おまけ・ルイスとローゼの物語*
『森の洋館と二人のアリス』の告知会前の麻衣とめぐみちゃんとの会話です。
初めて、そのミュージカルの話が来た時のテンションの高さに何事かと思った。もちろん、テンションが高かったのは、私では無い。その日、午前中に他の仕事が入っていて事務所に戻った時のことだ。そのテンションがめちゃくちゃ高い深戸めぐみちゃんが私に激突する勢いで突っ込んできたのだ。思わず、何事?! と言って距離を取ってしまった。後ろから、苦笑しているめぐみちゃんのマネージャーさんといつもにこにこと優しい笑みを浮かべている多田社長がいる。
「麻衣ちゃん、新しい仕事が入ったよ」
「ああ、なるほど。それで、めぐみちゃんと一緒の仕事なんですね。だから、めぐみちゃんのテンションが高いんですね」
「うん、めぐみちゃん、ミュージカルは初めてなんで、色々と教えてあげてね」
「私もそれほど、やってきたわけではありませんが、私で出来る範囲のことで良ければ教えます」
そんなことないですよー、と言ってめぐみちゃんは嬉しそうに私の腕に自分の腕を絡めた。めぐみちゃんは、シンガーと俳優を両立しているタイプの子だが、ミュージカルは今回初めての経験になるようだ。
「これが、台本ね。と言うか、立ち話していないで、会議室に行こうか」
「はい、そうですね」
この人数なら、応接室よりも会議室の方が良いだろう。社長とめぐみちゃん、めぐみちゃんのマネージャー、スタイリストさん、それと、莉子さんと美月さん、私だ。今日は、スタッフの坂崎さんがコーヒーを淹れて、お茶菓子を用意してくれた。
「…アリス」
ぼそりと、めぐみちゃんに聞こえないような声で呟いた一言は、莉子さんだけには聞こえたようで、無言で目を合わせて頷かれた。そして、話題を他に持っていってくれた。
「縁がありますね。うちの事務所って、不思議の国のアリスの作者から取られていますよね。それに、麻衣は、時計ウサギの格好でアルバム撮影もしていますしね」
「ああ、あの、マリ姐、めちゃくちゃカッコよかったです!」
「今回は、名前だけなんですね」
めぐみちゃんも、私のアリス役のことは、知らないので、莉子さんの話の方に食いついてくれた。社長もそれが分かっているので、その話には一切触れない。美月さんは、衣装のデザイン画をめぐみちゃんのスタイリストさんと見ていて、嬉しそうに話し込んでいる。
今回は、現代ものでは無く、どこか知らない世界が舞台のファンタジーもののようだ。名前もカタカナだが、登場人物がそれほど多くはないので、覚えられそうだ。
「ああ、めぐみちゃんがヒロインなんだね」
「そうなんですよ。タイトルにアリスっていう名前が入っているから、てっきりアリスがヒロインなんだと思っていました」
「そうだよね、それと、ヒロインはローゼだけど、主人公はルイスなんだね」
「はい、今回はダブル主人公って言うパターンみたいですね」
主人公は私が演じるルイスと、めぐみちゃんが演じるローゼの二人にスポットライトが当たるようだ。タイトルにもあるアリスはフレーバーなようだ。
「アリス役の子の話題は取り上げられていましたよね」
「そうだね」
それは、一月ほど前に、オーディションがあって、二人の高校生が選ばれたようだ。そして、数日後に衣装合わせと告知会が行われるようなので、その時に顔合わせすることになると思う。
「珍しいな」
「そうね、最近はお芝居でもミュージカルでも男性役が多かったから、女性役は『北部戦線歌劇隊』以来かしら」
役者時代のことはタブーなので、私の役者経験はその三つだけだ。『北部戦線歌劇隊』ではマリアと言う女性軍人役、マリ姐と呼ばれるのは、ここから来た。綾ちゃんとやったお芝居の『poison』と同郷のみんなでやったミュージカル『キラー』ではどちらも男性役だった。
「マリ姐の演じるキャラはどれも、カッコよくて好きです」
「ありがとう。でも、めぐみちゃんのように色々な役に挑戦していないから、色んな役に挑戦するめぐみちゃんもすごいなと思うよ」
めぐみちゃんは、私と違って色々な役に挑戦している。可愛い大人しめの学生から、活発な男まさりな女の子まで。演技が評価されて、シンガーとしてデビューしたはずなんだけど、数ヶ月で、俳優の仕事が増えた。
「えへへ、でも、こうして、知っている人がいると心強いですね」
「うん、それは私もだよ。一緒に頑張ろう」
その後の顔合わせで、大好きなミュージカル俳優さんに驚く一面があり、めぐみちゃんに、びっくりされることになるのだが、それはまた先の話だ。
めぐみちゃんは、麻衣と一緒にミュージカルに出れるのが嬉しいです。




