ヴィンセントからの誘い
「………」
足元から力が抜けていくのが分かるわ。
間違えたら、大変な事になっていた。私だけの問題じゃ無かった。
生まれたばかりのヤトや、あの場所、もしかしたら神にも影響があったのかもしれない。
怖かった。
私の物語は始まったばかりだと言うのに、終わるところだったのだ。
この世界に召喚された時のように。一瞬で。
自由に生きると決めたのは私。
だけど人生初っ端から駆け引きみたいな事やらされて、一体この思いはどこにやればいいの。
私が思い描いていた自由とは、何?
『リーシャ』
…ヤト?
『ナカナイデ』
泣いてないわ。大丈夫よ、ヤト。
『チガウ。リーシャ、ナイテル。ココロガ』
……ヤトには分かるの?
『ワカル。リーシャトヤトハ、キズナガアルカラツタワッテクル』
そうなのね。…うん、そうね。泣いてるんだわ、私。
涙は零れないけど、この気持ちをどうしたらいいのか分からなくて子どもみたいに喚いてる。
間諜かと疑われて、刃物を突きつけられて、勝手にテストされて、ぐちゃぐちゃだわ。
誰も居なかったら叫びたいくらい。
小説や映画の主人公みたいに直ぐに事態を受け入れられないわ、私。
前世は聖女だと言う使命があったから何かと受け入れてきたけど今の私は聖女じゃない。
ただの、リーシャ。
こんな扱いをされても泣き喚かない自分を褒めてあげたいわ。
『ヤトワカッテル。リーシャハスゴイ。ココロモタマシイモケガレテナイ。キレイ』
…ありがとう、ヤト。
あなたが分かってくれてるだけで救われるわ。
今は、踏ん張る所ね。これからここで生きていく為に。
「……そちらの事情は分かったわ。色々言いたいけれど、ヴィンセント様とゲラルドさんにはお世話になったから飲み込みます。それで、合格したと言うことはもう試験は無いのかしら?」
ちょっと嫌味っぽい言い方になっちゃったけど、これ位許されるわよね。
「あはは、うん、無いよ。騙して、ごめんね。けどリーシャの本心を聞けたからオレは良かった。これからは自由にギルドも利用出来るし、また何か換金も出来るから。仕事もこれから探すんでしょ?」
「えぇ」
「じゃあまずはこの鑑定した魔草のお金をリーシャに渡さなきゃね。全部で二十万Gになるから暫くは仕事しなくても大丈夫そうだけど」
「に、にじゅ…」
「希少な魔草だからね、それなりに高くなるよ。んじゃオレは先にエルザとギルマスに話してくるから。あぁ、リーシャはゆっくりでいいよ。落ち着いたら降りて来て。ダン副部長、それでは」
「あぁ」
ニコッとレックスは笑って、軽い足取りで部屋を出て行った。
何か意味深な笑顔だったけど、考えすぎかしら?
「リーシャ」
レックスがいなくなって数秒経った後、ヴィンセント様が私に向き合う。まだ少し眉が下がってるわ。ちょっとかわいいと思ってしまう。
「騙して、すまなかった。レックスも言っていたが、キミは特殊だ。他に例を見ない、稀有な存在だ。騙す事に加担した俺を許さなくていい。だが分かって欲しい。必要な事だったと」
「ヴィンセント様…」
急な謝罪と言葉。
ピジョンブラッドの瞳が私を見ている。
その言葉は真摯で、真っ直ぐ私に突き刺さる。
えぇ、分かってます。貴方が言ってる事。
ヴィンセント様も立場というものがあるんでしょう、きっと。
「だが、俺はリーシャを信じていた。言い訳に聞こえると思うが、信じていたからレックスがやる事に口出ししなかったんだ。話に乗らない事を分かっていたから」
「…本当?」
「あぁ。誓うよ」
左手をそっと握られ、手の甲にキスをされた。
私、知ってるわ。これって、騎士がやる誓いのキスだわ。
「ヴィンセント、様…」
顔に熱が集まる。何だか瞬間湯沸かし器みたいよ私。
「ありがとう、ございます…」
恥ずかしい!すっごく照れくさいわ!
「それで、リーシャ。先程言いそびれてしまった事だが」
「ぁ、はい…話があると言っていましたね」
「その事なんだが……私の元で仕事をしないか?」
え?




