093話:小旅行
まだ真っ暗なうちから出発準備に追われて、明るくなり始めたかなって思ったとたんに出発だよ、いやんなっちゃうよね。
転生村(名前考えなきゃいかんかったんだっけ、忘れてた)の新規村づくりのためにも俺はレベルアップをしなきゃならんのになぁ。
現状はまだ目的地が魔獣であふれていて危険ってことで、あまり進展がない。
拠点建造が解放されるレベルまであとちょっとなんだけど、俺の”超越者”はそのあとちょっとがなぁ・・・。
唯一の進展と言えば、ワンダーレーサーをプレイしていたというシュン(ハシモト)とユーシンが、数名のワタリビトや現地の住人を巻き込んでレースに花を咲かせているくらいか。
ヒロ(キタガワ)のミニチュアガーデンには、本格的なレース場のジオラマキットもあるらしいんだけれど、まだ建設のためのポイントが足りず。
今はサンドボックストリオが作った簡易コースでランク上げと観衆からの収入を稼いでいる。
ああ、俺もそっちに絡みたいよ・・・。
そう言えば、マスターとミノルがタッグを組むための準備を始めているみたいだって話もあったな。
ミノルの食堂物語は、町の定食屋から始まって、飲食チェーン店化、国内トップシェアを目指すシミュレーションゲームだ。
店舗を作り、スタッフを雇用し教育、商品開発に販促活動やら何やらと発展させていく。
俺もやったことがあるけど、店舗数が増えてくると、工場で一手に調理を行うセントラルキッチンなんて機能も出てくる。
現状は残念ながら、食堂物語のレシピで使用する食材が手に入りづらいという理由で経営困難になっている。
そこで、リアルで料理人のマスターが、みどり村で開発したレシピを提供して食堂物語を動かそうとしているようなんだ。
これがうまくいけばマスターの負担が一気に減る。
定食物語のランク(ゲーム内では☆の数で表現)が上がれば、食材を組み合わせてオリジナルレシピ開発といったシステムが解放される。
マスターのレシピを使うためにも、そのシステムが解放される☆3を目指してマスターのレストランの一部に仮店舗を設置して、みどり村から得られる食材を使って提供できるおにぎりセットなどを販売して星を上げるための活動を始めたところ。
食堂物語のランクが上がってミノルがレストラン経営できるようになれば、マスターも元々目指していたという(というか、念願かなって開店して早々にこの世界に来ちゃったみたいだったけど)定食屋に落ちつくことができるだろうし、頑張ってほしいものだ。
ノルボルのムーンファクトリーもまだみどり村の中で仮設工場を作って仮営業中だし、早く進めないといかんのだけど、次から次へとお邪魔さんがやって来る。
困ったものだ。
眠い目をこすりながら重い足取りで集合場所へ向かう。
とりあえず、服装は白っぽいもので統一したよ。
この世界の医師がどんないでたちなのか知らないけどさ、一応ね。
貯蔵庫シリーズのことは知られたくないので、ドデカいリュックに野営道具を詰め込んで、治療の道具っぽいものも腰のポーチだのなんだのに詰め込んで・・・あぁ、動きづらい。
集合場所ではもう準備万端・・・いつから準備してたんだよって感じ。
みんなちゃんと寝たんだろうな?
挨拶を済ませると、ミレーユ嬢から馬車への同乗を勧められた。
もちろん丁重にお断りしました。
特に意味もなく(令嬢と一緒に乗るのが何となく嫌だった)辞退したんだけど・・・。
勧めるのが社交辞令なら、断るのはマナーなんだってさ。
メンドクサイナァ。
”常識”さん一歩遅いっス!
危うく乗り込むところでした。
基本的に、貴族の女性と家族以外の男性が同じ馬車に乗るのはタブー。
特に平民なんてもっての他なんだって。
今回は貴族側がこちらを招く立場で、他に馬車が無いから建前上同乗を勧めてきたっていう風に貴族界隈の常識では解釈されちゃうわけね。
なのに、ホイホイと乗り込んでしまうとそれは不敬になるから捕まっちゃうよと。
罠かよ!
ザケンなゴルァ!な案件だよもう。
まぁ、もし乗りこんじゃってたとしても、流石に今回はそんなことにはならないだろうけどね。
ミレーユはただ単に親切心で言ってくれたようだってことくらいは俺にも汲み取れたし。
ノブロフはミレーユのお相手に忙しそうでこっちを気づかってくれないし。
たのむぞ!”常識”さん、君だけが頼りだ。
だからもうワンテンポ早く教えてくれ。
まぁちょっと、あのご令嬢と道中一緒なんて気が滅入ってしまうからね、同乗せずに済んだのは良かったと思おう。
辞退したことで執事さんたちもちょっと認めてくれた感はあるし。
一応その程度の(貴族的)常識があるんだってわかってもらえてホッとしたんだろう。
なんせ、これからは伯爵家の案内で旅をするわけだしね。
では、俺は騎乗用モンスターに頼るとしようか。
どれにしようかな・・・舐められたらいかんし、ここはひとつマウントを取ってやろうってことで、ブリザードウルフのフブキにしようかな。
荷物を置いていったん離席、さも厩から連れてきたって風を装って・・・おうおう、騎士どもが警戒しておるわ。
昨日は騒動が一段落したのを見透かしたようなタイミングでやってきやがった怠慢集団め。
絶対どこかに隠れて観察してたぞ、あいつら。
うんうん、気分が良いぞよ。
せいぜい警戒して、遠巻きにしておくれ。
その方がこっちも気が楽だ。
なんて思ってたのに。
「まぁ! なんて美しい毛並みなのかしら。
それにこれほど大きくたくましい狼なんて。」
と、よりにもよってミレーユ嬢がフブキにメロメロになってしまった。
近づいて撫でようとするのを大慌てで止めようとするメイドさんに執事さん。
お疲れ様です。
「ささ、ミレーユ様、今は一刻を争う事態ですぞ。」
そう諭す執事に、ハッと我に返って馬車へと乗り込んだご令嬢。
フブキを良く言われるのは悪い気がしない。
というか、なかなか見る目があるじゃないかと見直してしまいそうになるが、触らぬ神に祟りなし。
自身の安寧のためにもご令嬢とは極力かかわりたくないものだ。
通常貴族の移動って、最低3台以上の同じ形式、デザインの馬車が連なるものらしい。
一台に貴族が乗り、他の馬車に執事やメイド、荷物が同数程度に別れて乗る。
万が一、トラブルでどれかがついてこれなくなったときでも貴族の世話が滞りなく行えるようにバランスよく分かれるんだそうだ。
順番はその都度バラバラ。
敵対勢力や野盗に狙い撃ちされるのを防ぐためとのこと。
で、前後左右を騎士が囲むようにように隊列を組んで護衛するものなんだけれど、今回はとにかく、ミレーユ嬢の独断でいきなり飛び出して来ただけに馬車も一台、騎士も6名と全く足りない状態での来訪だった。
異例づくしの帰路なわけだけど。
なんと、俺が先導を仰せつかった、というか押し付けられた。
分からなくも無いよ。
すぐ後ろに、さも恐ろしい狼の魔獣がいるなんて精神的につらいんだろう、まだ前にいたほうがマシだと。
ナンジャクモノドモメ。
一応街道の道案内なんて体裁を取り繕おうとしていたけど、一本道に道案内はイラネェ!
まぁいい、規定通り街道出るまで4日の行程でのんびり行こうではないか。
森を出てからはサンサテを経由して、領都まで4日ほどの行程らしいので、とんぼ返りしたとしても往復で16日。
あぁ、不毛だ。
治療不能とか言ってバックレちゃおうかな。
なんて考えていると、ふくらはぎにチクンと痛みが。
振り返るとそこには、フブキと並んで歩く二足歩行の猫が。
「なんでチミがいるんだい?」
「お目付け役ですぅ。
シンさんがぁ、何か悪だくみをしないようにぃ、しっかり見張るのですぅ。」
くっ、先手を打たれたか。
「案の定ぅ、今も悪い顔してましたぁ。」
まさかユーコが着いて来るとは。
想定外だ。
さすがに三百Km超の行程を歩かせるわけにもいかないので、仕方なく俺の前に乗せる。
サイズ的には子供位だし、フブキなら大丈夫だろう。
夜は完成して運用が始まって間もない宿泊所に泊りつつ、余裕を持った行程は問題無く進む。
途中魔物との遭遇もあったけれど、フブキのブレスで一蹴。
警備隊に後処理を頼んで、問題無く街道を出た。
道中の食事は、村で買い込んできたらしい魔素抜きの干し肉と、ナンモドキだった。
おや?
ナンモドキはまだ販売してないんじゃ?
「マスターが根負けしたんだってぇ。」
なるほど、ご愁傷さま。
普通は専属のコックがついてくるんだろうけどね。
どんな凄腕料理人でも魔素抜き食材にはかなわんだろうけど、それでも体裁だけはちゃんとした料理に仕立て上げただろうに。
伯爵令嬢が手づかみで干し肉かじってるよ・・・哀愁が・・・あれ?なんか手馴れてない?
味に満足しているからか、それとも無理言って出てきたのだから食事くらいはとしおらしくしているのか、この状況にも文句も言わない。
やっぱりなんか手馴れてない?
村までの行程は、ろくに食事も取らずにかっ飛ばしてきたらしい。
せめて帰路は旨いものをと、執事さんが頑張ってマスターと交渉した結果、未発売だったナンモドキも獲得したんだって。
っていうか、執事さんもなんか手慣れてない?
突発的な行動だったみたいだけど、資金もある程度準備していたみたいな・・・まさか・・・いや、ありえるか。
このお嬢、度々やらかしてるな・・・。
ご愁傷さま。
休憩中も何かにつけてフブキに近寄ろうとしてくるので執事さんやメイドさんは気が休まらんだろうなぁ。
せめて過労で倒れませんように。
街道を出ると、町や村意外では基本キャンプ地での野営になる
俺たちだけなら簡易拠点で快適に眠りたかったけれど、流石に御一行と一緒では無理なので、テントを設営。
何を考えてるんだか、手ぶらでついてきたユーコは仕方ないので同じテントで就寝。
うん、ぜんぜんドキドキとかしないよ。
だって猫だもの。
代わりにモフりたい衝動はあるけどね。
うん、自重自重。
さすがに道中の滞在地、サンサテではホテルに泊まったよ。
それも最上級の。
サスガお嬢様。
勉強になります。
中の構造とか、調度品とか食器とか、村の宿泊所でも参考にしよう。
う~ん、絵は自信が無い。
カメラが欲しいなぁ・・・カメラ?
あるじゃんカメラ!ってか、スクリーンショットだよ!
ゲームではF12キーでスクリーンショットを撮影できて、その画像はメーカーの特設サイトで公開できるサービスがあったんだよね。
それを利用したMODで、装飾用アイテムの”額”に撮影したスクリーンショットやPCに保存されている画像、動画を張り付けて拠点とかに飾れる様なものがあった。
その名も「ピクチャDe絵画」。
モロ日本人開発だってわかるネーミングのMODだ。
これを利用すれば、カメラに近いことができるのではないか?
俺に割り当てられた部屋であれやこれやと試してみる。
うん、できるじゃん。
なんでいまさら気が付くかなぁ。
ピクチャDe絵画のアルバム機能を開く。
ここに色々保存されるわけ・・・まずい!
なんでだよ!
いや、ちょっと・・・かなり嬉しいけど。
アルバムの中には、自分のパソコンに保存されていた画像、いわゆる「マイドキュメント」に割り付けられていたデータなんかがつまっていた。
ゲーム当時に撮影してあったスクリーンショットに、ネットで見つけて拠点づくりの資料用に保存してあった風景や建築物の画像、興味で集めた武器防具の画像などなど・・・だけなら何の問題も無かったんだけど・・・決して誰かに見られる訳にはいかないゴニョゴニョな画像まで入っていた。
これはフォルダー分けしてパスワードかけて封印ッと。
ふぅ、こんなの見られた日には村を出なければならない所だった。
ヨカッタヨカッタ。
お、動画もあるじゃん。
好きなアーティストや芸人のライブとかを購入して、スマホとかでも見られるように保存してあったものがマルッと入ってる。
これはうれしい。
あぁ、もう二度と見られないと思っていたものが。
「あぁ、プチメタだぁ。」
突然の声に心臓が飛び出しかけた。
「ご令嬢と同じ部屋だったんじゃないのかね?」
いつの間に入って来たんだ?この猫は。
まさか見られた?
「疲れたぁ。」
見られてなかった?・・・かな、この反応は。
延々レインとやらの惚気話を聞かされ続けて、ようやく抜け出して来たらしい。
お疲れ様です。
「ねぎらってぇ。」
ベッドの上でグデ~っと伸びをする猫。
やめて!ベッドが毛だらけになるから。
仕方ない。
ノエルさんを虜にした極上スイーツをふるまってやろう。
「ぷぅ~りぃ~ん~~。」
エイルヴァーンで料理スキルMAX、最高級の卵を使った至高のプリンを堪能するがよい。
各種デバフ攻撃耐性大幅アップの恩恵は・・・ここでは意味ないけどな。
「さて、探検、もとい、視察に出るとしよう。」
スクリーンショットの使い方もしっかり覚えたし、参考資料を撮影しなければ。
「さっきのプチメタわぁ~?」
見たいのか?
「どういうわけか、ゲームの機能を使ったら向こうでPCに保存してたものが見られたんでね、そのうちの一つだよ。
バックアップしてあったライブの動画が記録されてたんだ。」
「みぃ~たぁ~いぃ~~~~。」
マテコラ、なんで爪を出す!
「村に帰ったらな、ここで大音量のライブを見るわけにいかんでしょ。」
しかし、ユーコもプチメタファンだったとはな。
「じゃぁ、どこ行くのぉ~。」
あ、コッソリ一人で見に行くとでも思ったのか。
「スクリーンショット、というか、カメラみたいな機能があるのを思い出したんでね。せっかくの高級ホテルだから、内装とか調度品とかを撮影しとこうと思って。」
シンさんがマジメなこと言ってるぅ~なんて失礼な猫を置き去りにして、ホテル内を散策。
たっぷり500枚は撮影したったわ。
うん、なんとも無駄な調度品や装飾たちよ。
シンプルイズベストな俺の価値観では理解不能でした。
だって、平らな壁が全くないのよ!
何でここに飾りをつけるかなぁ~とか、このドア開けずれぇ~とか、そんなののてんこ盛り。
どうするんだろうと観察してたら、なるほど、お金持ちは自分で開けないのか。
ドアに近づくと、ホテルの従業員か従者がサッと先回りして開けるんだね。
手動な自動ドアってやつか。
そんな感じで深夜遅くまでしっかり堪能させていただきました。
**
サンサテを出てからも、急ごうとする令嬢に生贄を差し出したり、機材が痛むからとかなんとか誤魔化して規定通りの行程を踏みましたよ。
怠慢気味な騎士どもがどうなろうとも知ったこっちゃあないけど、馬に罪はない。
無理はさせないよ。
生贄の猫に随分プリンをせびられたけど、卵と砂糖と牛乳が手に入る算段がついたのだから、プリンくらいならまた作れるし安いものさ。
キャンプ地とハリドという町を通り、ようやく領都カルケイドの町並みが見えてきた。
異世界物のイメージとして、都市をぐるっと高い城壁が囲っている姿を想像していたけど。
見渡す限り畑が広がり、はるか先に平屋の家々が。
そのずっと先に、ようやく石積の外壁が見える。
8日間の小旅行。
とにかく何かにつけて急ごうとする令嬢を誤魔化しながら、馬に無理をさせない俺。
そんな俺に好感でも感じたのか、いかにも軽そうな騎士が話しかけるようになってきていた。
あくまで馬のためを思ってのことだったんだけど、なにか良いように勘違いしてくれたらしい。
その彼、軽そうな騎士グスマンの話によると、カルケイドの中央には城が、領主一族が暮らしていて、高い城壁と堀に囲まれている。
その周辺はカルケール伯爵家に仕える下級貴族や領主に認められたごく一部の市民が館を構え、貴族向けの商館や劇場などが並ぶ上流街があり、その周囲には高い城壁と堀がある。
ここから見えているのはそれね。
で、その外側が市民街。
何といっても、規模が違う。
これまで通って来たサンサテやハリドはしっかり外壁に囲まれていたけど、それでもカルケイド上流街の半分ほどの面積しかない。
一地方領でしかないとはいえ、領都ともなると都市全体を外壁で覆うのは現実的ではないそうだ。
しきりに街並みのすばらしさとやらをご高説いただいたけど、ぶっちゃけ見るべきものは無い。
というか、町の中がなんとなく臭い。
領都とはいえ、いわゆるボットン式のトイレが一般的なのでその臭いが漂ってくるんだよね。
鼻の良いユーコは町に入る前から顔しかめっぱなし。
街中では騎士、俺の乗るフブキ、馬車、騎士という隊列で、ちょっとした見世物になっている。
「領主の馬車に騎士ときたらやっぱり見物人も出るよね。」
「なわけないだろ!みんなこのオオカミのせいだろ!」
グスマン君、そこはわかっていてもスルーするのが大人の対応ではないのかね?
やっぱり英雄の村は本当にあったんだ、とか聞こえて来たけど聞こえなぁ~い。
上流街への門は開け放たれていた。
基本的に開けっぱらしい。
堀にかかる橋を渡ると、門番らしき兵士が慌ただしく奥へとかけていった。
わがまま暴走お嬢の帰還を伝えに走ったかな?お疲れ様です。
上流街に入れば、臭いも少しは良くなるかなぁと思ったけど逆だった。
臭いをごまかすためだか、そこら中に香りの強い花が植えられていて、まるで芳香剤工場にいる気分だ。
花の無い冬などは、わざわざお香を焚くらしい。
ユーコは・・・
シュコー、シュコー・・・。
仕方なく渡した火焔窟のマスクを装備している。
それ、そこそこレアな防毒マスクなんですけど。
上流街の町並みはさすがにきれいだったけど、中に入ってから程なく十数人の騎士たちがやって来て、俺たちをガードするようにグルッと囲んだ。
「護衛じゃないからな。」
分かってるって、フブキを警戒してるんだろ。
まったく、田舎者だと舐められないようにフブキできたのに、こいつらビビリすぎぃ~。
城までピリピリしながら護送されましたとも。
おお、広い。
城壁の門からお屋敷の入り口まで軽く1Kmはあったぞ。
屋敷前にはずらりと並ぶ騎士と執事とメイド、に、貴族っぽいオジサンたち。
ご令嬢が馬車から降りた途端に、
「この馬鹿者がぁ!」
という怒鳴り声が響いたのだった。




