第Ⅱ章──生まれ変わり
第二章──生まれ変わり
Ⅰ
気がつけば──そいつは幼い狛犬として存在していた。
けれど自分が何者なのか、どこから来たのかも分からなかった。
自尊心が強いそいつは自分が何者であるかを常に探し求めていた。
「おい、あれを見てみろ。狛がいるぞ」ニヤケながら犲は義兄弟の獂と猼に言った。
「白の国を攻めに行く前にアイツの霊気を吸い取ってやろうギシシシ」
「ほれ…ガキの狛──オレ様たちにキサマの霊気をよこせ!」
「嫌だ…わたくしは従わない…」
「なに?…ガキ狛のくせに生意気な──これでも食らえ!」犲は鞭を振るった。幼い狛犬はその場に倒れたが、やがて立ち上がると仕方なく狡狗に従った。
「初めからそうしていれば、痛い思いをせずにすんだのに──バカな狛だ…ケケ」
「生意気なヤツだから、オレ様たちがコイツに取り憑いて白の国に行くとしようぜ」
「そいつは名案だ!白の国に行ってもオレ様たちだとバレないし、こいつの霊気も吸い取れる」
その狛犬は今まで何度も鞭で叩かれた。最初は狡狗に反発していても最後は自分が折れた。心の奥底では自尊心を持ちつつも、狡狗に従おうとする悲しい性がそれを邪魔するからだった。
Ⅱ
「着いたにゃ──うわさどおり白の国は楽園だにゃ!」
「早くこの国を頂いちまおう兄弟!」
「晶晶白露を持っているオレ様たちなら楽勝だ…ヒヒヒ!」
「おい兄弟…変な奴が来たぞ!ギシシシ」
「本当だな兄弟…ヒ―ヒヒヒ」
「痛めつけてやるにゃ…ヒョヒョヒョ──兄弟」
「ギシシシ…こいつの兄弟の使い場所おかしいよな兄弟」
「ヒヒ、たしかになぁ…兄弟」
「おい三兄弟とやら…そのマヌケな会話はまだまだ続くのか?」
錫雅尊は口元を緩めて、少し小馬鹿にした口調で言った────。
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「…………これはすべて神様が仕組んだことですか?」そばにいたお付きの者が尋ねた。
「いいや…。私は良心を持ってしまった犲という狡狗を狛犬にしてやっただけだ…。だが、なにぶん初めてのこと。こんなことになるとは…」
「犲を狛犬にするとき、なにかの間違いで時空が歪み、過去に戻されたのですね?」
「そのようだな。そして狛犬へと生まれ変わった犲は過去の自分自身と出会い、そして──奇しくも錫雅尊の下僕となった…」
「いやはや…なんという偶然なのでしょう…。しかし、出来過ぎですよね…?こんなことが本当にあり得ますか?」
「まぁ、どこかのいたずら好きの神がちぃーとばかり細工をしたかもしれんな…コホンッ…」
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「お前は本当に自分が生まれた時のことを覚えていないのか?」
「はいご主人様──いしは気づくと拗隠の国を彷徨っておりましたから…」
「記憶を忘れた狛犬か…。何かよほどのことがあったのかもしれんな…」
「過去がどうあれ、わたくしはご主人様の下僕になれたのですから幸せですけん」
「お前は下僕じゃない、家来だ。──本当は友だと思っているが、お前がそれを許さないから家来と言っているだけだ」
「ご主人様……わたくしは…わたくしは…」
「泣くないし……ほら、そろそろ帰ろう。お前の背中に乗せてくれ」
「はい──どうぞ、お乗りください!」
心優しい霊神と出会い、良心の芽生えてしまった狡狗の────誰も知らない物語
完
いし誕生の秘話はいかがでしたか?
本編では書けなかったエピソードでした。
錫雅尊によって犲という狡狗の心に良心が芽生えた時から、この狡狗をいしにしたいとずっと思っていました。
短編ながらやっと書き上げることができました。




