プロローグ 〜大聖女の娘〜
母の話を聞くのが大好きな子供だった。
国を救った大聖女。自慢の母。
この日も母の話を聞きながら眠りについた。
いつか、母のような大聖女になることを夢見て──。
「ねえ伯母さん! 寝る前にまたママのお話して!」
ええ、いいわよ。マナは本当にお母さんが大好きなのね。
「だって、この国を守った大聖女なんでしょ!」
そうね。自慢の妹だわ。
じゃあ、今日はどんなお話が聞きたい? ドロシアが嫌いな食べ物を克服した話? 伯母さんとドロシアが好きな人を奪い合った話? ドロシアがいつも大事そうに持っていた青い宝石の話?
「全然違う! ママが魔女をやっつけた話!」
ふふ。マナはその話ばかり聞きたがるわね。
じゃあお話するから、ベッドに入って待っていて。
風邪ひかないように毛布はしっかりかけてね。
──じゃあ、お話ししましょう。
これは、マナが産まれる前のお話。
今から十年前。
「私が産まれる五年前!」
そう、五年前ね。
続きの前に、今ので毛布がめくれちゃったから、ちゃんと直してから。
いい子ね。
──十年前のある日、このネームルア国に魔女がやってきました。魔女の狙いは、大聖女がいなかったこの国を支配して、自分の領土にすることでした。
魔女はまず国の中心にある王宮を自分の城にしようと企み、そこに攻め込みました。
たくさんの人が魔女と戦いました。王宮の騎士はもちろん、一般市民の男性たちも武器を取りました。
そして、集められた聖女はその傷を癒すために力を使いました。
「ママも、そうだよね……」
そうね、ドロシアもその聖女の一人だった。
──魔女は想像以上に強くて、一筋縄ではいきませんでした。たくさんの人が傷ついて、たくさんの人が帰らぬ人となりました。
見るに耐えない現状でした。そんな時に現れたのが、
「……ママ」
──ドロシアでした。
彼女の身体は、綺麗な光に優しく包まれていているようでした。
ドロシアの聖力が急激に大きくなっていたのです。きっと彼女の『みんなを守りたい』という思いがそうさせたのでしょう。
ドロシアの聖力は魔女に勝るものでした。皆と協力し、王宮の奥にある森の中に魔女を深く追い込むと、ドロシアはそこに魔女を封印しました。
永久に出てこられないように、と。
「…………」
魔女を封印し、王宮の近隣街にまで結界を張ったドロシアは大聖女として国中から崇められました。
そして、ドロシアがいなくなってしまった今でも、その結界が王宮や街を守っていてくれるのでした。
──おやすみなさい、マナ。
あなたなら、きっと立派な聖女になれるわ。