プロローグ 〜大聖女の娘〜
母の話を聞く時間は、幼いマナにとって何よりの楽しみだった。
「おばさん、今日もお話しして」
寝支度を終えたマナは、いつも決まってそうねだる。伯母は微笑みを返し、灯りを少し落とした。
「一つだけよ。今日は、どんな話がいいの?」
「お母さんが魔女をやっつけたときの!」
「はいはい」
優しい手をマナの髪に添えながら、伯母はほんの少し目を細める。それからゆっくりと、子守唄を聞かせるように言葉を紡ぎだした。
「マナのお母さんはね、自分の命を削ってでも、みんなを救う人だったの。十年前のあの日、魔女を封じて……国を守った大聖女よ」
ひとつの物語を語り終えた伯母は、遠い記憶を見るように続けた。
「ドロシアは、小さな青い宝石をいつも大事そうに持っていたわ。それは……」
「わたしも、いつかお母さんみたいな大聖女になるんだ!」
幼い声が勢いよく伯母の言葉を遮る。伯母は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頬を緩め、くすりと笑った。
「そうね、いつかマナもなれるわ」
再び髪を撫でる手のひらの温かさに、マナのまぶたがゆっくりと落ちていく。
憧れはどんな言葉よりも深く胸に刻まれ、呼吸するたびに膨らんでいった。
──わたしも、みんなを守れる人になるからね。
幼いマナは毎晩、母に誓いを立てるように願いながら眠りについていた。




