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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
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1-27.禁足地たるは

 クエスタ本部の裏側には、治安維持部隊本部が隣接して建っていた。

 正方形の十五階建て――その一階の車庫に、グエンを運んだ幌車が停まっていた。

 幌車の屋根で寝ていたオライオンは、たっぷりと睡眠を取って気持ちよく目覚めた。


「クアア……」


 喉の奥が覗くほど、ぐっと口を開けてあくびをした。

 立ち上がり、背を伸ばしてから鼻をスンスンと鳴らす。

 暗い車庫には人影がなく、音という音が落ちていた。

 それでも彼の鼻が何かを拾い、陽の光が漏れる入口へ鼻先が向くConsiderably.

 シャッターの隙間から外の日差しが差し込み、すぐそばを駆け抜ける足音が弾けた。

 耳を立て、音へ首を向けた瞬間、オライオンは幌車の屋根を蹴って跳ぶ。

 影の車庫を裂き、隙間から外へすり抜けた。

 白い陽光が降り注ぐ中、オライオンは青いツナギ姿の少年から強い絶望の匂いを嗅ぎ取り、その小さな背を追ってクエスタ本部へと走る。


 クエスタ本部、エントランスホール。

 モバイルの用意を終えたユイナは、グエンに操作方法などを事細かに説明していった。


「では、一通りの使い方は以上です。職務に関することでわからないことがありましたら、私がフォローいたしますのでご連絡ください。例の依頼などもありますので、通常の窓口とは別に私ユイナがサポートいたします」


 ユイナは書類とモバイル周りの機器を大きな紙袋に詰めるとグエンに手渡した。

 満足したグエンが荷物を笑顔で受け取る。


「このモバイルとやらの使い方くらいは一人でなんとかするよ。色々とありがとう」

「依頼案件に関してですが、少し追加の設定もしておきました。グエンさんにぴったりの案件を優先的にお届けします」

「ん? ああ、ありがとう?」

「グエンさんには期待しております。何卒」

「期待に応えられるように力を尽くすよ。……あ、最後に一つ聞いていいかな」

「はい、なんでしょうか?」

「さっき会ったローガー会長っての、あんなんで大丈夫か? 俺が言うのもなんだが、なかなかに非常識だった」


 バツの悪い表情で話すグエンにユイナは小さく笑った。


「グエンさんのご懸念もごもっともです。……昔はローガー会長ももう少し穏やかだったんです。十年ほど前にご子息を亡くされてからどんどん偏屈になってしまって、今ではあのように人を寄せ付けない方になってしまいました」

「亡くした? 何かあったのか?」

「はい。ご子息は世界樹の伝説に傾倒していた方で、非常に熱心な研究者でした。研究レポートや著書がいくつか出版されているんですよ。子煩悩だった会長は資金支援も含め陰ながら支えておられましたが、大隧道奥から禁足地へ至る道が発見され、あのようなことが……」


 大隧道の発見と聞いた瞬間、グエンの眉間に皺が寄った。


「まさか、その彼は大隧道を抜けてスクアミナ禁足地に入ったのか……?」


 その問いにユイナは言葉を詰まらせた。

 視線を落としてしばし思案すると、意を決して言葉を続ける。


「本部長とああいったやりとりをしたグエンさんなら、この話をしても問題はありませんね。ですが、この件は表立って話すには(はばか)られる話題ですので、どうか内密に願います」

「ああ、墓まで秘密を持っていくのは得意だから大丈夫だよ」

「まさしく、ご子息は通行許可を待たずに禁足地に入ってしまいました。禁足地は未開の地です。まともな地図すらありません。侵入に気が付いた後、捜索隊を組織しましたが、捜索は思うように進みませんでした。一か月以上捜索を続けましたが、結局遺体も見つからず行方不明扱いとなりました。その際に、捜索隊にも死傷者が出てしまったことで、ヒッジス本部長と会長とで諍いになりまして……」


 グエンは頭を掻き、口の端を苦く歪めた。


「なるほどな。そういういきさつもあって封鎖され、許可も出にくいと」

「もちろん、さきほど本部長が申した通りスクアミナ教会の聖地でもあります。それに加えてクエスタ内部の事情もあり、より許可が難しいという状態です」

「それで推薦が難しいって言ってたわけか」

「ですが、本部長は必ず約束を守られます。ご安心ください」

「随分と信頼が厚いんだね。ヒッジスさんは」

「立派な方ですから。異例の若さで本部長になったことで陰口も多くありますが、私は一個人として本部長を支持しております。グエンさんの無作法な申し出も、承諾した以上必ず守られます」


 まっすぐな物言いに、グエンは頭を掻いた。


「ま、まあ、俺も反省はしているよ。じゃ、俺は行くよ。あー、例の件は、このモバイルで受ければいいのかな」

「はい、すぐにチャットで送られます。内容をご確認ください。まずは、大隧道の内部へ向かってください。エリエラさんはそこへ向かわれました」


 親指を立ててみせるグエン。


「任せてくれ。約束は守る」

「はい、期待しています。それと、チーム登録の際には、エリエラさんを含めた4名でお願いいたします」

「了解したよ」


 片手を上げて彼女に別れの挨拶を交わすと、グエンはエントランスホールを横切りクエスタ本部の出入口へと向かう。

 ユイナは本部を後にする背へ、深く頭を下げ続けた。

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