029話:カブロ
インフラ整備やゴブリンたちの生活改善に明け暮れたみどり村一同。
そうこうしているうちにやって来てしまったD-DAY。
カブロ一行の到着だ。
「いやぁ、驚きましたよ。あんなに整地が進んでいるなんて。」
来訪早々感嘆の弁を述べるカブロ。
普通なら1本根を掘り出すだけでも大変な労力だからね、短期間に10Km以上も根が掘り起こされて土を固められていたら驚くのも無理はない。
その上入り口付近には立派なログハウスに小屋、井戸まであることに目を白黒させていた。
いやね、俺が良く読んでいた異世界物なら、たぶん今頃は立派な城塞都市でも出来上がっていそうだけどね。
今回カブロが連れて来たのは、カブロの弟子にあたる商人のリゲルと、前回同様護衛の5人、そして・・・。
「ゲッ!」
思わずユーシンが声を上げるのもむべなるかな。
「ああ!おまえら。」
カブロが連れて来た腕利きハンター、その中の2人は、かつて俺とユーシンを説教した、あの二人だった。
「おや、お知り合いでしたか。」
意外そうなカブロ。
「あの時はお世話になりました。」
一応お礼を、あの時は夜にキャンプ地を出発する手前、彼らに見つからないよう逃げるように出たのでなんだか気まずい。
「急にいなくなったから心配してたんだが、無事で何よりだ。」
実年齢では年下だと思うけど、ずっと大人な対応に恐縮してしまう。
そう言えば、名前すら聞いていなかった。
何とも失礼な話だ。
改めてあいさつを交わして、自己紹介。
あの時助けてくれた、ヒゲのある方がマルクで無い方がルキ、その知り合いでよくチームを組むというスキンヘッドでガタイのいいベルンともじゃ髭のカストール。
3頭の犬を連れた細身のルッツとチームのラング、トール。
以上7人のハンターと、大工のギリョウ、リュカの2人が滞在者として同行していた。
まさかこれだけ立派な家ができているとは知らずに、建設用に2人の大工も連れてきていたのだ。
「驚きました、すでにこれほど立派な家をご用意いただけているなんて。」
そりゃ、働き手を迎えるんだから家位当然でしょう。
「てっきり、当分はテント暮らしだと思っていたんだがな。」
ハンターたちは大いに喜んでくれたよ。
「初めて見るが、何とも面白い作りだな。
これなら従来の工法より早くできるだろうが・・・本当に半月前は何もなかったのか?」
しきりに家の作りを見ながらギリョウがカブロを問い詰める。
「本当ですよ!これだけじゃなく、さっき通ってきた道だって、とても信じられません。」
「ふむぅ・・・やることが無くなっちまったな。」
トイレを見に行ったリュカが戻ってきてボヤいた。
「それなら、できれば解体小屋が欲しいな、肉もいるってことだから、この小屋だと少し小さすぎるし、解体のための吊り機やら作業台も欲しい。」
小屋を見てきたマルクが申し出てくれた。
「それなら、この子たちの小屋も欲しいですね。」
ルッツが犬たちをなでながら追加注文だ。
「よろしいでしょうか?」
カブロがソンチョーに許可を求めたが、もちろん即決でOKだ。
「この仕切り内ならどう使っていただいても問題ないですよ。
木材は必要であれば伐採していただいても、こちらで伐採してあるものを使っていただいてもかまいません。
ただし、村に入ったとき気が付かれたと思いますが、安全域の外へは出ないようにお願いします。」
村の境界に存在するらしい結界?というのか、障壁とでもいうのか、そこを通過するときに若干の違和感があるのだ。
そこを出ると、魔物に襲われる可能性が高い、ということだ。
ハンター用に仕切った土地は結構広い。
まだ伐採が済んではいないが、拡張された村の北側、街道へ通じる通りの西側全て。
通りから見て、幅25m、奥行40m以上ある。
いずれは作業場などをまとめる為の予定地だった場所だ。
「これなら鍛冶小屋だの加工場だのもできそうだな。
おい、カブロ、ケンズたちにも声をかけろ!道具や材料作るのに、いちいち町に戻ってられん、ここで作らせろ。」
かなりの無茶を言うギリョウ氏、ってかカブロさん呼び捨てなのね。
「ええ?!そんなの無理ですよ。
第一、鍛冶小屋ができる前に作業終わっちゃうんじゃないですか?」
と、ひと悶着あったが、どうやらギリョウさんはここに住み込むつもりらしい。
「どうせサンサテに戻っても、もう作るもんないしな、細かい修理で日銭を稼ぐよりゃ、ここで一から家建ててた方がよっぽど性に合うわい。
ここの工法も気になるしよ。」
ニッカリ笑顔のリュカさんも完全に居座る気だ。
いや、いいんだけどね、本業の大工さんにいてもらえれば、村作りもずっと楽になるし。
ハンターたちはさっそく自分の部屋を決めたようで、すでに荷解きを始めている。
大工達との悶着は、カブロさんが一応は相手に話してみるということで決着したようだ。
そして、カブロたっての希望だった守護神像のもとへ。
といっても、村に入る前からソンチョー宅の前に設置された天使像は見えていたんだけどね。
チラチラとカブロが落ち着かないので先に済ませることにした。
「こちらが、この地域を魔物から守る御使い様なのですね。」
涙を流して感激するカブロさん、よく見るとマルクやギリョウ達まで目を潤ませている。
さすが三大残念の一つだ、見た目だけは何とも神々しい。
「信じらんねぇ・・・今朝ひっかけた手の傷が、治ってやがる。」
「俺も、長年苦しんでる肘の痛みが和らいでる。」
げ・・・
「あぁ、やはりすさまじい力を秘めておられるのですね。」
ゲームじゃあ初心者以外役に立たない弱すぎる回復効果も、魔法そのものが珍しいこの世界ではこれほどありがたがれてしまうのか。
これはまずかったかな。
「皆さん、この守護神像に何か起これば大変なことになりますので、くれぐれも内密に。」
すかさずのフォロー、アザッス、ソンチョー。
「守護神像の効力はあくまでも魔物をはじく結界なので、回復などの効果は副産物です。それほど強いものじゃないですから、ケガにはくれぐれも気を付けてください。
かすり傷程度なら治りますけど、大けがや毒、病いは治りません。」
一応言っておかないと、ケガが治るからとムチャされたら大変だ。
その後村を案内して、ゴブリン(トウリョー)、オーク(オヤカタ)とも顔合わせを済ませた。
流ちょうに話せるものはまだ少ないので、何かあれば二人か俺たちに言ってほしいと使えた。
「しかし、結構な大所帯なんですねぇ。」
カブロには一応保護のため合流予定だといってあったけれど、すでにゴブリンがこんなにいるとは思わなかったんだろう。
「デモンエイプの影響で戦えるものがほとんど犠牲になってしまったそうで、技術協力とか悠長なことは言ってられないと判断して一度に受け入れたんです。
でも、思っていたよりずっと理性的で安心しましたよ。」
とソンチョー。
カブロはハンターたちへもしっかり話を通してくれていたようで、ゴブリンたちへの忌避感も感じられない。
そう言う人たちを選んだと言っていた。
一安心だ。
ふむ、今夜の歓迎会では秘密兵器を使ってみるかな。
ぬふふふ、失敗するかもしれないし、簡易貯蔵庫でコッソリと作っていたのだ。
昨夜試してみたらなかなかの出来栄えだった。
一通り説明を終えると、干し肉や魔石の販売、足りない日用品の購入などを済ませる。
なんせ、いきなりの大所帯だ、今回の取引では一時しのぎにしかならない。
次回用に日用品などの発注もした。
特に砂糖だ。
なぜかガチャにも無い砂糖。
白い砂糖はかなりの高級品で、王都にまでいかなければ入手できないという。
この地域で手に入るのはせいぜい黒砂糖、それでもかなり高額だ。
そもそもこの世界にはサトウキビが無い。
シュガーツリーと呼ばれる木の樹液がサトウキビの蜜と酷似していてそれを加工しているのだが、森の奥深くにしか自生していないため取りに行くのも命がけ、護衛や魔物除けなど、費用も掛かるし一度に運び出せる量も多くない。
当然とてつもなく高価なのだ。
種や苗を持ち出そうにも、ほとんど生態がわかっておらずどれが苗なのか、種なのかもわからない始末だ。
というわけで、ダメもとで頼んでみた。
さすがに即答はできないと言われたけど、できれば手に入れたいものである。
夕食兼歓迎会は当然外では食べられないもののオンパレードで、大人数でもこちらの負担が少ないもの、BBQで行くことにした。
どうせだからみんなでやろうというソンチョーの発案で、ゴブリンも従魔たちもユーキのモンスターも全員揃っての歓迎会である。
ソンチョーたちがこの数日教育していたゴブリンたちの吸収力はすさまじく、すでにみんな片言ではあるけど話すことができるようになっていた。
わずか数日で。
早くね?
何かチートでも働いてるのか?
と、思っていたら、
「実は、ゴブリンたちに色々教えているうちに、突然セカンドゲームが起動しましたって、自動音声みたいなメッセージが聞こえたんだ。」
とソンチョー。
そうしたら、突然クソ悪魔が現れて、午前中にやっていたゲームが一緒に取り込まれたって一言だけ言って消えたらしい。
説明が適当になってきてるな、アイツ。
あの日の午前中はゲームじゃなくて、リモートで家庭教師のバイトをしていたそうなんだけど、どういうわけかそれがゲームと誤認されて取り込まれていたらしい。
”生徒に教える”という行為がトリガーになるらしく、教えたことがどんどん吸収されていくらしい。
とんでもないチート授業だ。
あぁ、それにしてもいい加減なやつだなクソ悪魔。
ゲームですら無いじゃないか、いったいどれだけ適当な仕事したんだよ。
今回は助かったから感謝しておくけど。
いや、間違い、感謝なんかしてやらん。
とにかく食事だ食事。
石を箱型になるように積んでかまどを作る。
火が漏れないように水と枯れた草を混ぜてこねた土で隙間をふさぐことも忘れない。
大人数だから何か所も、ゴブリンたちに手伝ってもらいながら準備する。
長い鉄串、これも資材から太い針金を、かまどに渡せるくらい長く切っただけの物だ。
肉や野菜を豪快に刺していく。
食材は中央付近にテーブルを出して、まとめて置く。
好きなものを自分で取って焼いて食べてもらうという立食形式だ。
手抜き手抜き。
味付けは塩コショウの単純なものと、有りもの素材で作ったタレだ。
醤油、蜂蜜、油(牛脂)、塩、コショウ、ラサの実のすり身を混ぜただけ・・・醤油が足らんので塩多め。
砂糖とかニンニク、ショウガ、みりん、ゴマがあればいっちょ前の焼き肉のタレが出来るんだけどな・・・油も牛脂だし、似ても似つかないけどご愛敬だ。
一応何度も味見して、まずくはない程度には調整した。
今回持ち込んでもらったミードは早々に貯蔵庫に移して魔素抜き中、元からある在庫が切れる頃には魔素抜きも終わるだろう。
秘密兵器はいつ出すかな。
食事が始まると初見さんのいつもの光景、ゲテモノを見る脅えた顔だ。
恐る恐る串を取ってかまどに置く。
ふふふ、肉が焼ける臭いが腹に直撃だろう。
すでにうまいことを知っている村人に続いてカブロたちもガブリとがっつく。
その光景を見た初見さんたちも、意を決したように一口。
後はもう、何も言うまい。
魔素抜きミードも瞬く間に消費されていく。
そろそろ出すか?秘密兵器。
ラサの実で作った果実酒だ。
ワインの作り方を真似してみた。
向こうでも作ってみたかったけど、日本では酒造法とかいうのがあって違法になっちゃうんでできなかったんだよね。
法に触れない低アルコールの物じゃ、つまらないじゃない?
完熟させた魔素抜きラサの実を、よく洗った手でつぶして樽に詰め込む、実は洗わないのがミソだ。自然の酵母は皮の外に付着しているらしい。
本当はこの段階は瓶とかに入れるのがいいみたいなんだけどね。
無いからいきなり樽で作る。
足で踏む・・・のはやらないよ、具がおっさんの俺がやってもなんか嫌じゃない?
オッサン成分が溶け込んでるみたいでさ。
しっかり手で丁寧に潰しましたとも。
蓋を乗せる程度にして第一貯蔵庫へ、しっかり閉めないのは、発酵して出た炭酸ガスで樽が破裂しないようにだ。
そのまま一週間、たびたび温めながら発酵を促す。
簡易貯蔵庫は魔素抜き用に冷やしているので使えないからね、開放されてよかった。
余っている毛皮を樽の周りに巻いて、酢を使い切ったペットボトルにお湯を入れて湯たんぽのように樽の中へ入れて保温する。
日に3回ほどかき混ぜて、浮いた皮や種などにカビが繁殖しないように注意しながら育てていく。
本当は35度くらいで安定させて保温できればいいんだけど、無理なので炭酸ガスの状態見ながらテキト―に・・・ドキドキしながら様子を見ていたけれど、一応うまくいったようでよかった。
新しい樽に清潔な布でろ過して絞る。
皮や種はもう不要だ。
そしてそれを16度くらい、と言っても計りようがないので、冷えすぎないように2週間。
マロラティック発酵とか言ったっけ?ブドウじゃないからできるかどうかわからないけどね。
それに確実に発酵を進めるには、乳酸菌を入れるんだったかな・・・売ってるはずも無いから一応やるだけやってみた。
これやらなくてもワインになるけど、酸味がきつくなるらしいんだよね、やることで酸味がまろやかになる。
らしい。
成功すればね。
どうせ寝かせるのだから試してみた。
成功したのかすらわからなかったけど。
後は、ふたをしっかり閉めて涼しくして寝かせる、熟成だ。
熟成は簡易貯蔵庫で1週間、実時間だと2週間程度必要だけど、試しに飲んだらなかなかの出来だった。
初めてにしては十分だ。
ということで振舞ってみたが・・・。
反応上々、というか・・・おいおい待てよ、マテ・・・マ・・・
樽いっぱい作ったラサの果実酒、あっという間に無くなってしまった。
「素晴らしいです!これは購入することはできるのでしょうか!」
おまえはそれしかねーのか!カブロよ。
そうか、商人だったな。
「ワハハハ、こいつはいい!もうミードなんて甘ったるい酒は飲めんぞ。」
「シンサマ、コレ、サケ、ビミ。スゴイ。」
マルクにゴブリンまでもが絶賛してくれたのはいいけどね・・・モウナイノヨ。
「これもいいけど、ビールが飲みたくなるな。」
「まさかシンさん!」
大人組のスロークとソンチョーが期待の目を向けてくる。
が、さすがに無理です。
だって、作り方知らないから。
麦芽を茹でて麦汁作って、ってところまでしか。
大麦もホップも無いしね、酵母、は、酵母ガチャでいつか出るかも?
そんなこんなで宴会は夜中まで続いた。
ゴブリンたちは早々にリタイヤして寝てしまっている。
まぁ、そうだよね、酒自体めったに飲むことも無かろう。
酒の力を借りてだけど、ゴブリンとハンター、職人たちはすっかり打ち解けたようだ。
エグみを取る秘術はゴブリンががもたらしたとしているし、カブロが魔物を頭から拒絶しない人選をしてくれたようだからね、人間側からの忌避間はあまりなかった。
けど、ゴブリン側からはやはり人間は恐ろしい存在だったようで、一見友好的にふるまってはいても、歓迎会が始まってしばらくは体が震えていたり、顔がこわばっている者が少なからずいた。
酒の力と、片言でも話せるようになったから意思の疎通ができて、同じ場所で飲み食いして、そんなこんなでゴブリンたちの恐怖心も徐々に薄れ、宴会終盤ではすっかり取り払われたようだ。
まぁ、こんな世界だから年齢制限もあるまいと、ユーキ、ユーシンも酒を試してみたようだけど・・・二人にはミードは甘すぎ、ラサの果実酒は渋すぎたようだ。
うん、酒を覚えるのには最初はビールからだよね。
いつか作れるようになったらいいな。
果実酒も皮、種入りで発酵させたからちょっと渋すぎたか。
次は白ワイン風に、果汁だけで作ってみるかな。
あ、ミードも果実酒もコールドで冷やせばもっとうまく感じたかな。
失態だ。
俺もちょっと飲み過ぎた。
とはいえやることはやらねばならぬ。
火の始末をして、串の回収、まとめて水をはった樽に入れて明日洗おう。
魔素抜きしていたミードも簡易貯蔵庫から回収して地下の貯蔵庫に入れる。
ここにコールドかけて冷やすのも面倒になってきてるんだよな。
スロークと手分けしてやってるけど、魔道具とやらで何とかならんのかね?明日カブロさんに聞いてみようかな。
オリヒメが手伝ってくれてるけど、さすがに眠くなってきた。
カッコつけずにみんなに手伝ってもらえばよかったかな。
長屋に戻るとベッドに一直線、そのまま眠り込んでしまった。
とりあえずは大成功ってことで。




