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閑話:とある異世界者の話

 「タイチョー、ターゲットを補足しました。」

 この世界に来て早数か月、俺はゲームによるチートを存分に生かして、傭兵団を率いている。

 FPSゲーム、バトルエリアⅤ。

 月に一度開催されるオンラインでの集団戦では常に上位ランカーに名を連ねてきた。

 敵を倒すごとに功績値が加算され、その功績地と引き換えに装備や弾丸を手に入れることができる。

 しかも、その装備品は俺以外も使うことができるのだ。

 ゲーム中でも、死んだ兵が残した装備を奪って戦うことができたので、その仕様がそのまま反映されているようだ。

 たまたま魔物に襲われていた商人を救出した事がきっかけで、この世界の傭兵達と共に行動するようになり、やがて彼らを率いることになった。

 元々はそれぞれが単独で活動していた傭兵たちで、所属できる傭兵団を求めつつ日銭を稼ぐような暮らしをしてきたという。

 フリーの傭兵はこの世界ではなかなか生きづらいらしい。

 大きな傭兵団に所属するにも、アピールできる功績でもなければなかなか許可されず、かといってフリーでは日々の仕事にありつくのも容易ではない。

 そんな中、偶然出会った俺の戦闘力と現代日本の知識、ゲームを深く知るために調べた戦術などは傭兵団のリーダーとして望むべき資質だったようだ。

 大手傭兵団のへ加入など淡い望みにすがったり、妥協して先の見通しも立たないような弱小傭兵団へ加入するよりは俺の下についた方が良いと思ったんだろう。

 いくつか仕事をこなしていくうちに、俺も傭兵たちを信頼するようになり、装備品を貸し出して訓練するようにまでなっていた。

 今日は、その装備品を使って挑む初戦だ。

 グレートベアと言う巨大な熊の討伐で、5~6頭の群れをつくるらしいが、今回のターゲットは群れのボス争いに敗れてはぐれた個体で、依頼主の村で狩場としているポイント近くにあらわれたということだ。

 一頭を仕留めるのに熟練の騎士小隊(5~6人)が複数必要になるほどの魔物だと聞いている。しかも、半数は命を失うとも。

 硬いと有名なリルベアも一撃で仕留める威力のアサルトライフルAK-47を全員が装備し、訓練も十分に行ってきた。

 AK-47は、世界で最も使われた軍用銃だ。

 銃としての耐久性がとにかく高く、トラブルが非常に少ない。

挿絵(By みてみん)

 銃の扱いにまだ不慣れな仲間たちが扱う上でも最適だろうと、最優先で功績値をつぎ込んだ。

 「よし、とりかかるぞ。」

 簡単に指示を出すと、各自が持ち場へと離れてゆく。

 けっして長いとは言えない訓練期間だったが満足できる動きだ。

 今回も問題無く完遂できるだろう。

 

    **

 

 デカい。

 ターゲットのグレートベアは、想像をはるかに超えたデカさだった。

 急に不安が頭をよぎる。

 せめてグレネードを準備してくるべきだったか。

 この世界では、大量に功績値が手に入るミッションが発生しない。

 野良での狩りでは効率が悪すぎてそこまで手が回らなかったのだ。

 (あんなデカい化け物に効くだろうか。)

 弾頭はノーマルのまま、いわゆるフルメタルジャケットだ。

 貫通力はそれなりにあるが、あの巨体にどこまで通用するか。

 無理をしてでも、さらに貫通力の高いアーマーピアシングに変更するべきだったか。

 今となってはそうも言っていられないが。

 覚悟を決めると、ハンドサインでGOを告げた。

 タタタタタッ

 乾いた破裂音が響き、巨大な熊の体に無数の弾丸が着弾する。

 「効いてねぇぞ!」

 どこかから叫び声が上がった。

 「ビビってんじゃねぇ!とにかく撃ちまくれ、的がデカいんだ、撃てば当たるぞ!」

 出せる限りの声量で檄を飛ばすと、急所と思える場所に浴びせかける。

 3本目のカートリッジを使い切ったところで、ようやくグレートベアは倒れた。

 「やった・・・やってやったぞぉ!」

 すぐ隣で大騒ぎしだす仲間たち。

 この世界の住人にとっては、グレートベアとは出会っただけで全てを諦めなければならないほどの存在だ。

 「はしゃぐのは後だ!回収始めろ。」

 最初から報酬はあてにしていない。

 ド田舎の村程度が出せる報酬等たかが知れている、目的は、グレートベアの素材だ。

 魔石に皮、頭も好事家に好まれるらしいが・・・。

 「ダメだな、こりゃ。」

 銃弾を撃ち込みまくった頭は損傷が激しく売り物にはなりそうもない。

 討伐の証明として持ち帰らなければならないのが腹立たしい。

 皮も背中の一部を除いてほぼ売り物にならないだろう。

 肝心の魔石でさえ、銃弾によって砕けてしまっていた。

 倒れないグレートベアに対して、急所と思える顔面と胸に集中攻撃した結果だ。

 「まぁ、砕けちまったってもこれだけの大きさだ、しばらく酒代には困らねえよ。」

 そう言って強がっては見せたが、失望感は誤魔化せなかった。

 

    **

 

 グレートベア討伐、しかも死傷者ゼロで。

 この功績は、彼らの予想をはるかに超えて大きなものだった。

 大手傭兵団からのスカウトに入団希望者たちの来訪、貴族や有力者から指名での依頼など、忙しい日々を送っていた。

 彼らの暮らしも日々豊かになってゆき、国内では彼らを知らぬものが無いほどの傭兵団へと駆けあがっていった。

 傭兵団も見習いやらを含めて80人にまで増え、中には家族を持つものまでいた。

 俺もじきにその中の一人になるはずだった。

 団員が100を超えたら結婚しようと誓った女がいた。

 順風満帆、装備も戦力も十分にそろってきた。

 そんな中、ついに俺たちにある組織から接触があった。

 俺たちが活動するリンデール聖王国には、2つの都がある。

 一つは王都リンデール。

 もう一つが聖都リムヴァだ。

 この国の王ですら教会の認可を受けなければ権力を維持できないという、事実上この国の中枢だ。

 中央には荘厳な、と言うか、王城よりはるかに立派な教会があり、全ての信者にとって、生涯に一度は礼拝に訪れたいと願う場所らしい。

 そんな教会から、俺たちの評判を聞きつけたという聖女様とやらが会いたいと言っていると、正式な招待状が届いた。

 まぁ、会ってやってもいいだろう。

 そう思うほど俺たちは天狗になっていた。

 少し冷静に考えればおかしいって気づいたのにな。

 聖都は、神の加護とやらで魔物が入ることのできない強力な結界に守られていて、世界一安全な都市だという。

 もちろん、その結界の外にも町は広がっている。

 結界の中で暮らせるのは、世界でも限られた富裕層と、一部の権力を持つ教会関係者のみってことだ。

 戦うわけでもないし、人々が望んでも入れない場所ならばと、物見遊山で女子供も連れて聖都へ。

 俺たちはまず、結界の外にある宿に案内された。

 なるほど、ここで礼拝の作法とかを叩きこまれるってことか?

 と思ったんだが、特に何事も無く数日が過ぎた。

 ここで何かおかしいと気が付くべきだった。

 ようやく許可が下りたとか言われて、意気揚々と宿を出た。

 結界内は武器の持ち込みが禁止されているってことで武装を預けることになったが、それは仕方のないことだろう。

 通りの左右を白銀の鎧に身を包んだ騎士たちが整列して迎えられ、その中を歩く。

 なんとも気分の良い瞬間だった。

 俺が先頭で門を通ろうとしたまさにその時、激しい光と音が俺の視覚と聴覚を奪った。

 直後に、激しく打ち付けられたかのような激痛が全身を襲った。

 俺は、はるか後方に弾き飛ばされていたのだ。

 「やはりそうか!面妖な力を持つ悪魔ども!人々は騙せても、偉大なる”主”は誤魔化せん!!」

 門の上で偉そうにのたわまったハゲの司祭が叫んでやがる。

 「結界による審判はなされた!裁きを与えよ!」

 ふざけるなよ!

 俺はこの時になって初めて、騙されておびき寄せられたのだと悟った。

 ぐわ!

 きゃあ!

 そこら中から悲鳴と断末魔の声が上がる。

 白銀の騎士たちが切りつけてきた。

 「まて!こいつらはただの人間だ!やめろ!!」

 めいっぱい叫んだ。

 せめてこいつ等だけでもと。

 「やはり吐きおったか!この悪魔め!」

 「ちが、俺は悪魔なんかじゃない。」

 何を言っても通じないというのが、これほど腹立たしいとは。

 そうする間にも次々と、女子供関係なく無慈悲に切り殺されてゆく。

 「俺たちをだましてやがったのか、カトウ!」

 俺の副官だった男、毎日のように似合わない髭を手入れしては仲間たちからバカにされてきたローエン。

 いつも陽気で、俺の言うことにいちいち大きくうなずいていた、親友とも呼べる男が、鬼のような形相で俺を睨みつけていた。

 「やめてくれ、俺は騙されていたんだ!悪魔の仲間なんかじゃねぇ。」

 そう叫びながら首を跳ね飛ばされた男は、最近メキメキと実力をつけてきた若い射手のディータだ。

 生まれて初めて彼女ができたと嬉しそうにしていたバルロが、生まれたばかりの娘にデレデレしっぱなしだったクワイロが、団の経理を一手に引き受けてきた初老のへルネスが、次々と殺されてゆく。

 「くそ、ゆるさねぇ。」

 武器を取り上げられたところで、俺に意味はない。

 ストレージを開放する。

 俺の周囲にずらりと装備が浮かび上がり、その中から愛用の拳銃、ベレッタ92Fを取り出す。

 「うそ・・・本当なの?」

 そう言ったのは、俺と結婚を誓った女、ミーシャだった。

 信じられないようなものを見る目で俺を見ている。

 怒りのあまり忘れていた。

 この力、ストレージは結成当初からの仲間も知らない。

 装備品は俺が、かつての仲間から購入しているのだと説明してひた隠しにしてきたからだ。

 「あなた・・・本当に悪魔だったの・・・」

 後ずさりするミーシャ。

 その顔は蒼白を通り越して、死者のようだ。

 「違う、俺は悪魔なんかじゃない、信じてくれ!」

 ミーシャはその場にペタンと座り込むと、両手で自分の腹を殴り始めた。

 「いや・・・ウソだと言って・・・悪魔の子がこの中になんて・・・」

 え?

 ミーシャ、まさか、俺の子を?

 「ミーシャ!聞いてくれ」

 そう言って手を差し伸べようとする俺を振り切って、ミーシャは騎士の前へと走り出した。

 「殺して!悪魔の子を宿してしまった私をこの悪魔ごと!」

 騎士の前で両手を広げ、自らを殺せと叫んだ。

 「見事なり!汝の魂を悪魔より解き放たん。」

 その一言を発した騎士は、すでに血塗られた剣でミーシャを貫いた。

 「なんだよそれ。」

 ミーシャは、敬虔な信者だった。

 彼女が最後に選んだのは、俺じゃなく神だった。

 腹に激痛が走った。

 先ほどの騎士が、ミーシャを突き刺して捨てたその剣で突いてきた。

 防刃装備は、切っ先数センチで奴の突きを止めていた。

 痛みによって我に返った俺は、再び切りつけようと剣を振り上げた騎士の顔面に向けて拳銃を向けた。

 「悪魔の武器か、卑怯者め!貴様も男なら自らの力で戦ったらどうだ。」

 カッと頭に血が上り、無意識に引き金を引いていた。

 卑怯者だと?

 俺たちを罠にはめ、何の罪もない女子供まで殺しておいてどの口がほざきやがる。

 アサルトライフルAK-47を取り出すと、次々と騎士たちをハチの巣へと変えてゆく。

 ユルサナイ。

 一人残らず殺し尽くしてやる。

  

    **

 

 「まじかよ・・・。」

 緑色の髪という、この世界では完全に浮いた容姿の青年が、薄く開いた窓から惨状を見つめていた。

 「言ったとおりだろう?俺たちプレイヤーは、要するに悪魔によってつくられた人型の魔物なのさ。」

 そう告げたのは、アメコミにでも出てきそうなほどガタイのいい男だ。  

 服を着たままでも分かるほど筋肉で膨れ上がった体は、やはりこの世界では浮いてしまう。

 「俺たちは奴らと、奴らの崇める女神様とやらのために無理矢理召喚されたんだよ、人間だと思い込まされてよ。

 そして、名が売れ始めたらこの罠にかけられて、奴らがパンピーから支持されるための生贄にされてんだよ。」

 緑髪の青年は窓から離れると、ドカッと椅子に腰を掛けて両手で顔を覆った。

挿絵(By みてみん)

 「汚ねぇ・・・。」

 「それが奴らだ。」

 筋肉男が諭すように肩を叩く。

 「俺たちもアイツと似たようなもんでな、ミヤンさんがいなけりゃこの世にいなかった。」

 「あの人、強いんですか?」

 自分たちの外見はゲームのキャラが元になっている。

 自分自身も、スティールファンタジアの主人公をリアルにしたら、と言った外見だし、目の前にいるユータも、アメコミヒーローのような鋼の筋肉と、ハリウッドスター張りのイケメンぶりだ。

 しかし、ミヤンと呼ばれる男は不細工以外形容の仕様が無い、細身の中年男だった。

 とても戦闘向けの外見には見えなかった。

 「あぁ、あの人が本気になったら、俺と弟二人がかりでも手に負えん。

 まぁ、俺たちと同じで、いつでもどこでもってわけじゃないのが痛いところでな、だから仲間を集めてるんだ、俺たちをこんな目に合わせている元凶に復習してやるためにな。

 まぁ、時間はあるんだ、ゆっくり考えてくれ、俺たちはアイツを助けに行くとするよ。」

 そう言って立ち上がったユータに遅れまいと、緑髪の青年も立ち上がった。

 「考える必要なんてないさ。僕も協力するよ。」

 そう言って、腰の剣を抜いた。

 「グロックと呼んでくれ。スティールファンタジアはレベルさえ上がれば面倒な制約なしで戦える、君たちの役に立つはずだよ。」

 

    **

 

 「あぁ~あ、おかわいそうに。」

 グロックたちとは別の一室にも、惨状を見る男たちがいた。 

 「よく言うよ、チクったのミヤンさんでしょ。」

 そう言った男は、ユータとそっくりの大男だった。

 「人聞きが悪いねぇアキ君、チクったんじゃなく、噂話をしていただけだよ。

 それを聞いた誰かがチクったんだろ。」

 そう笑みを浮かべた男は、ミヤンと呼ばれた。

 額と顎が異様に突き出ており、横から見ると三日月のようだった。

 薄い頭髪は無理矢理油で固め、いわゆるバーコードハゲ状態になっている。

 「あれだけ怒りまくれば引き入れるのは楽そうだな、俺、銃って一度撃ってみたかったんだ。」

 アキはバキボキと指を鳴らして、真っ白な歯を見せて笑った。

 「焦るなよ。アイツの装備は魅力的だがね、ジックリと信用させてからだ。

 俺の無敵モードは条件が面倒だし、君たちも今は情報収集のために雑魚にしかなれないんだ、当面はあいつと、なんてったっけ?ユータが勧誘してるやつ。」

 「あ~、何でしたっけ、スティールファンタジアの・・・マシバ?・・・タシバ?そんな感じだったと思うんですけど。

 なんか、バカっぽくていまいち使え無さそうな感じだったけど。」

 天井を見上げて思い出そうとしていたが、早々に諦めた。

 「使いようだよ、バカなら鉄砲玉でも、囮にでも使えるだろうよ。」

 「やっぱミヤンさん怖え~わ。」

 「まぁいい、そろそろ動くぞ、アイツがやけになって自殺行為に走る前に確保して脱出だ。」

 同じ境遇のプレイヤーを狩る。

 楽に強くなるための一戦を超えられる者はそうそう見つからないが、こいつには期待できそうだ。

 ミヤンの頭の中では、すでにどうやって装備品を提供させようかというシミュレーションを始めていた。    

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