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虹の架け橋  作者: 藤井桜
本編
22/715

杏の文化祭と私たちの懐かしい思い出



 八月の終わりの金曜日の夜、ソファに座り、つけたままだったTVの歌番組を何気なく見ていた私は、姪の(あん)からの着信を受ける。時計を見ると、九時を回ったところだ。

 ソファの後ろから、最近、休みの日に居座るようになった浅生(あそう)くんは私にコーヒーを持ってくると、私の隣りに落ち着いた。コーヒー好きだって、言ったら、豆から挽いて作ってくれるようになった。挽き立てのコーヒー美味しいです。ミルとか必要な用具は、浅生くんが持って来てくれました。

 彼の相棒である古川くんもたまに遊びに来ることもあるが、私たちを気にしてか、遠慮する事も多い。一緒の方が、気兼ねなくて良いのですが、その辺を分かってくれると嬉しいだけど、言い難いのよね。



『おばさん、今度ね、有志のみんなと、文化祭で歌うんだよ。もちろん、伝統のあの曲もやるよ!』

「もう。そんな、時期なんだね。そういえば、もう、夏休み終わったんだね」

『夏休み中も練習あったり、植物や動物たちの水やりもあったから、毎日学校に行ってたけどね』

「懐かしいね、私の時と一緒だ。杏は部活はしてなかったんだっけ」

『一応、弓道部入っているけど、うちの高校あんまり、強くないじゃん?』



 話題が学校の話になる、懐かしい。杏は私と違って、運動は得意だ。中学の頃は、バドミントン部だった。彼女が弓道部に入った純粋な理由は、たまに、うちに顔を出す古川くんの影響だ。

 しかし、彼はその事を知らない。彼が前に高校時代は弓道部だった、と話している番組があって、その情報だけで、杏は弓道部を選んだ。中学には、弓道部はなかった。

 可愛いな、若い頃は好きな俳優や歌手の影響受けて、やりたい事決めるなんて、よくあることだよね。余談だが、絵美も弓道部だった。こっちも、杏と同じような理由で、大好きな毛利元就公のイメージが弓矢だからだ。その後に、出たゲームの話でも絵美は毛利家に良さを教えてくれた。ゲームなんて、しないから詳しい事は知らないんだけど、絵美が教えてくれた、三本の矢のエピソードもあるしね。


 そう言って、電話を掛けてきた姪の杏はとても楽しそうだ。しかし、いつの間にあの曲が文化祭の有志の間で歌われる伝統の曲になっていたのだろうか。

 杏の通う高校は杏の父であり、私の兄の悠一の母校でもある。そして、私の母校でもある。兄が初めて文化祭で歌ったあの曲は、私も文化祭で歌った。


 その歌は、父が好きで、小さい頃からよく聞かされていたのだ、地元で行われたのどじまんで優勝したほどの兄にとっての十八番だ。その曲を、杏も歌うという。流石に行く事は出来ないというと、杏は大丈夫だよと言って、あるURLを教えてくれた。動画配信サイトで、生配信されるようで、時代の流れに驚かさせた。

 私や兄の頃はビデオカメラしかなかったのに。その事を思い出していると、ふと杏がその話題を出してきた。


 その後、お父さんとおばさんの時のも、ビデオカメラから再編集して、動画にあげていいかなというお願いに了承するしかなかった。でも、誰が見るんだろうね。再生数が数回とか少し、寂しいかもしれない。


 姪の可愛さには敵いません。そう愚痴ると隣りから楽しそうな笑い声が上がった。貴方だって娘に甘いかもしれないじゃない、きっと、という言葉は憶測でしかないので、口には出さなかった。


 こうして、気兼ねなく付き合うのには、理由もある。お互いバツイチなのだ。彼には離婚した奥さんとの間に女の子と男の子の子供が二人いる。前妻さん側に引き取られたらしい。らしいというのは、ネットの海の情報だ。お互い聞きにくい話題なので、聞いたことはない。


 そんなわけで今はお互いフリーなので、こうして、私の家に来ても問題はないはずだ。ちなみに、私が知り合ったのは奥さんと別れた後です。けして、私が奪ったとかじゃありません。



「それじゃあ、楽しみにしてるね」

『うん、おばさんたちを超えるライブにしてみせるからね』

「それは、いきなり、大きく出たね」

『浅生さんにも、宜しくお伝え下さいっ!』



 含み笑いをするように、杏は絶対だよ! という言葉を残して電話を切った。何か含みのある笑い方していたが何かあるのだろうか。その事を、隣りに座る浅生くんに伝えると「楽しみだね」という素敵な笑顔が飛んできた。年齢を重ねてもイケメンな人の笑顔は危険です。

 杏、隣りに浅生くんがいる事気付いていたのかな? ビデオ通話とかじゃないし、浅生くん、私が通話終わるまで、喋らなかったんだけど何故、バレたんだろう。隣りの笑い声、聞こえないと思っていたけれど、聞こえちゃったか?



「麻衣は学生時代、部活はやっていたの?」

「私? 入ろうかなと思ってた合唱部、うちの学校になくて、一年生の間は、部活入ってなかった。二年生になって、といっても文化祭の後なんだけど、クラス有志の男子と軽音楽同好会作ったのよね。授業の実技が忙しいし、三年生になると、就職や進学で、ほとんど、活動はしてなかったけど、幼稚園とかに慰問に何回か行ったかな。あと、三年生の文化祭にも、少しだけ出た。後輩が何人か入って来てくれたんだよね。杏に聞いたら、まだ、部活あるらしいので、嬉しくなった。浅生くんは? 古川くんは、弓道部で合ってるよね」

「さっきも、気になったんだけど、杏ちゃん、遥好きだよね。もしかして、部活選んだのも遥の影響?」

「レーゲンボーゲンが休止する前に、杏はレーゲンボーゲンの曲聞いて、そこですごくはまったの。五年ぐらい前の事かな。杏は小学生だった。『夢のカタチ』が好きで、ずっと聞いてたって。もう、休止の話聞いて大泣きしたって、悠兄が言ってたな。その頃からレーゲンボーゲンの、ううん、杏は古川くんのファンだよ」

「うわ、小学生か。子供の成長って早いね。そっか、遥の方なのか」

「ちょっと、残念そうね。浅生くんじゃなかったのが、残念?」

「いや、二人でレーゲンボーゲンなんで。俺の声を好きって言う人もいるだろうし、遥の声が好きって言う人もいるでしょ? 杏ちゃんには、遥の声が刺さったって、事でしょう。でも、嬉しいんだ、身近でこう言ってくれる人がいる事に、声って中々、ダイレクトに届かないものだからね。純粋に嬉しいんだよ」

「そうなんだね。私は、活動が一人なので、そう言う考え方した事なかったな。良いね、そう言う考え方。すごく、大事だと思う」



 浅生くんの、考えに、感心する。歌う側にとっては、発信しなければ、聞いた側の声は届かない。いつも、私はその事が心配で、浅生くんも同じだと言う事を知った。

 黙り込んでしまった、私を気にしてか、浅生くん、私の顔を覗き込んだ。突然のイケメンの顔が間近に迫り焦る。



「麻衣?」

「な、なんでもない」

「俺の部活の話だよね。基本バイトしていたから、部活は入ってなかったよ。コンビニのバイトとか、駐車場の整理とか色々とやってたね」

「農業高校だと、学校の授業で休みの日まで忙しいから、バイトしてる子少なかったかも。短期とかならちょっとだけやったかな。冬の年賀状の仕分けとか? 雪掻きとか?」



 コンビニすら、少ない田舎では、コンビニのバイトなんて、争奪戦だったりする。あれって、細かく時間取れるから、うちの学校には人気あったんだよね。そして、冬にバイトする子は増える。だって、冬は農作業暇になるからね。



 杏の学校生活も充実しているようで、良かった。しかし、杏の古川くん好きはすぐにばれた。で、古川くんの方はどうなんだろうか、そのうち聞いてみよう。なんか、お節介なおばちゃんみたいなので、やっぱり、やめておいた方がいいかな。



 ゲーム、有名な無双ゲームです(笑)。麻衣は、やった事はないし、知りません。就職してからの絵美情報。

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