050話:放置された物
街道整備を中断して程なく、ハンターたちが森で奇妙なものを見つけたと騒ぎになった。
それは、見たことも無い材質でできた箱と、スロークのバイクと同じようなものだという。
持ち帰るには重く、襲撃者に由来する物であれば危険であるとスロークに報告が上がってきた。
スロークとユーシン、ユーキは、ハンターから場所の説明を受けて現地へと確認に向かった。
それは、最初に襲撃者の一人グロックを広域警戒で感知した場所から30分ほどの場所にあった。
4台のバイクと、迷彩柄のリュックが4つ、同じく迷彩柄の大きな箱が一つ置かれていた。
「逃走手段のつもりだったんだろうな。」
スロークがつぶやいた。
苦虫を噛み潰したような表情が、彼の感情をうかがわせる。
とりあえず危険物が無いかを含めてリュックなどを確認する。
中には、携帯用の魔物除けや魔石、携帯食料などが入っていた。
バイクはスロークが使っているものと同じ、つまり、迷彩男の能力で作ったものなのだろう。
とりあえずはスロークの貯蔵庫に押し込んだ。
そして、頑丈そうな迷彩柄の箱・・・中には、やはりというかなんというか・・・ライフルに小銃、拳銃、弾丸などが詰まっていた。
「これ持ってこられてたらやばかったスね。」
そう言ったのはユーシン。
銃弾を全身に受けた経験のある彼は、その恐ろしさもよく知っていた。
「なんで持ってこなかったんだろう?」
ユーキが対峙した相手はかなり間の抜けた男だったらしい。
そんな男には持たせておいてよさそうにも思えるが。
「舐めてたんじゃないっスか?迷彩男の能力で作ったなら、もう作れないじゃないスか。
舐めてケチって全滅したんスよ。」
吐き捨てるように言った。
真相は土の中。
すでに骨になっているので聞きようがないが、的を射ている気がした。
「とにかくこれは封印だな、プレ・・・ワタリビトが攻めてくることが無い限りしまっておいた方がいいだろう。」
自分たちで決めたはいいが、まだワタリビトと言うのに若干の違和感がある。
封印予定の銃器類は、バイク同様スロークの貯蔵庫に放り込まれた。
戦利品を手に入れた、という高揚感とは程遠いモヤモヤを抱えての帰宅となった。
**
村に帰っての報告は夕食後、マスターの食堂で行われた。
ソンチョー宅のリビングでは手狭になって来たし、直前まで仕事をしているマスターも楽になるだろうという配慮からだ。
もちろん参加者はワタリビト全員だ。
「やっぱり逃げる手段は持っていたか・・・でも、それをすぐ使えるところに置いてないんだからバカだよね。」
笑って襲撃者たちを表したライアーだが、目が笑っていない。
襲撃者がもっと慎重で襲撃時に武器を持ち込まれていたら、間違いなく犠牲者はもっと多かった。
この村が、結界のおかげで平和ボケした間抜け共、くらいにしか思っていなかったんだろう。
もし、最初の襲撃者が逃げおおせていたら、2回目の襲撃では準備万端、こちらが反撃できない規模と速度で蹂躙されていたに違いない。
彼らの残した装備には、それを実感できるほどの火器が詰まっていた。
すぐに処分するべきだという意見もあったが、襲撃者がこれで終わりとは限らない、最悪のケースを想定して、処分はしないことに決まった。
「この箱、インベントリみたいな機能があるんだね、時間経過するのかは分からないけど、まだまだ出てくるよ。」
一応何が入っているか把握しようとユーキが箱の中を出してゆくと、アサルトライフルにショットガン、ライフル、サブマシンガンなどなど、様々な銃火器に手榴弾、ランチャー、弾薬など、どう考えても箱に収まらない量の武器が出てきた。
「武器類はそのまま何かに入れて貯蔵庫行きだな、箱は使えそうだから出しておこう。」
使える物は使う、先ほどの話し合いで決まった時にスロークも割り切ることにした。
「リュックに入っていたものはどう?」
雑にリュックを逆さまにして中身を床に落としているライアーに聞いてみた。
「LEDライトに携帯食・・・これ、ゲームのやつだね、レーションって言ったかな、設定だとあまりうまくないはずだけど。」
と言って、無造作に銀色の袋を破って一口齧った。
「あ、ズっちぃ、俺も食ってみたいんスけど。」
「うん、いいよ・・・僕もういいや。」
そう言うと、一口齧っただけのレーションをユーシンに渡した。
「・・・あ~、なんつぅか、マズくはないっスね、この世界の保存食よりはずっといいと思うっスよ。」
ほんのりと甘く、硬く、パサパサとして口の中の水分が一気になくなる、そんな味だった。
他に入っていたのはロープや簡単な工具、コンパス、銀色をした防寒用フィルム、水筒等の一般的なキャンプ用具(向こうの世界での)と、治療用の回復アイテム類に、瓶に入ったこの世界の酒だった。
「このリュックも、見た目より倍以上は入れられるんだね。
どんだけミード入ってるんだっての。」
リュック一つに大瓶で10本ほどのミードが入っていた。
「酒でも飲まなきゃやってらんなかったんじゃないの?ああいう無法者って、実はビビリが多いって聞いたことあるし。」
結果、箱とリュックは普段使いすることになった。
リュックの中身はソンチョー宅に保管して必要な時に使う。
バイクはとりあえず、経験のあるマスター、クリフトと、原付なら経験ありというマナに渡された。
いずれユーシンのランクアップのためのレースを開催するためにも活用していこうということだ。
残り1台は、バイクに興味津々だったユーキが練習用にするようだ。
心なしかアオンが不満気だった。
(頑張れアオン、バイクに負けるなよ。)
**
雪が解け始め、みどり村の安全圏内では移住者の受け入れ態勢が十分に整った。
そんな時、バラバラになった仲間を捜索に出ていたオーグルたちが、18名のオークたちを引き連れて戻ってきた。
ソンチョーの許可を得てから村の中へと案内される。
7名の兵士が、5名の母親と6名の子供を守って放浪していたそうだ。
子供が多かったこともあって、オーグルたちは捜索を一時中断してみどり村に戻って来たのだった。
パラミドとの涙の対面を終えた後、彼らも村に合流することになった。
というか、元から村に合流するためにやって来た18名だ。
まずはソンチョーの授業を受けるところから村に慣れていき、いずれは何か仕事を担当してもらうことになる。
現役兵士7名が加わったことも心強い。
これで巡回や警備にかかりきりだったユーキとライアーの負担も多少は軽くなるだろう。
合流後、数日はオーグルたちも村で休息することにしたようだ。
晩冬の森は危険だ。
冬眠から目覚めた、飢えた魔獣が増えてくる。
春になるのをまったらどうかとソンチョーが声をかけたが、一人でも多く救いたいというオーグルの意思は変わらず、数日後には再び旅立っていった。
彼らが立つ前日、ソンチョーとスロークの判断でオートマチックの拳銃を一丁と弾丸を装填したカートリッジを5つ、オーグルに渡して操作の説明と簡単な訓練を行った。
いざというときに使うようにと。
全員に渡すべきかとも話し合ったが、それにはあまりにも危険な装備ではないかとの結論でオーグルに託すことにしたのだ。
無事仲間とともに戻ってくれることを祈るしかない。
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冬の間はカブロもそうそうは訪れないと思っていたが、雪が降る前と変わらぬペースでやって来る。
そして、やって来るたびに少数だが移住者を連れてくるのだ。
もちろん、事前にソンチョーへは連絡が入っているが。
一応、移住者たちの受け入れのための下準備を行う職人たち、という建前なのだが、いつの間にか村の中にカブロの商店ができていた。
マスターの負担軽減のために、先行して酒場と食堂ができるとは聞いていたけど、シレっと自分の店まで開いているあたり、抜け目ない。
村の運営に日用品を扱う商店が無いのも問題なので見て見ぬふりをしたソンチョー。
「一言言ってやった方がいいんじゃないのか?」
「ん~、まぁ、裏でいろいろ動いてくれてるみたいだし、ご褒美ってことであれくらいはいいんじゃないかな。
どうせ、春になって受け入れ始まったら許可するつもりだったんだし。」
そういうソンチョーの気持ちも分からなくもない。
(ソンチョーらしいな、やりすぎないように釘を刺しておくくらいはしておくか。)
今のところ魔素抜きはスロークの簡易貯蔵庫で行っている。
時間経過が通常の2倍になるので、魔素抜きの効率が良い。
スロークの簡易貯蔵庫は、現在魔素抜き専用にフル稼働していた。
生産量が増える分大量に空の魔石が必要になるが、カブロが毎回大量に空の魔石を持ち込むので問題無く回っている。
ただ、住民も増えてきたし、カブロが持ち込む食材や、持ち出される分も増え続けている。
この分だと、時間経過が簡易貯蔵庫と同じ、通常の2倍の速度で進み、遥かに容量の大きい第一貯蔵庫を使わなければ間に合わなくなりそうだ。
が、そうなるとなおさらレベル1からやり直しになってしまう転職がしにくくなってくる。
簡易貯蔵庫はすぐ解放されるが、第一貯蔵庫を開放するためのレベル30に、となると数日では開放されない。
いっそのこと、蘇生魔法の使えるワタリビトに絞って探した方が早いんじゃないかって思えてきてしまうが、もし見つかってもすぐ仲間に引き入れるわけにもいかない。
先の件からも、簡単にワタリビトを招き寄せるようなことは躊躇われたからだ。
さらなる悲劇を起こさないためにも、時間をかけて人となりを調べる必要があるだろう。
**
スロークが悩む中、村で流行り出したのがユーシンのランクアップに向けたレース。
を、利用した賭けだった。
バイクが増えたことでユーシン、スロークと、新たにマスター、クリフト、たまにマナが加わって街道を使ったレースが連日のように行われるようになった。
村の入り口から2Kmのところに目印を設置して、そこで折り返しの4kmのレース。
参加台数が多いほどユーシンが獲得するポイントが増えるということで始まったのだが、いつの間にかギャラリーが増え、ハンターたちが賭けだし、職人たちが加わり、それに目を付けたカブロが仕切ろうとしだしたのでソンチョーが慌ててストップをかけた。
元々ユーシンをランクアップさせるためのレースだ、ランクアップの必要が無くなればやめてしまうし、賭け事は村の娯楽としてはダークな部分もあって、借金など後のトラブルにつながりかねないので面倒だ。
治安悪化の原因は早めに対処しておいた方が良い。
ということで、ソンチョーから レース賭博禁止令 が発令された。
のだが、さすがに不満も出た。
なんせ、この村にはまだ娯楽がほとんどない。
折衷案で、直接金銭を賭けるのは禁止、数人の仲間内で食事代や飲み代を賭ける程度ならと許可したことでなんとか落ち着きを取り戻した。
やれやれだ。
なにか、娯楽関係も早めに手を付けないといけなくなってしまった。
残念なことに、ソンチョーは娯楽関係に明るくない。
ポスドクは貧乏暇なし(ソンチョーの実体験からの偏見)な生活らしい。
そして、スロークをはじめゲーマー達が、ゲーム・アニメ以外の娯楽に明るいはずも無く・・・。
困った問題が浮上してしまった。
シンが良く愚痴っていたが、何か一つ解決すると別問題が徒党を組んでやって来る。
まさにそんな感じになってきてしまった。
ちょうど10レース目にユーシンのクラッシュレーサーが、ついにランク2に上がった。
ランクが上がると、ランダムで新しい車種が追加される。
運次第だけど、ランク2で解放可能なのは5車種。
祈りを込めた追加車種ガチャの結果は・・・
解放されたのはパッカー車、いわゆるゴミ回収の、あれだった。
残念。
ユーシンが期待していたのはミキサー車かショベルカーだったのだ。
ミキサー車はゲーム中他の車の妨害にセメントをまき散らす攻撃があったので、ひょっとしたらセメントを使えるようになるかも、という期待があったからだ。
ショベルカーは穴を掘るのに使えるし、土砂などの移動にも役に立つ。
しかし開放されたパッカー車は、ここではあまり使い道が無いような車に思えた。
軽トラの上位互換、ただし、幌を開ければ背の高いものでも詰める軽トラと違って、パッカー車の荷台は頑丈な箱なので使い勝手が悪い、と思われたのだ。
が、工事再開前にと始めた機能調査の結果は驚きの高性能だった。
パッカー車は投入物の圧縮方式で、プレス式、ロータリー式、巻き込み式があるが、フォームチェンジでどのタイプにも対応できたのだ。
しかも、フォームチェンジで圧縮タイプを交換しても、そこに詰め込んだものは保存されることが分かった。
つまり、フォームチェンジを利用すれば一度に3倍の量を運べるってこと。
どのタイプでも積載量は10トンと大型なのもいい。
ただ、軽トラとのチェンジや、パッカー車の使用をやめて格納してしまうと、中身がすべてパッカー車のあった場所に放り出されてしまい、ユーシンが生き埋めになりかけた。
軽トラにチェンジした時などは、軽トラが土砂に埋もれてしまって大変なことになってしまったりもした。
プレス式は圧縮力が強く、大きなものも粉砕して取り込み、ギュウギュウギチギチに圧縮されてしまうのが難点ではあるけれど、目いっぱい詰め込むとブロック状になって排出されるので取り扱いが楽そうだった。
ロータリー式は逆に圧縮力が弱く、入れたものがほぼ原形のまま出てくる。
巻き込み式も圧縮力は弱めだが、ロータリー式よりは強い。長物などは折りながら取り込むため原形をとどめることができない。
どのタイプも現実の方式を踏襲しつつも若干仕様が異なるが、まぁスキルだし、むしろこの方が利用価値が高いと受け入れることにした。
街道整備が再開したら活躍してくれそうだ。
クラッシュレーサーのランクアップはまだまだ必要だし、他の娯楽も思い浮かばない以上、当面はレースが娯楽の頂点になりそうである。
それならばいっそのこと、村の中にコースを作って、定番でレースを開催してもいいかもしれない。
金銭をかけるんじゃなくて、村の特産品を賞品にしてイベント化すれば収入になりそうだな。
なんて思ったのは一人や二人じゃないようだ。
ユーシンがソンチョーに話を持ち掛けると、すでにクリフトとスロークからも言われたと苦笑いされた。
「本当は車が2~3台ほしいんスよね、クラッシュレーサーは車同士のレースだし、パッカー車の妨害技も相手がバイクだと使えないっスから。」
ユーシンの話では、パッカー車はゴミをまき散らすという妨害技があるらしい。
相手がバイクだと大事故になってしまう危険性もあるし、迷彩男のバイクは壊れてしまったら直すこともできない。
さらには、クラッシュレーサーの醍醐味である建物破壊、これが加われば、もっとポイントを稼げる気がする。
というのだ。
確かに、ゲームに沿った行動程、効果が高まるという実感はある。
今は無理でも、レース場が現実となって安全が確保できるなら、ハリボテの家などを障害物にしたレースも人気になるかもしれない。
(結局賭け事頼みかぁ。
普通の娯楽に明るい人材を熱望したいよ。)
つくづく娯楽に縁のない人生だったと自分に呆れてしまうソンチョー。
「早く生き返ってよ、シンさん。」
椅子にもたれてボソリとつぶやいた。




