ルイスとミゲルの物語
ミュージカルの二日目、昨日よりは緊張してはいない。それは、私だけでは無く、みんなそんな感じだった。嘉くんと遥くんを招待するのは、来月になるんだけど、今回はうちの社長やもっちゃんさん、かっちゃんさんのところの社長さんなどが見に来てくれることになっているようだ。社長の前だとまた違った緊張感が生まれるね。ミスしないようにしないといけない。
「マリ姐、お早うございまーす!」
「お早う、あれ、呼び方戻ったんだね」
「なんか、こっちの方がしっくりくるというか」
「まぁ、私もそっちの方が聞き慣れているかな。って、もっちゃんさんとかっちゃんさんは、この呼び方は禁止で」
そう言ったら、かっっちゃんさんは、不服そうにぶーぶー言い始めた。それを見ていたもっちゃんさんは一言「残念」と呟いた。流石に年上の人たちに『マリ姐』呼びされるのはないな。意味合いは違うけどね。
「で、かっちゃんさんは、大丈夫なんですか」
「ああ、やっぱり、分かる?」
昨日のお酒が残っているのか、少しだけ辛そうだ。隣りのもっちゃんさんが、「大丈夫だよ」と言っている。何か根拠がありそうだ。聞くといつもそうらしい。今回の稽古は未成年のみのりちゃんと天音ちゃんがいるので、稽古終わりのご飯では、お酒を飲むことは無かったけれど、大人だけになると良く飲みに行ったようだ。その時も、いつも一番先に落ちるようだ。私は、嘉くんを思い出したね、嘉くんも一番先に落ちる。
「で、その時もこんな感じなんですね。でも、大丈夫って?」
「うん、本番が始まると人が変わったように集中するよ。具合悪いのもお構いなしにね」
「うわ、強いですね」
終わったら、ぐったりしちゃうそうだけど、それ本当に大丈夫なんだろうか。本人もいつものことだと言って、「だいじょぶ、だいじょぶ」と言っているんだけど、ああ、みのりちゃんそんなかっちゃんさんに突撃するのやめた方がよくない?
「かっちゃん!」
「もっちゃん!」
天音ちゃんは、もっちゃんさんの方に突撃していた。そっちは、軽くあしらわれている。私と違って突撃されてもよろめくことはない。はは、頭をぐりぐりと撫でられている。
すると、そんな私たちの方に向かって、少し遅れて、めぐみちゃんがやってきた。こっちは、ちょっとお疲れモードだ。
「うう、マリ姐といつもと逆だー」
「まぁ、流石に昨夜は早く寝たしね。昨日のお酒ぐらいじゃ二日酔いにもならないよ。めぐみちゃんは、二十歳になったばかりなんで、まだ、慣れていないからお酒一気に飲まない方がいいね」
「うううう、善処しまーす」
と言うか、私が気を付けるところだったかな。めぐみちゃんのマネージャーさんもごめんね、と謝ってくれた。私たちはこうして話ながらもスタイリストの人たちに最後の仕上げを立ったまましてもらっている。と言っても、私はいつもの髪型と変わらないんだけどね。
「今日は社長が来るんだよね」
「そうだね、その一角見えなくて本当に良かったよ」
社長さんたち、まとまって座っているんだね。知らなかったよ。社長さん同士も面識があると言うことで、あとで多田さんに聞いてみようと思う。
「川村さんの旦那さんも来てるの?」
「いえ、来月のチケットを渡しています。なので、来るのは来月ですね」
「そっか」
「もしかして、来るの期待していました?」
「いや、川村さん、抱えていたら俺、殺されるんじゃ無いかなって」
「まさか、ちゃんと仕事だと分かっているので大丈夫です」
あ、めぐみちゃん、不満そうだとは思いますけどねー、ってそれは言わなくても良い情報だよ。まぁ、そうなんだけどさ。
「ああ、やっぱりそうなんだ」
「マリ姐と浅生さんらぶらぶなんで、間に入ること出来ませんよ」
「まぁ、入るつもりないけど。同郷だから、怒らせると怖いのよく分かるからね」
そうでしたね、嘉くんももっちゃんさんも広島出身だ。そして、怒らせると怖い。「じゃあ、俺が代わりに」って、なんで、そう言って、抱きついてくるんですか、かっちゃんさん。私が押し返す前にもっちゃんさんに回収されていた。
うん、今日も問題無くミュージカルが始められそうだね。
二日目のミュージカルが始まる前の、わちゃわちゃ。二日酔いになっているのは、曽野さんとめぐみちゃんだけです。




