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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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第64話:遅延ゼロなので上司が不穏になった朝の話

今週は電車遅延がやたら多くて、出社するだけで毎朝ちょっとした運試しみたいになっていました。

そんな中、珍しく何事もなく順調に出社していた朝のことです。

 その朝、俺は珍しく、何の遅延にも巻き込まれずに出社していた。


 ――いや、珍しくも何も、本来それが普通である。


 電車とは、だいたい時刻表通りに来て、人を運び、社会人を会社へ送り込むための乗り物だ。少なくとも建前上はそういうことになっている。


 だが、今週は違った。


 人身事故、信号確認、急病人対応。朝のたびに何かが起き、俺の出社にはいつの間にか“何かしらのイベントが発生する前提”が付与されていたのである。


 そんな中、上司からメッセージが飛んできた。


『ま、まさか、順調に出社中!?』


 意味が分からなかった。


 順調に出社していることに、なぜそんな驚愕が乗るのか。

 俺は一瞬、自分が何か重大なルール変更を見落としたのかと思った。


 今朝から定刻出社は禁止です、とか。

 遅延ゼロで会社に着いた者は異常系として扱います、とか。


 あるわけがない。


 なので俺は、なるべく穏当に返した。


『どういう意味ですかwww

 遅延無しですよwww

 今の所www』


 今の所、と付けたのは一応の社会人としての慎みだ。

 ホーム直前で止まることもあるし、最後の最後で人類は普通に転ぶ。断定は良くない。


 だが、上司の返事は俺の慎みを軽々と飛び越えてきた。


『え、、、今日なんかある。。。

 こっわっ!Ξ( ’~’ ; )Ξ。』


 なんでだよ。


 俺は思わず足を止めかけた。


 いや待て。

 人が電車遅延しないと障害起きるみたいに言わないでほしい。


 それではまるで、俺の定刻出社がイベント発生条件みたいではないか。俺はただ、鉄道会社が普通に頑張った結果として、余裕を持って会社へ向かっているだけの一般社会人である。


 なので、やや抗議した。


『まってwww

 人が電車遅延しないと障害起きるみたいに言わないでくださいwww』


 かなり真っ当な主張だったと思う。

 少なくとも俺はそう思っていた。


 しかし上司は、そこから明らかに引き始めた。


『Ξ(((((´・ω・`)スススー』


 引くな。


 何に対してだ。


 普通に出社している部下に対して、なぜそんな野生動物を刺激した時みたいな後退を見せるのか。


 しかも一回では終わらない。


『Ξ(((((´・ω・`)スススー』


『Ξ(((((´・ω・`)スー』


『Ξ(((((´ω』


 徐々に簡略化されていく撤退モーション。

 本気で引くとAAすら省エネになるのか、と朝から妙な知見を得た。


 俺は呆れつつ、事実を説明することにした。


『本来遅延しないのが当たり前何ですwww

 鉄道会社が頑張った証拠ですwww

 今週多かっただけでwww


 って引きすぎですwss』


 冷静かつ論理的。

 異常系が連発すると正常系が異様に見える。だがそれは正常系が異常なのではなく、観測側の基準値が壊れているだけだ。


 ――と、そこまで丁寧に説明してやったのだが。


 返ってきたのは、


『Ξ((』


『Ξ』


 だった。


 もはや会話ではない。

 撤退ログだけが残っている。


『いやいやいやいやwww』


 さすがにそう返した直後、上司からさらに一歩進んだ動きが送られてきた。


『ε゜)゛ スソッ』


 新モーション追加である。


 なんなんだその、隙間から消える小動物みたいな挙動は。

 上司としての威厳をどこへ置いてきた。


 俺は朝のホームで肩を震わせながら、もう一度スマホを見た。


 おかしい。

 今日は久しぶりに普通に遅延ゼロで、鉄道会社が頑張ったおかげで余裕を持って出社しているだけである。


 それなのに“怖い”と言われ、最終的に上司がAAで撤退していく世界線とは何だ。


 理不尽すぎるだろう。


 その後、俺は予定通り何事もなく会社に着いた。

 当然ながら空は落ちてこなかったし、地面も割れなかったし、俺の定刻出社をトリガーにシステムが爆発したりもしなかった。


 ただ、席に着いてしばらくしてから、上司がこちらを見てぽつりと言った。


「……ほんとに普通に来たんだ」


「普通に来ますよ」


「なんかあるかと思った」


「俺を何だと思ってるんですか」


「イベント前触れ担当?」


「やめてください」


 即答した。


 俺は障害検知装置ではない。

 ましてや鉄道遅延と連動して世界の均衡を保つ存在でもない。


 ただまあ――その日一日、上司が妙に俺の様子をうかがっていたあたり、たぶん本気で少しだけ不穏を感じていたのだと思う。


 ひどい話である。


 本来、遅延ゼロとは平穏の証だ。

 それを“何かあるサイン”として扱うのは、完全に今週のトラブルに脳を焼かれている。


 とはいえ、そんなふうに正常系の到来に怯えるあたり、うちの上司もだいぶこの職場に馴染んできたのかもしれない。


 ――などと少しだけ思ってしまったので、たぶん俺も同類である。

本来、電車が遅延しないのは当たり前のはずなんですが、異常系が続くと正常系のほうが逆に不穏に見えてくるんだな……と、妙な学びを得た朝でした。

なお、この日は本当にただ平和に出社しただけで、特に何も起きませんでした。

上司だけがちょっと挙動不審でした。

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