069話:街道を目指して
ノエルさんの家を出て1日、途中遭遇したハリラビとかを狩りつつ、ウシオの戦闘力チェックもしてみる。
俺が渡した銃は凄くなじむみたいで、命中精度もなかなかのものだった。
現実ではエアガンすら触ったことが無かったというから、ゲームの影響かな?
よくわからん、ゲームじゃ逃げるだけだって言ってたし。
ウシオに銃の才能があったのかもしれないな。
誤射で背中を打たれる心配が無いと分かったので、拳銃型武器の中からとっておきを探し出して渡した。
純MOD製のって言うとなんか変だけど、最初に渡した、スリングショットを外見だけ変更したなんちゃって銃ではなく、銃として作られたMOD製の武器だ。
威力もなかなかのチート級で、導入直後は俺も良く使った。
リロード操作がめんどくさくて使うのやめたけど。
護身用には十分すぎるだろう。
「なんか、あらためて持つと緊張しますね。」
さっきまで飛ぶ鳥をバシバシ落としてたくせに何をおっしゃいますことやら。
ちなみに落とした鳥は、スキル”商会”を通して第三貯蔵庫へ入れてある。
ノエルさんの家でけっこう食材を使ったし、日持ちのする物をたくさん進呈してきたので多少は容量に余裕ができた。
ウシオにはこのまま戦いに慣れてもらいつつ、のんびりと森を進むとしよう。
空の魔石欲しいなぁ、そうすれば魔素抜きができるのに。
小さい魔石は結構手に入るけど、魔石を消費するための魔道具が無いんだから話にならん。
「獲った肉が食べられないなんて、この世界は優しくないなぁ。」
仕留めたハリラビをしまう俺を見ながらウシオがつぶやいた。
「いや、食えるよ、激マズなだけで。」
「激マズなのに食べるんです?」
どうやら洞窟の中で食べていた虫を思い出したようだ。
魔素100%の虫なんて、想像もしたくない。
「この世界では何でもかんでも茹でまくるんだよ。
そうすることでほんの少しエグみが取れるんだけどね。
だから、獲った獲物は魔石を抜いて置いて行くか、持ち帰った後長時間茹でて旨味を犠牲にして食材にするかだよ。
俺たちは、魔素を完全に抜く裏技を見つけたから丸ごと持ち帰って処理して全部いただくけど。」
「なるほど、それが、初めてノエルさんにごちそうになった時シンさんが驚いていたことなんですね。」
あれ?言ってなかったっけ?
そう言えば、洞窟でもその後も貯蔵庫から出したエイルヴァーン製の料理を食べてたしなぁ、ちゃんと話してなかったか。
まぁ、村までは何日もかかるだろうし、道すがら説明していくとしよう。
途中、フブキとの連携とかも確認しながら戦闘をこなしたりもしたけれど、ウシオには経験値によるレベルアップ的なものが無いってことが確定した。
一応ゲームではレベルがあったらしいんだけどね。
ただ、ステージを終えるごとにスコア計算がされてレベルアップ(残機が増えたり隠れられる範囲が広がったり)って言うシステムらしいから、魔物を狩ってレベルアップ、は無駄に終わる予感があった。
まぁ、しかたないことだ。
数日がかりで無事森を抜けた。
久しぶりの開けた視界だ。
暗くなりかけているのが残念でならない。
確か、うろ覚えの記憶だとこのまま北へ向かえば街道に出るはずだ。
さすがに上位ウルフ種の魔物を連れたまま人の通る街道は目指せない。
遭遇する魔物の質も数もグッと減るし、余計なトラブルを避けるためにも、心を鬼にして格納である。
と、言いつつモフモフを堪能・・・。
あ、なんかこのまま連れててもいいかも。
こんなにかわいいモフモフを恐れるなんて、そいつの方が悪いに決まってる。
うん、そうしよう、文句言うやつにはフブキのブレスをプレゼントだ。
なんてバカなことを考えながらモフっていた時だ。
?
なんだこりゃ?
フブキのモフモフの中に何か・・・メモ?
「どうしたんです?」
立ち止まった俺に気が付いたウシオが引き返してきた。
「分からん。」
ハガキくらいのサイズの紙に、びっしりと文字が書かれている。
しかもアルファベットだ。
こんなもの設定には無かったはずだぞ。
もちろん俺だって入れた記憶はない。
なんだこれ?
何かの謎解き?
ウシオと二人がかりであれやこれやと推測してみたりもしたけれど、結局意味不明のまま。
体感で1時間程度悩んで諦めた。
レベル上げて知力も上がってから再挑戦するとしよう。
そうして再び街道目指して真っすぐ北進。
小一時間ほどしたころウシオが、
「シンさん、あれ、何でしょう?」
と声を上げた。
ん?
確かに、なんか見えるけど暗いし遠いし分からんぞ。
「あ、これ使ってください。」
と言って指しだされたサングラス。
いや、真っ暗でも何となく見えるようになるって聞いてるけどさ、何となくじゃわからんよ、あれは。
「うぉ!」
思わず声が出た。
(なんとなく?バッチリ見えるじゃん。
サングラスの存在意義を真っ向から否定するぐらいバッチリ見えるじゃん・・・そうか、光源の一切ない状況で何とか見えるレベルまでの性能ってことは、日没直後の今なら真昼間みたいに見えるのか。)
遠くてはっきりとは分からないけれど、争ってるみように見える。
(野盗が商人でも襲ってるのか?う~んさすがにそれ以上は遠すぎてわからん。)
「助けに行きましょう!」
やっぱりそうなる?
これっていやな予感がするんだよなぁ。
よくあるじゃん、襲われてる馬車を助けたら貴族が~とか、商人が~とか・・・。
商人は有りか?
いやいや、今は一刻も早く村に戻らなきゃ、ずいぶん長くノエルさんのご厄介になってしまったし。
「シンさん、僕先行します!」
あ、行っちゃった。
若いなぁ。
しょうがない、俺も行くか。
面倒事に巻き込まれませんように。
タダイマコンランチュウ。
どういうこと?
少し離れた岩陰でのぞき込んでいるんだけど、ちょっと様子が変。
パッと見た感じだと、ゴブリンに襲われた商隊が逆転して追い詰めているって感じなんだけど。
周辺に累々と横たわる野盗らしき連中は何ぞ?
野盗がゴブリンを使役していたとか・・・んなことあるのか?
先行したウシオも戸惑っている。
だってさ、ゴブリンたちが必死に守っているのって、明らかに商人風のヒトなんだもの。
しかも、反撃する様子もなく防戦一方だし、守られているヒトが「話せばわかります。」とか叫んでるしさ。
どうしよう。
「どうしましょう。」
俺も聞きたいよ。
とりあえず場を治め地から考えるか?
見た感じ、商隊の護衛はみんな手負いだし、実力の方もどうやらゴブリンの方が上っぽい。
ならばここは、商隊の味方をして彼らを逃がそう。
火焔窟のマスクを装着、一応顔は隠しておく。
「俺、割って入るからさ、ここに隠れながら、人やゴブリンに当てないように威嚇してくれる?」
と、簡単に打ち合わせをして飛び出した。
「加勢する!」
そう叫ぶと、安心したような表情で振り向いた護衛の顔が失望に陰った。
(まぁ、一人だもんな。)
その瞬間、ウシオが放った弾丸がゴブリンが持つ剣を弾き飛ばした。
「俺たちはサンサテに雇われた討伐隊だ!周囲には仲間が配置についている!言葉が通じるなら直ちに投稿しろ!」
そう叫ぶと、手近にいたゴブリンを蹴り飛ばした。
「あんたたちは行け!その怪我じゃまともに戦えないだろう、仕事を完遂しろ。」
「助かる。」
こちらの戦力を再認識したのか、護衛たちは素直に従った。
彼らにとっても、ゴブリンに後れを取るなんて想定外だったろう。
加勢に加わっただけじゃあ、面子を守るために一緒に戦うなんて言いかねない。
本来の仕事、護衛任務を優先することが彼らの一番だと声に出してやることで、彼らにとっては面子も守れるし、逃走ではなく護衛だからと逃げる口実を作ってやったんだけれど、どうやら正解だったようだ。
俺たちがサンサテで雇われた討伐隊だって言ったのも、こちらの指示を受け入れやすくするためだ。
サンサテに着けばすぐばれるウソだけど、顔隠してるし何とかなるさ。
こうして、彼らが見えなくなるまで戦ってるふりを続けていたんだけど、やっぱりなんか変なんだよな。
ゴブリンにしては強すぎるし連携もしっかりしている。
まるで、みどり村のゴブリンたちみたいだ。
「もういいかな。」
「え?」
急に戦う姿勢をやめた俺に、ゴブリンたちに守られていた青年が素っ頓狂な声を上げた。
『君も白い悪魔の被害者かい?』
もちろん日本語で声をかけた。
『あぁ、よかった・・・お願いです、助けてください!』
間髪入れずに日本語で返された言葉の必死さよ・・・あぁ、やっぱり厄介事?
**
再び森の中へと場所を移して、詳しく話を聞くことにした。
外からは完全に隠れられつつ、外の様子を確認しやすい岩影を見つけて車座に座った。
「私はカタオカと申します。
発掘ダンジョン王国っていう、スマホのゲームをやってました。」
あ、知ってる。
労働者や冒険者を雇って、ダンジョンを掘り進めてボスを退治、安全を確保した階層に商業施設とかを作ってお金を稼ぎ、労働者や冒険者を強化したり増やしたりしながら深く掘り進んでいくっていうゲームだ。
施設の配置とかでコンボが生まれてダンジョンの人気が高まったりするんだったよな。
捕まえたモンスターを使役出来て労働者にしたり、討伐隊に加えたり、遠征でアイテムを持ち帰らせたりもできたはずだ。
カタオカ達はある目的のために旅をしてきたんだけど、たまたま野盗に襲われている商隊を発見、助けに入った。
まではよかった。
魔物が人に従って戦う姿を見せて、この先の町や目的地で彼らに有利に(特に魔物を連れていることに関して)はたらいてくれたらと言う目論見もあったそうだけど、現実は甘くはなかった。
彼らを、漁夫の利を狙う新たな敵だと認識されてしまったそうで、商隊の護衛たちが奮闘、話もできない状態に追い込まれてしまっていたらしい。
「数人の仲間と共に村を作って頑張ってきたんです。」
ほうほう、俺ら以外でもそう言うことするグループはできるだろうなぁって思っていたけど、意外と近くにいたみたいだな。
「順調そのもので、村の住人も200人程にまで成長していたんですが、外部との取引が始まった矢先に、近隣で伝染病が発生してしまって。
私たちの村にも・・・私たちは抵抗力があるみたいで、感染しても命にかかわることにはなっていないんですけど、村に移り住んでくれたこの世界の人たちが次々に・・・。」
伝染病か・・・”常識”さん情報では、村ごと隔離したうえ焼き払うなんて蛮行に近い対処が普通に行われている。
気が付いたら村中感染していて、訪れたものが感染、潜伏期間に気付かずに、とか、助けを呼びに出た者が近隣地域にまき散らしてしまい、大惨事へと発展してしまう。
治療法どころか、悪魔の呪いだとか、呪術によるものだとかが普通に信じられているこの世界では、他に手が無いのだろう。
「私たちには薬を造れる者がいないんです。
藁にもすがる思いで、行商人から聞いた森の中の村を目指してきたんです。
十分気を付けて来たんですが、もうすぐだと気が急いてしまって、ゴブリンたちが見つかってしまったんです。」
なるほどねぇ・・・それであんな大騒ぎになっていたのか。
ここらへんでもうすぐだなんて思ったってことは、相当離れた場所から来たんかな?
あんな状況になっても手を出さなかったんだから、ゴブリンたちの統制もしっかり効いているようだ。
村まで案内してもいいけど・・・残念なことに現在みどり村にも病に効く薬を作れる者はいないんだよなぁ。
毒や麻痺の治療薬、体力や魔力回復のポーションは作れても、病って言うステータス異常にかかるゲームって、意外なほど少ないんだよね。
唯一作れる可能性があるのって、今村にいない俺だけなんだよ。
レベル足りなさ過ぎて造れないけど。
薬?
もちろんあるよ。
この世界に来る前、ゲームで治癒薬生成スキルの熟練上昇のために作りまくったからさ。
でもね、スタック限界の99個しか持ってないし、次作れるようになるのはだいぶ先・・・。
足りないよね、きっと。
「ちょうどいいじゃないですか、その村って、シンさん達の村ですよね?僕たちもそこへ向かっているところだったんですよ。」
(おい!
ウシオのおせっかいめ、俺にちょっと考える時間をくれよ。)
「本当ですか!」
あぁ、目を輝かせちゃってるよ・・・
「あのだね、ガッカリさせちゃって悪いけど、みどり村には病の治療薬は無いよ。」
言うしかないよね。
やめて~。
絶望感漂わせないで~。
「ちょっと聞くけどさ、薬を待つ人たちって、どれくらいいるの?」
一応聞いてみるよ。
いちおうね。
「50人程です。」
ホラ~、やっぱり足りないじゃん・・・ん?
「50?」
「はい・・・村の多くが、私たちの配下と言うか、魔物なので。
命の危機に瀕しているのはこの世界の住人、50人程です。
今は、生命力回復用のポーションや魔法で何とか時間を稼いでいる状態で・・・。」
(てっきり200人分必要なのかと思ったけど、足りちゃうな・・・足りちゃうじゃないか。)
「了解了解、案内してくれる?俺、50人分くらいならストックあるわ。」
足りる以上仕方がない、無視するわけにもいかないし。
「へ?」
カタオカ君の反応は・・・希望と絶望を行ったり来たりで頭がショート気味かな?
「さすがシンさん!」
ウシオは能天気にテンション上げているし。
(50個かぁ、痛い出費だなぁ。)
「あの、そのですね、ご厚意はとてもありがたいんですけど、ここからはかなり遠いんです・・・そんな簡単に引き受けてもらっちゃっていいんでしょうか・・・。」
(遠いのか・・・なら急がなきゃだな。)
「どれくらいかかる?」
「私たちは、ここまで1月ほどかかりました。
なるべく人と遭遇しないようにしてきたのでだいぶ時間はかかっちゃったけど、それでも3週間はかかるかと・・・。」
馬車の旅で3週間と言うと、だいたい1000Kmくらいいか?確かに遠いな。
ポーションで延命対策しているとはいっても、一刻も早く薬を届けないといけない状況か。
「全員は無理だしなぁ。」
と言いつつ、俺は商会を開いて第4貯蔵庫から3体の騎乗モンスターを呼び出した。
一頭はすでにお世話になっているブリザードウルフのフブキ。
そして、三本角の馬トライコーン。
さらには飛行能力を有する超有名モンスター、鷲の上半身とライオンのような立派な下半身を持つキメラ、グリフォンだ。
「ぐりふぉん・・・マジカ・・・。」
カタオカ君がカタコトになってる。
「おぉおぉお・・・そうか、最新ゲームだと馬にもファンタジー動物にも触れ合えるんだ・・・。」
いや、エイルヴァーンは最新ゲームじゃないけどね。
レトロゲームばかりやっていたウシオには衝撃だったようだ。
森の中ではグリフォンが飛び立てるような開けた場所が少なかったから呼び出せなかったんだよな。
なんせ、エイルヴァーンのグリフォンって、飛び立つときにまで余計なこだわりかたをしちゃっててさ、ちゃんと助走してからじゃないと飛べない仕様なんだもの。
20mほどの平地が無いと飛べないんだよね。
設定上グリフォンの移動速度は時速100Km、地形関係なく一直線に飛べるから、一日6時間も飛べば2日でたどり着けるはずだ。
「あ、ウシオはどうする?先にみどり村に向かってもらった方がいいかな。」
彼にとっては初めての町が近づいているってのに、再びの旅路はきついだろうと聞いてみたけれど。
「いえいえ、もちろん僕も同行しますよ!・・・何もできることないかもしれないけど。
それでも何かしら力になれたらと思います。」
と、行く気満々のようだ。
「了解、じゃぁ俺はグリフォンで先行するけれど、誰か一人道案内を頼むよ。」
俺一人で向かっても村に入れない可能性もある。
そう言った意味でも道案内兼仲介役は必要だ。
「はい・・・ぐすっ・・・なら、このゴブ吉君が・・・ヒック・・・良いとおぼひ、まず・・・彼は遠征によく・・・出ていで、方向感覚のスキルを、もって・・・いるの、で。」
といって、がっちりした体格のゴブリンを紹介してきた。
泣き出しそうなのを必死にこらえながら話すカタオカ君。
顔が涙と鼻水でひどいことになっている。
やっぱりゲームの影響かな、ゴブ吉君はこの世界のゴブリンともエイルヴァーンのゴブリンともちょっと違う。
緑色なのはエイルヴァーンと同じだけど、耳が非常に大きく左右に広がっているし、鼻も大きく先端がとがり気味だ。
案内役が彼自身ではなく配下の魔物を推すあたり、本来なら警戒しなければならないんだろうけれど、この短い時間でも彼の人となりがなんとなくわかったので信じることにした。
自分たちを危険にさらすどころか、住民を救うというミッション中なのに見ず知らずの商隊を助けたり、その相手に攻撃され、会話も成り立たない状態なのにゴブリンたちに反撃させなかったり、助けに行こうという俺の申し出に飛びつくまえに、俺たちの旅への配慮もして見せた。
彼は、この世界では損しかしないほど馬鹿正直で真面目でお人好しなのだろう。
まさにラノベの主人公気質じゃあないか。
ネーミングセンスはユーキに近いものを感じるけどな。
「グリフォンには2人が限界だけど、空からなら2日ほどで着ける。
ウシオと他のみんなは、トライコーンとブリザードウルフに乗ってきて。
飛ばせば1週間までかからないと思うから。」
そう言って、俺はグリフォンにまたがるとゴブ吉君の手を取って引き上げた。
「君たちの村で会おう。」
そう言うと、グリフォンに指示を出した。
ダッダダッ
数歩、グリフォンの全速力で20m程走ると、大きな翼をはためかせ空へ。
いざ、見知らぬ村へ。




