表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
52/716

ここが、君の帰る場所になるから



 その後は、機嫌の悪くなった私を気にしてか、車の中は大合唱のカラオケ大会になった。というか、兄よ、運転しながらよく歌えるな。ビートルズとか、兄の十八番とか、レーゲンボーゲンの歌も歌ってくれた。車に乗るといつもの事らしい。あまり大きな声で歌うと咲子(さきこ)さんに怒られるらしい。



「え? 俺のパート俺一人で歌うの?」

「大丈夫、おばさんが一緒に歌ってくれるよ」


「え、やだ。折角なら、嘉隆(よしたか)くんの歌聞きたいよ」

「ご馳走さまです」

「なして?!」



 結局、嘉隆くんは、私たち三人と立て続けに三曲歌わされた。『夢のカタチ』は(あん)が好きな曲だ。『run(ラン) way(ウェイ)』は兄が好きな曲で『my(マイ) way(ウェイ)』はもちろん、私だ。悠兄も杏も楽しそうで良かった。

 少し、歌わせすぎちゃったね、私は水の入ったペットボトルを手渡す。楽しい時間だけど、仙台に着くまでに杏を疲れさせては困ると思い、休憩を挟みつつ目的地に向かうのだった。



「ね、麻衣。『Mother(マザー) port(ポート)』歌って」



『虹』も気に入ってもらえたが、嘉隆くんの最近のお気に入りは、この曲だ。あの時、絵美の結婚式に作った曲だ。海岸線を南下するので、海しか見えない。この、港のどこかが、誰かの『Mother port』なのかもしれない。そして、私たちはお互いが、『Mother port』だったらいいなと思う。



 駅で悠兄と杏と別れる。最初に杏がこれから行く場所ではなかったのは、私たちの見送りのためだ。今度はいつ会えるかわからない。結婚式も披露宴もやる予定はない。

 詳しい事すら何も決まっていない。とりあえず、入籍は、三人の誕生日が終わったら、抜け掛けしないように、と言ったらみんなに笑われた。

 絶対、マスコミのネタになるんだったら、年齢は私だけ一つ上は嫌だ。まぁ、嘉隆くんとは誕生日、三日違いでしかないんだけど。そう言ったら、来年の三月、三人が初めて会った、レーゲンボーゲンのデビュー日になった。



 平日なので、混んではいない。新幹線の予約時間は夕方にした。せっかく、仙台まで送ってもらったのだ、どうしても、食べておきたいものがあったのだ。一つは牛タン、東京でも食べられるけれど、やっぱり、仙台で食べたいと思う。

 聞いた話だと、観光客向けなので、あまり地元民は食べないらしい。それと、牛タンだけならスーパーに普通に売ってるらしい。そして、もう一つは青葉城址に行かないと食べられないものだ。



「揚げすずめ」

「すずめ?」

「伊達政宗の家紋がすずめなんだけど、そこから出来たお饅頭で、青葉城址でしか売っていないらしいの。それを天ぷらにしたもので、『揚げすずめ』が食べたいなって」

「ん? どこかで、聞いたような名前だね」

「うん、そこから来てると思う。なんか、ごめんね」

「なんで、麻衣が謝るの」



 広島にある揚げもみじに着想を得たお菓子だと思う。でも、出来立て美味しそうじゃない? バスで目的の場所に向かう。時間があれば、レトロな雰囲気の周遊バスを選んだんだけど、それほど、時間が取れるわけではなかったので、そこは我慢する事に。

 何が良いか悩んだんだけど、二人ともずんだを選んで笑った。ほら、揚げもみじだとずんだ味はないでしょ? そして、しっかり、すずめ饅頭を古川くんのお土産に買いました。ずんだ味の方をチョイスしました。



 短かったが仙台観光も出来た、お互い別々の形なら、仕事で地方に来る事もある。仙台は地元には、遠過ぎる距離なので、実はほとんど来た事がない。

 同じ県内なのに不思議よね。まぁ、最近は仙台での仕事も増えて来たので、また来る機会があるかな。色々なお店に行ってみたいと思う。



 夕方の新幹線で、東京に戻って来る事が出来た。相変わらず、実家に戻ろうとすると、いつも強行になってしまう。仕方がない事なんだけどね。そのうち、ゆっくりと時間を取って来たい。



「お疲れ様でした」

「流石に疲れたね。今度は、もっと、ゆっくり行きたいね」



 遠いな、昔だったらこうして頻繁に地元に帰ることはなかった。こうして、地元での仕事もする事はなかっただろう。変わったのかな、私自身が。そして、それを変えてくれた人はいつも私の隣りにいる。


 そして、その人も私と同じような考えの人で、古川くんは、少しおどけた顔で、似た者同士といつもからかってくれた。



「ぶち、好きじゃけぇ」

「嬉しいけど、何で方言?! そして、なんで今なの」



 顔を染めて、照れる私に、嘉隆くんは、嬉しそうに、更に私を赤面させる爆弾を落とした。恥ずかしさに死ねるかもしれない。というか、方言やめてー! 照れ死んじゃうよ。



「照れる顔が可愛いから、言ってる」

「わざとやってる?」

「うん、でもまぁ、方言で言いたいくらい好きなのは本当だよ」



「私も好きだっちゃ?」

「新鮮だね、麻衣の方言。うん、ぶち、かわいい」



 私を照れさせてどうするの。あまり、人前で方言を使うのに抵抗のある東北人と、オンリーワンなイメージを持っている広島人には、敵いません。ああ、私はずっと、この人に敵わないかもしれない。



「滅多に使わないから。ずるい、なんで、全然、照れてくれないのよ」

「はぶてとるん?」

「嘉隆くんは、優しいし、気遣いが出来る人で、私の事、見た目で判断しないで、ちゃんと女として扱ってくれる。それに、方言しゃべってくれるところがいきなり、かわいい」

「かわいい?」



 可愛いは、男性には言っちゃダメだったかなと、思ったんだけど、違ったようだ。広島弁、怖いイメージがあるから、かわいいと言われる事に、驚いたみたいだ。

 まだまだ、いっぱい、良いところあるんだけど、言い過ぎたのか、照れてくれないのが、本当に残念だ。



* * *



 三人の休みが重なった日、改めて報告しようと古川くんを自宅に呼んだ。休みの日は基本、泊まって行く嘉隆くんが、自分の部屋のように、古川くんを招いてくれた。

 基本、二人はうちに来る事が多い。それは、私がマスコミ嫌いなためだ。私に付くマスコミよりもレーゲンボーゲンに付くマスコミの数の方がやはり、多い。ヒット曲多いしね。面と向かって取材とかされてはいないけれど、これからどうなるかわからないので、油断は出来ない。

 公に出来れば良いんだけど、それが出来なくてごめんなさい。来年の、三月まで待って下さい。



「これ、母から」

「おお、これ、天ぷらにしたら美味しいかな?」

「はぁ?」



 下町の名物が出てきて、思わず呟いた。こないだ、仙台で同じようなお饅頭を天ぷらにしたの食べたのよね。これも、美味しいかしら。なんの事か分からない古川くんの隣りで嘉隆くんが吹き出した。笑いが止まらないようだ。



「あははは、きっと、味は変わらないんじゃないかな。でも、揚げたては美味そうだね」

「揚げもみじと食べ比べてみる?」

「まだ、あったの?」



 なんの事だよ、頭に?マークを浮かべた古川くんは、その後、私の手で揚げられた、人形、もみじ、すずめを食べ比べさせられた。どれも、一緒だろ、と突っ込まれた。一度、やってみたかったんです。

 それを、楽しそうに見ていて、止める気のない、嘉隆くんは、地元のが一番お気に召しているようです。ちなみに、中身は全部餡子です、食べ比べするなら、全部一緒じゃないとね。



「違うだろ」

「ごめん、先延ばし、しようとしているわけじゃないんだよ」

「で、落ち着くところに落ち着いたんだろう」



 単刀直入に古川くんが聞くと、ああ、と言って嘉隆くんが頷いた。お茶を淹れながら、私は揚げたお饅頭をお茶菓子に席に着いた。話を無理やり戻したが、甘いものは苦手ではない事を知っている、揚げ人形焼きを口に頬張りながら、もぐもぐしている、かわいい。



「遥くん」

「なんで、突然? 名前呼びなんだ」

「なんか、そう呼びたくなった。ダメ?」

「いや、別に構わないけれど、でも、嘉がこっち、睨むんだが」

「じゃあ、嘉くん、ダメ?」



 私の渾身の一言に、照れさせる事に成功したようだ。愛称呼び、ちょっと憧れるのよね。私、二文字なので、愛称で呼ばれた事がない。同じ二文字なのに、絵美はえみりんって呼ばれていたけれど。

 遥くんは遠い目をして、視線を外すように、お茶を飲んでいる。あれ、私また何かした?



「これから、どうするの」

「三月の俺たちが初めて会った日に籍をいれようと思う」

「また、麻衣ちゃんが、渋ったんだろ」

「四十になる前と、みんな三十九になってからが良いって」

「嘉、麻衣ちゃんに甘すぎ。つうか、俺の誕生日待つ必要ないじゃないか」

「でもまぁ、三月はありなんじゃないかって思った。俺たちがデビューした日であり、再始動した日であり、麻衣と知り合った日でもあるから」

「良いんじゃねぇの」



 三種類すべての揚げ饅頭を食べ終わると、遥くんは、立ち上がった。最後にお茶もしっかり、飲み干した。遥くん、ほんと、和菓子似合うよね。実家が和菓子屋さんだけある。

 なんか、最後にこれうちでもやってみるかな、なんて言ってる。



「遥くん?」

「俺お邪魔じゃん。良い話聞けたんで、帰るよ。改めて、おめでとう、嘉、麻衣ちゃん。それと、揚げ饅頭ご馳走さん」



 ふわりと優しく私の頭を撫でて、遥くんは帰って行った。くすぐったいけれど、嬉しい。この、相棒は本当に嘉くんが大好きだ。いつも、嘉くんのために行動して、彼が寂しい時には、ずっと寄り添ってくれた。これからもその関係が続くのだろう。



「羨ましいな」

「何が?」

「遥くん、嘉くん大好きだよね。二人の関係羨ましいなって。私も不安な時、悲しい時、嘉くんを支えてあげたい。でも、きっと、遥くんには敵わないんだろうなって思うとちょっとだけ、寂しいなって思うの」

「ずっと、助けられたからね。でも、君、俺の奥さんでしょ、俺としては、その役目は麻衣であって欲しいね。あの時、遥は居てくれた。でも、あの時、本当に助けられたのは、麻衣の歌なんだ。俺は麻衣の歌があったから、こうして、また歌う事が出来ている。麻衣がいなければ、歌を続けていたか分からない」

「ありがとう」



 いやいや、まだ、結婚はしていません。それと、視線が絡み合うのは、どうしても同じぐらいの身長だからだ。170センチはないので、嘉くんよりも低いはず、多分低いはず。高校の身体測定での、私の身長は169センチです。

 じっと、見ちゃうのは、癖のようなもので、見つめていたら、嘉くん苦笑して、キスされた。最近、そんなふうにキスされる事が増えた。何故か、聞いたら、私が真っ直ぐな目で見て来るからだって、それと、ちょうど良い高さでキスしやすいって、平然と言われた。

 人を真っ直ぐに見る癖は利点だけど、他の男の前ではしないように言われてしまった。



 揚げすずめと揚げもみじはある。人形は存在するのかな。


 語尾の『だっちゃ』は有名ですが、仙台圏でしか、使われていませんね。『だべ』の方が多いけど、可愛くはないですよね。


 遥くんへの報告、ようやくか、と言いながら喜んでくれる。そして、古川くんから遥くんに、嘉隆くんから嘉くんに名前の呼び方が変わりました。

 活動報告に書いている小話、間違って嘉くんや遥くんと書いて慌てて訂正していました(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ