28. キング
※ビソン視点
「陛下、ご報告が」
「儂は陛下ではない」
「いえ、私の中のキングはルーク様、貴方だけです」
監獄の地下にある特別室へ入れるのは、専属の執事と私だけだ。この部屋は外から見えないが上手く太陽光が入る様、細工してある。キングはその僅かな光が照らす小庭に花を植え、水やりしていた。
「ソフィアを出獄させます」
その言葉に彼は一瞬、手が止まった。
「そうか……。彼女には悪いことをした。巻き込んでしまった。ビソン、ソフィアをよしなに頼む」
「はっ、お任せください。島からは出られませんが、良い就職先を見つけまして」
「ほう、それは興味がある」
「例の彼女のところで使用人として雇います」
「例の……?」
「王太子の元婚約者です。特別待遇で島に監禁してるアニエス・オードラン公爵令嬢ですよ」
数日前、殿下から話を受けた時、直ぐにソフィアが浮かんだ。彼女は囚人だが無罪だ。ただ、島流しされたルーク様専属の使用人だったから、あらぬ疑いをかけられ巻き込まれたに過ぎない。我々のクーデター計画に彼女は全く関係ない。王都の手前、監獄へ収容するしかなかったが、出獄するタイミングを図っていたのだ。
それに彼女はジェントリの出。平民ながら多くの土地を持った地主で、牧場や農場を経営してる一族の娘だ。とある事情でルーク様に仕える様になったが、今となっては彼女の才能は土地を豊かにすることに注ぐべきだと思っている。
ソフィアほど、うってつけの人材はいない。
「ビソン、儂はここで大人しく余生を過ごす。よからぬことを考えない様にな」
「ルーク様にご迷惑はおかけしません。ただ、気になるハエがおりまして」
「ハエ?」
「王都から派遣されたアニエス嬢の監視官です」
「そいつが何か?」
「彼は国王専属の諜報官でした。先日も殿下の命で監獄を案内しましたが、目的は特別室を覗きたかった様です」
「ほう……兄はまだ儂を警戒してるのか」
「その様ですね。何か仕掛けてくるやもしれません。よって警備を強化しております」
「……やれやれじゃ。儂は自分を担ぐ貴族と接触出来ない様、自ら隔離を申し出たのに、まだ疑いを持つか。兄とは一生、和解出来ないかもしれんな」
「私はルーク様が国王陛下になるべきと思いますが」
これを言うとキングはいつも眉間にシワを寄せる。
「よさんか。国が乱れる。誰が陛下でも、それを支える貴族が力を合わせていけば国は治るのじゃ。元来、嫡男が嗣ぐと決まっておる。それをひっくり返したいのは、野心を持った一部の貴族たち。儂は踊らされん。その点、ジェラールもよく心得ておる」
そうですね。そのお話、ごもっともです。ただね、野心だけではありませんよ。このジョリー王国の危機を救いたいからキングを変えたいと願ってるのです。
「はっ……これは言葉が過ぎました」
取り敢えず謝る。いつものことだ。
私は優れた指導者であるルーク様と王都を乗っ取りたい。賛同する貴族も居るだろう。確かに国は一時的には乱れるが、確実に勝てる段取りが整えば実行するつもりだ。
そして、ジェラール様を王太子にする。
この為に私は生きているのだ──。




