049話:街道
「さすがにきつくなってきたっスね。」
食堂の席に座ったユーシンが、伸びをしながら愚痴る。
すでに食堂には他の客はおらず、ユーシンとオヤカタ、トウリョーやオークたち街道整備班が遅い夕食を取っていた。
振る雪は、量こそ多くないものの一晩で10cmほど積もる。
しかも3日に一度の頻度で。
作業を開始する前にオヤカタとトウリョー、オークたちが総出で雪を掻き出して軽トラへ、掻き出した雪を邪魔にならない場所まで輸送して捨てるの繰り返し。
作業スペースの確保に大きく時間を割かれてしまっている。
夜間雪の降った日などは、移動と雪処理で半日がつぶれてしまう。
夕食が遅くなるのも、凍結した路面での帰途に時間を食うためだ。
「スタッドレスもチェーンも無いからなぁ。」
慎重に走っても、ノーマルタイヤではどうしてもスリップしてしまい、そのたびに総出で軽トラを押すことになる。
「寒さデ、ケガするもノ、増えてマス。」
オヤカタも現状の厳しさを痛感しているようだ。
シンがいなくなってから言葉の流暢さが消え、スキルも機能しなくなった従魔たちだが、パワーと知識、経験による技術はしみついている。
超絶な精密さや作業速度は失われたものの、ベテラン職人並みの働きをしてくれている。
それでも、木を切り倒し根を抜き整地する、その作業にはかなりの時間を要する。
雪処理のロスは肉体的にも精神的にも大きな負担になってきていた。
(村のインフラ整備と警備に人員を割かれているのも痛いっスね。
っても、クラフト系ゲームのアオイとクリフトはインフラ整備に絶対必要だし、ユーキとスローク、ライアーは実力的にも能力的にも、土木作業より村の警備に向いている。
いや、クマはこっちに欲しいとこっスけど。
マナとマスターも土木作業向きじゃないし、食堂と医療所は他に変えがきかない。
ユーコは・・・いなくていいスね。)
作業が進まないとモチベーションも保ちにくい。
つい愚痴が出てしまう程度に士気は下がっていた。
「それはちょうどいいタイミングだ。」
声をかけて来たのは、今入って来たばかりのクリフトだった。
「帰ってきたって聞いたから探してたんだ。
ようやく村のインフラが終わったんで、明日から街道整備に加わるよ。」
そう言ってテーブルの開いている椅子に座る。
「実は、ライアーのおかげでクラフトが自由に使えるようになったんだ。
で、インフラ整備も前倒しで完了してね、街道整備に合流できる。
村にとって重要な設備になる街道なんだけれど、将来のことも考えてこうしたいんだ。」
そう言ってテーブルに広げられた図面に、ユーシンはこう言わずにいられなかった。
「マジスか?これ。」
そこに描かれていたのは、今まで彼らが必死に作っていた物とはまるで別の、気も遠くなるような街道だった。
**
翌朝からはアオイとクリフトが街道整備に加わった。
サンドボックスゲームの金字塔、アースクラフトをプレイしていたアオイと、建築ゲームの新鋭(?)ビーバータイクーンをプレイしていたうえ、ゼネコン勤務で街づくりのプロ、クリフトが参加したのだ。
そうなるともう、積もる雪もなんのその、工事が一気に加速する。
平らに整地しただけの街道は、村長宅から1Kmほどの地点からリスタートとなった。
村長宅から1Kmというと、みどり村がレベル5に成長した時の外周に当たる。
クリフト発案による、将来を見越した街道整備が始まったのだ。
雪処理も、アオイが行うとひとすくいで1m四方の雪が消滅(ストレージに収納される)してしまう。
すでに木も根も取り除かれた地面は、アオイの手によってすいすいと掘り進められた。
掘り出した土を捨てる必要も無い、掘ったそばからアオイのストレージに格納されていくのだ。
クリフトも掘削能力が高いが、ゲームの仕様のせいで掘削した部分が消滅してしまう。
新しい街道整備では掘り出した土砂の何割かを再利用することになるので、掘削に参加はするがかなり控えめに進めることになる。
ある程度掘り進むと、ユーシンが運び込んだり、ストレージに収められた素材を取り込み、アスクラの作業台で資材を次々に作りだしていった。
その資材をオヤカタとオークたちが配置し、クリフトが固定、調整してゆく。
クリフトが固定、調整することで、アオイの作った素材はアオイが設置した時と同等の強度を持った。
ここら辺は同じクラフト能力と言うことで融通が利いているようだ。
トウリョーはクリフトが使用する資材を集めるため、ゴブリンたちと木を切り倒したりしている。
アオイが手を付けると、何でもかんでも正方形のブロックになってしまうので、クリフトのクラフト能力では素材として使えないのだ。
こうして、ユーシン達が整備した地点までは、彼らが手掛けた期間の1/5という超高速で進行していった。
それ以降も木を切り倒し根を掘る作業にアオイとクリフトが参加することで、進行速度こそ落ちたものの、順調に進んでいった。
(やっぱり、なんかおかしいっスねぇ。)
ユーシンは、黙々と作業に没頭するアオイに違和感を感じていた。
マナから言われてはいたが、やっぱり注意してみておかなければいけないようだ。
以前のアオイなら、手を動かしつつも一時間に一回は文句を言ってくる。
そう感じてからは、アオイに対して前向きな発言をするように心がけた。
特に、シンが復活した後の話を良くした。
彼が復活することはもう確定なんだと言い聞かせるように。
時間をかけて、少しずつ。
話の中で自然に挟むように心がけた。
正直、そんなことで効果があるのか分からなかったが、なんとなく、以前のアオイが戻ってきているように感じ始めていた。
そしてついに、全行程の半分ほどまでが完成した。
**
中央には幅5mの歩行者用の道。
徒歩での来訪が無いとは言えない。
馬車のつてが無い人、資金的余裕が無く節約したい人など、徒歩でも村に来れる手段は作っておいた方がいいからだ。
馬車と歩行者が同じ場所を通るのは、事故の面や衛生面(馬とかの”んち”とか”しっこ”とかね)から避けた方がいいだろうというクリフトの発案だ。
5km毎に休憩用のベンチとトイレを設置してある。歩行者の衛生面とかも忘れてはいない。
将来は水洗にするために排水管などの仕込みは終わっている。
まだ給水手段が確保できていないからボットンだけど。
地下には緊急避難用のシェルターも確保してある。1kmごとにシェルターに入る階段を設置して、魔物の流入や自然災害時に逃げ込めるようにした。
もっとも、完全水没するような事態になったら意味は無いが。
一般的な大雨程度の水害には対応できる排水路も整備済み、そういった細かで重要な設備は、クリフトがいなければ誰も気が付かなかっただろう。
歩行路の両サイドには、一段下がって馬車専用の車道。
両方とも、幅は5mほど取ってある。
大型の荷馬車でも幅は3mを少し超えるくらいだから通行に問題はないだろう。両サイドに分けたのは、一方通行にして往路と復路を分けるように運用するためだ。
往来が増えたら乗り合い馬車の運行を考えてもいいかもしれない。
さらに、両車道の外側には幅5mのメンテナンス兼警備用の通行帯を設置。
開通後は、トラブル回避と魔獣駆除のため定期的に巡回することになる。
故障などで動けない馬車が出たときは、迂回路としても使うことになるので少し広めにしてある。
将来的には魔物除けの魔道具を設置して安全を確保する予定だが、今は所々にデモンエイプの毛皮や干し肉を入れた籠を置いて代わりにしている。
設置型の魔物除けは高いし大きいし、数も手に入らないので当分はこれで乗り切ることになる。
村から40km地点には、街道の周りを大きく切り崩して広場を作ってある。
今は工事用の資材置き場だが、街道が完成した後は利用者が宿泊するための設備を建設することになる。
80Km地点と120Km地点にも一か所づつ作る予定だ。
カブロの話から、道が整備されれば森の入り口から村まで4日ほどでたどり着けるだろうという話だった。
馬車での移動と言っても、長距離の旅では重い荷物や人を乗せて一日中移動し続けられるわけではない。
休憩をはさみながらトコトコと、速度という意味では歩行者とさして変わりない。
時速にして5~6Kmほどだ。
実際、商隊などの護衛は荷馬車を囲んで徒歩で移動することが多い。
日の長い夏場なら、休憩をはさみながら大体50Kmほどは移動できる。
一応日が短くなった時期や、徒歩の移動者のことを考えて40km毎に宿泊地があれば問題ないだろうと、村から40Km、80Km、120Km地点に宿泊のための広場を建設することになっている。
この広場の位置については紆余曲折があった。
30Km毎にして、宿を作って宿泊客から料金を取ったら稼げるのでは?という意見も出た。
ただ、30Kmだとかなり早く宿泊地についてしまうので、もったいないと先を急いで無理をしかねない。
結果、危険や病気、馬車などの故障といったトラブルにつながりかねないと却下された。
逆に、50Km毎でもいいのでは?との意見には、徒歩の往来がいないとは言えないし、荷物を持っての移動ならやはり無理が来て問題が起こるだろうということで40Kmに落ち着いた。
途中、10km毎に道幅を広げて休憩できるようにもしてある。
こういったルールは入り口の料金所で説明するようにしないといけないだろう。
宿泊地へ入ろうとする歩行者は、車道を横切らなければならないので事故防止のため歩道橋も作られた。
冬の雪対策はなかなかに難しいため、冬は往来がほぼなくなる可能性がある。
ソリという手段があるそうだけれど、いずれは雪対策も考えていく必要がある。
元の世界の雪国では、温水を使って雪を解かすシステムがあるが、150Kmもの距離に通すのは無謀だ。
会議では、冬は思い切って閉鎖してしまうか、という話も出ているが、クリフトとしては何とかしたいと思っている。
多少の問題はありつつもようやく折り返し地点。
ここまで順調そのもので、開通までの展望は明るい。
その分現場の雰囲気も明るい。
夕方には、スロークがマスター特製弁当を積んでバイクでやってくる。
軽く食事をとってからは、村をゴールにしたレースの開幕だ。
乗り心地が最悪だと軽トラの同乗者たちからは非難の嵐だが、ユーシンのランクアップのためにも手は抜けない。
いかに道が良く直線の道とはいえ、軽トラはあくまでも働く車。
元より乗り心地なんて想定していないし、荷台にはクッションはおろか座席そのものが無い。
悲鳴の上がる中、ガチのバトルは連日絶賛開催中なのだ。
「ちぃっ!荷台が重すぎる!追いつかねぇ。」
「ちょ、後ろのみんなのことも考えなさいよ!そんなやたらとハンドル切るからみんなひっくり返ってるじゃない!何のために道整備してるのよ。」
本来こんな無茶な運転をする必要はない。
しかし、こうして無茶するたびにアオイが、少しずつ以前のアオイに戻っていくような気がした。
(やっぱりこいつはこうでないと。)
「今日こそは勝つっスよぉお~!!」
「だから、勝つならあんた一人の時にしなさいよ!」
日々元の調子を取り戻し始めているアオイに、ユーシンもうれしくなってくる。
後は、シンが復活したらこの気持ちを伝えよう。
その思いが日々強くなる。
(死んだままなんて絶対許さないっスよ、シンさん。)
**
整備が順調とはいえ、距離的にもそろそろ日帰りは難しくなってきている。
往復にかかる時間が長くなりすぎており、寒さも厳しさを増してきている。
装備で傍観できるスロークや暖房の効く運転席に乗るユーシンやアオイはともかく、荷台に乗るオヤカタ達はひたすら寒さに耐えるしかない。
冬にテントで泊っての作業も困難なので、やむなく街道整備は一時中断することになった。
雪が解けたら、少し先の80km地点の広場に簡単な宿泊所を作る予定になっている。
そこで泊りこんでのラストスパート。
森のあるサンザ王国では、年の切り替わりが冬の終わり。
再開は年明けになるだろう。
工事が中断することで若干不安が点もあった。
アオイの精神状態だ。
ユーシンの奮闘もあってだいぶ元気を取り戻してきてはいるが、いまだに一人になると思い詰めているようなそぶりが見られる。
作業に没頭している時間が減るのは、好ましくなかった。
そんな不安を抱えつつ、街道整備は休工期に入った。




