き止める。

「土産ショップは最後だろ? 荷物になるし。」

すると、玲は人差し指を左右に振りながら、豪に向き直った。

「ちっちっちっ、甘いよ、豪くん! テーマパークの醍醐味は、お揃いカチューシャでしょ!?」

「お、お揃いカチューシャ……?」

「そうそう! カップルや友達で付けて、一緒に回るんだよ!」


そう言われて、豪は周りの客を見渡す。

確かに、うさ耳やくま耳を付けている人たちがいる。

だが――。

(筋肉モリモリ、身長一八〇センチ超えの大男のうさ耳を、誰が見たがるんだ……?)

想像しただけで、豪は身震いした。


「い、いや! お前はまだいいかもしれないけど……俺がうさ耳やくま耳はちょっと……。」

「そう? ……じゃあ、カチューシャはやめてポーチにする? それならいい?」

「ま、まぁ……それくらいなら。」

玲の顔が一気に華やぐ。

「決まり! じゃあ先にポーチ買いに行こう!」

「お、おう!」

玲のキラキラした笑顔に、豪は眩しそうに目を細めた。


◇


ドリームランドのマスコットキャラクター、ウサッピーとクマポンのポーチをそれぞれ首から提げながら、二人はスケジュール通りにアトラクションを回っていった。


「ジェットコースター、死ぬかと思ったぁ。身体が少し浮いたもん!」

「ははっ。ここのコースターは日本一の高さで有名だからな!」

「だからか〜。本当に怖い時って、声も出ないんだね! 豪は大丈夫だった?」

「いや、俺はコースターが怖いっていうより……やけに静かだなーって隣を見たら、お前が固まってるから。気を失ってるんじゃないかって、そっちのほうがヒヤヒヤした」

「心配するの、そこ〜〜っ!?」

玲が頬を膨らませる。

「だって、お前、ずっと目ぇ閉じてたじゃねーか。」

「だって怖かったんだもん!」

豪は楽しそうに笑った。


◇


「お化け屋敷も怖かったぁ〜。豪、ずっとしがみついててごめんね。」

「いや、全然。むしろ可愛かった……。」

豪は、伸びてしまったTシャツの裾を整えながら笑う。

「でも、お化け屋敷はやっぱり苦手。なんか昔のトラウマを思い出しちゃって……。」

「夏合宿の時のやつだよな? ……あれは確かにヒヤヒヤしたな。」


玲が二年前の夏、肝試しで崖から落ちて遭難しかけたことは、今思い出しても背筋が凍る。

「でも、あの時も……豪が助けてくれたんだよね。今でもちゃんと覚えてる。あの時かな? 豪のことを少し意識し始めたの……。」


豪は、少し驚いたように目を見開いた。

玲からは、あまりそういう話を聞いたことがなかった。

それに――。

(俺も、あの時だったんだよな……。俺がこいつを守らないとって、強く思ったのは――。そうか……あの時から、同じ気持ちだったのか……。)


「そっか……なんか、嬉しいな。」

豪は照れくさそうに笑った。


◇


二人はパーク内のレストランで昼食を終えると、再び歩き出した。

玲がしおりを開き、午後の予定を確認する。

「このあとは、ゴーカートとメリーゴーランドに乗って、その後は――」


その時だった。

遠くの方から、甲高い女性の声が聞こえてくる。

「あれー? 豪じゃない!?」

「あ、ほんとだ! おーい、豪〜!」

声のする方を見ると、明るい髪色に濃いめの化粧をした、派手な見た目の女性二人組がこちらに手を振りながら近づいてきた。


「げっ!? なんであいつらがここに……!?」

「……誰?」

「俺の専門学校の同級生……。」


女性二人組は、豪の両脇に立つと、かなり親しい様子で声をかけてきた。

「豪、何してんの?」

「何って、遊びに来てんだよ!」

「隣の子、見たことないけど誰? 友達?」

「いや……高校の同級生の――」

「えー! お友達くん、めっちゃイケメンじゃん! 紹介してよ〜。」

「おいおい……。」

豪が困ったように笑う。

「ていうか、豪。うちらと一緒に回らない?」

「いや、今日は――」

「いいじゃん、ちょっとくらい!」

女性たちはグイグイと豪に近づき、腕に手を回す。

「ね?」

「だから、今日は――」


その様子を見ていた玲の体温が、すっと冷めていった。

考えるより先に、言葉が出ていた。

「豪の同級生? 良かったね、豪! こんなに可愛い同級生がいて。」

玲は一歩後ずさると、口元だけで笑顔を作った。

「私は今からちょうど帰るところだったから。このあとは一緒に回りなよ?」

「えっ……玲!?」

「……じゃあね。」

驚きで固まっている豪を横目に、玲はくるりと踵(きびす)を返す。

そして、そのまま歩き出した。


「玲! 待てよ!」

豪が呼び止める声が聞こえた。

けれど玲は、振り返らなかった。


玲は当てもなく、ズンズンと目の前に続く道を歩いていた。

冷えていた気持ちが、今度はどんどんと熱くなる。

「なんなの? あの人たち!? 豪にあんなにベタベタ触って……本当にただの同級生!?」

玲の心は、珍しく大きく波立っていた。


「豪だって、はっきり言わないからあんなふうに絡まれちゃうんだよ!?」

もはや、誰に対して怒っているのか、自分でも分からない。

玲は近くのベンチに座り込んだ。


「豪はすごく優しいから……。言ったじゃん……自分が思ってるよりモテるんだよって。」

下を向くと、深いため息がこぼれた。

「はぁ〜……。何やってるんだろ、私……。」


◇


一方、豪は女性たちと別れたあと、玲を探し回っていた。

『玲! 今どこにいる?』

スマホでメッセージを送るも、既読にならない。

「本当に帰っちまったのか……。」

パーク内が、だんだんと薄暗くなってくる。

(何か……ヒントはないか!?)

豪は、玲が作ったしおりを開いた。


『昼食のあとは、ゴーカートにメリーゴーランド――』

『最後に、夜景を見ながら観覧車――』


「これだ!」

豪は観覧車の方へ向かって走った。


◇


『パーク内のアトラクションは、この時間で受付終了となります。』

館内放送が流れる。

豪が息を切らして観覧車前に辿り着くと――。

いた!


「玲!!」

その声に弾かれたように、人影が振り向いた。

さらりと艶やかな黒髪を揺らし、印象的なアメジストの瞳を瞬かせる。


「玲……。やっと見つけた……。」

観覧車の横に立っていた玲に、豪は駆け寄った。

「豪……。」

「もう帰ったかと思った。」

「うん……。」

玲の視線が下に落ちる。

「帰ろうかな、と思ったんだけど……。夜景だけは見て帰ろうかなって思って……。でも、実際に来てみると、一人じゃなんだか虚しくて……乗れなかったんだ。」


その時、スタッフが二人に声をかけた。

「この運行が最終になりますが、お二人とも乗られますか?」

豪は、俯いていた玲の手を取った。

「玲、乗ろう!」

「えっ?」

「ここで乗らないと、絶対後悔するぞ!」


豪は玲の手を引き、半ば強引に観覧車へ乗り込んだ。

ゴンドラがゆっくりと上昇していく。


「玲。」

その声に、ピクリと玲の肩が揺れる。

ゆっくりと視線を豪へ向けた。

「ごめん……豪。突然、飛び出していっちゃって――。」

アメジストの瞳が揺れる。

「彼女たちとの関係、疑ったわけじゃないんだ……。でも、女の子と仲良くしている豪を見ると……悔しくて、悲しくて……。勝手に嫉妬して……デートを台無しにしちゃった。」


豪は大きく息をついた。

「正直、びっくりした……。」

「……っ」

「びっくりしたけど……嬉しくもあった。」

「……え?」

「玲が、そんなふうに感情を出すことって、あんまりないから。それだけ俺のことを本気で想ってくれてるんだって思った。」

「豪……。」

「玲。自分勝手なのはダメだけど、我慢もしちゃダメだ。思ったことは、ちゃんと伝え合っていこう。」

「うん……。」

「でも……もう勝手にどっか行くのはなしな? 心配するから。」

豪は優しく微笑むと、玲の頬に手を添えた。

「うん、豪。私の隣にいるのが豪で……本当に良かった。」


夜景に浮かび上がる観覧車の中。

二人のシルエットが、そっと重なった。


◇


観覧車を降りると、園内の人影はまばらになっていた。

館内では、閉館を知らせる音楽が流れている。

二人は手を繋ぎながら、出口へ向かった。


「ごめんね。結局、私のせいで……午後からは観覧車しか乗れなかった……。」

申し訳なさそうな玲に、豪は横でカラッと笑う。

「まぁ、こういう日もあるさ。」

「豪……。」

「案外、こういうことの方が覚えてたりするしな。それに……二人でかくれんぼしてた、って思えば悪くないだろ?」

その言葉に、玲の顔がふっと綻ぶ。

「ふふっ。やっぱり、神城豪は最高だね。私の太陽だ。」

「ん?」

「だって、さっきまで雨が降ってた私の心も、その明るさで温めてくれるから。」

豪は一瞬ぽかんとしたあと、照れくさそうに笑った。

「……それなら、これからも俺はずっとお前の太陽でいるよ。」

手を繋ぎ笑い合いながら、二人はゲートをくぐった。


小さなケンカやすれ違いが合っても、その度に乗り越え二人の絆は強くなる。

二人なら、その雨の向こうにある虹を、一緒に見つけられる――


豪End アフターストーリーSS『雨の後の虹』


Fin.

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