胸の高鳴り
ドキドキする。
心臓が何個もあるみたい。すごく大きな音がする。ヴィンセント様に聞こえてしまいそう。
顔も熱いわ。彼から与えられるのは刺激ばかりで、私は今日で何回赤面したのかしら。
ヴィンセント様の言葉は、素直に嬉しい。
私もまだ一緒に居たいと思ってしまったから。
これきりだなんて、嫌だった。
不安もある。私の力が全部バレてしまうんじゃないかって。
バレたらまた利用される人生になるんじゃないかって。
臆病な私が引き止める。
だけど未来を怖がって今動かないのは、ダメよね。
人生は選択ばかりで迷ってしまうけど、動かないことで迎えた未来に後悔したくないわ。
今、この場で選択するのも。
自由に生きる事と同義よね。
「あの…私、も」
「…!」
「ヴィンセント様と一緒にいたい、です」
「リーシャ、ありがとう…」
ヴィンセントはリーシャの手を優しく取り、自身の腕の中に閉じ込めた。
リーシャの長い髪が少し揺れ、ふわりと甘い香りがヴィンセントの鼻をくすぐる。
華奢な身体のリーシャはヴィンセントの腕にすっぽりと収まる。
まるで職人が自分の為に誂えたかのように。とても心地が良いと、ヴィンセントは思う。
「……っ」
「ーすまない、不躾に」
そうは言うものの、ヴィンセントはリーシャを閉じ込めたままだ。
声は優しく、甘いのに、腕の力は緩まない。
離したくないと、全身で主張しているようだった。
「いえ…ヴィンセント様の腕の中は、とても落ち着きます。ドキドキするけど…それ以上に安心します」
不思議ですね、と笑うリーシャ。
釣られて微笑むヴィンセント。
二人の心の中に確かな感情が育っていく。
それはとても甘く、痺れるようなもの。
人はそれを愛と言うが、まだまだ小さなもの。
だが直に大きく育つだろう。
「…換金の手続きが終わったら俺の屋敷に案内する。そこで今後の事を話そう。リーシャの部屋も用意する」
「ぇ?え、っと、私の部屋ですか?ヴィンセント様のお屋敷に?」
「?何かおかしいか?俺の仕事を手伝ってくれるのだから当然だろう?」
「いえ、そこまでお世話になるわけには…」
「リーシャを護る理由もあるんだ。それとも俺の屋敷では嫌か?」
「嫌じゃ、ないですけど」
「けど?」
「私は平民ですから、何か粗相をしたら…」
「大丈夫だ。ずっとリーシャの所作や言葉遣いを見ていたが、粗相なんてしていない。少しマナーの勉強をすれば王族相手にでも平気だ」
「それは言い過ぎでは?」
「そうか?まぁ、俺が大丈夫だと言ってるんだ、気にしなくていい。俺の屋敷に両親はいないしな。そう固くならずともいい」
「は、はぁ…」
そういう問題でも無いんだけど、とリーシャは言いたくなる。
だが未だに腕の中に閉じ込められているからか、まぁいいか、と呑気に考えてしまう。
「出来ればもう少しこのままでいたいが、ゲラルドたちが待っている。そろそろ行こう」
リーシャの頭を優しく撫で、ヴィンセントは名残惜しそうに解放する。
まるで恋人同士の抱擁だったと、リーシャは思った。
余韻に浸りたいが、ヴィンセントが言うように下で彼らが待っている。
はい、と短く返事をして、二人は階下へと向かった。




