表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
40/716

彼の過去の告白に、私の憤る心と悲しみに



 広島公演の打ち上げは、お好み焼きをたくさん食べて、私なりのたくさんだけど、もみじ饅頭を社長用のお土産に買った。これからも、来る機会あるだろうに、という嘉隆(よしたか)くんの言葉は聞かないふりをした。お付き合い、と名前は変わったが、今までとほとんど、変わらない。


 古川くんには、やっとかと言われたが、そんなに気にしてもらえた事に驚いた。嘉隆くんの相談に乗っていたらしい。ヤキモキして見守っていたのだろう。ごめんなさい。



 福岡公演で、ご当地の歌手の人と一緒に合わせる歌は、その人と一緒に歌いたいと思っていたその人の歌だ。その夢が叶ってとても、嬉しかった。映画の主題歌で、その人が歌っている曲と、もう一曲、その人のものではないが挿入歌で流れた歌もご一緒させて、もらった。

 福岡公演は誰が来るのか、知らされておらず、それは、前日にサプライズで、聞かされた。その映画も好きで、何度も見た事がある。ちなみに、福岡の歌手の方は昔から、好きだと公言していたので、選んでくれたようです。ありがとうございます。


 ツアーの最後の東京公演、縁のある人は、古川くん、なので、最後の公演もレーゲンボーゲンになった。広島は嘉隆くん、東京は古川くん、それだけは、私が希望した。最後と言う事もあって、盛り上がってくれた様で嬉しい。

 大きなツアーで、誰も来なかったらと心配もしていたが、杞憂だった様で、チケットはすべて売れてくれた様だ。そして、私の初めての全国七都市公演は幕を閉じた。



* * *



 ツアーが終わって、違う忙しさが私を待っていた。四月の半ば、出演者の顔合わせが終わり、直ぐにお芝居の稽古が始まる。二ヶ月ほどの稽古が終わると本番だ。十何年ぶりの役者としての仕事は大変だ。役者として、デビューしたが、俳優期間は五年と短い。

 その後も、お芝居は全然やってこなかったわけではないが、こうして、主役を張るほどの、大きなお芝居は初めてだった。デビュー作も一応、主役であるのだが、あれは封印したいと思っている。


 でも、これからの事を考えると、恥ずかしいが、やはり、見るべきだろうか。もしかしたら、見ないよりも見た方が、少しでも参考になるかもしれない。音楽にばかり、夢中だったので、役者として、どんな風にやれば良いのか、感覚を忘れている。


 一人で見ると結局、見たくなくなるだろうから、過去の私の出演作と共に誰かと一緒に見た方が良いかもしれないと思い、レーゲンボーゲンの二人を誘った。でも、古川くんは嫌そうな顔をして、「却下」と呟いた。映画は構わないが、それが、三人で見る事に抵抗があったからだろう。


 見るなら、二人で見ろよ、という言葉の後にしっかり、後で借りる、とちゃっかりした言葉を頂いた。ちなみに、映画もドラマも実家から戻してもらったものではなく、事務所にあったものを借りて来た。戻さなくて良いって、言われたけれど、後できちんと返します。



 いつもの映画を見る感覚での上映会、嘉隆くんにも、役者の経験とかあったら、色々と聞けるんだけど、歌手一筋でやって来たので、アドバイスは貰えなかった。

 飲み物にお酒を用意したのは、素面では見られない代物だからだ。私の不安を他所に彼はすごく楽しそうだった。見ても構わないって言ったはずだけど、私を気にして見ないでいてくれたらしい。やばい、そんな優しいところ知っちゃうと、本気で後戻りできないよ。



 オープニングが始まると暗い森の中を駆ける少女の姿が映し出される。私だ。音もなく、色もない世界を何かに追われるように走る少女。けして、ホラーものの映画ではない。話もどこにでもあるものだし、新人の俳優の演技もイマイチ。音楽だけはこだわったそんな作品だ。作中で私も二曲ほど歌わせてもらっている。


 見た目はあまり似合っているとは言えない金髪、顔の造形は日本人なので当たり前だ。それなのに、身長は高いので違和感がある。ファンタジーものになるのかな、不思議な生き物が出て来て、悪者が出て来て、世界から音を奪った。その音を取り戻そうと私が活躍するそんな話だ。


 それでも、比較的良い反応があったのが不思議な作品だ。映画評論家の批評も、視聴者の反応も悪くはなかったが、それも、音楽が、有名な人たちが作っていたからだ。


 次に見たのは、TVドラマで、私の役は主人公の友人という立場だった。珍しくもない恋愛もので、これは結構評判が良かった。というのも、主人公役の女優の演技がイマイチだったからだ。新人女優を使ったためだ。自然と演技は他の出演者に移る。

 脚本家が素晴らしいシナリオを書いてくれて、主人公の周りを固める、中堅やベテランの役者さんの演技が評価されて、なんかすごい賞も受賞した作品だ。


 それは、嘉隆くんも記憶にあったようで、遥の家で見たな、って言ってた。古川くんの義理のお姉さんが好きで見ていたらしい。それが、二十歳の頃の作品で、二十歳なのに、高校生の役をやった。まぁ、芸能界ではよくある話らしい。


 他にも、三年目にヒロインを演じた推理ドラマ、主人公は初作品で主演を務めた城咲(しろさき)広大(こうだい)くんだ。これ、結構、有名な漫画のドラマ化作品で、広大くんすごく人気があったので、ドラマもかなり有名になった。広大くん、180超えの高身長なので、隣りに立つのが私でも違和感はなかった。



「嘉隆くん?」

「これが、彼との出会い?」

「うん」

「最近、見ないよね、彼」

「あんまり、良い噂は聞かないね。また、役者の仕事から、アイドルの仕事に移行した様な話を聞いた。何で、知ってるかっていうと、私と共演NGになってるから。たまに思うんだ。私のせいなんじゃないかって。あの時、私の選んだ選択が正しかったのか、分からない。広大くんに、向けられている好意がどういったものなのかもあの時は分かっていなかった。流されるままに、選んでしまった選択に、私だけが苦しんでいたんじゃないって思うと、あの時、広大くんの未来を壊してしまったんじゃないかって、思う時があるんだ」



 ふわりと、肩を抱かれて、抱き寄せられた。TVの向こうの若い私とかつての夫が涙に滲む。ダメだ、これはこのまま見るには辛い。役者の勉強なんて、これを見ても役に立つか謎だ。



「麻衣の事は調べていないけれど、城咲広大の事は調べたよ。君と別れて二年後に再婚。でも、その数年後にはまた離婚。女癖あまり良いとは言えなかったみたいだね」

「そっか、知ってたんだ。私の事はなんで、調べなかったの」

「元から何も詮索するつもりはなかった。君が話してくれても、くれなくても、待っていようと思ったんだ。唯一、心残りなのは、麻衣に会うのが、もっと早かったらって思う。そしたら、君の不安を少しでも癒してあげられた」



 本当になんで、この人はこんなにも、優しいのだろう。肩に回された腕から感じる温もりが暖かくて、それだけで満足してしまう。そして、なにより、この人は本当に不器用なのだ。私に寄り添って待つことを選んでくれた。どこまでも、臆病な私はこの人を選ぶ事が出来なかった。

 誰かに傷付けられるのが怖くて、心を閉ざして、自分の身を守る事に精一杯で誰かの優しさを受け止める事が出来なかった。



「俺の話、信じてくれる? まぁ、調べれば出て来る事なんだけど。俺からも話してもいいかな。嫌な話かもしれないけれど、麻衣に聞いて欲しい」

「聞くよ、嘉隆くんを支えられると良いと思ってる」

「ありがとう」



 何かは聞かなくても分かった。私の過去の結婚話の後だ。彼が話してくれるのもそう言った類のものなのだろう。好きだった人との結婚、二人の子供がいるって、周りからの情報だ。


 しかし、それは、全く違うものだった。知らない話に思わず視線をあげた。何を話しているの。

 坂口綾香さんとの結婚、彼にとっても短い結婚生活だと言った。妊娠が分かった彼女と結婚を決めて、数年、嘉隆くんの顔の良さだけで、結婚を決めた元妻は、そのうち、仕事の忙しさと、様々な要因のすれ違いで、その要因の一つに彼女の浮気もあった、そして、ついには離婚を決めた。

 彼女を抱いたのも、向こうから、誘われたから、興味はほとんどなかった。性格もあまり、好みではない、唯一興味を惹かれたのは、彼女の体型だけだった。胸の大きい女性は好みではない。古川くんにもそうぼやいていたとか。元妻も嘉隆くんに対しては、顔だけが好みだとはっきり、言ったようだ。


 その後、発覚したのは、彼女の産んだ双子の父親が違う事だった。それさえ、分かっていなかった。子供が二人いる、それが、双子だとは思わなかった。のちに、その元妻は双子の父である、ベテラン俳優と結婚した。彼女にとっては遊びの延長で、嘉隆くんに非はなかったようだ。

 それが、レーゲンボーゲンの活動の休止にまで、繋がった。妊娠も嘉隆くんの話では、きちんと、避妊していた、それを彼女の言葉と動揺で鵜呑みにしてしまった。結婚前の妊娠については、すごくお父さんに怒られたらしい。

 純粋な怒りが込み上げてくる。自分にも非があると、言ってはいるがどう考えても元妻が悪い。外聞の非はどうしても男性側について回るのがほとんどだ。



「なにそれ、嘉隆くんは、とばっちり受けただけじゃない。誰かが悪者になればいい、そんな考え方おかしすぎる。そして、誰かが傷付くんだ。ごめんね、話してくれたのに、私は嘉隆くんのように優しくはなれない。綾香さんの事、全然、知らないんだけど、それでも嘉隆くんを傷付けたあの人を好きになれない。それと、こんな話されちゃ、嘉隆くんがどれだけ傷付いてたか知っちゃうと、私の過去なんて、大した事ないって思えてしまう」

「麻衣、そんなことない。麻衣も同じくらい傷付いたんだ。そして、俺は優しくはない。何もかもどうでも良くて、放置していたようなものだ」

「私にとっての嘉隆くんは、優しくて、私を尊重してくれて、何があっても辛抱強く待ってくれて、私だけを見てくれる。嘉隆くん、良い人すぎだよ」

「麻衣、それ褒めすぎじゃけん」



 顔を覆って嘉隆くんは、赤面してしまった、思わず出た方言に可愛いと思ってしまう。新しい一面に、ああ、知りたい。この人の事をもっと知りたい。そして、誰よりも頑張ってるこの人をもっと、褒めよう。



 本気で好きになった人には、嘘を吐きたくないと言う思いが麻衣にはありました。なので、隠しておきたい過去の役者時代の話をカミングアウトしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ