表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一章──拗隠の国

 

 《プロローグ》


 (さい)という(こう)()はポツンと立っていた。今しがたまで一緒だった(しゃく)(がの)(みこと)はもういない。白の国への抜け穴を求めて(じゃ)()(だま)となって飛んで行ったのだ。

旦那(だんな)…絶対助かってくださいにゃ!…あぁ…この気持ち──なんという清々(すがすが)しい気持ちでしょう…。これも旦那のおかげですにゃ…。オレ様がもし生まれ変わることができれば、この改心(かいしん)した気持ちのまま生まれてきたいもんですにゃ…」(さい)という名の狡狗の目に初めて涙が(あふ)れた。



 第一章──拗隠(よういん)の国


「オレ様は(こう)()にゃ…………なのに涙が…?────こんなものがオレ様にあったとは…」それからも時間(とき)を忘れて立ち尽くしていた犲は、今まで一度も感じたことのない違和感(いわかん)(いだ)いた。「拗隠の国をこんなに居心地(いごこち)(わる)く感じたことはないにゃ…」

「そうであろう──狡狗でありながら悪心(きたなきこころ)が消えてしまったのだからな…」 

 犲の心に誰かが語りかけた。

「誰にゃか?」

「私は拗隠の国を(つかさど)る神」

「神?──そんなものがこの拗隠の国にもいるにゃか?」

「神はどこにでも存在する」

「そんな偉いお方がオレ様になんのようにゃか?」

「かつてお前のような狡狗は存在しなかった。狡狗は悪心(きたなきこころ)から(しょう)じたモノだから良心(りょうしん)を秘めてはいなかった」

「そう言われても自分でも分からないにゃ…」

「一つ聞こう──さっきお前は(しょう)(しょう)白露(びゃくろ)を手にして(しゃく)(がの)(みこと)(じゃ)()(だま)にしたな。あのときどうして晶晶白露を錫雅尊に返したのだ?そのままお前の物にもできたのに…」

「あー…あれですか…。オレ様も旦那が邪身玉になる寸前(すんぜん)まで考えたにゃ…。あの短刀一本あれば、オレ様も小さな国の支配者になるくらい簡単だからにゃ。でもオレ様を信じて晶晶白露を手渡した錫雅の旦那を裏切(うらぎ)ることがどうしてもできなかったにゃ…。そのとき思ったにゃ…この狡狗のオレ様にも(ほこり)くらいの良心があると…。旦那はそれを見抜いて…そして信じてくれたんだにゃ…」

「それが錫雅尊が邪身玉になる寸前に晶晶白露を返した理由か?」

「そうですにゃ。そうすると自分の中で何かが変わったのですよ。(たと)えて言えば、今まで(おお)っていた黒い雲が消えて暖かい光に照らされたような感じでしょうか…」

「それでお前は錫雅尊の無事を願い──そして涙を流した…そういうことだな?」

「へい…今まで感じたことのない清々(すがすが)しい気持ちでしたにゃ」 

「狡狗にも良心があったということか…。どのような魂でも愛する心を忘れない錫雅尊が引き出した妙技(みょうぎ)…」

「あの旦那は不思議な方だ──あのお方の(そば)のいるとホッとする…」

「そうか…。…………ところで…悪心(きたなきこころ)の消えたお前はもう狡狗ではいられない…」

「えっ!?──どういう意味にゃか?」

「悪いがお前を消さなければならない」

「消されてしまうにゃか?」

「そうだ…狡狗は本来(ほんらい)邪神(じゃしん)(かたまり)──その邪神が消えたお前は狡狗ではいれらないのだ」

「そうですか──ええですとも…。心が()れた今のオレ様は何があっても動じたりせんにゃ」

「それなら話が早い──お前は違う生き物として生きることになる…」

「違う生き物…?」

「良心を得た狡狗はお前が初めてだ。違う生き物にするなど私も初めての(こころ)みだ…。何が起こるか分からんが…とにかくやってみよう」

 それから一瞬光(いっしゅんひかり)()した。瞬時(しゅんじ)(さい)という狡狗は消えた──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ