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虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
23/717

let's SHOWTIME!



 九月の最初の週末、(あん)の高校の文化祭で行われるライブは、舞台とは反対側の、二階のギャラリーから撮るようだ。有志の親が撮っていると言う事で、学校側の公式のものではないそうだ。

 暗い体育館は、きっと、かなり暑い事だろう。涼しい所で配信サイトで見ているので、少し申し訳ない気持ちになる。

 

 杏の高校の文化祭は毎年この時期に行われる。農業科という、田舎らしい専門科があるその高校は、これから、稲刈りの時期が始まるので、行事は農作業の合間に行われるのが常だ。

 時間は午後三時、杏の登場は三時半からだ。


 軽くつまめるものと飲み物を用意して、三人で見るからと大きめのタブレットにした。ただ、三人掛けのソファでも、三人が座ると結構狭い。なので、古川くん途中から、ソファじゃなくて、ソファとテーブルの間に胡座を組んで座り込んだ。



「古川くん、ごめんね、わざわざ呼んでしまって。飲み物用意するけれど、お茶でいい?」

「ああ、ありがとう、それよりも」



 外はきっと、暑かっただろう、暖かいお茶よりも冷たいお茶が良いだろう。冷凍庫から氷を出して、冷蔵庫のお茶を注ぐ。それを、古川くんの前のテーブルの前に置いて、古川くんの台詞は無視した。

 私と浅生(あそう)くんはコーヒー派だ。なので、今日はアイスコーヒーを作っていた。作ってくれたのは、もちろん、浅生くんだ。

 甘いもの、何かあったかな。ふと、実家から送られて来た、お菓子を見つけてそれを出す事にした。モナカなのかクッキーなのかよく分からないお菓子だ。甘いもの好きな古川くんだから、食べてくれるはず。

 私は、嫌いではないけれど、そんなに多く食べる方じゃないので、古川くんが食べてくれて助かっている。


 古川くんの言いたい事はよくわかる。だって、自分の家のように、居座る浅生くんがいるからだ。お前ら、付き合ってるのか、という質問には、はっきりと付き合っていないと答えておいた。

 浅生くんのちょっとだけ寂しそうな顔は見ないふりだ。だって、本当に付き合ってはいない。



「ほら、始まるよ」

「中央が杏ちゃん?」

「あれ、古川くん、杏見るの始めてだっけ?」

「ちょっと暗いから、杏ちゃんは写真で何度か見せてもらったね」

「そっか、ポニテにしてるし、ちょっと普段よりもかっこいい服装なので、分かりずらいかもしれないね」



 制服ではなく、クラス出し物で着用する衣装を着ている。バンドのライブと言っても、バンド曲、自体はそれほど多くはない。基本、どんな歌でも楽器は必要になる。


 杏たちが選んだのは、人気曲が多めだ。最初に有名な二人組の軽やかで青春している有名曲が流れる。自転車で二人乗りはダメじゃんというツッコミたくなるあの曲だ。続けて、杏と同じ名前の子が歌う若い子たちにすごく人気を誇る歌、服装はそこのに近いかもしれない。カッコいいロックナンバーだ。ここ何年か前にあった天気をモチーフにした有名な映画曲、擬似親子が活躍するアニメ曲、それと、猫の題名がつくこれも有名な曲。


 どれも、難しいのに、よく覚えたよ。三曲続いて、兄が歌った伝統のあの曲を杏ともう一人の男の子が歌う。この辺は本当に伝統なようで、私の時と一緒だ。すごく、懐かしかった。私と一緒に歌ってくれた(あらた)くんは元気かな。誘ってくれた男子を思い出した。


 最後の曲行くよー! 元気な杏の声が響いた。ポニテが、杏の動きに合わせて左右に揺れる。突然、始まったのが、しっとりとしたバラード曲だったために静かに聴き入っていた生徒や保護者たちは体育館に響く杏の声に歓声を上げた。そして、キーボードの優しい音色が響き始めた。

 レーゲンボーゲンの最大のヒット曲でもある『夢のカタチ』という曲だった。


 杏が最後に歌った曲で、古川くんと浅生くんが顔を見合わせる。ああ、これか。そういえば、杏は古川くんのファンだった。こっちに来る機会があったら、会わせてあげようと思っていたんだけど、早く叶えてあげたいな。しれっと、杏の立ち位置は古川くんと一緒だ。さっきまで、反対側にいたのに。この曲、珍しく古川くんはギターを弾かない。二人のハモリだけが素晴らしい名曲だ。

 杏はギターやりたいって、言ってはいるが持っていないので、古川くんがギター弾く曲は歌えなかったんだと思う。十月の杏の誕生日にギター欲しいって言われているので、贈ろうと思っている。



「麻衣ちゃんの姪っ子最高だね。すげー、かっこいい」

「自慢の姪っ子だもん。当然じゃん」

「懐かしいな」

「文化祭?」

「うん、俺たちもバンドで出た」

「サポートメンバーの人たちとだよね。バンド以外では、古川くんは、何かやったの? 部活とかクラスとか。運動部は文化祭はやらないっけ?」

「運動部は何ヶ所か纏まって、俺の時は剣道部と一緒に、教室やった」

「教室ってなに?!」

「弓道や剣道って、敷居高いから、少しでも、興味持って貰おうと、弓とか竹刀触って貰ったりね」

「おお、なるほど、それ、すごく良い考えだね。小学生男子とか寄ってきそう」

「実際、寄って来てくれたね」



 サッカー部とかが、子供達と一緒にサッカーする様子を思い浮かべた。あっちは、学校でやらなくても、色んな場所でやっているから、確かに弓道や剣道は、敷居が高いかもしれないので、良い案かもしれない。



「クラスは?」

「普通に喫茶店。ただ、うちの和菓子使って、貰った」

「私の時さ、御伽喫茶でコスプレしたんだけど、古川くんたちはしなかったの?」

「特には、着替えるの面倒で、弓道着のままだったな」

「それって、十分、集客効果あったんじゃない? 和菓子出るし、和風喫茶みたいな感じかな、ある意味、コスプレしてるみたいなものだし」

「そうか?」



 おお、策士だ、古川くん。浅生くんと違って、ちゃんと、高校生していたようで、二人の違いが分かって面白い。古川くん、本当に、嬉しそうに笑う。

 うん、誘って良かったよ。杏のサプライズも成功、本当にびっくりしちゃった。私は浅生くんと顔を見合わせて、満更ではない笑みを浮かべた。おばとして、鼻が高いよ。文化祭楽しいよね、懐かしくなったよ。



「浅生くんは?」

「お化け屋敷だった様な気がする。ほとんど、覚えていないけど」

「おお、定番だね」

「唯一覚えてるのは、借りてきた暗幕、重いわ、付けるの、暑いわで、苦労した思い出だけある」

「なんのお化けだったの」

「何だったかな。ああ、あれだ、天狗だった」



 天狗って言う事は、和風のお化け屋敷かな。おおう、イケメン浅生くんなら、すごく人、入っただろうな、というか、浅生くんと古川くん、偶然だけど、どっちも和風なのに驚いた。

 きっと、二人ともかっこ良かったんだろうなぁ、アルバムとかないのかなぁ。それ言うと、私のも用意する事になりそうなので、言うのはやめた。


 その後、私の文化祭の話をさせられた。そういえば、話していなかったな。先日、杏と私の有志でのバンドの話にはなったけど、詳しい事は話していなかった様な気がする。

 有志でバンドをした話、クラスは喫茶店でコスプレした話、野菜の販売やミスタコンの話まで、してしまった。ミスタコンの話をしたら、私よりもすごい女子がいるのかと驚かれた。生徒会長の明原美秋会長は飛び抜けてかっこよかったからな。知名度は大きいと思う。



麻衣の文化祭の詳しい話は、『鮮やかな光に包まれた、青い春の散らばったひととき』で語っています。


杏・バンド文化祭セットリスト


1 ゆず『夏色』

2 Vivid BAD SQUAD『RAD DOGS 』

3 RADWIMPS『愛にできることはまだあるかい』

4 Offcial髭男dism『ミックスナッツ』

5 DISH//『猫 』

6 久保田利伸『missing』

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