姪っ子の東京来襲と不本意な誕生日
十一月に入り、突然、杏が東京にやってくる事になった。来年は、進学か就職で、忙しくなるし、来月は、冬支度で、学校が忙しくなる。冬休みに入ってからでも、良かったのだが、十一月の私の誕生日を祝いたいという事だった。
誕生日自体は嬉しくないのだが、杏に会えるのは、素直に嬉しかった。来年の春に大きな全国ツアーが控えているのと、舞台に久々に出る事になって忙しい。私の時間が取れるのも今のうちだけだった。
どこに行きたいかと聞くと、若者らしい回答が返って来た。まぁ、そうなるかな。織り込み済みではある。あんまり、詳しくはないんだけど、こっちに、十年以上住んでいるので、なんとか案内はできるはず。莉子さんにも相談したし、古川くんにもおすすめの場所を聞いたけれど、あんまり、役に立たなかった。
古川くんのおすすめは、お寺とか神社とか、そういう場所が出てきたんだもの。
「渋谷行きたい! それから、スカイツリーも行きたいな、それからね」
「全部回れるの?」
「大丈夫!」
と行きたい場所が尽きないようだ。体育祭の、振替休日を含めた二泊三日の東京旅行だ。疲れないの? 次の日学校大変なんじゃないのって、聞いたら大丈夫って言われた。若いってすごいな。それでも、疲れない様に、行く場所の順番は確認した方が良いだろう。主に私の体力がです。
千葉の有名なテーマパークは良いのかって聞いたらそこは行かなくても良いらしい。古川くんの地元の遊園地はちょっとだけ、心惹かれたようだけれど、泣く泣く諦めたらしい。まぁ、そのうち、行けるよ。きっと、古川くん、連れて行ってくれると思うよ。
学校が忙しくても、ちょっとはバイトもしたので、お金の面も気にしなくていいよ、と言われたけれど、ご飯ぐらいはご馳走させてもらおうと思う。めちゃ、姪っ子を甘やかせてやろうと、心に決めた。普段は滅多に会えないからね。
それと、古川くんにも連絡しておこう。きっと、古川くん大好きな杏も喜んでくれると思う。何故か、身内だと古川くんのファンの方が多い様な気がする。かっこいいのは認めるし、私には意地悪してくるけれど、優しいのも知っている。
土曜日の渋谷は相変わらずの混み様で、それでも、見るものが珍しいのか、杏は楽しそうだった。色々な場所に足を運んだ。道は入り組んでいて、どこに行ったら良いのか分からない私と違って事前に調べていたのか、杏は迷いなく移動する。駄目な、おばだな、全然、役に立っている気がしない。
というか、私いる意味あるのかって、聞いたら、おばさんと一緒に来たかったって言われました。姪っ子かわいい。弟たちへのお土産なども買った。そっちは、私にお金を出させてもらった。杏だけじゃなくて、彼方や蓮、愛奈も甘やかしたいもの。
見るだけで楽しそうで、ゲームセンターなんて、どこも一緒なんじゃないかって、言ったら、違うよ、という返事が返って来た。有名な太鼓のリズムゲームは彼女の得意分野だ。昔、杏は兄弟たちとTVゲーム版のを夢中で遊んだ思い出がある。あの頃の杏は小学生ぐらいだったと記憶してる。
なので、弟の彼方とは、三つほど離れているので、杏は小学五年生ぐらい、彼方は二年生、そして、蓮は幼稚園の年中さんだったかな。六年ほど前になる、お盆かお正月のどちらか、一日だけは実家に帰ってた。最近では、仕事のタイミングでしか帰れなくなってるんだけどね。
「小さい頃にやった、TVゲーム版のミニゲームで、しゃもじ投げるやつあったじゃん。あれ、逆に飛ばして、逆じゃけのぉって、言われたの思い出した」
「あったね、あれ、難しいよ。杏はうまかった、もみじまんじゅう〜って自分も叫んで飛ばしてたね」
「あれ、作ってる会社が広島?」
「いや、わからんって。私に聞かないで、広島出身だからって、浅生くんに聞いても分からないと思うよ、まぁ、調べれば簡単に出てくるんじゃないの」
「それも、そっか。でも、懐かしいね」
「杏から見ても懐かしいのか」
「だって、小学生の頃の話だよ?」
一日中楽しんで、杏と共に私の住むマンションに向かう。夕方に最寄り駅で待ち合わせをしていた、浅生くんと合流する。古川くんは、後から来てもらう事になっている。杏を驚かせるためだ。デパ地下でお惣菜を買い込み、今夜は流石に、歩き疲れたので、夕飯はそれで、我慢してもらおう。
私の誕生日なので、準備する必要ないって言われたし、なんなら、俺作ろうか? って浅生くんに言われたけれど、丁重にお断りしました。浅生くん、料理出来るのね、手伝ってくれるなって、思っていたけれど、その事初めて知った。
「うわ、こんな有名人がおばさんの隣にいるって、不思議な感じ」
「いや、君のおばさんだって、十分、有名人だよ?」
「そっか、確かにそうかもしれない」
「あはは、杏ちゃん、面白いね」
「うわ、イケメンの笑顔、破壊力あり過ぎ。あ、そだ、お土産持って来たの。浅生さんと古川くんに」
「じゃあ、遥と合流したら、頂こうか」
「うん」
納得したように、杏はうんうんと頷いている。そして、さり気なく浅生くんを褒めている。そんなにメディアに出ているわけじゃないし、好きな事だけしている歌手はそれほど、有名人じゃないと、言っても、二人は納得してくれなかった。ヒット曲だって、ほとんどないし、レーゲンボーゲンに比べちゃうと、私、地味だよ?
「杏ちゃんは、彼氏とかいないの?」
「いなーい、おばさんの高校生の頃みたいに、身近にイケメンくんいたら良かったのにね」
「麻衣が一緒に歌った子だっけ、彼氏だったりするの?」
突然、話題が彼氏の有無になった。まるで、お父さんのような質問で、吹き出した。でも、古川くんを気にしての質問なのかな。古川くんはすごく良い人なんだけど、流石に杏とは年齢の差があり過ぎるよ。そんで、更に私の学生時代の話に転んだ。
「新くんね、彼氏ではないよ。私と並ぶと私よりも身長低くて、可愛い感じで、女子に相当モテた。今は仙台で、就職してるって、絵美が言ってけど、元気にしてるかな」
「その後、会ったりしていないの?」
「私の場合、帰省ってほとんどしないし、地元に戻っても、会えない事が多いかなぁ。クラスのグループLINEも登録していないんだよね。浅生くんは、帰省した時、同級生とかには会ってるの?」
「一人だけ、帰った時に会うけれど、それ以外は、しばらく会っていないかな」
「杏、仲の良い友達は大事にしなよ」
早々に、東京に出ちゃった私には、地元の友達と会う機会はほとんどない。同窓会も出た事ない、今は仕事が忙しいので、しばらくは無理だろう。はぁい、と杏は分かっているのか曖昧な返事を返してくれた。
やっぱり、上京すると、自然に地元の友達とは、音信不通になっちゃうのかなぁ。私も絵美だけだ、浅生くんにもそういう友達がいるのかな。少し寂しいけれど、私が選んだ道だ。
古川くんは、奮発したのか、季節のフルーツの乗ったタルトをホールで用意してくれた。嬉しいけど誕生日が来る事に少し、嫌そうな顔になったのは、許してくれ。そして、その表情を見たかったという表情もやめて欲しい。というか、三人の中で一番誕生日が早いのが、私ってどういう事? 三人とも同級生なのに解せない。
幾つになったのかって? 三人の中でひと足先に三十八になりましたよ。あと、数日後に浅生くんだって、誕生日くるし、古川くんだって、年明ければ同じく歳を取るよ。若い杏が羨ましいよ。ぼやいてもしょうがないんだけどね。
「これ、お土産ですっ」
「バウムクーヘン?」
私が不思議そうに覗くと、杏が説明してくれた。地元のものでも良かったんだけど、今回は古川くん、甘いもの好きなのでそれにしたらしい。どこかで、見た事あるパッケージだな。小分けにされた、バウムクーヘンが箱に詰まっている。
「こないだね、お母さんと、高田に行って来たの。その時に、美味しそうだなって、古川くんのお土産に良いんじゃないかって思ったんだ」
「へぇ、美味しそうだね」
古川くん、気になるみたい、さり気なく、杏は古川くんの、と言った。でも、浅生くんはそこは、聞いていなかったようだ。違う事に興味を示した様で、不思議そうに「高田?」って呟いている。ん? 高田って言ったら陸前高田市だよね、他にある? ちなみにうちらの地元である気仙沼市のお隣りの市です。
「杏ちゃんの言う高田って」
「?」
杏も浅生くんが何を不思議そうにしているのか、分からないようだ。その、理由に気付いたのが、何故か古川くんだった。そして、説明してくれる。他に高田って何処かあるの?
「杏ちゃんが行った、高田って奇跡の一本松で有名になった岩手県の陸前高田市の方で、嘉が考えているのは、嘉の地元の広島県の安芸高田市の方じゃないか」
「おお、言われてみれば、どっちも高田市だ!」
ぱっと、違いが出てくるの、すごいねと言ったら、前にTVで一本松の事がニュースでやっていて、それを見ていたらしい。浅生くんの方は、実家に何度かお邪魔していたので、覚えていたようです。
バウムクーヘンおいしかった。私もご馳走になっちゃいました。そして、タルトもおいしかった、甘いもの好きな古川くんのチョイスに間違いはないみたい。
杏から、貰ったピアスは綺麗な虹色の石がキラキラしていて可愛かった。聞いたら、パーツを組み合わせて、作ってくれたらしい。私、ピアス穴は左が一つ、右が二つ開いていて、きちんとそれに合わせたピアスになっている。右のピアスはまるで、チェーンが虹の様で、上下のピアスとアーチを作っている様だ。可愛いくて手作りなんてすごい、嬉しい。
タルトも、もらったのに、古川くんからは、更にアメシストと星のモチーフが入ったネックレス、浅生くんは古川くんと一緒に選んでくれたのか、星と対になった三日月のモチーフに少し高価そうな青い石が嵌ったリングだった。多分、私の誕生石に合わせて、ブルートパーズだと思う。指のサイズいつ知ったかは聞きたくない。まぁその辺に指輪転がしておく自分が悪いんだけどさ。
陸前高田市と安芸高田市、どっちも高田市ですね。どっちも、お隣りの市だね、ってしたかったのですが話の都合上、安芸高田市の方は、お隣りにはなりませんでした。バウムクーヘンは実際にお土産になっています。




