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020話:リベンジ

 フル装備のスローク。

 本職は暗殺系だろうけれど、巨猿相手に火力重視の装備に変更したようだ。

 市販品だけど、レベル30代では最も頑丈な重鎧に、ダンジョン産の雷撃を付与されたブロードソード(幅広の片手剣)を装備、それを偽装の指輪で普段着に偽装している。

 エイルヴァーンでは様々な版権事案スレスレのコスプレ服がMODで公開されていた。

 ただし、あくまでも服扱いだったため、鎧を装備すると非常に残念な見た目になってしまった。

 そこで開発されたのが偽装の指輪MODだ。

 簡単なクエスト報酬として組み込まれたこの指輪を装着すると、 鎧や盾が表示されなくなるのだ。

 もちろん俺も持っている。

 あまり使った記憶は無いけど、キャラものじゃなく、俺が普段使っている作業着みたいな服のMODを見かけて、少しの間それでダンジョンに潜っていた・・・なんかシュールだった。

 今回スロークが偽装したのは、デモンエイプへのリベンジを狙っている、と悟られないようにするためだ。

 俺も同様、装備を整えたうえで偽装している。

 流石にこの世界の市販品、ランザ砦で購入したショートソードでは心もとないので、スロークから俺でも使えそうな剣を借りて、作業着に偽装している。

 ツナギ姿のユーシン、偽装の指輪がもう無いのでスロークから借りた防御力強化のアクセサリーを複数付けたユーキの4人とクマ、ゴンが、昨日伐採していたあたりに集合した。

 みんなで一斉に、では不自然なので、先日同様俺とスロークとユーキが、ユーシンは後から手伝いに来たと言う体をとった。

 猿相手にそこまでする必要があるかな、とは思ったものの、みどり村までの道中、随分とプレッシャーをかけて追い込んでくれた相手だ、知能はかなり高いと思ったほうが良い。

 確実に仕留めるために、できることはすべてやることにした。

 俺たちは、日が昇ると同時に作業を開始した。

 巨猿はすでにこちらを認識しているだろうから、慎重に行動しなければならない。

 こちらが準備万端だと感づかれれば、距離を取られるか、先日みたいに対応できない速度で突っ込まれるかだ。

 まずは、普通に木の伐採をしているふうに装う。

 アオンには悪いけど、魔本の中で待機してもらっている。

 どうしても巨猿に反応しちゃうんだよね、本能とでもいうんだろうか、犬猿の仲ってやつは異世界でも共通らしい。

 スロークと俺の二人でで木を切りながら"警戒"を発動。

 広範囲を確認できるように広がって伐採しつつ、巨猿を探す。

1時間もするとユーシンが手伝いに来た体でやってきた。

 「おはよーです。てつだいにきまいしたー。」

 完全棒読みじゃねぇか。

 相手がヒトならモロバレだぞ。

 この段階ではまだ、巨猿は警戒網に入ってきていない。

 さらに1時間ほど、ジワジワと森の方へと移動しながら作業した。

 「流石にキツイなぁ。」

 スロークが伸びをして腰を叩いた。

 事前に決めておいた、"警戒"になにかが反応した時の合図だ。

 スロークはまだ巨猿と戦ってはいない。

 警戒の個体識別は、戦ったことのある個体に対してのみ有効となるため、警戒の反応が巨猿かどうかの識別は俺がしなければならないのだ。

 手伝うふりをしてスロークの元へ。

 間違いない、巨猿の反応だ。

 切りかけだった木を両手で押してみたりする。

 これが巨猿を確認したときの合図だ。

 そのまま切り倒して一度離れた。

 別の木へ、巨猿の反応が消えないように注意しながら。

 巨猿へ背を向けるように木を切り始めた。

 背の方向が巨猿がいる位置だという合図だ。

 ここからが正念場だ、気取られることなく、逃走を諦め反撃を選択するであろう距離まで近づかなければならない。

 慎重に、不自然じゃないように伐採作業を続けながらにじり寄る。

 もし気配だけを感知しているのなら、こちらが近付けば向こうも離れるはずだ。

 先日と同じように伐採作業を続けている、と思い込ませられれば、襲い掛かる好機と見て動かず気配を消して様子をうかがうだろう。

 こちらを視認できているのか、巨猿は動かない。

 うまくいっている。

 慎重に、ゆっくりと距離をつめてゆく。

 ドスッ

 俺は、木を切っていた斧を地面に叩きつけた。

 その音を合図に、全員で巨猿めがけて駆け出す。

 一瞬遠ざかろうとした巨猿だったけど、すぐに止まった。

 たぶん、距離的に逃げるのは難しいと察して迎撃することに決めたんだろう。

 狙い通りだ。

 すぐに、巨猿の咆哮が轟いた。

 走りながらユーシンにボディプロテクション、スピードアップ、パワーアップ、ディフェンスアップをかけていく。

 仁王立ちして威嚇する巨猿が木々の隙間から見え隠れする。

 まだはっきり全身が見えないので、直感でアイストーンを巨猿の足元付近に発動した。

 ヒットすればアーストーンより硬く、冷気による追加ダメージも与えられる。

 何より機動性を多少は下げてくれる。

 動き回られたらとても攻撃が当たる気がしないので、今しかチャンスは無い。

 ギャ

 という短い叫びとともに飛び上がり太い木の上部にしがみつく巨猿が見えた。

 左足に血痕が見える、どうやらヒットしたようだ。

 その巨猿に、間髪入れず魔法を放つ。

 ストーンバレット。

 散弾のように拡散して石つぶてを放つ魔法だ。

 距離があるのでかなりの広範囲に拡散する。

 威力が小さく、同士討ちの危険があるので乱戦には使えないが、射線に仲間がいない状態で動きの早い相手には当てやすい。

 ダメージこそ与えられた感じはしないが、一瞬巨猿の意識をそらせた。

 さらに見えない風の刃、エアスラッシュを、木をつかむ手首に、同時にスロークも木をつかむ足首へエアスラッシュを放った。

 ここまでは打ち合わせ通りだ。

 皮膚を切り裂く程度の威力でも、見えない刃に驚いた巨猿が手を、足を放し、地面に落ちて来た。

 「うるぁあぁああ!」

 尻もちをついた巨猿に、ユーシンの3コンボを躱す余裕はなかった。

 見事なほどに決まった3コンボで、足や腕、胸から血しぶきを上げる巨猿。

 反撃しようと上げた腕にアオンが噛みつき、いつの間に近づいたのかクマが、投げ出されていた足を切り裂いた。

 ごぁおぉおおお!

 咆哮を上げる巨猿、怪我もお構いなしに立ち上がると、腕に食いつくアオンを振り回し投げ飛ばしてしまった。

 痛覚がないのか?

 前回の戦いの傷も完全に癒えていないのが見た目にはわかるのに、動きからはそれが感じられない。

 新たな傷も加わった腕で、足で暴れまくる。

 丸太のような腕が、ユーシンの振り下ろすバールと打ち合い、ユーシンを吹き飛ばす。

 アオンが飛び掛かり再び腕に噛みつくが、その腕ごと木に叩きつけて振り落とした。

 スロークの剣も足に切りつけたが、切られるに任せて蹴り飛ばす始末。

 怪獣かよ。

 見せつけるようにマジックミサイルを準備して気を引こうとしてみたけれど、まったく気にしていない。

 これってまさか、キレちゃってる?

 再び咆哮を上げた。

 空気が激しく振動する。

 ユーキもゴンも、強烈な威圧に耐えるのに必死だ。

 「ぬぁあめんなあぁ!!」

 ユーシンのバールがうなるたび、金属が打ちあうような音がして弾き飛ばされてゆく。

 スロークも、何度も切りつけているが一向にひるまない。

 マジックミサイルを放つ。

 顔面へ一点集中。

 事も無く、腕の一振りで弾かれた。

 当然だ、倍化すらできていない。

 ノーマルのマジックミサイルで、威力の認識を誤認させて警戒心を少しでも減らすのが目的だけど、うまくいくかは分からない。

 巨猿が無造作に振り下ろした腕が、大地をはじけさせた。

 土にまじって、無数の小石が弾丸のように襲い掛かてくる。

 (マジかよ、中距離攻撃までこなすんかい。)

 ギャフッ

 巨猿の足を狙おうとして、最も近くにいたクマが直撃を食らった。

 そのまま足元のクマを踏みつけようと足を上げた時、ゴンのスリングが放った小瓶が、巨猿の額に当たって割れた。

 ぐあぁあぁ!

 割れた瓶から噴き出た煙が目に、鼻に入り、巨猿は両手で顔面を抑えるとそのまま後ろに倒れ、もがき苦しむ。

 小瓶には、ガチャから出た香辛料、トウガラシを粉末状にしたものを目いっぱい入れておいたのだ。

 ソンチョー預かりになったガチャだが、食事の支度のため3回だけ試していたのだ。

 結果は3回ともトウガラシで、再びガチャは封印された。

 本来の使い方とは違うけど、役に立つもんだね。

 クマが再び足を切り裂き、反対の足にスロークが剣で切りつけ、さらに突き立てる、戦士系の強連撃かな?

 切りつけ+突きの2弾攻撃で、突きには貫通補正が付くスキルだ。

 ユーシンや、モンスターヒールで回復されたアオンも加わり、もがき転げまわる巨猿を追撃する。

 それでも巨猿の抵抗は衰えない。

 左手は顔面を抑えて目をこすり、右手一本でつかみかかろうとしている。足はすでにズタズタだ。

 ほんと、とんでもねーな。

 まさに森の王、と言ったところか。

挿絵(By みてみん)

 しかし、流石の巨猿もすでに立ち上がることはできない。

 目も鼻も激痛で使い物にならず、片腕は顔面を抑えたまま。

 出鱈目に振り回すだけの残った腕は、容易く避けられる。

 威力のごまかしなんて必要なかったな。

 準備できた3倍化マジックミサイル。

 安全な場所から撃とうとは思えなかった。

 こんな状態でも躱わされる、そんな気がした。

 振り回される腕をかかいくぐって、至近距離から顔面へ。

 あぁ、俺はダメだな、撃つ一瞬、魔石のことを思い浮かべてしまった。

 手でガードされている顔面よりも、心臓を狙った方が確実だったのに。

 ゆっくりと倒れる巨猿を見ながら、この戦いを冒とくしてしまったような、やるせない気持ちになってしまった。

 

 「こいつ、やっぱりとんでもない奴だ。」

 スロークがぽつりとつぶやいた。

 「今わかったよ。

 デモンエイプ、この森ではかなり上位に当たる魔物の一種だ。」

 レベルアップで知識の更新が起こったのかな?俺にはまだ分からない。

 「一種?」

 「あぁ、こいつらは本来群れで生活してるんだ。

 上位に数えられるのは、群れとしてってことらしい。

 しかも、単独でこんなところにいたってことは、たぶん権力闘争に敗れて追放されたんだろう。」

 ・・・敗残者に森の王を感じてたんかい・・・しかも、もっと強い魔物がいっぱいいるみたいだし・・・なんか無性に恥ずかしくなってきた。

 声に出さなくてよかった・・・この記憶も封印しよう。

 「こんなのがウジャウジャいるってことスか?」

 ユーシンはバールを杖代わりに、全身で息をしながらへたり込んだ。

 「いや、本来の生息域はもっとずっと東側だ。追放されてこんなところまで逃げて来たんだろう。

 自分の居場所を作るために必死だったのかもな。」

 なるほど、ひょっとするとカルケール伯爵領を襲った魔物の氾濫は、本来この付近にいた魔物たちがこのデモンエイプから逃げ出して起こったのかもしれないな。

 なんとも迷惑な猿だ。

 満身創痍、特にユーキは、モンスターヒールでMPを使い切って立つこともできないありさまだった。

 地面バーン(俺命名)の直撃を食らったクマを救ったモンスターヒールで力尽きていたのだ。

 しかし、まだやらなければならないことがある。

 解体だ。

 これだけの魔物だ、さぞデカい魔石を持っているだろうし、皮も何かに使えるだろう。

 断固拒否する体をブラック企業並みにこき使って、やっとのことで魔石を取り出す。

 仰向けに倒れてくれていてよかった。

 デモンエイプの魔石は、こぶし大ほどもある大きなものだった。

 「むはー」である。

 毛皮は防具&防寒に使えるかも、ということでできる限り丁寧に剥ぎ取り、他は放置して帰宅することにした。

 肉は毛皮を剥いでいる最中からかなり臭かったので、持ち帰ることは断念したんだ、流石にこれは食えないって。

 筋肉質ですじだらけっぽかったしね。

 頭は・・・マジックミサイルでぐちゃぐちゃだった。

 ホーンボアみたいに、頭蓋骨マニアが高く買ってくれたかもな・・・しくじった。

 ゲームの素材でよくある牙とか骨は、どうやら素材にはならないようだ、と、スロークの”常識”さんが言っているようなのでスルーした。

 まぁ、放置していてもこの森なら1時間もかからず食物連鎖の波に消えるだろう。

 そして、うれしい誤算。

 今回の討伐で、なんとゴンが進化した。

 マジモンの売りの一つでもあるモンスター進化は、レベルがある一定値になると上位のモンスターに進化できる、というシステムのだ。

 ゴブリンからの進化は一択、オスはホブゴブリン、メスはベティゴブリンだ。

 ホブゴブリンに進化したゴンは一回り大きくなって、身長は150cmほどに、細マッチョがガッチリマッチョになり、なんと、片言だけど言葉を話すようになったのだ。

 ガッチリマッチョになったゴンを見て、ユーキがなんだか落ち込んでいたけどスルーした。

 ”力”にカワイイは比例しないのだよ、現実ではね。

 モンスターたちのレベルが上がったことでユーキもランクが上がり、HPやMPが増え、5匹目のモンスターを封印できるようになった。

 あれ?

 ランク上がったの戦闘中だよね?

 上昇分のMPは増加するシステムって言ってたけど・・・なのに使い切って倒れちゃったってことは・・・レベル上がってなかったら今頃クマ昇天?

 あぶなかったな・・・。

 俺自身もレベルが18になり、ユーシンもレベルなどの概念は無いが、実戦で3コンボを完璧に決めたことで何かつかめた気がするとはしゃいでいた。

 スロークはレベルが4つ上がって40になったと。

 俺、15からでも3しか上がらなかったんですけど。

 上級職と超越者の差が恨めし、うらやましい。

 今宵は枕が濡れることになりそうだ。

挿絵(By みてみん)

リアル版表情が良いです。

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