お月見は、書き入れ時です。(遥くんのお家の話)
その日の朝に、遥くんから連絡が来た。嘉くんは、コーヒーカップを二つ手にして、ソファの私の隣りに座る。最近、朝食後に、美味しいコーヒーを淹れてくれる。カップをテーブルに置くと、自分もスマホを開く。
「もう、そんな時期なんだ」
「そうだね、後で、お団子買いに行かなきゃ」
遥くんは今日は、実家の和菓子屋さんで、お手伝いだ。今日は、十五夜で和菓子屋さんは忙しい。嘉くんに聞くと、デビュー前はこの時期と、お彼岸、お盆はバイトさせてくれたらしい。二人がお店に立つと集客効果が違うらしい。
でも、デビュー後は、予定のない時だけ、遥くんが出ている。嘉くん、有名になり過ぎて、接客頼めないらしい、分かる気がする。あんな、イケメンが接客したら、大混雑だ。なので、今回は、「十五夜なんで、団子取りに来て」というLINEのメッセージをくれた。取りに来いと言うのは、届ける事が出来ないので、多分、忙しいのだろう。
「何年も、団子取りに来いなんて、言わなかったのに」
「それ、きっと、私が年中行事大事にするからかもしれない。それに、去年って実家に行ってたものね」
「なるほど、一昨年も色々と忙しかったな」
「遥くんのお家、ずんだのお団子あるかな」
それは、どうだろう、嘉くん私を見て苦笑した。午前中は、家事を二人でこなす。手伝ってくれるって嬉しいね。その日の、午後、電車で、遥くんの実家にお邪魔する。接客は遥くんのお兄さんの奥さん、遥くんの義理のお姉さんと、遥くんだ。他の家族は、裏で、必死にお団子を作っているらしい。ここも、うちの実家の稲刈りの時の様に家族総出だったので、面白い。
私たちが到着する頃には、少し落ち着いた様で、遥くんが私たちに気付いた。お客さんが減るまで待っていたのだ。実は、お店の方に入るのは初めてだ。入れ違いにお母さんとおばあさんが来て、接客を変わってくれた。お兄さんの息子さんたちも奥でお団子作りを手伝っているらしい。ちょっとだけ、挨拶もした。遥くんにも、ちょっとだけ似ているかもしれない。
お義姉さんが案内してくれて、居間に案内された。遥くん、ちょっと疲れたのか、いつもなら、お茶を淹れてくれるのだが、それは、お義姉さんがやってくれた。聞くと、開店を早めてずっと、接客していたらしい。お義姉さんは、途中まで他の仕事で手が離せなくて、その間、遥くん、一人で接客をやっていたとか、お疲れ様です。ほんと、この人何でも出来るな。
折角お邪魔するんだから、実家から送られて来た、お菓子を持って来た。流石に和菓子はやめたけど。
「持ってく分、取っといてある。出向かせて悪いな」
「いやいや、気にしないで。っていうか、遥くん、お疲れ様」
お茶を運んでくれた、お義姉さんから、お茶を受け取る。ふと、お盆に乗った見慣れた緑色に目を惹かれた。思わず、遥くんの方を見て、確認しちゃった。これは、あれですね!
「ずんだ、っていうんだっけ。はるくん、夜から仕込んでいたの。需要あるか分からないから、家族分しかないの。良かったら食べてね」
「はるくん?」
私の一言に、いつものデコピンが飛んできそうになるのを、咄嗟に嘉くんが、私の肩に手を回して後ろに引いてくれたので、避けられた。それよりも、気になる発言をお義姉さんが言ってた。
「麻衣、分かっていて、なんでいつも避けないの」
「避けれないのよ」
「あれ、地味に痛いでしょ」
「他の事考えてると、避けられないの。でも、今回は、すっごく気になった。私もはるくんが良い」
「なして?」
「呼びやすい、可愛い」
男が可愛くてどうする、却下、と言って今度は手刀が落ちてきた。これは、嘉くんも庇ってくれなかった。ずんだのお団子はここで頂いて、他は持ち帰る事にしました。お、美味しい、これ、絶対売れる。来年から、お店のラインナップに加えられました。数量限定で。
遥くんの、料理への、こだわりを知った。納得が良いものじゃなければ、ダメらしい。そして、昔からずんだを口にしていた、私に味見と言って、食べさせてくれた様だ。あまり食べ物のこだわりがないからこそ、率直な意見を聞けると思ったらしい。程よく粒も残っているし、甘みも程よくて美味しいです。色も綺麗だしね。
「それと、これ」
そう言って、紙に包まれた、ススキと萩を渡された。細かい花はとても可愛い。嘉くん、見るのは初めてじゃないはずなのに、見入っている。可愛いけれど、やっぱり、ちょっと地味だね。きっと、浴衣の話が無かったら話題にも上らなかったかもしれない。
お代は受け取って、もらえない上に、遥くんのお母さん、十五夜なので、お店のラインナップ少ないけど、色々な和菓子も渡されました。冷凍できるのかな? こんなに甘いもの頂いてしまって、私もジムデビューしないといけないかもしれない。きちんと、お土産持って来て良かった。
帰りに店先に貼られたチラシに気付いた。すごく綺麗な字で、十五夜と書かれていた。聞いたら、それを書いたのは、遥くんらしい。昔から、書道を習っていて、腕前は段持ち、師範の資格も持っているとか。遥くんのお母さんが教えてくれた。今の仕事辞めても、色んな職に就けそうで羨ましい。私なんて、農家にお嫁に行く事しか出来ないよ。嘉くん家、農家じゃないけれど。
「遥くん、スペック高すぎ、何でも出来るんじゃないの」
「何でもっていうわけじゃないかな、料理出来ないし」
「出来ないの? さっきの、ずんだ、料理よね。しないんじゃなくて」
「凝りそうだから、無理だってさ」
「まさかの、そっち。それも、料理出来ないに入るのか」
遥くんの知らない一面が見れた。ずんだの事は確かに、こだわりすぎている面が見られた。あんなに、美味しかったのに、店には出せないって、判断しちゃうくらいこだわりを持つ人だった。料理は確かにやめた方がいいかもしれない。
ふと、良い考えが思い浮かんだ。毎年の誕生日プレゼント、あげたいのに何を贈ったら良いのか分からないので、今度は習字セットが良いかもしれない。なんか、言い方が可愛くなったな、セットって言っても、私から贈れるのは、硯かなと思っている。前に嘉くんに、誕生日プレゼントにリップ筆もらったので、今度は、習字用のがいいかもしれない。まぁ、今から、三ヶ月以上も先なんだけどね。
またまた、遥くんの特技が増えました。関東ってずんだの団子って並ぶのかな。




