091話:村会
「聞いてないよ~。」
レジェンド芸人の真似をしてるわけじゃないぞ。
研究に明け暮れて籠ったりしている間に、村でも多くの変化があったようだ。
問題なのは、そのうちの一つだよ。
「村の運営について話し合う会」通称「村会」のメンバーに、いつの間にやら俺が入っていたことなんだけどね。
「聞いてないし承諾してない。」
と抗議すると、皆話を合わせたようにこう言うのだ。
「ちゃんと話したし、承諾してたし、署名もしてた。」
ってさ・・・しかも、見せられた書面には確かに俺の名前が。
おかしい。
これはきっと、誰かの陰謀、もしくは・・・
「ひょっとして、この村にドッペルゲンが・・・」
言い終わらないうちにスロークからのチョップが入った。
「食事中に何度も話したけど「任せる」「いいよ」しか言わなかったでしょ。
仕方ないから書面にしたのに、ろくに読まずに署名したのはシンさんじゃないか。」
ソンチョーのジト目が責めてくる。
記憶にないぞ。
政治家の定例文じゃなくて、ホントに記憶に無いんだが?
マジで?
そんなことあったかなぁ・・・あったような、無かったような・・・食事中ってことは、強制連行されたあの時かな?
みんながみんな言うんだからそうなんだろうな。
気を付けよう。
熱中しすぎると周りが見えなくなるんだな、気づかなかった。
いつか痛い目を見そうだ。
あ、今見てるのか。
トホホ・・・。
で、仕方ないからちゃんと確認。
代表 :スローク
副代表 :ソンチョー
村会メンバー
ワタリビト(シン クリフト マナ ウシオ)
商人 (カブロ ノブロフ)
ハンター (マルク カストール)
職人 (ギリョウ ケンズ)
ゴブリン (ンダバ ハゾル)
オーク (パラミド オーグル)
16人体制で発足されたそうだ。
ワタリビト多くない?俺消してくれてもいいよ。
なんて言おうとしたら、
「技術関係の責任者なんだからいなきゃ困る。」
だってさ。
代表がソンチョーでは無いのには理由があるそうだ。
みどり村のプレイヤーで、この村の根幹でもあるソンチョーは、能力の制限で村を離れることができない。
将来的に外交?じゃないけど、外に出る必要が出てくるかもしれないし、見た目的にも純朴青年のソンチョーより、イケオジなスロークの方が代表っぽい。
それに戦闘能力も高くて、イザというときに単独でも切り抜けられる。
という理由からスロークが代表に決まったらしい。
文句ない人選です。
副代表がソンチョーなのは当然のこと。
で、ワタリビトからだけど、特にワタリビトだからという切り分けはしてないそうだ。
クリフトは整備計画担当だから当然として、医療や衛生担当はマナ意外に考えられない。
衛生的という概念すらないほどの状態だからね
畜産担当のウシオも同様で、この世界では畜産そのものがほとんどされていない。
当然だよね、みんな魔獣になっちゃうんだから。
で、問題の俺の選出理由。
技術関係の責任者ってなんなのさって言ったら、
「魔素抜き食材の発見に魔道具開発なんて、他に誰ができる?」
ぐぅ・・・反論できない・・・。
商人から2名、
カブロは移住の取りまとめなどもやっていたし、サンサテを拠点に商隊を組んで地方の村落を渡り歩いてきたので、カルケール領の地方事情に詳しいため。
ノブロフは領都に本店を持ち、大きな町等に複数の支店を持つノイラード商会みどり村支店の責任者。
元は本店の番頭まで務めた人物で、都市部や貴族関係の情報にも詳しいから、そう言った関係との取引があったときとかに頼らせてもらいたいという狙いから。
ハンターから2名。
マルクは、俺が初めてこの世界で出会ったハンター。
堅実で面倒見も良く、新人ハンターたちの指導的なこともやってくれている。
カストールは、大物狩りを得意とするハンター。
この村に来てからは大人数で組んでの狩りにも挑戦しているようで、少人数で堅実なマルクとは狩りのスタイルが逆。
ということで、多様な意見を取り入れるために選出。
狩りは村の安全と収入、食を担う重要な産業になるので、真逆のスタイルで狩りをする二人に参加してもらうことになったんだそうだ。
職人から2名。
ギリョウは大工として、ケンズは鍛冶師として村には欠かせない存在だ。
ただ、職人は種類も、それぞれの専門性も高いため現在は仮の代表として参加してもらうことになったようだ。
ゴブリン、オークからも一族の取りまとめ役が2名ずつ参加。
ということで、とりあえずこれから村の運営に関してはこの16人で話し合うことに決まった。
断固辞退したいのですが。
「辞任しま」
「そんな制度は無い。」
俺の最後の抵抗も、言い終わる前にバッサリとスロークに切られてしまった。
無念。
俺がまだ引き籠ってる間に先行して決まっていたのが、村の運営に関すること。
この世界、というか、サンザ王国での法と税のシステムは、共通の国法、国税と、各領によって異なる領法、領税に別れている。
国法、国税は、主に貴族や名誉爵といった、爵位持ちに課せられる法律と税なので一般市民にはあまり縁が無い。
村のみんなが順守することになるのが領法だ。
各領ごとに、領主によって決められる領法、領税。
領主が自由にいじれる部分なわけだね。
これ、悪徳領主が誕生する土台バッチリじゃないですか・・・。
ってか、法律つくったの?
なんかすごく面倒そうじゃない?
この世界の常識だとか習慣などもあるので、向こうの世界の法律を何とな~く知っている程度のワタリビトにはかなりハードルが高いと思うのですが・・・。
と思ったけれど。
とりあえずはカルケール伯爵領の領法をパク・・・利用、時間をかけて精査、修正していくそうだ。
その手があったね。
領税に関しては、どこの領でも制定されているテンプレが
●住人税(領内に住むすべてにかかる税)
人頭税(成人一人一人にかかる税)
嗜好税(一部の嗜好品を購入する際にかかる税)
●就業税(商人や職人といった、商いをするものにかかる税)
通行税(町に出入りするたびにかかる)
店舗税(店舗があれば面積で決まる)
市場税(店舗の無い商人が商いを行う市場や露店にかかる)
●農税(農業従事者にかかる税)
地代(所有する農地の面積にかかる。農産物で支払うことが多い)
それ以外にも、領によっていろいろな税が制定されていたりする。
税率とか、細かい内容も領によってバラバラ。
この領税によって得た収入は領の予算となり、インフラ整備だとか職員、兵の給金などといった、領地経営に使ったり、国に納める国税に使ったりする。
ちなみに領主や貴族たちのお小遣いにしてはダメ。
というのが国法で決められている。
い・ち・お・う・ね。
領主の給料的な物は、爵位や領内の貴族、功績などに応じて国から支払われる。
ちなみに旗爵は対象外。
領内の貴族や、屋敷の使用人の給料、旗爵への給金は領主から支払われる。
だからあんまり贅沢しすぎると、あっという間にじり貧になるのだ。
多くの領では、商人などで資金力のある平民から領主の一存で叙爵した旗爵は無給らしいしね。
で、この村での収入源をどうすることにしたかというと、
●地代(土地そのものは村の物で購入はできないことになっているので面積に合わせた賃貸料)
●施設利用料(卸売市場・解体施設・浴場・診療所などの村営施設を利用した時の料金)
●通行料(街道の利用にかかる料金。村の出入りにはかからない)
●販売益(村特産の販売利益・村営宿泊所の利益)
ということで決まったようだ。
俺のいないところで面倒事が決まっていてくれてよかった。
「こういう内容の時って、たぶんシンさん逃げるでしょ?」
ごもっともです。
話を聞くと、会議は結構もめたみたいだ。
税源が少なすぎるのではないか、と心配する声を上げたのがカブロとノブロフ、経済にも明るい商人たちからだった。
確かに、安定財源として考えると地代くらいしか無いので村の運営費として少ないように感じるだろう。
でもそれは、すぐではないけれど、通行料や施設使用料、産物の販売で稼げるようになるから問題ない、という試算結果を作ってプレゼンしたって言っていた。
商人は外から商品を仕入れるなら、搬入時に通行税を得られるし、産物(畜産・農産物や魔道具など)は村から仕入れることになる、つまり領の収益だ。
さらに卸売市場を使えば使用料を得られる。
ハンターはアップグレードした解体施設を使えば使用料を払うことになるし、肉は魔素を抜くなら卸売市場に売却することになるわけで、それらの販売益は領の収入になるのだ。
税で取る、というより、領そのものが収入を得るというスタイル。
しかも、民業と競合しない所で稼ぐのだから不満も出にくい。
よく考えてると思う。
俺だったら・・・消費税とかで済ませちゃいそうだなぁ・・・あれ、実は最高に平等なシステムなんだよね。
なんせ、不法滞在者だとか、犯罪者からも税を取れるんだからさ。
護衛などを生業とする傭兵は、この村では商人専属になるか村の警備隊として雇っている。
フリーでの活動はほとんどいないが、宿や食堂、酒場に商店を利用するなら、村に十分お金を落としてくれるだろう。
そのうち村の産物として装備品を販売してもいい。
農民は、将来的には新しく整備する農地を所有できるようにして地代をいただく。
肉同様に魔素抜きをするなら卸売市場に販売することになるし。
レース場なんて話もあるようだし、未整備の施設が出来上がってくれば採算は問題あるまい。
といった将来性なんかも含めて言いくるめた・・・もとい説得したみたいだ。
・・・あれ?
ここ、誰かの領じゃないけどいいの?
領主どころか貴族もいないけど・・・。
と思ったけど、無法地帯じゃないんだから決めておかないといけないことでもあるしね。
いいや、うんうん、めんどくさいことは、見猿言わ猿聞か猿よ~。
あ!忘れないうちに言っておかないといけないんだった。
俺はソンチョー、スロークを呼び止めて例の件を話しておくことにした。
「研究中に悪魔と契約したんだけどさ。」
「はぁ!?」
ソンチョー、スロークが見事にハモった。
・・・・・
・・・
・
「なるほど・・・確かにサンザ王国の貨幣を食わせ続けるのは不味いよね。
でもさ、そう言うのは一応先に言っておいてほしかったな。」
うぐ・・・
「すまん。」
ここは素直に謝ろう。
「あの場で思いついちゃったんだよ。
通貨危機やべぇ > エイルヴァーンの金貨なら大量にあるのに > 専用通貨を村の中だけでも流通させたらいちおう”金”の定義にはハマるんじゃね? > 村専用ならいくらでも作れるじゃん。
って感じで連想しちゃってね、試しに言ってみたら通っちゃった。」
テヘペロ案件である。
「通っちゃったって・・・。」
お二人とも、すんごく呆れてらっしゃる。
「独自の通貨か・・・うまくいくかな。」
なんて心配そうだったんで、新しい通貨”ベル”の試作品を見せたよ。
1ベル、5ベル、10ベル、50ベル、100ベル、500ベル、1000ベル、5000ベル、10000ベル、50000ベル、100000ベル11種類の硬貨だ。
紙幣はやめた。
印刷機でガチャコンなんて、ロマンが無いじゃないか。
「これ、エイルヴァーンの金貨か?」
スロークは10000ベルとして割り当てたコインを手に取った。
さすがスロークさん、一目で言い当てましたな。
「100万枚以上は持ってるし。」
「・・・ひゃくおく・・・」
1~100ベル硬貨は真鍮や青銅と言った銅系統の合金を使って、500~5000ベル硬貨は銀をメインとした銀・銅の合金。
偽造防止のため、デザインに紛れ込ませてごく簡単な魔導印を仕込んである。
魔力を一定以上流すと硬貨が発光するのだ。
10000ベルはエイルヴァーンの貨幣を流用、魔導印は仕込んでないけど、俺の彫金系スキル全開でも苦労しそうなほど精緻なデザインな上、側面にも文字の刻印があるなど技術面でもこの世界では再現不可能だ。
もし足らなくなった時でも大丈夫なように、ムーンファクトリーなら再現可能だと確認はとってある。
もちろん製造ラインも確保済みだ。
50000、100000ベル硬貨は流通量も多くは無いだろう。
価値も高いだけに絶対に偽造できないようハデにやらかしてやった。
デザインとして加工した魔石を組み込んであるし、金属部分はこの世界では認識されていない合金だ。
魔石の加工技術が切る、割る、磨くしかないこの世界では絶対に再現できない。
「これ、美術品レベルじゃない?量産できるの?」
と、心配されるレベルなので偽造はできまいよ。
「金型はできてるんだよね。」
そう言って金型の一部を披露した。
「魔石部分の加工には使用済みのクズ魔石を使えばいいし、通貨として発行するときは魔石に魔素を補充して出すよ。」
盛大に呆れられました・・・なんで?
とにかく、ベルの通貨利用は次回の村会で議題にするということで決着した。
**
資源調査は俺が引き籠っている間も、オートマップ系のスキルを所有しているスロークやユーキを中心に引き継いでいた。
砂糖の木の移植も無事に済んでいた。
幹の太さが3mほどのサイズを20本。
他にも、前回確保していた木々を含めて新しく見つかったものなど、畑のさらに南側、今はまだ村の範囲外になっている場所にまとめて植えてあった。
黒砂糖やゴムの生産は順調に進んでいるそうだ。
街道も一般開放が済んで、人々(主に商人)の往来も増えてきている。
一応盛大に開通式をやったらしいんだけど俺、籠っていて出席しなかったから様子は知らん。
ちょうど煮詰まっていて声かけずらい状態だったらしい。
なんとなく自覚はある。
気を付けよう。
今はまだ、ほぼ魔石や毛皮を買いに来る商隊が中心。
やはり、森の奥深くという立地に二の足を踏むようであまり多くはない。
いきなり大賑わいで対応しきれなくなるよりはよほどいいと思う。
宿泊施設も稼働を開始、警備と料金所などへの配置も済んだものの、まだ研修直後のペーペースタッフなので、いきなり大混雑で大混乱なんてことにならなかったのは良かった。
**
後日開催された村会では、シン発案の独自通貨に関しての議題が無事可決した。
貨幣の見事さにみんなのテンションが上がった隙に守護神像の力が増すとか何とか言いくるめて強引に、という感じだったけどね。
貨幣の運用は準備中の両替商の運用が始まってから、秋ごろになるだろう。
まぁ、のんびり準備すれば間に合うでしょう。
と思ったんだけど・・・。
困ったことになった。
はぁ~っとため息を吐くスローク。
シンがいない。
簡易拠点のドアに”ちょっと届けてくる”というメモが張り付けられていた。
どこに行ったのかは想像つくけど、なんで今行くかね。
つい先ほど、街道の入り口にカルケール伯爵の使者を名乗る一行が来たと連絡が入ったのだ。
興行団とのいざこざから連れて来た4頭のグレイウルフを、街道の入り口や広場に配置して駅伝方式でメッセージの伝達ができるようにしてある。
その方法を使えば、街道入り口から村への伝達に半日ほどですむのだ。
つまり、使者一行は後3日程でやって来てしまう。
急遽対策会議を、と呼びに来たのにこれだ。
まぁ、今回ばかりは仕方ない。
と思ってしまうのは甘すぎだろうか。
仕方ないのでシン抜きで会議を始めることになった。
一応代表なので、開会の宣言をするスローク。
「何しに来るんだと思う?」
神妙な面持ちのソンチョーが、誰にともなく問いかけた。
「場所的に王家からの接触と見るのが一般的です。
王家の名代として、村からの街道が接続しているカルケール伯爵に白羽の矢が立つことは理解できますが、それにしても早すぎます。」
カブロが腕を組み、天井を見上げて考え出した。
ただでさえ大きな彼が余計大きく見える。
「一気に移住者が出てるからなぁ、サンサテ側から何かクレームがついたのかもしれん。」
そういうギリョウも移住者なのだが、自分のことはすっかり棚に上げている。
ひょっとすると忘れているのかもしれない。
「あ~、デモンエイプの件とか、お礼に、なんてことは・・・ないよね?」
ソンチョーとしては、少しでも良い方に考えたいのだろうが、食い気味にマルクから否定が。
「無いな。
本来なら自分たちで討伐して栄誉としたかっただろうからな。
魔石も毛皮も王に献上すればかなり喜ばれる類のものだからな、むしろ、手柄を横取りされただのと逆恨みを買っていてもおかしくない。」
「警告の可能性もありますね。ここまでは見逃すけど、調子に乗るなよと。」
「ですねぇ。この時期にというと、その程度かもしれませんね。」
ノブロフの発言にカブロが同意したことで、不安に包まれていた雰囲気が若干和らいだ。
さすがに、あまり無理難題は突き付けてこないだろうという感じにまとまったのだ。
「出迎えのことですけど、作法とか何にも知らないんですけど。」
ソンチョーが次の議題に切り替えようと発言した。
「使者ってことですからねぇ。
こちらは爵位があるわけではないので、おそらくは来ても執事の中の誰か、といったところでしょう。」
「でしょうね、大げさにもてなす必要はないでしょう。
先ぶれも無く訪問してきたのですから、相手側もそこら辺は寛容なはずです。
無礼な態度を取りさえしなければよいでしょう、こちらが貴族でないのは知っているはずなので。
もし、爵位をお持ちの方が来訪されるなら、先ぶれとして出迎えの作法などを伝えに来るはずですよ。」
なるほど。いちおう歓迎の意を示す程度でいいのか。
「出迎えは自分とソンチョーと、くらいでいいのか?できればこの手に明るそうなカブロかノブロフにもいてもらいたいんだが。」
「私がお手伝いしましょう、カルケール伯爵とも面識がありますので。」
そういってノブロフが名乗りを上げた。
「できることなら、ンダバ殿とパラミド様にも立ち会っていただければと思います。」
「いいのか?我々は出ない方がいいと思っていたが。」
ンダバが意外そうにノブロフを見た。
隣のパラミドやハゾル達も同様の反応だ。
「この村の特色を、最初にハッキリと伝える意味で、ゴブリンとオークの代表でもあるお二人には是非いていただきたいのです。
お二人の立場や人柄、知性を知ってもらうことで、対等の存在と認識してもらった方が良いでしょう。
貴族が来た時にいきなり対面するよりは、使者の段階で会っておいてもらった方がいいです。」
「ふむ、責任重大だな。」
「我々が人と共存できるということを認めていただかないといけませんね。」
二人とも会話もマナーもヒトと何ら変わりない。
というか、村に住むゴブリンもオークも、ほとんどが会話も読み書きも支障が無いレベルに成長している。
「後、できれば早急にシン様をお呼びいただければと。
もし、技術的な質問をされたときにこたえられる方がいた方が良いでしょう。」
「なるほど・・・なら、ユーキに頼もう。
シンさんの行先はおそらくノエルさんのところだろうから。」
「そうですね、できれば、大げさに伝えていただいた方がいいでしょうな、あの方なら。」
さすがにカブロはシンとの付き合いが長いだけある。
面倒事を察知した時のシンの逃げ癖を理解しているようだ。
ただ、シンのスルースキルは決して高くないので、ちょっと注意すれば簡単に確保できるのだ。
**
こうして俺は、ひと時の癒しを邪魔されてここにいる。
当然俺の機嫌はすこぶる悪い。
「使者に無作法を働いたということを理由に難癖付けに来るかもしれないから、最低限のマナー練習くらいはしといたほうがいいだろうね。」
しかたないので一応提案しておく。
「さすがシンさん、即座に悪知恵対策が思いつくなんて。」
ん?これって褒められてるの?
段取りをして、翌朝にでもノブロフを講師に座学程度は、と思っていたけど。
朝起きると、予定よりかなり早く到着しそうだとの報を受けた。
慌ただしく出迎え予定の6人が村の入り口に集合する。
おお、皆正装っぽい。
着替えてきてよかった。
作業着のまま出ようとして、呼びに来たユーコに"膝カックンチョップ"なるものを食らった俺。
仕方なく着替えたけど・・・一応感謝しておこう。
グッジョブだニャンコ様。
ん?
いや、ちょっと・・・。
なんだあれは?
馬車がやってくる。
確かに豪華な感じに見える。
けど、優雅さとかとは無縁だけど。
何かから逃げてるのかよってくらい馬も必死そうなんですけど。
あの勢いで来たの?
馬、よくつぶれなかったね。
「どういうことでしょう・・・。」
ソンチョーがオタオタしている。
「あの馬車は、確かにカルケール家の形式ですが・・・いくら道が良いとはいえあの速度でなんて。」
ノブロフも唖然としている。
村の直前で急停止した馬車。
勢い良くドアが開かれた。
「ミレーユ様!?」
飛び降りた人物を見たノブロフが悲鳴に似た声を上げた。




