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分岐 2


「勘違いをしているようだけど、私の願いはどれも違うわ。これ以上は無い。もっとご所望なら自分で探してちょうだい」


 黒い空気に飲まれないように。しっかりするのよリーシャ。

ここで彼の話に乗ってしまったら、あの場所や精霊たちに間違いなく悪影響になるわ。

ヤトにも関係してくるかもしれない。だってこんなにも警戒してるもの。

ヤトと絆を結んでるから伝わって来る。絶対に乗ってはいけないと。


「ふぅん…?けど金は必要でしょ?相場より良い値出すからさ、オレに教えてよ。大丈夫、誰にも言わないって。あ、ダン副部長も居るから三人だけの秘密にしよ?ね?リーシャ」


レックスが今度は猫撫で声で誘惑してくる。


イヤだわ、すごく。

どこまでも黒い思惑が垣間見える。気持ち悪い位。

シイラの時も、触れた事があるわ。こんな企みを抱く人に。

戦場だったかしら。負傷した兵士を治してた。その時もこんな風に誘われたわ。勿論、断ったけど。


「お断り。しつこい男は嫌われるわよ」


キッパリと拒絶の言葉を出せば、レックスは笑みを深める。


「それがリーシャの答え?後悔しない?」


「しないわ。これ以上言うならヴィンセント様、申し訳ありませんがせっかく紹介してくれましたこのギルド、いえ、この街から出て行きますわ。私は闇ではなく光の中で生きていきたいので」


胸がドキドキする。鼓動がすごく早いわ。私ったら緊張してる。当然よね。闇の中から手招きしているものを蹴ったんだから。

ヴィンセント様とこれっきりになるのは、すごくイヤ。

けどヤトや精霊たちに害を及ばしたく無いわ。どんな物か深く考えずに魔草を持ち込んでしまった私の責任だもの。


「……ふ」


…何故ヴィンセント様が笑うの?笑える所あった?


「ぶ、くっくっく…」


レックスも肩を震わせているわ。

どうして?誰か説明してちょうだい。私を置いて行かないでくれる?


「レックス、もういいだろう」


「はい、そうっすね。リーシャ、キミは合格だ!おめでと!」


「…………はい?」


 たっぷりの間を置いて、私の口から間抜けな声が出た。

合格って何?私は知らぬうちに試験でも受けてたのかしら。


「ごめんね、何いっているか分かんないよね。説明するから座って」


さっきとは打って変わって明るく人懐っこい笑みで話すレックスに促され、私は最初に座ったソファにゆっくり座る。

ヴィンセント様も当然のように私の隣に座ってくれた。きっと彼も共犯ね?


「リーシャ、キミを試させてもらった。あ、ダン副部長はこっち側だよ。キミが普通の人だったらこんな事はしないんだけどさ、色々とぶっ飛んでたから」


ごめんね、とレックスが耳を垂れて謝罪して来る。

ちら、と横のヴィンセント様を見たら、彼も申し訳なさそうに眉を下げてた。


「ギルマスからリーシャの事をある程度は共有されてたんだけど、試さなきゃいけなかったんだ。リーシャが持ってきた魔草は、本当に珍しくて希少だから。悪意ある人の持ち物を換金する訳にはいかなくて。リーシャが精霊の池から来たと聞いてはいたんだけど、オレの話に乗って今度は根こそぎ摘んで来ちゃったら、きっとあの場所は消滅しちゃうから」


「消滅…?」


「うん。何度も聞いてると思うけど、あそこは聖域なんだ。悪意に満ちてる者はそもそも辿り着けないんだけど、そこから持ち出された物が悪用されると、何かが連動して影響を及ぼす。きっと、精霊も生きて居られなくなる」


「…つまり、私が欲を出してまた摘んできたら、そのせいであの場所が消えて精霊も死んでしまってた…てこと?」


驚愕な話に声に力が入らない。

そもそも私はまた採りに行く気も、今回摘んだ魔草も悪用しようとか考えてなかったけど。

何も知らないままだったら、結果。私は恐ろしい事の元凶になる所だったのだ。

そんな気がなくても、加害者になってた。もし、道を間違えていたら。


私にとって、いや私に関わった人たちの分岐点だったんだわ。今。この瞬間。



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