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虹の架け橋  作者: 藤井桜
新婚編
62/714

君に聞かせたい歌があるんだ



 その日の、音楽番組の出演を、TVで見ていた、私は、かなり焦った。いつもなら、こんな事ない。きっと、初めての経験だ。出演情報は、かなり前に出ていた。歌う曲は、数日前に公表されていたが、その辺は忙しくて、見ていなかったので、本当にサプライズな出来事だった。



 生放送ではないので、隣りには、(よし)くんが楽しそうな笑みを浮かべて座っている。遠慮したのか、遥くんは、今日はいない。TVの司会者さんが、先日配信された『約束の地』の説明をしている。嘉くんの歌詞の奥に私の言葉を忍ばせて、遥くんが曲を付けてくれたあの曲だ。



「約束の地って、決まった場所ってあるの?」

「京都の天橋立に行った時に、思い付いた歌詞です。僕、広島出身なので、日本三景っていうと安芸の宮島なんですよね」

「ああ、奥さんは確か宮城出身で、日本三景の一つ松島がある場所だったよね」

「そう言う事です。その中間の地だから、天橋立が僕らにとっての約束の地なのかもしれません」

「二人の約束の地って良いね」



 司会者さんが今度は、嘉くんから遥くんに話題を振った。もう一曲の方の説明を求めたのだ。今日は二曲歌ってくれるらしい。そして、どうして、チョイスがその曲なんですか、聞いていません。うわ、すごく、恥ずかしい。私の話題もだけど、その曲を歌うなんて。TVの前で、赤面して、でも、目が離せなくて、困る。



「それと、今回はもう一曲、歌ってくれるんだよね」

「はい、レーゲンボーゲンが『虹』っていう曲歌います。新しい曲ではなく、嘉の奥さんの麻衣ちゃんの曲です。これは、やっぱり、ずっと歌いたいと思っていた曲なので、今回カバーさせてもらおうと思いました」

「良い曲だよね。それは、とても楽しみだ」



 司会者さんとの掛け合いは、とても楽しそうで、でも、それをまともに見る事が出来ない。曲目を確認していなかったので、本当に驚いた。嘉くんもそれに気付いていた様だが、敢えて言わなかったのは、私に対するサプライズになると思ったからだろう。



「この曲をカバーしたいと言った時に、莉子さんに麻衣には内緒で頼んだんだよ」

「そうだったんだ」

「やっぱり、思い入れのあるあの曲、ずっと歌いたかったんだ、俺の声でね」



 それっきり、嘉くんは黙り込んだ。TVで、レーゲンボーゲンがこれから歌うからだ。ギターを手にした遥くんが優しい音色を奏でる。『約束の地』の、歌詞、私が落とし込んだ部分は、嘉くんの優しい声が奏でる。その部分は頑なに、自分が歌いたいって、言ってくれた。それもあって、遥くんには、ばればれだった、まぁ、知り合って二十年の二人なので、嘉くんの作詞は知り尽くしているんだろうけれど。


 続いて、流れるのは、私の曲なのに、まるで、違う曲を聴いているようだった。たまに、嘉くんが歌ってくれるけれど、こうして、TVを通して聞くとは思わなかった。ライブなどでも歌わないので本当にこれが初めてだ。これが、世間にとって、どんな反響を呼ぶか、目に見えていた。きっと、SNS界隈も大騒ぎだろう。


 二人で歌うように、レーゲンボーゲンらしい、アレンジが入っている。それが、とても良かった。TV越しの出演者も聞き入ってる。それくらい、素敵な曲だった。私が作った曲とは思えない。


 ああ、やばい、涙を止められそうにない。嬉しくて、歌が心に沁みる。だめ、もう、私はこの人の声なしでは生きていける自信がない。そして、それでも、目を逸らせない。最後まで、目に焼き付けておきたかった。二人の歌う姿を。

 最後の余韻を残して、私は息を吐いた。ずっと、息を詰めて見ていたらしい。TVの向こうなのに視線があったような気がした。隣りの嘉くんが涙を優しく拭ってくれる。



「すごいな、やっぱり、かっこいい」

「頑張りましたから」



 顔だけはTVを見ていたが、いつの間にか、後ろから、嘉くんに抱き締められていた。暖かい、温もりが伝わってくる。



 嘉隆くんが麻衣が気付いていない事を良い事にサプライズしています。

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