僕が、落ちる、落とす、落とされる
お芝居の中ではあるのですが、薄くGL要素あります。苦手な方はお気を付けを。まぁ、麻衣のイケメンっぷりにそうは感じないのですが。
お芝居で重大な事に気付いてしまった。その事は、嘉隆くんには、言えてない。四月の顔見せで、久しぶりに顔を合わせた、綾香さんは、先日、嘉隆くんが話してくれた元奥さんだ。嘉隆くんには、デビュー直後に一緒に仕事をした事さえ話せていない。
それなのに、ツアーが終わり、直ぐにお芝居の稽古が始まって、私は自分の事で精一杯で、また、とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれない。
「こんにちは、麻衣さん、お久しぶりです。川村さんと呼んだ方がいいかな」
「気にしないで、前の様に麻衣で構いません。綾香さん、これから、よろしくお願いします」
嘉隆くんに聞いていた様な感じには、どうしても、見えなかった。初めて、仕事をした時も、そして、今回も。私は営業用の笑顔を顔に張り付かせたまま、綾香さんに接している。もしかしたら、向こうもそうなのかもしれない。
「やっぱり、かっこいいな。また、一緒に仕事出来るなんて嬉しいです」
「ありがとう、私もだよ、ほんと、久し振りだね。あれから、十年以上経つんだね」
あれから、この人と仕事をする事はない。基本、私は歌手で、この人は女優だ。あの時は、デビューして、数ヶ月で仕事を選べずに何でもやっていた時期だ。綾香さんの言葉は、本音かどうかは分からない。
それでも、頬を染めて、少女の様に笑う。この人が、嘉隆くんを傷付けたのは、本当の事だ、でも、分からない。もしも、また、嘉隆くんに、近付く事があるかもしれない。
それが、怖くて私は、話せない。なら、全力で、自分の見た目と、声を最大限活かして、この人を落とそうと決めた。悪い事、しているな。
「信じてもらえないかもしれないんですけど、私、麻衣さんの事、本気で好きだったんですよ。麻衣さんのデビュー時、ラジオから流れて来た、圧倒される歌唱力に、響く低音、でも、それは不快ではなく、私の心を奪い去ってくれた。それから、気になっていた人で、そして、あの日、二月にあった、六月発売のCDジャケットの撮影と、雑誌のモデルで、初めて、顔を合わせて、やっぱり、素敵な人だなって、でも、その数分後にいきなり、失恋じゃないですか。だったら、もう、好きにしちゃおうって。なんか、あの時は、色々とすみませんでした」
「それで、あんな、大胆な行動に出たんだ。まぁ、驚いたけれど、あの雑誌、かなり好評だったみたいで、売り切れ続出したみたいで、良かったのかもしれないね。二月のTV出演も顔出しはしていなくて、私のプロフィールとか、ほとんど公になっていなかったんだよね。公に出る事はなくて、何もかも分からないまま、私の描いたイラストが自画像の様なものだった」
「はい、女性か男性かさえ分からない、そんなデビューでしたよね。なので、私はアルバムと雑誌のお話が来た時に本当に嬉しかった」
それ、絶対に嘉隆くんには言えないやつだ。あれで、かなり、嫉妬深かったりする。怒らせると怖い人らしい、その情報は古川くんだ。普段はのほほんとしているのにね。
そんな事を考えていたら、綾香さんの手が私に触れた。
「お芝居ではいいけれど、旦那さんに怒られるよ?」
「わかっています。私、幸せですよ。あの後、麻衣さんに失恋して、今の旦那さんに会って、色々とあったけれど」
彼女は一瞬、遠い目をして、聞こえないほどのため息を吐いた。いいのかな、私に話せない事なのか、過去は忘れたのか分からない、嘉隆くんの話題は一言も出なかった。
マスコミを避けるので、私のプライベートは、公にされる事はまずない。もちろん、それが私と嘉隆くんは付き合っていると言う事さえも、きっと知らないだろう。
この人は、今の旦那さん、ベテラン俳優さんの事を本気で愛している。それは、きっと、本当の事だろう。浮気は全部、その人を振り向かせるための口実。それに、巻き込まれた人たちは大変だっただろう。
それを知ってしまったからと言って、罪は消えない。それでも、私はこの人に復讐したいと思っている。復讐といっても、可愛らしいものだ。この人を落とすというだけの、可愛い復讐。落ちてくれるといいな。
私は悪い笑みを浮かべて、綾香さんの手を取った。これから、始まるお芝居の稽古と、本番で全力でこの人に愛を囁くのだ。
嘉隆くんの元嫁の綾香さんが嘉隆くんの回想では出ていたのですがここで、ようやく登場です。




