072話:治療
俺が到着して4日目には、ウシオとカタオカ君が到着したと連絡が入った。
早すぎない?
7~10日はかかると思ってたんだけど。
と、彼らを出迎えて理解しました。
二人+ゴブリンたち、今にも倒れそうなほど憔悴してました。
これは、フブキとトライコーンがやりすぎたんだろうな。
ほどほどにって言っておいたのになぁ。
ご愁傷さま。
まぁね、二人が間に合ったってことで、戦力増強は良いことだよ。
なんせもうすぐ戦争だもの・・・しかしなぁ、まさか俺が戦争に参加する羽目になるなんてなぁ。
あの時ウシオを羽交い絞めにしてでもスルーしとけばよかったよ。
とりあえず、戦争と聞いて顔面蒼白のウシオに順を追って説明する。
まず、俺はこの村で一番大きい建物、普段は集会所として使っていた施設へと案内されて入った。
中では広いホールに、50人程の患者が所狭しと並べられた簡易的なベッドに寝かされていた。
予断を許さない状態が続いているため、個室に分けては対応が遅れるかもしれないから、ということだった。
俺はさっそくショートカットに登録しておいた万能薬を、手伝いに集まってきたゴブリンやコボルト達に手渡してゆき、経口投与するよう指示した。
意識の無い者もチラホラいたので、そういった者には、少しずつ布にしみこませて口に突っ込ませた。
時間はかかるけど口から吸収される。
と思う。
まぁ、だいぶ時間はかかったけど意識を取り戻し始めたので、残りを頑張って飲んでもらった。
病気そのものは投与完了から数時間で回復した。
主な症状だった高熱や意識の混濁、関節を中心とした痛みや発心などが無くなったから治ったんだろう、くらいの判断基準しかできないが、素人にはその程度しかできない。
まぁ、さすがは万能薬ってところで納得しておくことにする。
ただまぁ、症状は無くなっても、病魔に侵されていた期間が長すぎた。
命の危機にかかわるほどの衰弱は簡単には回復しない。
通常通りの生活ができるようになるには、体力の回復とリハビリとでかなりの時間が必要だろう。
俺たちと違って、落ちてしまった筋力は一朝一夕では戻らない。
とにかく無事に治療行為は完了したわけだけれど、増産の見込みのたたない万能薬が54本、痛い出費である。
何としても元を取らねばならない所だけれど、もっと大きな問題が直近に迫っているのだ。
この村があるのは、みどり村のあるサンザ王国の北にあるクノーソスっていう小国なんだけど、伝染病にビビりまくった王が感染の確認された村や集落の疫病対策命令を出した。
疫病対策命令、要するに全てを焼き払えっていう意味だそうだ。
医療が未発達なうえ、ちょっとでも中心地を離れると呪いとかの迷信に近いような治療行為が当たり前のこの世界では、感染力か致死率、あるいはその両方が高い病には対処することができず、地域ごと閉鎖したり焼き討ちしたりが当たり前なんだと。
まぁ、数万人死ぬのと数百人死ぬのどっちがいいか、みたいな話になっちゃうんだよね。
批判する気は無いよ。
だって、そう言う世界だし、俺の万能薬だってあと45本しかない。
そして、その45本は、この先みどり村意外に使うつもりは無い。
今回はカタオカ君はじめこの村の主要メンバーが同郷だったからって言うのもあるけれど、当時はやっとのことで森を抜けて、俺のテンションが高かったことの方が大きい。
本来の俺だったらどうしていただろう。
さんざん悩んだあげく手遅れ、とかになっていそうだったな。
万能薬を隠し通して無視・・・はできなかっただろう、そこまで鋼の心は持っていなかったと思う。
大盤振る舞いしてまで救ったけれど、万能薬はすべて出し切ったからもう無いって伝えたから、これ以上求められることは無い・・・はずだ。
他の村まで救ってくれなんて言われても困る。
だって、やっぱり俺にとってはあの村が一番なわけだしね、線は引かなければ。
一応見返りにはかなり期待していたりする。
ってことで、村を焼き討ちにするために騎士団が迫っているというから、俺の利益を守るためにも協力するしかないわけだ。
薬の提供だって、本当に万能薬が効くか確認したかっただけだし・・・なんだか言い訳がましいな・・・。
違うんだ、俺、そんな奴じゃないんだ。
慈善事業とか、そういうのは裕福な連中の自己満足と自己顕示欲と優越感を刺激するためのイベントだって思って来たじゃないか。
戻って来い俺!
基本俺ってロクデナシのはずじゃないか。
こんな面倒事は無視して逃げちゃえばいいじゃないか。
見ず知らずの連中のために戦争って、俺じゃないよな・・・。
そう、あれだ、国と剣を交えるんだから、その報酬も破格だよね?報酬目当てに戦うんだよ、そうそう、金のためだ金のため!
・・・はぁ・・・不毛だ。
良い人になんか死んでもなりたくないのに、今この村では救世主扱いされちゃってるのが本気で気持ち悪い。
何とか自分を取り戻すべく言い訳を考察していたわけだけど・・・
疲れた。
もうい~や、なんか、流されました~ってことで。
じぜんじぎょうじゃないよ~。
セイギノミカタデモナイヨ~。
ただなんか、そのばのふんいきでながされました~。
オカネクダサ~イ。
なければなんかくださ~い。
よし、これで行こう。
ぶっちゃけねぇ、騎士団と交渉ができればいいんだけどさ、こういう汚れ仕事を専門にやる組織があるみたいなんだよ。
「黒犬騎士団って言うんですけどね、いわゆる、処刑はされなかったけど生涯外には出られないっていう重犯罪者達で組織されている汚れ仕事専門の、正式には存在していないはずの騎士団なんですよ。」
情報提供してくれたのはこの村のリーダーだというキタガワ氏。
「まぁ、みんな知ってるんですけどね。」
とカタシナさんが補足してくれた。
「こういうときだけ牢から出されるんだけど、元々が重犯罪者だからな、交渉なんて不可能だろう。」
そう言って、深いため息を吐いた。
ガッチリガテン系のオジサマ、キタガワ氏がこの村を形成している建物を造ったその人で、俺の予想していた近代都市開発系ゲームではなく、道路や建物と言ったアイテムを並べて理想の町並みを作って愛でる、と言うジオラマ系ゲームらしい。
え?
それゲームなの?
と思ってしまうけれど、一応ジャンルとしてはそうらしい。
実はゲームとして楽しむより、漫画の背景絵を描く参考にするといった使い方の方が定番化してるそうなんだけど。
まぁ~、俺には一生縁がなさそうだな。
「もう、やりあうしか無いってのは分かったけど、その後はどうするの?独立でもする気?」
国に反抗するんだから、その先のことを色々とはっきりさせておいてほしい。
時間かかるような方針なら、早いうちに俺は抜けると伝えておかねばね。
報酬とか報酬とか報酬の件もあるし。
「移住先を考えるしか無いだろうな。」
苦虫をかみつぶしたような顔でキタガワ氏がつぶやいた。
これだけ発展させてきた村を放棄するのは辛いだろう。
「あの、シンさんの村はダメですか?」
つい今しがたまで死んだような顔をしていたカタオカ君の元気な発言に一同ビックリ。
「ボく・・・私、もうあの食事以外食べられません!」
キラキラした目で見つめるな!食いしん坊め。
ってか、ウシオに預けた食事はサンドイッチとおにぎりくらいだったはずだけど。
「それって、噂の?」
「マジかテメェ、一人だけいい思いしやがって。」
「エグく無いご飯・・・。」
一瞬で飢えたゾンビのような集団に睨まれてるんですけど!
「・・・おにぎり一個1000セイルだ。」
ボッタくった。
「セイルって何?」
「あ、サンザ王国の通貨です、確か、1セイルは14ラカだったかな。」
「高!」
そうか、ここサンザ王国じゃなかった。
ってか、1セイルが14ラカ?
1セイルって1円くらいじゃなかったか?
「おにぎりいっこ、いちまんよんせん・・・。」
「お・・・俺、一個くらいなら。」
「鬼だ・・・。」
絶望に打ちひしがれる面々・・・ってか、この国どんだけだよ。
「ちょっと待て、サンザでの感覚だと、1セイルって日本の1円くらいなんだけど・・・1セイルに変るのに14ラカ?も必要なの?」
「最小単位が1ラカなんでそうなるんでしょうけど、そもそもこの国の収入って、年で20万ラカ位だから・・・。」
おーまいがっ。
おにぎり一個が月収くらいしちゃうぢゃん。
くそ、こんな状況じゃぁ報酬も全く期待できないじゃないか。
「あ~、とりあえず飯の話は置いといてだ、みどり村は俺の村じゃないから一存では決められん。
一応口利き程度はするけど、交渉は直接村の代表とやってくれ。」
ってことで逃げた。
「で、クロちゃんズについて詳しく聞かせてほしいんだけど。」
「クロちゃんズて・・・。」
「いや、ワンちゃんズだと犬に悪いかなって。」
「緊張感そがれるわ~。」
「あ~、ゴホン、黒犬騎士団についてだが、総数は300程だと聞いている。
ただし、この数年王都では治安が悪化しているらしくてね、もっと多いかもしれない。」
キタガワ氏がちょっと強引にズレかけた話の軌道を修正、ダベリ場は一気に作戦会議へとシフトした。
さすがにリーダーやってるだけはある、みんなの雰囲気もガラリと変わってしまった。
砕けた雰囲気で報酬の件を切り出そうと思ったのに。
「犯罪者集団とはいえ、一応訓練は受けている。
作戦行動中は奴らの犯罪行為も黙認されているらしくてな、攻勢中の士気は異様に高い。」
まぁ、凶悪犯罪者がやりたい放題できるんなら高くもなるだろう。
しかも裏で王家御公認だ。
「残念だが、それ以上のことは分かっていないんだ。」
まぁ、公式には存在しないはずの部隊だしね。
暴れることが目的みたいな連中なら交渉の余地もなさそうだし、戦う以外の選択肢は無いって感じなんだろう。
で、こちらの戦力なんだけど・・・。
周りを見回す俺の意図を組んでくれたのか、キタガワ氏が説明してくれることになった。
「まず私だが、スマン、戦闘力は無い。
一応中世北欧キットと言うキットを導入していて、中には大砲なんかもあるんだがな・・・俺の能力で出せるものはハリボテみたいなものなんだ、試してみたけど撃てなかった。」
と、申し訳なさそうに言った。
続くようにカタシナが右手を上げて席から立ち上がった。
「私はレイクルオンラインでゴーストテイマーやってた!今はレベル低すぎてゴースト2体しか出せないけどガンバル!」
明るく言うけど、これから戦う相手って人間だぞ。
「つぎキチセ!」
「指図すんなよ。」
指名されたのは、いきなり火の玉ぶっ放してきたケモミミ少年。
「レイクルオンラインでバトルメイジやってた。」
なるほど、同じMMORPG出身か、ってことは、二人は知り合いだったのかな?
たしかあのゲームも職業凄く多いんだよな。
俺もちょっと興味あったんだけど、MMOは人付き合いが面倒そうでなぁ。
「じゃぁ次は私が、すでにご存じでしょうけど、発掘ダンジョン王国をやっていたカタオカです。ダンジョン本体はこの街の真下に、といっても、まだ3階層しか掘って無いんですよね、あれって、冒険者たちがダンジョンの魔物を倒して安全を確保していかなきゃならないでしょ?この世界には冒険者なんていないし、カタシナさんとキチセ君に入ってもらって何とか3階まで入れたんですけど、数に押されてそれ以上進めて無いんです。」
あぁ、そう言えばあれって、ゴチャキャラ系のゲームでもあったよな。
確か、最終的には冒険者が100人くらいになって何が何やらって感じになってたっけ。
「一応仲間にできたモンスターはゴブリンとコボルト中心に50くらいいるんですけど、あまりレベルが高くないので訓練を受けたクロちゃんズにどこまで対抗できるか…。」
ぷっ
どこかで”クロちゃんズ”に噴き出した奴がいるな。
こういうのはサラッと受け流すのが詫び錆びと言うものだろうに。
そうそう、ずっと気になっていたことがあるんだけど、今聞いちゃおう。
「ところで皆さん、本名なんですか?」
カタオカにカタシナ、キチセにキタガワだもんね。
おや?
なんかみんなの反応が・・・。
「皆さんは違うんですか?」
逆に質問されちゃった。
「そうだね、名字を使ってる人はいないかなぁ。一応この世界に馴染んだ方がいいかなってことでさ、ゲーム時代に使ってたキャラ名だったり、SNSとかの名前に近いもの使ってたり、名前の方をちょっと変えて使ってたりかな。
サンザ王国って、貴族とか特別な人以外名字が無いから。」
「なるほど、やっぱりそうなんですね。
正直な話、私をはじめ戦えないものが多いもので・・・。
最初の頃はとにかく仲間を集めようって方針だったんですけど、良い案も浮かばなくて。
とりあえずこの世界では違和感のある響きらしいんで、名字を名前として使えば気づいてもらいやすいんじゃないかってことで・・・ただ、最近はこの世界の住民も増えてきて、ちょっと違和感を感じ始めてはいたんです。」
なるほど、そういう考え方もあったんだな。
ようやく落ち着いてきて、この世界の人々との交流も増えてきたところで、呼び名とか村の在り方とかを考え始めた所だったんだそうだ。
反応がおかしかったのはそのせいか。
村の名称も、日本語で「転生村」だって言うんだから、ちゃんと考えて仲間を集めようとしていたみたい。
うちも「みどり村」だけど、あれってデフォルト設定のままってだけだもんね。
積極的に仲間を集めようと考えた結果が、この世界では浮いてしまう事だったようだ。
我々の名字を名前として使い、
村の名称を日本人に伝わるようズバリ「転生村」にして、
町並みも完全に違和感ありまくりの現代日本の建築物シリーズで構築、
周辺の町や村へ出向いて商売しつつ村を印象付ける。
といった行動を意識的に続けてきたんだそうだ。
それで20人も集まったんだから成功だったんだろう。
「ただ、少し目立ちすぎてしまったみたいで、この地域を治める領主に目をつけられてしまったんです。」
はぁ~っとため息をついたキタガワ氏。
貴族って腐ってそうだからなぁ、ずいぶんと面倒に巻き込まれたんだろう。
「ここら辺って、誰も手を付けていない放棄状態だったんだよね。苦労して開拓したのにさ、軌道に乗ってきたとたんに難癖付けて来たんだよね。」
創設時からすでに仲間だったというカタシナも眉間に皺を寄せている。
・・・うちもそうなるんだろうか?
ちょっと帰るのが面倒になってきた。
「その時うまく立ち回れれば良かったんですけどね、現在も領主との関係は良くなくて・・・うちに黒犬騎士団が派遣される事になったのも、たぶん領主が手を回したんだと思うんです。」
不穏分子は有無を言わせず徹底的に叩き潰そうってことか。
「青薔薇騎士団とか赤翼騎士団だったら話が通じたのにね。」
「今回しのげても、犯罪者がいる限り黒犬騎士団は復活しちゃいますから・・・。
結局ここを放棄するか、国と戦い続けるかってことになってしまうんでしょうね。」
重苦しい雰囲気が部屋を包み込む。
「いいじゃん、また作ればいいんだしさ。」
あっけらかんと言うのは、開拓途中で合流したというキチセだ。
「むしろ、ぜひシンさんの村に合流させてもらいたいですねぇ。」
カタオカの一言で全員の視線が俺に・・・いや、俺の村じゃねぇし。
ってか、食事はもう提供しないぞ。
・・・
・・
・
はぁ・・・
「悪いけど今は無理だ、作るには特殊な素材がいるけれど、それは村の秘匿事項だし俺の一存じゃ使えない。」
ってことで納得させた。
戦い続けるなんて無理だし、療養中の住人が復帰次第この村を放棄することになるだろうって覚悟は出来ているようだし、各自名前のこととかは改めて話し合うことにしたようだ。
みどり村が受け入れるかは俺じゃなくソンチョーに聞いてくれ。
俺は責任取らんぞ。
「話がそれたようだが、次は私からとしよう。」
そう言って立ち上がったのは・・・なにそれ?
なんか、変な服。
見覚えあるな、コスプレか?
ええと、何だっけ?ライジングなんたら・・・3番煎じくらいの、トレーディングカードゲームだ。
アニメ化された時のキャラの服があんな感じだったような。
アニメ化された後コンシューマ機でゲームにもなったんだっけ。
「ライジングレイオンをプレイしていたクサナギ・・・いや、これからはミコトと呼んでくれ。無念だが、現在のところ対戦相手がおらずレベルを上げられておらん。」
そう言ってオーバーに悔しがってるけれど・・・。
「いや、魔物相手にゲームやってる時と同じように戦えばいいんじゃないの?」
と、普通にツッコんでしまった。
「え?」
ポカンとされてしまったぞ。
「た、戦えるの?これ・・・。」
あ、マジで知らなかったんだ。
オーバーアクション過ぎてボケてるのかと思った。
「あぁ、戦えるはずだぞ。
それと、この世界に来る直前の6時間に他のゲームをしていた人っている?もしいたら、そのゲームの能力も使えるはずだぞ。」
俺のその一言で、室内がざわつきだした。
この部屋には、いわゆる異世界人が20人もいる。
その大半が戦闘とは無縁なゲームばかりで、逃げ込むように集まってきたのだという。
う~ん、結構知らないもんなんだなぁ。
「職務怠慢じゃないか?これ。」
うん、何となくだけど、いる気がしてクレームをつけてやった。
「「いえいえ、どなたもセカンドゲームを発動されてませんので。」」
ホントにいたよ。
今度は室内がシーンとしてしまった。
そりゃそうだ。
(初めて目にする者はみんなこんな感じになるんだよね、こんなヤツ相手なのに。)
「「そう思っているのはあなたとガラの悪いあの方くらいですよ。」」
(いやいや、2~3度見ればすぐ慣れるって。)
「「そう言うものではないと思うのですが。」」
(ホント、最初のあの恐怖心とか、マジ詐欺にあった気分だよな。)
「「あの時はとても美味しかったというのに、すっかり変わられてしまって・・・と申しますか、良いのですか?皆さん固まってらっしゃいますが。」」
(あ。
いかん、どうせ頭の中勝手に読んでくるんだし楽だからって声出してなかった。)
「「普通は不快になるはずなんですがね。」」
「ならやっぱり正解だな、お前を喜ばせなくてすむなんて。」




