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「体験入部とは違って、部活には入ってるよ。それで二ヶ月の間部活に所属して、本当に入部するかを決める。ほとんどの生徒が体験入部で入ることを決めちゃうから、あんまり使われないんだよね」
「オレ、誠、桜宮先輩も仮入部ですよ」
「そうなの!?」
尾崎君の言葉に私は本気で驚いた。てっきり正式に入部しているのだと思ってた……。
「先輩に渡した入部届、仮入部用のです」
「気付かなかった……」
私が呆然と零した言葉に尾崎君は苦笑する。呆れてられてしまったかと頬が少し熱くなった。その後俯いてしまったので、私は顔を赤くしていた尾崎君に気付くことはなかった。そんな私達を見つめていた誠のことも。
「それで問題がないならオレはそれでいいよ」
私達の空気を壊すように悟が仮入部に賛成した。
「私も!」
峰川も便乗する。
こうして悟、峰川も野球部に入ることが決まった。
二日後、再び全員で野球部の部室に集まる。
改めてメンツを確認すると、全員ゲームの登場人物だ。そして野球部のイベントは尾崎君のルートで存在する。私がマネージャーになるのも同じだ。でもゲームでは野球部は廃部の危機になんて瀕していなかった。それに悟達も入部していない。何故こんなに違ってしまっているのか分からないけれど、この違いのおかげで尾崎君のルートが潰れることを祈っている。尾崎君は攻略キャラの中でも好感が持てる子だけど、もし尾崎君のルートに入ってしまって峰川を敵に回すのは何としてでも避けたい。
尾崎君のルートに入ると、峰川も野球部のマネージャーになる。そこから峰川との戦いが始まる。お互いどちらがマネージャーとしての仕事ができるか競い、時に失敗して尾崎君に慰められる。その中で尾崎君は私か峰川に恋心を芽生えさせ、私に告白をしてきてくれればハッピーエンド、峰川に告白をした場合はバットエンドだ。
一見他のルートに比べればマシなように思えるが、意外と辛いルートだったりする。峰川との戦いに必死過ぎれば尾崎君に引かれ、失敗し続ければもちろん好感度は下がる。それに失敗すると影で峰川に貶される。だからといって峰川に勝ち続けると尾崎君に尊敬されるだけで終わってしまい、そこに恋愛感情は生まれない。尾崎君はちょっとドジな子が好みらしい。
まぁそんな感じでさじ加減の難しいルートなので、あまり入りたいとは思わない。峰川にネチネチと貶されるのも嫌だ。私は平穏に学校生活が送れればいい。まず野球のことなんて全然分かっていない私が、峰川と戦うことなんて無理。
「花愛?」
「……」
「……花愛」
「ひゃあっ!?」
色々考えている時に耳元で急に囁かれたら、誰だって驚くだろう。私の出した悲鳴は、部室にそれはもう響いた。部室の中が静寂で包まれる。
「先輩!?」
「花ちゃんセンパイ?」
「……」
尾崎君と誠はポットの所で何かを話し合っていたらしく、二人同時に私の方を見た。琳音は私と悟の向かいに座り、無言でじっと悟のことを見ている。峰川はいつの間にかいなくなっていた。
「み、峰川さんはっ?」
恥ずかしさを紛らわすため、悟との距離をとるために、ソファから立ち上がってソファに近づいてくる尾崎君に聞いてみる。
「何かできることはないかと言われたので、先生から元部員の名簿を貰ってきてもらうよう頼みました」
「そ、そっか……」
再び部室が静まり返る。
ソファの横に立った尾崎君、その後ろから近づいてきて琳音の座る横に後ろからソファに寄りかかる誠。二人の視線は悟を向いてる。そして先程から変わらず悟を見つめたままの琳音。三人に対して表情を変えずに笑ったままの悟。
「えっと……」
「ねぇ」
よく分からないが悪すぎる空気を変えようと思ったが、琳音に遮られた。
「金剛……だっけ?」
「なんですか、先輩」
いつもより低い声の琳音に驚く。それに対し笑顔で応える悟に更に驚かされた。
「花ちゃんにしか用がないなら、野球部辞めてもらえる?」
「先輩!?」
驚きの連続すぎた結果、私は空気なんて忘れて叫んでいた。
尾崎君のルート説明が長くなってしまいました。もう少し短くしたかった……。
久し振りに書くもので、キャラ達の一人称を間違えているかもしれません……。間違っているところがあればご報告いただけると嬉しいです。
次のお話も日にちとを開けずに投稿できると思います!




