エピローグ
半年後、婚約破棄に対する世間のほとぼりも冷めたころ、宮廷魔導士エドガー・フレミングと公爵令嬢ミシェル・ローレンは盛大な結婚式を挙げた。
新進気鋭の若手魔導士と美しき公爵令嬢の結婚は、社交界でもおおむね好意的に受け入れられたが、人々がこのカップルについて語るとき、必ず話題にのぼるひとつの問題があった。
すなわち、果たしてふたりはどの時点で、互いに恋心を抱いたか?
新妻ミシェルは誰かにそれを問われると、「さあ? 自分でもよく分からないけど、最終学年に上がるころにはもう好きだったのかも知れないわ」とあっけらかんと語っている。アスラン王子との婚約期間と一年被っているものの、当の王子が別の女性を寵愛していたこともあり、非難する声はないようだ。
一方のエドガーは自分がミシェルをひとりの女性として意識したのは、あくまで卒業後の話であり、在学期間中に不適切な感情を抱いたことなど一度もないむね主張するが、信じる者は多くない。
いずれにせよ、現在の彼らの仲睦まじさはまことに疑いようもなく、エドガー・フレミングの研究室に差し入れに訪れる若く美しい新妻の姿は、宮廷魔導士たちの間でもやっかみの対象になっているほどである。
ちなみにその後のアスラン・アリシアのカップルに関しては、アリシアの卒業を待って結婚式を挙げたとか、アリシアが貴族社会になじめず実家に帰ったとか、傷心のアスランが激太りしたとか、人づてに噂を聞くことはあっても、ミシェルは「ふうん、そうなの」と言うばかりで、ほとんど関心を示さなかったということだ。




