023話:再会
あ~なんだ、ショックから立ち直れないまま10分近くボーっとしてしまっていた。
目の前に浮かぶ従魔一覧にはちゃんと表示されているし、状態欄には呼び出し中と表示されているのに。
バグってるのか?
ひょっとして、このまま新たな従魔契約すらできない、なんてことないよな?
打ちひしがれていると、何かが近付く気配が。
魔獣?
良いよもう、レベル上げなんか当分したくないし。
エイルヴァーンのテイムって面倒くさいんだよ・・・ゲームと違って相手の体力表示が無いんだから、落ちる寸前のギリギリを狙うことから始まるテイムって、ここでは無理ゲーなんだよ・・・。
すっかり不貞腐れていると、藪をかき分けてガッチリしたゴブリンが現れた。
あ?・・・緑・・・。
この世界のゴブリンは褐色の肌。
でもこのゴブリンは緑色の肌・・・。
片膝をついて首を垂れるガッチリゴブリン。
「遅くなり申し訳ありません、見たことの無いモンスターを発見しまして、お呼び出しに応じることを最優先にと、隠れてやり過ごしておりました。」
トウリョーだぁ~。
なるほど、ワープじゃなくどっかからやって来たって演出ね。
要らねぇよ、そんな演出。
俺の絶望感を返せ。
程なくハイオークのオヤカタも現れた。
「お久しぶりです。しかし、ここはモンスターが多いですな。」
どうやらオヤカタは一戦交えてきたようだ、所々返り血が・・・怪我はしていないようで安心。
こうして見るとオヤカタはデカいな。
身長180㎝はあるかな。
横にも広いし威圧感がある。
トウリョーも思っていたよりマッチョ感があるし。
でも、オリヒメがなかなかやってこない。
トウリョーもオヤカタも魔物と遭遇したって言ってるし、ひょっとして・・・。
探しに行った方が良いだろうか。
ヤキモキしていると、緑のオカン、もといゴブリンが現れた。
「今夜の夕食にと獲ってまいりました。」
と差し出されたのは結構大型の鳥魔物、ベカンチだった。
ニッコリと笑みを浮かべるお顔には返り血の跡が・・・わ、わんぱくですこと・・・。
オリヒメの見た目、オカン感がハンパない。
名前とのギャップがひどいな、こりゃ。
しかし、3人とも流暢に会話できるのには驚いた。
コマンド入力で指示するよりも意思の疎通が多彩で楽になりそうだ。
オリヒメの差し入れをありがたくいただき、予定通り村までの道中魔物を狩っていった。
3人ともまだこの森では戦闘力的に心もとないので、俺がメインで戦って3人にはサポートに徹してもらった。
多少は上がったけど、ちゃんと上げるには計画を立てないとな。
こうして、村に着くころには日が暮れ始めていた。
レベル上げだけじゃなく連携的な練習をしたことで、オヤカタはタンク役をこなせるようになった。
シングルゲームなのでヘイトを稼ぐ、といったスキルや概念は無いんだけど、魔物をうまくさばいて注意を引き付けるようになっていた。
トウリョウとオリヒメは急造スリングでサポートもばっちり。
そのうえ、オヤカタは軽々と獲物を担ぎ上げて血抜きの補助を、トウリョウは魔石の回収、オリヒメは皮剥ぎを覚えてこなせるようになったのだ。
レベルはあまり上がらなかったけど、別の意味で成長の速さに脱帽してしまった。
肉はその場で簡易貯蔵庫へ。
当然中には空の魔石(今はちょっと充電(充魔?)されてるけど)が置いてあるし、コールドの魔法で作った氷も大量に入れて保冷している。
ま、それでも時間が経てば傷んでしまうんだから忘れずに取り出さないとね。
帰宅して皆にオヤカタたちを紹介していると、ユーキが戻ってきた。
なんと、アオンとクマは進化までして戻ってきたのだ。
アオンはグレイウルフからシルバーウルフに、体格が大きく、馬ほどにもなっていた。
このサイズなら十分に騎乗できるんじゃないかな。
灰色だった毛の一部、首周りから背中にかけて銀色に、照明の光にキラキラと反射してなんか神々しい。
クマもリルベアからキラベアに進化、2回りほど大きくなって、手足も若干長くなった気がする。
ユーキの話では二足歩行も上達したし、弱点だった首回りに白い毛が生えて強化されたらしい。
なんか、前掛けみたいだと言っていた。
残念ながら、肝心の馬型の魔物は現れなかったらしい。
「アオンが進化して馬車を引けるだけの体格になったし、それでいいかなって思うんだ。」
ということで、しばらくは狩りを休んで村のことを手伝うことにしたんだそうだ。
ユーシンが何度か、ラージケーンという大型犬の魔物が馬車を引いている姿を見ていたのでたぶん大丈夫だと、若干不安になる太鼓判を押していた。
「まぁ、シルバーウルフなんて見たことあるのはよほど腕の立つハンターくらいだろうから大丈夫ッスよ。」
と、さらに不安になる追加情報。
すまん、まだ見ぬ町の人たちよ。
あんまり騒がないでくれると助かります。
スロークはさらにレベルを上げて45に到達、この差が辛い。
本人はゲームでアサシンプレイを優先させてきたたことで、現在村での活動に貢献できるスキルがあまりないことを気にしていたようだ。
ならば自分の進む道は武力特化だと、ユーキの補助をしながらレベルアップに余念がなかった。
採集してきた魔石も結構な量だ。
ちょっと悔しい。
スマン、ミエをはった。
かなり悔しいです。
好調だった狩り組に対して芳しくなかったのが地下室組だ。
無理もない、補正無しの人力で穴掘りは過酷だ。
「明日からはオヤカタとオリヒメを手伝わせるよ。
俺とトウリョーは従魔たちの住む小屋を作ろうと思うんだ。」
俺の従魔には寝床が必要だからね。
冬が来る前にしっかり準備しておかねば。
「最近寒くなって来たし、できればもう一度魔石とかを売ってきてほしいかな。
施設を買うにも資金がいるし、なにより醤油とソースとケチャップとコショウが欲しい。」
そう言うソンチョーの願い、ごもっともです。
醤油もなんだかんだ半分を切っている。
使いすぎか?
この辺り、"常識"さん情報では膝くらいまで雪が積もるらしいから、冬の間は売り買いが難しくなるだろう。
そんな冬を乗り越えるためにも、調味料や香辛料はもっと欲しい。
でもガチャなんだよなぁ、確実にぼったくり設定の。
「じゃぁ、明日あたり行ってくるっスよ。
売るのは魔石と干し肉でいいっすか?毛皮は残しといたほうがいいっスよね。」
「じゃぁ、僕も行った方がいいよね。
アオンに荷車引いてもらわないとだし。」
ユーシンとユーキが手を上げた。
道は一応できてるし、デモンエイプの毛皮があれば魔物に襲われる心配もないから2人、じゃない、2人と3匹で十分だろう。
でも・・・マジでアオンに馬車を引かせるのか?
町の皆さんが恐怖に固まらないことを祈るよ。
「自分はレベルアップを続けるかな。
第二貯蔵庫を開放できれば劣化速度も現実時間と変わらなくなるし、食料の移動が多少楽になるだろう。
中には・・・あまり記憶にないが、素材系がある程度は入っていたと思う。
拠点に手を付けていれば使えそうな資材が貯蔵庫に残っていたかもしれなかったんだがな、あまり興味がなかったんで、まだ拠点には手を付けていなかったんだ。」
そう言って申し訳無さそうにするスロークだった。
拠点かぁ。
俺の拠点は、かなり気合と時間をかけて作ったんだよなぁ。
この世界にはないだろうけど。
資材とか、残してなかったよな。
魔物侵入防止装置も使い切っちゃってたんだよ・・・残していたら、街道のキャンプ地とかに設置できたのに。
素材もあらかた使い切っちゃってたから、ほとんど流用できないだろうし。
今更言っても意味ないけど、残しとけばよかったな。
翌朝ユーシンとユーキを見送ると、オヤカタとオリヒメにソンチョーの手伝いを指示して、俺はトウリョーと従魔用の小屋を作り始めた。
イメージはログハウス風の長屋だ。
せっかく加工した材木はまた今度使えばいいさ。
とにかく今はスピード重視だ。
長屋はソンチョー宅の裏側に、ある程度離して作ることにした。
ソンチョー宅が大きくなることもあるだろうし、住人が増えたときとかのために従魔の家はできるだけ外寄りにしておいたほうが良いだろう。
とりあえず、1部屋が8畳くらいの間取りで、横つながりに6部屋作っておけばいいかな。
すぐそばに手付かずの木がいっぱいあるから、まずは材料の切り出しだ。
すでになれたものである。
ガンガン切り倒して、細かい作業はトウリョーにお任せ。
熟練大工持ちが二人いると作業も速い速い。
会話ができることも大きい、細かい指示もすんなり通る。
わずか1日で必要量の丸太が出来上がっちゃった。
そうそう、トイレも作らなきゃ、従魔たちのトイレは屋外に共同で良かろう。
ソンチョー宅は謎の水洗トイレ、ふろ、キッチンがある。
いったいどこから水が引かれてどこに流れているか全く不明な謎システムだが、従魔たちまで使わせてもらうわけにはいかん。
追加で作られた住宅にもトイレが無かったから、俺たちはソンチョー宅のトイレを使わせてもらっているけれど、いつかは必要になるからな。
どうしたものか。
一人で悩んでも仕方ないので、夕食後にソンチョー、スロークに相談してみた。
「インフラは重要だよね。この家が特別なんでついつい後回しにしちゃったけど、暮らしをよくするには人手がいるし、住人を増やすことははランクアップにもつながる。
かといって、誰でも彼でも住んでもらうにはこの村は異質だと思うんだ。」
ソンチョーも、ゲームシステムに頼りっぱなしは良くないと思っていたようだ。
だからこそ苦労しながらも地下貯蔵庫の作成に取り掛かっているんだろう。
「上下水道は基本なんだろうけど、何もかも足りないんだよね。
詳しい知識も、人手も、資材も。」
ソンチョーの指摘通りなんだけど、やっぱりある程度は決めて進めたいところなんだよなぁ。
結局この日の話し合いでは、先に区分けをしてしまったらどうだろう、という話でまとまった。
とりあえず道とそれ以外、ざっくりと何に使う土地かを決めて、あらかじめ仕切ってしまえば今後の計画や改修もしやすいんじゃないか、というスロークの案に乗っかることになったのだ。
翌朝早く、ユーシンの軽トラが戻ってきた。
「ただいまっス。」
今回は資金調達だけ、と思ったら、大きな木箱を持ってきていた。
「なに?これ。」
結構な大きさの木箱が2つ。
「空の魔石と、照明とかの魔道具っス。必要かと思って。」
確かに、ランプだとオイル切れが心配だもんね。
こういうところに気が付くのはユーキかな?
うん、案の定、何も言わないけどジト目でユーシンを見ている。
まぁ、ユーシンのことだから悪気があってじゃないんだよな、それが分かってるからユーキも何も言わないんだろうし。
「みんなに相談があるんだけど。」
とユーキ、なんだ?やっぱりユーシン吊るし上げの相談か?
「実は、町でこの村に興味を持った人がいてさ、来たいって言ってるんだ。」
違った。
もっと重要案件だった。
「干し肉を卸した食堂の息子さんなんだけどね、サンサテを拠点に周辺の村をめぐる行商人らしいんだよ。
巡回の途中でここに寄って、干し肉を仕入れたいらしいんだけど。」
無理じゃね?
「定期的に来てくれるなら願っても無いけど、来れるの?」
そうそう、無理でしょ。
「一応護衛はいるみたいだけど。
干し肉の量によっては魔物除けの魔道具を用意するって。」
おおう、やっぱりあるのか、魔物除けの魔道具。
「来れるのはだいたい50日に一度くらいで、30kgは欲しいっつってたっス。」
30キロか、結構な量だな。
「売るのはいいけど、買う方はどうなんだろう。
日用品とか買えると助かるんだけど、巡回の最後に寄るって感じだと難しいのかな。」
なるほど、サンサテが拠点で、ここには巡回途中に寄るってことだろうし、途中でって言っても干し肉補給したら次は親の食堂に持って行くんだろうから、巡回の順番としては最後だろうな。
主だった商品は売り尽くして身軽な状態で来ることになるだろうから、品ぞろえには期待できないか。
「まだここへの道は教えてないけど、途中で馬車や荷を仲間に任せて、別行動でここに寄る予定って言っていたよ。
一応各巡回地の特産品なんかを積んで帰るそうなんで、必需品なんかは小分けにしてある程度持ち込んでくれるって。
あ、魔石とかの買取もしてくれるって言ってたよ。」
相談の結果、とりあえず一度は受け入れて後は要相談、ってことにして、4日後にユーシンとユーキがサンサテへ案内に向かうことになった。
さすがに軽トラは見せられないので、帰路は馬車での移動だけになる。
アオンは荷車引きで町デビューしている(不安的中で、ちょっとした騒ぎになったらしいけど)ので問題ないとして、魔物除けは今回もデモンエイプの毛皮で。
これもいつまで使えるかなぁ。
魔物除けの魔道具も手に入れたいところだね。
ちゃんとした道ではないから帰路は5日程度かかると思えばいいだろう。
外の人間が来るわけだから、見せていいものと見せるべきでないものも仕分けしておかないとね。
ソンチョー宅の中は絶対見せられない。
そこら辺のメンド・・・繊細な問題はソンチョーに丸投げしよう。
まずは村づくりの問題から。
インフラ整備を中心にザックリと区画割の原案を作ったり、上下水道やら道幅やら設備、畑の位置やらを1日がかりで話し合った。
専門知識ゼロの素人しかいないのが不安しかないですが。
とりあえず道は、馬車が余裕ですれ違えて、さらに安全に歩行ができるサイズ、ということで道幅10mが決まった。
素材の目途が立っていないけど、上下水道なんかは道を掘って地下を通す予定。
区割りさえ最初に済ませておけば、後は何とかなる、と、思う。
俺はとりあえず、滞在中の一時しのぎ、トイレを作らねば。
後が大変だけどボットン式でいいだろう。
オヤカタ、トウリョーと俺で住宅脇に2mほどの穴をあけ、その上に小さな小屋を建てる、便器を作る材料も余裕も無いので、床に穴をあけただけだ。
それが終わったら至急ログハウス長屋を形にしなければならない。
商人には今俺たちが使っている住宅を使ってもらい、滞在中俺とユーシン、ユーキは長屋へ。
あ、オヤカタ達従魔は滞在中は長屋に引き籠っていてもらわないといけないな、流石に人の村に魔物がいるのは不自然だ。
翌日は早朝から、ソンチョー、スローク、ユーシン、オリヒメが区分け作業を始めた。
起点を決めたら、ソンチョー宅の作業道具にあったメジャーで距離を測り(5mのメジャーだから大変そうだけど)、長いロープを使って直線を出して、5mおきに木を削った杭を打ち込んでいく、という方法でやっていくようだ。
まだ村の面積が大きくないので、4人でもなんとかなるだろう。
ユーキは、たっての希望で馬型の魔物探しに。
やはり、デビュー済みとはいえシルバーウルフに荷馬車を引かせるのはこの先問題になりそうだ、ということで再チャレンジ。
それぞれが作業を進めて、夕方ソンチョー宅へ食事に戻る。
そんな感じで日々忙しく過ごした。




