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去りし災厄

人間達は、れなたちと悪鬼達の戦いの事など知る由もなく、今日も騒がしく働いている。


れなが町を歩いていくと、周りには沢山の人々が歩いている。

人々は互いに色々な事を話し合っている。

その話の果てに、人は喜びを覚える事もあれば、憎しみを覚える事もある。

そして憎しみ、悪意によって、悪鬼は誕生する。

ほんの悪戯心からも、悪鬼は誕生する。

悪意、悪鬼の誕生。

それはもはや、止められないサイクルなのかもしれない。



憎悪や悪意は、勿論良いものとは言えない。

…しかし、そんな一言で済ませられる程簡単な話ではない。




事務所に辿り着いたれなが、扉を開けた。




「れな!パンパーティするわよ!」


仲間たちがテーブルを取り囲んでいた。

テーブルには沢山のパンが置かれてある。フランスパン、クリームパン、カレーパン、クロワッサン…ありとあらゆるパンが揃っていた。

いつもの事務所メンバーに加えて、鬼子と火竜の悪鬼狩人、エックス、そして妖姫もいた。

妖姫の無邪気な笑顔が、真っ先に目に入る。

れなは一瞬、穏やかな笑みを見せ…すぐに顔を滅茶苦茶に歪ませて大笑いした。

「パンパーティ…!略してパンティー!!やろうやろう!!」

事務所はすっかり大騒ぎ。

皆あの戦いの傷も癒えていたようで、元気そうだった。



次々にパンを手にとっては食べる一同。

思い思いに話題を口にしあい、時々大きな笑い声がこだます。

まさに平和だった。



れみがアンパンを食べながら、妖姫に聞く。

「亜華魔姫や将達は元気?」

「勿論じゃ!今は真面目に働いておるぞ!」

あれから亜華魔姫はもう一度人間を見直す為に、正式に悪鬼の国を設立する計画をたてているらしい。

その為に毎日作業漬けなのだそう。また、全ての悪鬼が平和を望んでいる訳では無いらしく、反逆派の悪鬼の鎮圧にも向かっているらしい。

三将は息を切らしながら働いているのだそう。

「たまには手伝いに来てくれって、叡光鬼が嘆いておったぞ」

ラオンがそれを聞いて笑う。

「あのジジイ、頭が良いだけで調子こいてる節があったが、ちゃんと人を頼れるのか!」

笑う一同。悪鬼も平和に暮らしていそうで良かった。



何か番組を見ようと思ったのか、ドクロがカレーパンを右手にとりながらテレビをつけた。



「たった今入ったニュースです!悪鬼撲滅隊を名乗る組織がたった今拘束されました!」

慌ただしくニュースキャスターが声を上げていた。

見ると、画面にはテクニカルシティ警部に連行されていく黒服の集団が映っていた。

…一同のパンを食べる手が止まる。こいつらは…。



「多分…というかほぼ確実に、エクスクローだよな」

テリーが語ると同時に、何人かが頷いた。

悪鬼撲滅隊。こんなやつらが活動していたとは。

ニュースによれば、彼らは悪鬼を滅ぼす事で人間の未来をより安泰にしようと目論んでいたらしい。

彼らには彼らなりの信念、そして正義があったのだろう。

しかし…やはり相手に戦いを挑むなら、相手を知らなくてはならないのだ。


「そーいえばさ」

れながある事に気づき、妖姫を見る。妖姫は、なぜこの流れでわらわ?というような顔だ。


「妖姫って、はじめはアタシ達を殺そうとしてたの?」

しれっととんでもない事を聞くれな。一同の目が見開くなか、妖姫は何でもないような顔をして答えた。

「そうじゃ!悪鬼達に暴れてもらってお前達に取り憑き、戦闘力を分析して最後に亜華魔姫様に取り憑くという割と単純な流れじゃった!まあお前達と一緒に生活し始めた時点で、負けは決まってたようなものじゃが」

髪を指で巻きながら語る妖姫。

それが今では、皆でテーブルを囲んでこれでもかと仲良く過ごしている。

れなは言った。

「やっぱ、世界って不思議だよねー。誰が仲間で、誰が敵なのか分からない!」

笑う妖姫。皆は、互いの顔を見合っていた。

まさか妖姫が敵だったとは。

あの戦いの後にれなに知らされるまでは夢にも思わなかった。




「そんで」

れなは、テーブルにあったメロンパンを手に取り、少し気取った口調で言うのだった。


「最後に笑い合えれば、過去なんてどうでもいいってもんよ」



そして、大きなメロンパンを、一口で食べた。





「…思い切りやろうぜ!!」

ラオンが叫んだ。

再び、事務所に愉快な話し声がこだました。














「亜華魔姫は、落ち着いたようですね」



…紫色の悪魔の銅像が並ぶ赤い部屋。

闇姫は、ダイガルと共に余韻に浸っていた。

とても静かだった。

ダイガルの低い声が、部屋に響くようだった。

「れなたちは相変わらず呑気なものですね。あの怪物との戦い、闇姫様がやつらを助けたようなものなのに」

「助けてなどいない」

闇姫がようやく口を開く。

重い声だが、ダイガルは少しも怯まない。

「やつらを私の手で殺す為だ。下等にくれてやるような獲物ではない」

「おやおや。その言い方…一応、やつらの実力を認めているのですね」

闇姫は、深くため息をつく。



「まあ、そういう事だな」


そして、立ち上がる。


自分の手を見た。

…これまでいくつもの戦いを乗り越えた手。

そして今回、[やつ]も悪鬼という強大な敵に、拳を叩きつけた。


「…れなだけは、必ずこの手でやる」






テクニカルシティ全体がよく見える、町の裏山。


鬼子と火竜、そして妖姫が、町を眺めながら、静かに立っていた。


風に髪を揺られながら、ただぼんやりと眺めていた。

鬼子と火竜が、妖姫を挟む形で並んでる。妖姫は、何か言いたそうな顔をしている。

「どうしたの?」

鬼子がそれに気づき、声をかけた。妖姫は一瞬迷い、こう言った。



「お前達…二人で並びあったらどうじゃ」

互いに顔を見合わせる鬼子と火竜。

しばらく見つめ合った後、妖姫に視線を戻した。




「え?」

二人同時に言う。

妖姫は、思わず笑いそうになる。フッ、とあからさまに吹き出し、悪戯な笑みを見せた。

「前々から思っておったが、お前達…良いコンビじゃぞ!ほれ!並べ並べ!」

妖姫は二人を強引に押し、互いにくっつけた。



…いつの間にか、二人は顔を赤らめていた。目を丸く見開き、顔をあわせ合う。

全部自然な動きだ。


「ほれ!ほれ!ほれほれほれ!ほうれん草!!」

妖姫の謎の掛け声が、静かな山にこだます。



…二人の距離が、自然と縮まりあう。

これもまた、無意識だ。自然な動きだった…。





「…っ!!」

二人は、勢いよく離れあった。例えるならば、同じ極同士の磁石のよう。

お互い、自分がしようとしていた事を悟り合い、どうしようもない気持ちになる。

恥ずかしいような、それでいてどこか切ないような…。




「…本当に、良いのう」

妖姫は、優しく微笑んだ。




…火竜と鬼子は、互いの赤い顔に笑い合っていた。


「…鬼子、これからもよろしくな」

「ええ。こちらこそよろしくね」

二人の間に、再び妖姫が入り込んだ。

そしてまた、町を見渡した。



平穏と日常。



それを、これからも守り続けなくてはならない。



そして、誰かを理解し、救わねばならない。




理不尽で、そして不思議な世界の中で生き抜く為、戦士は今日も闘志を燃やすのだ。





鬼のように。炎のように。

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