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56そして・・・。

「母様、こっちよ。」

 きれいな銀髪をなびかせながら、小さな女の子が、小走りで村の中を駆けていく。


「転ぶわよ、なお美。」


「大丈夫。」

 なお美と呼ばれた少女は、真っ直ぐ、お花畑に、突進して行った。


 途中、案の定、足をとられて、転びそうになる。


 そこに、同じように、きれいな銀髪の美男が、突然そこに現れて、その子を抱き留めた。

「なお美、母様の言うことを、聞かないとダメだろ。」


「父様!」

 なお美は、小さな手をめいいっぱい伸ばした。


 すぐに破顔した父親が、少女を抱き上げた。


「レオン、甘やかさないで。」

 ナミが後ろから追いついて、娘を抱き上げてから、わざわざすぐ傍のお花畑に、降ろした夫に文句を言った。


「ほんの少しだから、問題ないだろ。それに転んで、顔でもぶつけたらどうする。」


 どうするって、薬を塗るなり、治癒魔法で治すなりするから、問題ないわよ。

 ナミが心の中でそう思っていると、もっと甘やかす、執事のハリスが、バスケットを持って、現れた。


「ハリス。食事は、もう少し動いた後にしてね。」

 ナミがすかさず、待ったをかける。


「分かって、おります。」

 ハリスはそう丁寧に礼をすると、娘が待つお花畑に向かうと、ボロボロにしながら、花輪を作っている、娘の手伝いをし出した。


「ハリスがあそこまで、子供を甘やかすとは、思わなかったな。」

 レオンのそんな言葉で、ふと数年前の事を思い出した。



 ナミはレオンに助けられた後、ハリスと彼の息子のステランに、大慌てで治療された。

 あとで知ったのだが、ハリスはナミの父ケヴィンの執事だったようだ。


 ハリスの話では、父は始祖の直系の血を引いていたようだ。

 もっとも、持っていた力は、最愛の人が死ぬ間際に、自分の力をわけ与えて、その人を救うという古代魔法だけだったようだ。


 凄い力とはいえ、一度っきりしか使えず、さらにその後は、普通の人間と同じように、なってしまうという、赤の国では、あまりにも使い道のない魔法だった。

 その為、父は当時、かなり肩身の狭い思いをしていたようだ。


 そんな父はある日、思い切って、自分の母親をハリスに託して、赤の国を去った。

 その後、ナミの母であるナオミと出会い、ナミが生まれた。


 しかし、今回の古代遺跡の武器騒ぎで、父が亡くなってしまったせいで、ハリスはかなり後悔したようだ。


 お陰で今は、ハリスが親代わりになって、なぜか、怒りに任せて、デイヴィを葬ってしまい、最終的に赤の国で王の座に着いたレオンを、牽制していた。


「レオン様、ナミ様に、くっつき過ぎです。」


「おい、ハリス。お前は執事であって、父親じゃないんだ。なんでそんな事を気にする。」


「私は、ただ、お亡くなりになられましたケヴィン様が、生きておられたなら、なさった事をしているだけです。」

 きっぱり言うと、一歩もナミの前から、動かなかった。


 そんな攻防が日常と化しつつあったある日、ハリスは、レオンから何かを耳打ちされた。


 ハリスの肩が、ビクンと跳ねた。

「私は・・・。」


「俺が、無理強いしそうになれば、力づくで止めればいい。だが、ナミが了承したなら問題なしとしろ。」

 なぜか、ハリスが頷いた。


 ナミは二人が、何の話をしていたのかわからず、キョトンとしていると、いきなりレオンに、手を取られた。

「ナミ、俺の血を全て、お前に捧げる。だから、お前の血を俺にくれ。」

 レオンはそう言うと、自分の首筋を、手で切り裂いた。


「レオン!」

 ナミは思わず、レオンの首筋に浮かんだ、赤い血を止めようと、手で首筋を圧迫した。

 途端、レオンの甘い血の匂いが、鼻孔をくすぐる。


 知らず知らずのうちに、レオンの血を舐めていた。


 レオンは、ニヤリと笑って、首筋にあるナミの頭を支えると、思う存分、彼の血を飲ませた。


「もう、十分か、ナミ。」

 ナミはハッと我に返って、レオンから離れようとした。

 そんなナミをレオンは、胸に抱きすくめると、彼女の首筋に、舌を這わす。


「レオン?」

 不思議そうに、首を傾げるナミ。


 レオンは、ナミに思いっきり血を吸われて、クラクラしながらも、首を傾げる彼女の首筋に、牙を突き立てた。


 最初は、針で刺されたような痛みがナミを襲い、次にレオンに、血を吸われていることに恍惚とした。


 牙を抜いた後は、レオンに、耳元で、何度も愛を囁かれた。


 その後は、あっという間だった。


 レオンは、今の状況を、ハリスと彼の息子ステランに知らせると、二人の協力のもと、赤の国でのお披露目がなされ、気がつくとナミは、王妃になっていた。


 なんどかレオンに、”結婚の申し込みを何でしてくれないの”と言って、彼を困らせた。


 結婚の儀式後に、知ったことだが、赤の国での求婚の仕方は、血の交換を申し出た相手に対して、それを了承し、血を互いに飲み合ったことで、婚姻が完了するのを知った。


 つまり、後で行われる”結婚の儀式”は、単なるお披露目の要素があるだけなのを、その時、初めて知らされた。


「どうした、ナミ?」

 いきなり、隣で黙り込んだナミを心配して、レオンが声をかけてきた。


「ちょっと、レオンに求婚された時の事を、思い出していただけ。」

 レオンは、ナミの答えにニヤリとすると、彼女の腰を抱いて口づけてきた。


 そして、耳元でそっと囁いた。

「ほしいなら、いくらでも飲んでいいぞ、ナミ。」

 レオンが自らの首筋を晒す。


「別に、今はいいわよ。」

 ナミは真っ赤になって、レオンから離れた。


「大丈夫だ。俺達が今消えても、なお美はハリスが見てくれる。」

「レオン!」

 血の交換をして、ナミの血を飲んだレオンも、ナミと同じように、瞬間移動の力を使えるようになった。


 おかげで、なにか時間があるとナミたち母娘の前に、現れては、ハリスに子守を押し付け、ナミをベッドに連れて行こうとする。


「仕事はいいの、レオン。」


「当然終わっている。次代を継承する子供を産むのも、王妃の役目だぞ、ナミ。」


「レオン!!」

 真っ赤になって、レオンを見つめるナミの耳に、ハリスの慌てた声が聞こえた。


「マーティン様、どうして、ここに?」


「マーティン叔父ちゃま、こんにちは。」

 なお美は、慌てふためくハリスを無視して、なお美にどこから仕入れてきたのか、イチゴを差し出した。


「叔父ちゃま、大好き!」

 イチゴが大好きななお美が、マーティンに抱き付いた。


「あいつは、また・・・。」

 レオンはそう呟くと、慌てて、ハリスと娘の間に、瞬間移動した。


「マーティン、それをどうしたんだ?」

「やだなぁ。青の国の警備を担う代わりに、お土産をグレイから、貰って来ただけだよ。なお美に食べさせたいって、言ったらたくさんくれたんだ。」


 本当は、長兄デイヴィの後継を、当時めんどくさがったレオンが、異母弟のマーティンに押し付けようとしたのだが、ハリスが周囲が納得しないと動いて、結局レオンが王の座に着くことになった。


 お陰で、異母弟のマーティンは、今までは気楽にしていたのだが、娘のなお美が生まれた途端、何故か足繁く王宮に顔を出すようになった。


 そのせいか、レオンはなお美が心配なようで、マーティンが現れると、すぐに娘の傍に行く。


 もっとも、娘もそれがわかっているようで、父の顔を見ると、瞬間移動で彼の腕の中に現れる。


「酷いな、なお美。折角イチゴを持ってきたのに。」

 マーティンがぼやく。


「抜かせ。なお美は俺の娘だ。絶対お前には、やらん。」


「選ぶのは、なお美だ。」


「父様、大好き。」

 二人の争う大人を無視して、なお美は愛らしい笑みをすると、頬に口づけた。


「なお美!」

 レオンは、もうメロメロだ。


 青い空の下、ナミは、そんな様子を見ながら、そっと自分のお腹に手をあてた。


 いつ、レオンに告白しよう。


 ぽかぽかとした、陽射しの下、花の甘い匂いが、辺りに漂っていた。

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