12話 不穏な空気
1時間半が経過し、浩二とエピ、ミラ軍所属のメグとソルとレイ、そして謎の少女の6人を乗せたトラックは、何とか山を下り終え、麓にある小さな村に到着した。
「……もうあのトラックで下るのは御免だ………」
そう言って地面に伏したエピを、浩二も倒れそうになりながら見ていた。
メグは村にあった医療施設で、あの少女の銃創を治療している。ソルとレイは、この村にいる警備隊と周辺の警備に当たっていた。
「なぁ、エピ。教えてほしいことがある」
「何だ……?」
「この世界にいる勢力について、話してくれ」
浩二は動きそうにないエピの横に座る。エピは動かないまま、口だけを動かした。
「ヴェルタイトだけで言えば、3つの勢力がある。国軍、ミラ軍、解放軍だ」
「国軍?聞いたことがないな」
「そりゃ、国軍は自分たちの領地を護るほどの人数しかいないからだ。領地から国軍が出ることはないから、基本的にミラ軍と解放軍だけが出てくるってわけだ」
エピはゆっくりと体を起こしながら、説明を続けた。
「まずミラ軍から。こいつらは大将のミラって奴が率いてる軍だ。ヴェルタイトの占領が目的で、第一から第九までの師団を持ってる、規模的に最大の勢力だ。ミラの下には3人の将軍がいて、師団を3つずつ束ねてる。人海戦術が得意なんだが、同時にゲリラ戦も得意だ」
「だからあの人数か。納得した」
「あれでもまだ小規模な方だ。奴らが本気で動くときは、地響きがするらしい」
「笑えないな。ただ、裏を取れば楽そうだ」
「その通り。それをやってのけるのが、解放軍だ。解放軍はミラ軍と違って、地球から来た人間たちが束ねている」
「スキルを持つ人間……か」
「そうだ。こいつらはミラ軍と違って、1人1人の戦闘力が強い。裏を取って、確実に叩く為の部隊も存在する」
「厄介だな」
「一番厄介なのは、スキルを持った人間だけで構成された、特殊隠密部隊だ。序列が2桁或いは1桁の奴らだけで構成された、最強の部隊だ」
「……一つ質問がある。その序列ってのは何だ?」
「そういや浩二にはまだ説明してなかったな。序列って言うのは、スキルを持った人間が、戦闘でどれだけ使えるかを数値化したものだ。基本的に、序列が上の奴には勝てない。だからもし勝った場合、序列が上がるっていう現象が起こる」
「その序列は、どこで分かるんだ?」
「それが、まさかの解放軍だ」
「……解放軍が?」
「解放軍は、ミラ軍たちと戦うことも視野に入れているが、別にもう一つ、この世界の情報を数値化してデータベースにまとめるって作業もしてるんだ」
「案外いい奴らなのか?」
「それでも、一部の部隊はひどいって話だぞ?まぁ、国軍に比べりゃそこまでひどいってわけでもないけどな」
「国軍はひどいのか?」
「それについては、実際に見に行った方がいいな」
浩二は、エピの後ろに人影のようなものが見えた。そしてエピは、浩二の顔を見て何かあると確信した。
そして次の瞬間、エピのすぐ後ろから、鈍い閃光が走った。それをエピは紙一重で躱す。
「誰だッ!」
エピは咄嗟に剣を抜いた。相手は、ナイフを持った黒ずくめの女だった。
「我の名は、麓城封鬼。お主の持つ剣を奪いに来た」
そう言い、麓城封鬼と名乗った女はナイフを構えた。ナイフには、青みがかった粒子が纏わりついている。
「動くな。手を挙げろ!」
ガシャガシャ!という音と共に、20人以上の男たちが銃を構えて封鬼を囲んだ。
殺気が辺りに充満する。浩二はにやりと笑うと、紅剣を抜いた。