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030話:依頼

 寒さで目が覚めてしまった。

 外に出ると、息が白い。

 いつの間にやら、冬間近って感じだ。

 秋の味覚を楽しむ余裕もなかったか、残念。

 まぁ、マツタケや栗がこの世界にあるのかもわからないけど。

 なんか、無性に食いたくなってしまった。

 魚も食ってないしなぁ。

 近くに川もあるみたいだし、落ち着いたら釣りにでも行くかな。

 落ち着いたら・・・いつか落ち着けたら良いけど。

 それに、やっぱり魚も魔物化してるんだろうし。

 はぁ、ジャンクフードにまみれていたくせに、なんで焼き魚やらが恋しくなるんだ?

 それに、どっちかって言うと海の幸のほうが好きだったと思うんだけど・・・海は遠いんだろうか。

 サンマにアジ、鮭に鯖。

 あぁ、食いたいなぁ。

 海の幸も当分無理そうだから、余計に恋しいよ。

 悲嘆に暮れながら早朝散歩を楽しんでいると、すでに活動を開始している人がチラホラ。

 昨夜あれだけ飲んだのに、ハンターたちはすでに狩りの準備を始めていた。

 持ち込んだ道具の手入れをしているみたいだ。

 挨拶がてらマルク(ヒゲのハンター)に声をかけてみた。

 この程度の社交辞令は、長い労働生活でかろうじて身につけられた、唯一と言って良いコミュ力だ。

 その先には進めないんだけどね。

 幸い、昨夜の宴会のおかげかマルクの方から色々話してくれた。

 とりあえず解体小屋ができるまでは周辺の魔物の調査や狩り場の選定を中心に活動することになるって言っていた。

 ハンターにとって、活動地域の情報は命なんだって。

 たしかに、安全地帯が近いとはいえここは強い魔物が生息する森の奥深くだ。

 しかも、普段これほど深く入ることがないだけに、彼らにも未知の魔物だっているだろう。

 しっかり下調べをして万全の状態を作ることも重要で、時間を惜しまずつぎ込むんだそうだ。

 犬(にしか見えないけど、バルデンっていう魔物)の世話に掛かっていたルッツとも話してみたけれど、どうやらマルクたちと出会った切っ掛け、俺の大失態はシッカリ伝わっていたらしい。くそ。

 世間話のはずが、しっかりと調査をして、安全を確保するのがプロのハンターなんだと、いつのまにか説教モードにシフトチェンジしていた。

 どうやら説教癖はおっさんハンターたち共通の特徴のようだ。

 朝から思わぬダメージを受けてしまった。

 いかん、お仕事お仕事。

 ソンチョー宅のキッチンに入る。

 朝食は軽めに、麦粥にしよう。

 この世界基準では十分すぎるほどに美味い飯、なんだけど、向こうを知っている身としてはなぁ。

 やっぱり、スキル頼りじゃなくちゃんと料理のできる人がいてくれたらな。

 「「それは良い考えですね。」」

 急に後ろから声をかけられた。

 心臓がバクバクしている。

 クソ悪魔め・・・完全に不意を突かれた。

 おっさんの説教直後にクソ悪魔なんて、最悪の朝じゃないか。

「用はないけど。」

 無駄だろうけど無表情を装う。

  「「いえいえ、とても美味しく頂きましたよ。」」

 やっぱり無駄だった。

 「ヒマクソ悪魔め。」

 「「ひどいですねぇ、朝食後の優雅なひと時をかなぐり捨ててまで馳せ参じたというのに」」

 相変わらずのオーバーアクションで悲しみを表現する。

 が、ただのポーズだと分かっているのでかけらも同情しない。

 「冷やかしに来るくらいならそのままユーガナヒトトキとやらを堪能してろよ。」

 俺も言うようになったな。

 相変わらず顔が見えてるし、同じ個体だと認識できてるのに全く覚えられない。

 不快さしかない顔面はそのままだ。

 「「今回は、とても耳寄りな情報をお持ちしたんですよ。」」

 「怪しいからパス。」

 にべも無く告げると回れ右して立ち去ろうと、

 「「ちょ、待ちなさいって!まったく、あなたといい、あの乱暴者といい、どうしてこう、私への敬意というものが無いのか。」」

 あるやつがいるならぜひ紹介してほしいものだ。

 「「あなた方にとって都合の良い者達がいるのですが、どうにも要領の悪い方々でして。

 たぶん、明日には死ぬでしょう。」」

 そう言うと、チラチラとこちらを見る。

 その様子がが何でわかるんだよ!俺は回れ右しているからクソ悪魔は背後なのに!

 シナを作るな気色悪い!!

 イラつく!ホントこいつイラつく!

 って心境も見透かされてるんだろうけど、腹が立つからそんなそぶりは見せてやらない。

「「あなた方なら間に合うでしょうねぇ。

 場所は、分かるようにして差し上げました。

 とてもお買い得ですよ。」」

 あ~、もう!

 何か投げつけてやろうと振り返る。

 「こっちもいろいろ忙しいのに余計な・・・って、いねーし!」

 ユルサン、クソアクマ。

 ・・・仕方ない、一応みんなに話すか。

 見殺しもなんかいやだし。

 でもそれが分かってて振ってきた話に乗るのも嫌だし。

 も~、存在自体が嫌だし!

 プリプリして朝食の準備。

 イカン、ちょっとしょっぱかったかな。

 感情が味に出てしまった。

 朝食後の作業を待ってもらって、先ほどのやり取りを説明した。

 「俺らなら間に合うってことは、軽トラ使えってことスかね?」

 ユーシンが腕を組んでしかめっ面をする。

 クソ悪魔の思惑がわかってしまった自分に苛立っているようにも見える。

 「それにしても怪しいっスよね、死にそうだから助けに行けって、言うか?クソ悪魔が。」

 それなんだよね。

 明らかにおかしいよね。

 絶対何かあるよね。

 無視した方がいいよね。

 無視できないんだけどさ。

 だから腹立つんだよね。

 「死にそうなやつの前に現れて、絶対届かない所ににポーション置いてもがく姿を喜んで見てる、のが似合うな。」

 スロークさん、それちょっとひどい・・・いや、ひどくないな、ヤツはそーいうヤツだ。

 「でも、行かないわけにはいかないよね。」

 ユーキの一言でみんな うーん とうなってしまう。

 迷惑なヤツだけど、わざわざ嘘を言ってまで罠にはめる意味がない。

 むしろ、ギリギリのタイミングで伝えてきて、慌てる様子を笑って見てる、って方が似合ってるな。

 ここでウダウダやってると本当に間に合わないかもしれない。

 間に合わなかったらそれで、後悔する様子を見て楽しんでいそう。

 あ、なんか急にしっくり来た。

 「行くなら最大戦力で行った方がいい。」

 スロークはもう決めたようだ。

 さすが男前のオッサンは違う。

 確かに行くべきなんだけど、村も外部から滞在者を受け入れたばかりだ。

 最大戦力=ソンチョー以外の4人ってことは、ここはソンチョー一人に負担がかかってしまう。

 せめて数日前か後だったなら、何も考えずに飛び出せるのに。

 「ここは僕が何とかするから、速い方が良いんでしょ。」

 そんな俺の不安に感づいたのか、ソンチョーが背中を押してくれた。

 「無理はしないでね。と、場所はわかるの?」

 ええ、分かりますとも。

 なんせ、ずっと見えるんだよ。

 うっすらと、手招きする奴の姿が!

 そのことを告げたときの、みんなが浮かべた憐れみの表情は一生忘れまい。

 ソンチョーの同情を含んだ励ましに見送られて村を出る。

 今回の件で初披露になるけど、俺を含め皆装備を一新している。

 元々は、第一貯蔵庫にはたいした装備は入れていなかった。

 しかし、バラされて詰め込まれた拠点の資材の中に、宝物庫に展示してあった装備品のいくつかも紛れ込んでいた。

 今のレベルで装備できるものとしては結構な良装備があったのは僥倖だった。

 革の全身鎧に鋼の補強を埋め込んだ、その名もあざむく鎧。

 革鎧に分類され、金属鎧特有の騒音が出ないため隠密行動へのペナルティが無い、それでいて防御性能は金属鎧並みという。

 防御魔法も付与されていて、物理にも魔法にも耐性のある使い勝手の良い鎧だ。

 武器も強化に強化を重ねた逸品。

 強化しすぎて耐久性が下がってしまったのが難点だけど、こまめに修繕すれば問題無い。

 100レベル台のモンスターにも通用する攻撃力が魅力のロングソードだ。

 ユーシンは、いつものツナギではなくオリヒメ作の長ランに身を包んでいる。

 裾の長い学ラン風のコートだ。

 染める手段がないので白いままだけど、ヤンキー漫画でおなじみの特攻服っぽい感じになっている。

 スレッドスパイダーの糸を細かく縫い付けることで、見た目以上の防御効果が期待できる。

 ユーシンいわく、ゲームキャラの狂弥と似た格好をすることで気合が乗るし、コンボもつながりやすくなる気がする、とのことでオリヒメに頑張ってもらった逸品だ。

 さすがに背中と正面にデカく施されていた刺繡の再現までは間に合わなかったみたいだけど。

 ユーキにはまだサイズの合う装備が無かったので、防御力上昇や毒等状態異常への抵抗力を高めるアクセサリー類を渡してある。

 気休め程度だけど。

 ユーキ自身には安全な場所に引いていてもらって、前面で戦うのはアオン達だから大丈夫だろう。

 ホブゴブリンになって身長の伸びたゴンには強化した革鎧と、命中補正の付いた弓を。

 相手が何かはわからないけれど、もうスリングでは通用しないだろう。

 クマとアオンには・・・残念ながら使えそうなものが無かった。

 第三貯蔵庫が開ければ騎乗用モンスター装備を入れてあったんだけど。

 スロークも、レベルが上がって使えるようになったという暗殺者専用の装備に替えている。

 確か、ダンジョン産のクリティカル率がかなり高い片刃の剣と隠密性向上重視の革鎧だ。

 強化していると言っていたから、さらに性能アップしているんだろう。

 

 全員軽トラに乗り込むと、救出に出発した。

 口を開いたら舌を噛みそうな悪路を2時間ほど進むと、前方に反り立つ崖が見えてきた。

挿絵(By みてみん)

 そこに、岩壁に開いた穴に前足を突っ込む、3mはあろうかという巨大な熊の魔物、グレートベアを発見した。

 「あ~、こいつを倒せってことみたいです。」

 手招きしていた悪魔が、熊を指さしてファイトポーズを決める。

 ムカつく・・・目的地に着いたんだからとっとと消えろクソ悪魔。

 「あの中に助ける相手がいるってことスかね?」

 ユーシンの武器はいまだにバールのままだ。

 本人が気に入っちゃってるから無理に変えさせるのもって、そのままだった。

 「とりあえず自分は隠密でクリティカルを狙うから、気にせず仕掛けてくれ。」

 そういうと、スロークの姿ががすぅっと消えた。

 暗殺者街道まっしぐらだな。

 ユーキもゴン、クマ、アオンを呼び出す。

 俺は、と、お決まりのパターンで行くかな。

 グレートベアの足元にアイストーン。

 まずは機動力を削るのだ。

 「ゲッ!」

 グレートベアの後ろ足を貫くはずの氷のトゲは、脆くも砕け散ってしまった。

 穴から前足を引き抜いて、こちらを振り向くと、ゆっくりと立ち上がる。

 デモンエイプ並みの威圧感。

 素早くはなさそうだけど、そのかわり堅そうだ。

 ユーシンにボディプロテクション、スピードアップ、パワーアップ、ディフェンスアップにオーラウエポンを矢継ぎ早にかけていく。

 隣ではユーキもアオンたちに補助魔法を次々とかけている

 すぐにアオンがグレートベアの気を引くためにとびかかっていった。

 「サンキューっス、シンさん。」

 補助をかけ終わると、ユーシンが飛び出す。

 フレイムアロー

 炎、というより、高熱の矢をグレートベアの後ろ足に放つ。

 現在単体で撃てる最大威力の魔法だ、これが効かないなら魔法でダメージを与えるのは難しくなるけど。

 高熱の矢は、素早く反応した前足の一振りで脆くも砕かれた。

 さすがに無傷ではなかったけど、いやがらせ以上の効果は無さそうだった。

 そこにユーシンが飛びかかって、上段からバールを振り下ろす。

 受けようとしたグレートベアの前足にヒット。

 メキィっという嫌な音が響いた。

 そのままバールを支点に宙返り、サマーソルトキック、とでもいうのだろうか、大きく円を描いた右足がグレートベアの頭部に突き刺さる。

 止まることなく右回転すると再び顔面に回し蹴りからのバールでの打撃。

 初めて実戦でユーシンの4コンボが見れた。

 特攻服もどきのおかげ?

 グアオォオオォオオ!

 頭から血をまき散らしながら咆哮を上げ、巨大な前足がユーシンを襲う。

 そうはさせない!

 剣を抜いて駆け出す。

 以前の量産品とはわけが違う、貴重なアイテムと資金、時間を投じて強化した剣だ。

 膝付近に切りつけると、赤黒い血飛沫が勢いよく飛んだ。

 くず折れるグレートベア、すかさずアオンが喉元にかみついて防御を崩す。

 もがくグレートベアの心臓めがけて剣を深々と突き刺した。

 圧勝?ウソ。

 と思ったら、少し離れた場所からズゥウン、と地響きが。

 「気をつけろ!5匹はいるぞ!!」

 スロークの声、グレートベアが単独でないことに気が付いて、一人で1匹を仕留めたようだ。

 剣を引き抜くと、俺自身にも補助魔法をかけていく。

 この剣なら近接でも十分戦える。

 そんな自信を持てた。

 木を薙ぎ払い、怒りに任せて迫ってくるグレートベアに対峙する。

 上段に構えて、スキル”兜割り”を発動。

 噛みつこうと突進してくるグレートベアの頭へ振り下ろす。

 ゴリッ

 かすかな手ごたえで、グレートベアの頭は真っ二つに割れた。

 あっ。

 倒したけれど、いや、倒したからか、突進する勢いそのままに、事切れたグレートベアの巨体がつっこんできた。

 ぐふぇっ。

 メキィッ!

 まさに交通事故。

 巨体と崖に押しつぶされて、危うく圧死しかけた。

 あぁ、これ恥ずかしいやつだ。

 間抜けすぎる。

 しかも・・・最悪だ!完全に巨体と崖に挟まれて身動きが取れない。

 俺が情けなくも血まみれクマとランデブーしてる時、絶好調のユーシンはもう一体を圧倒していた。3コンボ、4コンボを絡めつつ、流れるような動きでグレートベアを翻弄して、ジワジワとダメージを積み重ねている。

 武器が良ければ倒せていてもおかしくない。

 アオンとクマも、連携してもう一体を相手にしている。

 クマがグレートベアの攻撃を受け止め、アオンが爪と牙で無数の傷を作っていく。

 積極的に倒しに行く、というよりは、隙を作ろうと時間を稼いでいる感じの戦い方だ。

 「大丈夫ですか?」

 ユーキとゴンが助けに来てくれた。

 いや、お恥ずかしい。

 なんとか二人がかりで引っ張り出してもらった。

 「いや、調子に乗ってしまったよ。」

 さて、助太刀に行かなくて・・・・は・・・あぁあ!

 剣・・・が!

 真ん中からポッキリ。

 確かに耐久低めだけど!

 それでも修繕無しで100レベルのモンスター30匹は余裕で狩れたのに!

 とんでもない時間と費用とアイテムをつぎ込んだのに!

 「ぽっきり・・・」

 一瞬、何もかも忘れて呆然としてしまった。

 いかん、惚けている場合じゃない。

 と、立ち上がるのと、ユーシンのバールがグレートベアの頭を砕くのがほぼ同じタイミングだった。

 ズゥンと地響きを立てて倒れたグレートベア。

 数泊遅れて、最後の一匹もスロークのクリティカル攻撃で沈んだ。

 なんか、ひとり恥ずかしい。

 

 尊い犠牲はあったが、無事グレートベア5匹の討伐は完了した。

 あぁ、これでまたしばらくは量産品か。

 う~ん、良い武器持つとみんなすぐ無くなるな・・・俺は量産品で我慢しろってことか?そういう星の元に生まれたのか?

 ・・・全部クソ悪魔のせいだ、そうに違いない。

 はぁ・・・ショックがデカすぎる。

 気を取り直して魔物の解体をしよう、クマの肉はクセがあるっていうし、硬そうなので今回は少しだけお試しで。

 魔石と毛皮を剥いだら終了だな。

 その間、隠密スキルでスロークが洞窟内を調べている。

 無事だといいけれど。

 グレートベアの魔石はデモンエイプより小ぶりだった。

 実際、レベルや装備が上がってるとはいえ思ったほど強くなかったな。

尊い犠牲を払いはしたけど・・・あぁ、これ引きずりそうだ。

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