ダン家のお屋敷
それから。
ギルドでリーシャはお金を受け取り、ゲラルドたちにヴィンセントとの仕事について話した。
ヴィンセントの仕事を手伝うと伝えた所、直ぐにそうか、と簡単な言葉が返って来た。
そうなる事を、ゲラルドは分かっていたようだ。
リーシャは何故分かったのか疑問に思ったが、長年の付き合いだから、としか教えてくれなかった。
レックスとの会話で出て来たエルザという女性は、ギルドのお金を管理していてなんとも気さくな性格だった。
大口を開けてケラケラ笑う彼女にリーシャは萎縮したが、今度女同士でお茶でもしましょと元気に言われてつい頷いてしまった。随分長い間、そんな楽しい事から遠ざかっていたようだ。勢いで承諾したものの、楽しみだなとリーシャはダン家の馬車の中で期待に胸を膨らませる。
「馬車酔いは平気か?」
「はい、大丈夫です」
リーシャたちが乗っているこの馬車はダン家の物だ。
一頭立ての黒い馬車で、扉に赤い目の鷹のエンブレムがある。
いつの間に馬車を?と顔で問いかけるリーシャにヴィンセントは微妙な表情でゲラルドが手配したと言う。
ヴィンセント曰く、彼の行動は常に先を行き、予測出来ないがそれが困ったことにならないから困る、との事。
とどのつまり、気が利き過ぎるらしい。
一才の無駄も無く、手配の時間も全て完璧。
だからこうして二人は待つ事も無く、目的の場所へと向かっている訳だが。
「あいつにはいつもシテやられる…」
ヴィンセントは面白く無い。
「ゲラルドさんの事ですか?確かに行動の先読みがすごいですよね。そういうスキルあるんですか?」
リーシャの両手の中にはヤトが眠っている。最初は興味津々で馬車の窓から外を眺めていたが、どうやら馬車の揺れが気持ち良かったみたいで幼子のように電池が切れたみたいに寝てしまった。
「いや、アイツのスキルはもっと力業のものだ。あんな見た目の癖に細かい所まで目が行くなんて気色悪い」
「あはは…」
確かに頭ツルツルのスキンヘッドで黒ひげのおっさんが気配り上手なんて、ちょっとアレだ。
だが実際それに助けられているので、リーシャは同意出来なかった。
「今日は色々あって疲れただろう?屋敷に着いたらすぐ食事にしよう」
「ありがとうございます」
正直リーシャのお腹はぺこぺこだ。
頭も使ったし、何より話が怒涛のように沢山あった。
身体が休息とご飯を欲している。気を抜くとお腹の音が鳴りそうである。
「何か食べれない物とかあるか?」
「特に無いです。大体なんでも食べれますよ」
「そうか。…好きな色は?」
「え、色ですか?んー…白色と淡い桃色です。青とか緑も好きですが、あんまり似合わないんです」
「成程。では長髪と短髪ではどちらが好みだ?」
「その人に似合ってればどちらでも…って、ヴィンセント様!その質問、なんですか?」
まるでお見合いみたいだとリーシャは思う。
ただヴィンセントの聞き方があまりにもスムーズで、リーシャは何でも答えてしまいそうになる。
いや、答えてしまう。
「リーシャの事が知りたいと思ってな。…嫌だったか?」
「………嫌じゃないですけど、じゃ、じゃあ、ヴィンセント様の事も教えてください」
「あぁ、いいぞ」
「好きな色は?」
「赤と紫」
「嫌いな食べ物は?」
「豆類」
「………長い髪と短い髪は、」
「長い方が好きだ」
「そう…なんです、ね…」
そこで二人は時が止まったように互いを見つめ合う。
ヴィンセントの長い指がリーシャの頬に触れた。
「っ…」
ピクリとリーシャが微動するが、ヴィンセントは止めない。
徐々にヴィンセントの顔がリーシャの顔に近づき、後数センチというところで。
ガタン!
馬車が、止まった。




