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「部員になれと……?」
「野球部のマネージャーになってもらえませんか!?」
私と尾崎君はほぼ同時に口にしていた。そしてやっぱり野球部への勧誘だった。
「ぅ〜ん……」
「駄目……ですか?」
私の反応に尾崎君は不安そうな顔をする。
別にマネージャーになるのは構わないし、元部員さん達が戻ってきたら辞められるよう約束すればいいだけだ。しかし問題がある。もし部員が戻ってきて野球部が復活したら、尾崎君は髪を切って丸刈りになってしまうのではないのだろうか。いや、間違いなく真面目な尾崎君は髪を切るだろう。でも、乙女ゲームの攻略対象が丸刈りなのはどうかと思う。
「やっぱり駄目ですよね……」
色々悩んでいる私を見て、尾崎君は悪い方に考えてしまったらしい。
「ううん、部に入るのには問題ないの。ただ、野球部が復活したら尾崎君は髪を切っちゃうんだろうな〜、って思ったらなんだか勿体なくて」
「え?」
ここは正直に話すことにした。何も話さずに断って、尾崎君を悲しませるのには罪悪感がある。
「オレの、髪……?」
尾崎君はよく分からないような顔をしながら自分の髪をいじりだす。
短く整えられた 少し癖のある髪は、まだ幼さの残る尾崎君にはよく似合っている。はっきり言って丸刈りは全く似合わないだろう。
「うん。今の尾崎君の髪型、よく似合ってて格好良いから」
「かっこ……!?」
私の言葉を聞いて、尾崎君は急に慌て始めた。少し顔が赤い気もする。
「……あっ!」
尾崎君が照れるようなことを言ってしまったかと自分の言ったことを振り返ってみたら、なんだかとんでもないことを言った気がする。素直に言いすぎた。格好良い、なんて、言われた方はそりゃ照れるだろう。
「ご、ごめんねっ!私の言ったことは気にしないで!」
「いえ!オレの方こそ変に照れちゃってすみませんっ!」
お互いなんとも言えない空気になってしまう。
「も〜、二人でもじもじしない!で!センパイは野球部に入るの?入らないの?」
今までずっと黙っていた誠が私達の空気を壊すと、私に質問をしながら詰め寄る。
「マ、マネージャーって何したらいいの……?」
私は恐る恐る聞きたかったことを聞いてみた。私にできることなら協力したいと思うから、具体的に何をしたらいいのか聞いてみる。
「とりあえず元部員の説得ですね。マネージャーって、いるだけで人が集まると思いませんか?」
……そうなのだろうか?
「部員達が戻ってきてくれたら、その後は辞めてもらっても大丈夫です。臨時で入ってもらったことにすれば、きっと納得してもらえるので」
「それならいいけど……」
私の返事に、尾崎君と、何故か誠まで嬉しそうに喜ぶ。
「良かったね、夕ちゃん!あと一人だよ、あと一人!」
「そうだな!」
「あと一人?」
二人の喜ぶ言葉に気になる言葉があったのでつい聞いてしまう。
「実は、本当はこの野球部、廃部が決定してたんです」
「え?」
「先輩達が辞めたのは従兄弟が引退してすぐ。一月頃には誰も部員がいなかったんですよ。それで先生方は、特に実績も無く、新入部員の入る可能性の低い野球部を廃部することに決定したんです」
「でも、野球部は残ってるよね?」
そこで尾崎君は苦笑する。
「野球部廃部に猛反対した奴がいたんですよ」
「もしかして!」
そこまでこの野球部に愛がある人なんて、一人しかいなかっただろう。
「多分先輩の思う通り、オレの従兄弟です」
本当に凄いな、尾崎君の従兄弟さん。
「オレの従兄弟が猛反発して、新入生として入ってくるオレが野球部を必ず立て直す、って宣言したんですよ。それで先生方は渋々納得してくれたらしく、無事オレはこの高校に入学し、半強制的に野球部に入部した、ってわけです」
「でも、あと一人、って言うのは?」
「それは……」
何故か言い淀む尾崎君を見つめながら、多分私が入部したくらいじゃどうにもならないことじゃないかと私は予見していた。
野球部の話、長くてすみません。




