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こちらコンプライアンス室 ~令和が歪める戦国絵巻~  作者:
第1部:コンプライアンス室爆誕~歴女の覚悟~

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【序章 歴女、草場優奈葉 編】第1話 :新卒、面接で推しを語って爆死する

【毎日2話投稿!】 朝 06:50 /夕 17:50 (たまにサブエピソード 昼 11:50)


学校や職場の行き帰り、お昼休みに5分でクスッとリラックス!笑えるビジネスコメディ(戦国風味)です。


優奈葉ちゃんがツッコんでくれるので、歴史の知識は必要なし!歴史好きの方は今後の展開を是非予想してみてください!

「――以上の理由から、御社は現在の状況において、応仁の乱以降の室町幕府……ひいては足利将軍家の末期と、まったく同じ構造的な問題を抱えていると言えます。よって今後の成長戦略は……あ」


やってしまった。


完全に、手遅れだった。


重厚なオーク材の扉。


ふかふかの絨毯。


そして、冷房がキンキンに効いているはずの広大な室内で、私、草場優奈葉くさば ゆなはは、グレーのリクルートスーツの下でどっと冷や汗を流していた。


ここは、日本を代表する超老舗の大企業『日ノ本商事』の本社ビル最上階。


就職活動の最終関門である、役員面接の真っ最中だ。


私の大学での専攻は、日本中世史。


休日の趣味は古戦場巡りと史料の解読という、自他共に認める重度の歴史オタク――いわゆる『歴女』である。


普段は「カフェ巡りが好きです」などと一般人のフリをして猫を被っている。


なのに、つい先ほど、面接官の一人が口にした「我が社の、十五代続く老舗としての歴史についてどう思う?」という何気ない質問が、私の脳内の着火剤トリガーになってしまったのだ。


(十五代続く老舗? 十五代っていったら、室町幕府の最後の将軍・足利義昭と一緒じゃん!)


という、一般人には絶対に理解されない思考回路がショートし、気づけば早口で熱弁を振るっていた。


「権威だけが残り、実質的な資金力と営業力を持った地方支社に本社が舐められきっている現状! これを放置すれば、遠からず御社は下剋上の波に飲まれ、空中分解します!」


不敬罪でつまみ出されても文句は言えない。


役員たちがポカンと口を開けて私を見ている。


あぁ、穴があったら入りたい。いや、本能寺の焼け跡に埋まりたい。


「あ、あの、今のはその……比喩というか! 私の勝手な妄想でして、決して御社の経営不振をディスっているわけでは……!」

「いや、実に興味深い見解だ。続けてくれないか?」


必死に弁解しようとした私の言葉を、静かに、しかし絶対的な威圧感を持って遮った男がいた。


長机の真ん中に座る、一人の若い男。

長髪を後ろで綺麗にまとめ、周囲の年配役員たちとは明らかに違う、仕立ての良い細身の高級スーツを完璧に着こなしている。


冷徹そうなイケメンだ。


切れ長の冷たい瞳で、まるでチェス盤の上の駒を値踏みするように私を観察している。


机の上にある名札には、『社長秘書・明智』とあった。


「あ、明智、さん……?」


明智秘書は、フッと口元を歪めて美しく微笑む。


「君の言う通りだ、草場さん。我が社は十五代続き、いまや本社は腐敗し、地方支社の権力と武力(営業力)が強まりすぎている」


彼の声は、静かな室内に異様なほど響いた。


「まさに足利幕府の末期……泥舟だ。それで? 君ならこの状況をどう打開する?」

「えっ、あ、ええと……!」


(えええ!? 秘書が自社のこと泥舟って言いきっちゃったよ!? いいの!?)


困惑する私をよそに、明智秘書の冷たい眼差しが私を射抜く。


その質問の圧倒的なプレッシャーに押され、私の『脳内歴史データベース』が、恐怖から逃れるために勝手にフル回転を始めてしまった。


「お、織田……じゃなくて、急進的な地方支社が、最新のITツール(鉄砲)を武器に中央の市場へ攻め込んでくると仮定します! その場合、本社が単独で迎撃するのは不可能です!」


もう止まらない。

オタク特有のテンポで、捲し立てるように言葉が口から飛び出していく。


「まずは周辺の有力な競合他社――武田や上杉に相当する企業とアライアンス(同盟)を組み、ビジネス的な『包囲網』を敷きます! そして、急進的な事業拡大には必ず『歪み』が生じるはず。そこを突くんです!」


「歪み、とは?」

「コンプライアンス違反です! 労働基準法、下請法、ハラスメント防止法! これら現代における『朝廷の権威(絶対的なルール)』を大義名分として振りかざし、相手の口座とサプライチェーンを凍結(兵糧攻め)して足止めするのが上策かと……!」


ハァ、ハァ、と息を切らしながら語り終えた時。

面接室は水を打ったような静寂に包まれていた。


「……ふふ。素晴らしい。合格だ」


明智秘書が、妖しく目を細めた。


まるで、ずっと探していたパズルの最後のピースを見つけたかのような、ゾッとするほど暗い歓喜の色がそこにはあった。


しかし、その隣に座る、役員章をつけた五十代くらいの面接官。


名札は『足利』。たぶんこの人が社長だ。


彼は、完全に目が点になっていた。

足利社長は、私の熱弁など一切聞いていなかったかのように、手元のハワイの観光パンフレットを丸めて、所在なさげに机をトントンと叩いている。


「えーと、明智くん? 君がいいならそれでいいけどぉ……」


社長は、心底やる気のなさそうな声を出した。


「僕は早くどこかの外資にこの会社買収してもらって、退職金でマックのポテトLサイズ食べながらのんびり暮らしたいなぁ……」

「社長は黙っていてください。……草場さん、良いお返事をお待ちしていますよ」


明智秘書が、最後にニッコリと笑った。


だが、その時の私は完全に絶望モードに入っていた。


(あ、これ都市伝説で聞く『圧迫面接』の変形版だ。変なオタクを泳がせて面白がっただけで、絶対不合格になるやつだ)



「……終わった。私の就活、完全に終わった」


オフィスビルを出て、うだるような令和の夏の熱気が広がる東京駅前を歩きながら、私は本日何度目か分からない大きなため息をついた。


いくら売り手市場の新卒就活とはいえ、最終面接で「御社は滅びかけの室町幕府です! コンプライアンスで兵糧攻めにするべきです!」と熱弁した女子大生を採る会社が、この地球上に存在するわけがない。


スマホの画面を見る。

カレンダーに並ぶ『就職浪人』の4文字が頭をよぎり、胃がキリキリと痛んだ。


「ただ事務職として普通に入社して、普通にエクセルとか触って、定時に退社して、休日はお城巡りをするっていう、平穏な人生を送りたかっただけなのに……」


なんで戦国時代の話なんてしちゃったんだろ。

自分の口の軽さとオタク特有の早口を呪いながら、トボトボと地下鉄の改札へ向かう。


あのイケメン秘書、明智さんの目がまったく笑っていなかったのも恐怖をそそる。


歴史上の明智光秀といえば、主君を裏切る『本能寺の変』の首謀者。


あんな底知れぬ男が実権を握っている時点で、あの会社は色々とヤバい気がする。


「まあ、どうせ落ちてるし! 二度とあの会社に行くこともないよね!」


そう自分に言い聞かせ、デパ地下でやけ食い用の高級ショートケーキ(1個800円)を奮発して2個買い、アパートへと帰宅した。


しかし。


そのわずか3日後。

私のスマホに、信じられない通知が届くことになる。


『日ノ本商事・人事部より:内定通知のお知らせ』


「……はぇ?」


ベッドの上で、マヌケな声が出た。


画面を二度見した。三度見した。ブルーライトが目に染みる。


間違いなく、最終面接の『合格』の文字が記載されている。


「うそ、なんで!? あんな面接で受かるの!?」


さらに、内定通知書のPDFファイルに添えられた『配属予定先』の欄を見て、私の思考は完全にフリーズした。


【配属予定先:社長直轄コンプライアンス室(仮称) ※新規設立部署】


なぜ私が受かったのか。


そして、なぜ存在しないはずの謎の部署に配属されているのか。


この時の私は知る由もなかった。


そして、この会社が本当に『令和の皮を被った戦国時代』そのものであり、私がその異常なハラスメント大名たちの暴走を止める、唯一のブレーキ役(軍師)に任命されたということも――。

(第1話・了)

読んでいただきありがとうございます!


面接で詰んだかと思えばまさかの合格…!?明智秘書の狙いとはなんだったのか?


次回、初入社の優奈葉、戦国時代といえばあの人の登場です!


楽しみに思ってくれたら是非

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