お付き合い、始めました(side 莉子&沖)
十二月の、クリスマスが近付く、日曜日。今年も去年と同様、神戸市でクリスマスコンサートは開かれて、それに出演するために、麻衣とレーゲンボーゲンの二人は移動中だ。一緒の仕事が重なる時は、こうして、嘉隆の我儘で、麻衣と沖の席を交換するのが多くなり、莉子と沖が並んで座る事が増えた。
去年は帰りの新幹線が強行だったので、今年は、神戸で一泊しようという事になった。麻衣は今年はお茶だけではなく、コーヒーも飲めるお店を希望してきた。
年々、我儘になっている様な気がしたが、莉子にとって、今までの、我慢する様子を見て来た身としては、その我儘も可愛いものだろう。そして、それを変えてくれた存在に感謝したくなる。その、新幹線での事だった。
「いつも、嘉が我儘言ってすみません」
「気にしないで、浅生くんも古川くんも、二人とも良い人だし、それに、ほら、なんていうのかな。昔から、それも、デビュー当時から麻衣にずっと付きっきりだったじゃない、私。麻衣は、同じ事務所の子とは、仲良くしているらしいんだけど、それ以外の交友が全然なくて心配してたの。最近、愛夢ちゃんとは仲良くしているみたいだけど。だからね、すごく助かってる。関係がお友達のままだとしても、麻衣の交友関係が広がるのは本当に嬉しいから」
「嘉も同じ様なものですね。川村さんと知り合わなかったら、未だ、自分の殻に引き篭もっていたかもしれない。それでも、遥がたまに連れ出すんですけど、こちらも、仲が良いのは、遥の同級生のサポートメンバーの子たちぐらいですかね。ありがたいです」
人当たりは良いと、言われるがそれも、仕事だからだ。嘉隆に関しては、遥を中間に挟まないと、誰かと一緒に行動する事が皆無だ。
それなのに、去年、初めて会った時の、嘉隆の麻衣に対する執着に驚いた。理由は、遥から聞いているが、それは、口止めされていたので、話せなかった。沖も見守っている状態だった。
「僕と一緒で、少しでも、負担が軽減されているのなら、良いのですが」
「なっていますよ。麻衣が浅生くんと仲良くしてくれるだけで、十分、軽くなっています」
「良かったです、嘉が、あの時、川村さんに向けた行動が無駄ではなかった様ですね」
そう言って、沖はほっとした様な笑みを浮かべた。その、優しそうな笑顔は、どれくらい、自分の癒しになっているのだろうか。
「ね、沖さん。前に合コンって言って、飲み会した時あったでしょ。麻衣が言った言葉覚えていますか。あの時の私の好みの話の事です」
「優しくて、包容力のある人には、お会い出来たんですか?」
そんな人、いたら、きっと既に付き合っているだろう。それが、出来ないから、仕事だけが恋人だと言われるのだ。そして、この人は気付いていない。優しい大人の人、ぐらいしか認識はないのだろう。
「沖さんは、どうなんですか。あら、あの時、沖さんの好み聞いていない様な気がしました」
「遥の事ばかりお聞きになっていましたね。そうですね、仕事に熱心で、真面目で、少しお酒の弱い人、ですかね」
そう言って、沖は優しい笑みを浮かべた。その言葉に、莉子が目を瞬かせた。沖の眼鏡の奥の目は、相変わらず優しい。一息ついて、沖は覚悟を決めた様に口を開いた。
「莉子さん、僕には、貴女が望む様な包容力はないと思います。それでも、僕と付き合ってもらえませんか。仕事中にこんな事言うのも、悪いとは思っているのですが」
「良いんですか、私で」
「大人が、年上の男でも構わないのなら。それと、僕は仕事人間です。きっと、付き合い始めても仕事を優先させると思います。それでも、良ければですが」
「私も同じですよ。お付き合い宜しくお願いします」
「僕からも宜しくお願いします」
そう言って、二人は付き合い始めたのだった。麻衣やレーゲンボーゲンの負担にはなりたくないので、二人はこっそりと付き合う事になったのだが、遥だけにはその事がばれて、相談に持ってもらう事になる。
自分の恋愛に関しては無到着なのに、他人の恋愛事情に関しては、察するのがとても上手な事がとても、不思議だった。
すみません、主人公カップルよりも早くこちらのカップルが成立してしまいました。




