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022話:帰途

 若葉マーク付きのままこの世界に来たユーキが、ようやく運転に慣れ始めた頃、森は直前まで迫っていた。

 さすがに悪路をユーキの運転で移動するのは怖い。

 この軽トラ、マニュアル車だし。

 エンストとか、踏み間違い暴走で木に衝突とか嫌だもの。

 ってことで二番手の俺に交代。

 いよいよ木を切り倒しただけの悪路だ。

 一応仕事で毎日のように軽ワゴンに乗っていた(運転していた、ではない)俺が、恐る恐るハンドルを握る。

 なるべく切り株を踏まないようにグネグネとハンドルを切らねばならず、四苦八苦の2時間弱、精神的に疲労困憊でユーシンにタッチすることになった。

 これ、想像以上に大変だ。

 でも・・・たぶん俺が運転した方が良かったかもしれない・・・。

 ユーシンに交代した途端に速度が上がった。

 忘れていた。

 この軽トラ、クラッシュレーサーのだった。

 当然ユーシンもクラッシュレーサーのプレイヤーだった。

 揺れ、という表現では形容できない大暴れが大増量セールを開始した。

 俺が必死に避けていた切り株もお構いなしにガンガン乗り上げるもんだからたまらない。

 頭をぶつけ尻を打ち、首もガックンガックンいわせながら・・・荷台のユーキとスロークは無事だろうか?なんて心配する余裕はない。

 余裕があっても、荷物いっぱいで様子見えないだろうけど。

 無事を祈ろうにも、俺を気にかけてくれそうな神様なんて貧乏神か疫病神くらいしか思いつかん。

 初詣くらいは行っとけばよかったかな。

 再び2時間後、運転を代わる時チラッと荷台を見たら、昇天しかけているユーキがいた。

 (ご愁傷さま。)

 さすがにスロークは・・・と思ったけど、やっぱり疲労の色が・・・だよね。

 疲れるけど、次の順番から運転時間を長めにしたよ。

 帰り道もデモンエイプの毛皮は効果抜群。

 魔物の魔の字も感じることはなかった。

 そういった意味では実に安全な旅路だった。

挿絵(By みてみん)

 ユーシンがハンドルを握ると一気に絶叫系アトラクションに変わっちゃうんだけどね。

 道と言っても、木を切っただけだからねぇ。

 そこをよけもせずに、切り株乗り上げながらの走行は大変心臓に悪い。

 これで魔物でも出てきていたら、確実に事故ってただろうなぁ。

 やっぱり、道は早急に何とかしたいね。

 デモンエイプの毛皮があれば魔物の心配はしなくて済みそうだし、ちゃんとした道路整備もできるんじゃないかな。

 護衛がいらなければその分労働力が増えるし、大変な重労働になるだろうから、マンパワーは多いに越したことないしな。

 ソンチョーの村作りスキルは、当然村の外には波及しないし、俺の建築系スキルは基本手作業。

 拠点製作機能っていう便利なシステムもあったんだけれど、元々発売当初には搭載されていなかったもので、制限が多かった。

 発売後1年くらいたってから、パワーアップキットとして発売された追加機能の一つ。

 サンドボックス的に簡単施工ができるのは最初から指定されている安全地帯だけで、イマイチ評判は良くなかったんだよね。

 その後のアップデートでミニイベントが追加されて、報酬の特殊アイテム”炎の魂”を使うことでフィールドに安全地帯を設定できるようにはなったけれど、そのアイテムが無い今、拠点作成機能も使うことができない。

 職人系スキルは機能してくれているから、実際の手作業なんかより効率はすこぶるいいんだけど・・・。

 途方も無いくらい大変な作業になるのは間違いない。

 ちゃんとした道ができれば買い出しも気軽にできるし、この世界の食材とかも調達して格安スーパー弁当に一歩近づけるかもしれない・・・ひょっとすると、コンビニ弁当レベルまで進化できる可能性だってあるんだ。

 頑張るしかないな。

そんな決意(?)をひっそりと固めていると、ようやくみどり村が見えてきた。

 

「ええ!ソンチョー、一人で作ったの?」

出かけていた一週間程度、じゃない、建材の入荷に3日はかかるんだから、それから作ったとして、たった4日程度・・・できるもんなの?

 って、できてるのか。

「買った資材だからね、全部加工されたものが届くし、模型みたいな感じで組み立てできるんだ。

 不思議と説明書が無くても作り方がわかるし、作業中はめちゃくちゃ補正がかかるみたいなんだよ。

 デカい柱も片手で持てるし。」

 ゲーム能力による補正、チートだね。

 俺もレベルが上がって貯蔵庫が解放されたら炎の魂取り出せるし、拠点作成機能開放してサクッと建築できるようになるんだろうか?

 むっちゃ楽しみだ。

 ソンチョーが一人で建てた家、玄関入ってすぐに広めのリビングがあり、大きめのテーブルと椅子6脚、奥に暖炉もある。

 左にドアが2つ、右に1つあり、各個室につながっていた。

 個室にはベッドも設置済み。

 ただ、ソンチョー宅と違って風呂もトイレも無いし、電気も通っていない。

 照明はランプを使うようだ。

 3部屋あるので、俺、ユーシン、ユーキに一部屋ずつ割り当ててもらった。

 自分の部屋。

 あ、なんか、すごくうれしい。

 ソンチョーに感謝だ。

 その直後、ソンチョーに呆れた。

 ソンチョーはこの短期間に、家を建てただけじゃなく畑増設実験までやっていた。

 システム上限を超えて、システム管理外の畑を作ったらどうなるか、の実験のため増設したらしい。

 どんだけ働くんですか。

「結局、畑は増やせるっぽいけど無茶苦茶大変だったよ。 

 地面は草の根やら小石やらで耕しづらいし、力もいるしとにかく疲れた。

 システム外のことをしようとすると現実そのままに近い労力が必要みたい。」

 そう言ってマメだらけの掌を苦笑いしながら眺めていた。

 つまり、頑張れば特殊機能付きじゃない普通の建物なら、村の中に自力で作れるってことだよね。

 大工熟練MAX解放済みだし、拠点作成機能に頼らなくてもいつか自分の家を自作してみようかな。

レベル20になれば、MODで拡張した限定テイム機能が解放されるし、そこにセットされている従魔たちが健在なら、助手として大活躍してくれるはず。

 マジモンのモンスターと違って、本に入れたりすることができないエイルヴァーンのテイムモンスター。

 従魔として呼び出す以上は、彼らが暮らす家が必要になる。

 その代わりパーティーを組んで冒険に出たりとか、簡単な指示を与えると離れてもきちんと働いてくれるので拠点防衛や資材集め、作成も任せられる頼もしい仲間になるのだ。

本来テイムが解放されるのはレベル60だけど、テイムできる対象が限定される代わりに、レベル20で3体までのモンスターをテイムできるというMODを導入している。

 下位ランクのモンスターしかテイムできないけど、育てる分には制限が無かったから最高位まで進化させていたけど・・・どうだろうな。

 ユーキは自分のモンスターを封印する直前に巻き込まれてしまったというから、俺がテイムしてあったモンスターがどうなるか分からないままなんだよな。

 ユーキがゲームで封印を済ませていて、そのモンスターがここでも有効だったなら、俺の従魔たちも健在な可能性が高いんだけど。

簡易貯蔵庫にアイテムが残っていたのだから、テイムしたモンスターも残っている、と思いたいんだけどな。

 確か、最初の枠にはハイオークから進化させたオークキング、ホブゴブリンから進化させたゴブリンキングと、ベティゴブリンから進化させたゴブリンクイーンが入っていた。

 クラフト極振りの3体だからちょっと・・・かなり期待してるんだけどな。

 同じエイルヴァーンをプレイしていたスロークだけど、彼はアサシンプレイを目指していて、単独で戦える構成で成長させていたそうでこの辺りのスキルは持っていないと言っていた。

 自力で確認するしかない。

 レベルアップも頑張らなきゃいかんな、やることが山積だ。

 翌日からは買って来た食材を魔素抜きしながら、切り倒しておいた木の加工に明け暮れる。

 デカい鋸で4mくらいの長さに切り分け、四角い柱になるように4側面をカット、後はサイズ次第だけど、間柱や板になるように切り分けていく。

 普通なら鋸1本で丸のままの木を真っすぐ切るなんて到底できないところだろうけど、資材加工と大工、関連する2つのスキルが熟練MAXなので鼻歌交じりでも正確に、素早くカットしていける。

 それでも手間はかかるもので、木1本の加工におよそ1時間はかかってしまう。

 1日でそこそこの量加工が出来たけど、明日からはレベルアップと食材確保のために狩りへも行かなければならない。

 加工は午前中だけにして午後は狩りに時間を充てるしかないかな。

 早く手伝ってくれる従魔が欲しい。

 ユーキはスロークと森へ、課題だった馬系魔物の封印を目指して向かっている。

 今後のことを考えると、ぜひ手に入れてほしい。

 ユーシンはソンチョーと、食材の貯蔵用に地下室を作ろうと言い出して土木作業に従事している。

 とはいえ、地下室はシステムにもないしかなり苦戦しているようだ。

 ユーシンのパワーも戦闘以外では発揮されないので芳しくないらしい。

 レベル20になったら手伝うとしよう。

 そうそう、買い出しで余った資金をベルに換金して再びガチャをすることになった。

 個人的には反対だったんだけど、ユーシンとユーキが乗り気で押し切られた。

 みんなの意見から調味料と香辛料を中心に回した。

 やっぱり詐欺だ。

 ガチャは激辛だった。

 調味料はなぜか酢ばかり、香辛料はトウガラシであふれた。

 舐めてんのか!

 トウガラシには先日助けられたけど、トウガラシしか出ないって何なのさ。

 みんな憤慨しつつもヤケになってきていた。

 これが怖いんだよなぁ、ガチャってさ。

 最後、いっそのことゴンに引かせてみようなんてソンチョーが言い出した。

 一発で醤油を当てて一躍ヒーローだったなぁ。

 最初からゴンに任せていたら~なんてユーキが頭を抱えていたけど、たぶんそうしていても結果は同じだったと思う。

 ガチャってそう言うもんさ。

 あと、苗ガチャでブドウの苗が出たので早速畑の反対側に植えた。

 ワインが作れるかも!と思ったのは俺だけじゃあるまい。

 ぶどう棚が必要になるし、今後増えたときのことも考えて家や畑から離れた場所に植え、支柱も立てておいた。

 実に楽しみである。

ソンチョー宅を正面に、左奥は畑、左は新しい住居、右にリンゴ、右奥にぶどうって配置だ。

 なかなか村っぽくなってき・・・てはいないか。

 まだまだ集落レベルは抜けないな。

 

 結局、俺がレベル20に到達するまで10日ほどもかかってしまった。

 単独での狩りなので無理せず慎重に進めたせいなんだけどね。

 村周辺の魔物が思った以上に強かったんだよ。

 グレイウルフクラスが普通にいたので慎重にならざるを得なかった。

 簡易貯蔵庫にあった低級のポーション類もあっという間に使いつくしちゃって、回復魔法を使うための魔力を回復させながらの狩りは効率が悪かった。

 まぁ、その分接近戦の自身はちょっとだけついたかな。 

 デモンエイプ戦の時にスロークから借りた剣は返却済みなので、サンサテで買って来た剣を使っているけど良い感じだ。

 スロークにはそのまま使ってくれって言われたけど、レベルが上がればいずれ自分の剣が出せるからと丁重に辞退した。

 壊しちゃったりしたら申し訳ないし。

 そう、エイルヴァーンの武具は壊れるんだよ。

 耐久度が設定されていて、これが0になると壊れてしまう。

 0になる前に修理すればいいんだけれど、修理もたまに失敗して最大値が減ったりするんだよ。

 ダンジョンに籠ってレベル上げしてると忘れちゃうんだよね。

 何本お気に入りを壊しちゃったことか。

 同じく狩りに出ているユーキ達と一緒に行動すれば良かったのかもしれないけれど、そうせずに単独で狩りをせざるを得なかったのは、ユーキ達も苦戦していたからだ。

 かなり広範囲にわたって捜索していたみたいだけれど、一向に馬型の魔物とは遭遇できず、一度だけ出会った鹿の魔物、フォレストディアーは光の玉が出ず封印できなかったそうだ。

 俺が参加するとなると俺が加工作業に充てている午前中を無駄にさせてしまうし、二人は朝出ると夕方まで戻らない生活だったのでバラけての行動をとることにしたのだ。

 まぁ、結果その方が良かったのかな。

 ユーキ達が狩って来た食材はかなりの量になった。

 馬型の魔物はダメだったみたいだけれど。

 作物の方はいまだ収穫できず。

 これはもう、現実通りの生育状況だと思うしかないのかな。

 無茶苦茶高い通販の肥料とやらを使えば短縮できるんだろうか?

 う~ん、ゲーム中は肥料のレベルによって収穫量が多くなる設定だったって言っていたから無理だろうな。

 サンサテで仕入れられた食料で一応冬は乗り切れるだろうけど、なんだか不安だな。

 

 レベル20になったことで解放されたMOD版の限定機能テイム。

 期待していた従魔たちはちゃんと残っていた。

 ステータス画面の従魔欄にちゃんと記載されている。

でも残念。

いたのはハイオーク、ホブゴブリン、ベティゴブリンの3人。

2足歩行の猪といったイメージのハイオークは、オークより一回り大きいくらいで見た目はほぼ同じ。

 人のように5本指の手を持ち、いかつい見た目とは裏腹に器用。

ホブゴブリンも、ゴブリンより一回り大きくガッチリしているくらいで見た目の変化はあまりない。

 ただ、この世界で見たゴブリンと違って肌が緑色で、顔だちが若干ヒトに近い。

ベティゴブリンはゴブリンのメスをふくよかにした感じ。

 肌は緑色で、顔だちが若干ヒトに近くなる。

 子をたくさん産むために安産型の体系のものが多い。

オークとゴブリンオス、メスじゃなかっただけよかったけど、最低ランクから1段階進化しただけの状態で、レベルも揃って20だった。

 最上位まで進化させたのになぁ。

 レベルも100だったし。

 また育成しなおしか・・・うれしさ半分ってとこだな。

 しかし、こうなると本当にユーキは不運だったんだなと思う。

 だってさ、待望の新作を始めた直後でなければ、マジモンのモンスターを封印したままこっちに来れたんだろうに。

 言うとショックだろうから内緒にしておこう。

 自分で気が付くかもしれないけどね。

 それはさておき俺の従魔、ハイオークはオヤカタ、ホブゴブリンはトウリョウ、ベティゴブリンはオリヒメ、と名付けてある。

 ゲーム当時のままだね。

 それぞれに与えていた役割からつけただけだったし、今思えばひどいネーミングだ。

 エイルヴァーンでは、レベル62で従魔師範というスキルが解放される。

 従魔に自分の持つスキルを熟練度分教えることができるというスキルで、3人はゲームで教えておいたスキルをそのまま覚えていた。

オークキングのオヤカタは、テイムした時はハイオークだった。

 伐採、資材加工、鍛冶などのスキルを教えていて、パワーを生かした重労働を任せることが多かった。

 だから、土方(どかた)の親方って感じで命名した。

 オークロードに進化した後は配下にオークを召喚できる。

 オークキングにもなると、オークの上位種に当たるハイオークやオークガード、オークジェネラルなんかも従え、伐採や鉱石の採集などの素材集めや土木作業を中心に任せっぱなしにしていた。

 ゴブリンキングのトウリョーも、最初にテイムした時はホブゴブリンだった。

 大工、木工、金細工などのスキルを教えて、建築や修繕なんかを担当させていた。

 やはりゴブリンロードになると配下のゴブリンを召喚できるようになり、ゴブリンキングになるとゴブリン軍団を統率できるように、って、ここら辺はオークと同じ感じ。

 拠点作成に大いに役立ってくれた。

ゴブリンクイーンのオリヒメには、機織り、縫製、皮加工などのスキルを教えて布地など、衣服の材料製造や、布、革系の装備品製造を任せていた。

 テイムしたベティゴブリンの時は貫禄ある小さいおばちゃんだったけど、ゴブリンクイーンになるとボンキュッボンな美女になっちゃって、なんか逆にシラケタのを思い出す。

 エイルヴァーンの服って、あまり種類が無く、変更することもほとんど無かったんだけどね。

 クエストで変装したりすることがあったので、その時のための仕様だったといえる。

 しかし、MODで導入された服飾師という職業によって多くのMOD職人が作って配布されていたバラバラの服データが統合し気軽に使えるようになった。

 さらに、衣装を台無し(?)にする鎧などの装備を透明化する偽装の指輪が登場したことで、エイルヴァーン関連のブログはコスプレみたいな服であふれたのだった。

 俺はと言うと、コスプレには興味は無かったんだけれど、いずれ服に付与効果をもたせられるMODが登場するのではないか?なんて期待からコツコツ育てたんだ。

 ゴブリンクイーンにも配下をつけられたから期待できる。

 またコツコツ育てなきゃな。

 オークキングもゴブリンキングも配下に付けられたのは10体ほどだったけれど、これもやはりMODで増やして、最終的にオヤカタには50人、トウリョーには45人、オリヒメにも20人の配下をつけていた。

 レベルも種族のランクも下がってしまったけれど、教えたスキルはちゃんと残っているのだから頼れるDIY仲間として活躍してくれるよね。

 いつかは、以前のように配下を持たせてクラフト無双してもらおう。

 ワクワクしながら、さっそく3人を呼び出す。

 ゲームでは、あまり離れていると呼び出せなかったけど、範囲内にいれば近くにワープして来たよな・・・。

 まだ日が落ちるには少し時間があるから、村へ帰る道程で一緒に狩りをして、多少でもレベルを上げておこう。

 ワクワク・・・。

 ・

 ・

 ・

ん?

何も起こらない・・・。

 ・

 ・

 ・

 え?

 ・

 ・

 ・

 マジで?・・・

 いや、確かにマジモンのモンスターみたいに出し入れ自由ってわけじゃないけどさ。

 ゲームでも、テイムしたらそのままついて来る感じだったけどさ。

 まさか、残っているのはデータだけで呼べないとか??

 ウソだろクソ悪魔・・・

 ガックリと膝をついた俺。

 たのむ・・・  

 ウソだと言ってくれ・・・。

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