009話:軽トラ
「軽トラ?!」
思わず俳優張りの二度見を決めて叫んだ。
だって、軽トラだよ?この世界で軽トラって・・・。
軽トラの運転手もその声に驚いたのか、ジッとこっちを見ていた。
しばしの沈黙。
見つめ合う二人。
「まぁじかっ!軽トラ知ってるってことは、あんたもクソ悪魔被害者っスかぁ!」
クソ悪魔?
いや、分かるけど。
ハイテンションで軽トラから出てきた青年は、白いツナギを着ていた。
「いやぁ、初めてっスよ!同じ境遇の、なんつーんスかねぇ、被害者?と会ったのは。」
この世界でどうやって固めたのか、キッチリとしたリーゼント、細身でもはっきりとわかる筋肉質な体つき、これで学ランでも着てたらヤンキー漫画の主人公だ。
「俺も・・・いや、君で2人目だ。」
実際に会ったわけじゃないけど、忘れちゃいけない。
「もう、亡くなってると思うけど。」
「マジスか・・・いや、あいつの鬼畜っぷり考えたら、生きてられる方が奇跡みたいなもんスよね。」
彼、ユーシンこと田辺 雄一は学生で、レースゲームをプレイ中だったらしい。
レースゲームといっても、F-1とかの一般的なものではなく、トラックやバス、ダンプカーなどなど、いわゆる働く車で町中を爆走するというかなりぶっ飛んだ設定のゲームらしい。
駐車中の車を踏み潰す巨大ダンプ、民家を壊しながら暴走する観光トラックのテレビCMを見た記憶がある。
軽トラックは、そのゲームのチュートリアル用の車らしい。
「ひでぇっスよねぇ。レースしなきゃランク上げらんねぇのに、車なんてこの世界に無いんスもん。」
そう愚痴る田辺君は、いわゆる”うんちんぐスタイル”で管を巻いた。
「はは、俺の方も散々だよ。
レベルさえ上がれば戦闘も物作りもガッツリできるようになるはずなんだけどね、無茶苦茶レベル上がんないんだよ、この職。」
それから、ひとしきり互いに愚痴を言い合い、気が済むと近況報告と情報のすり合わせを始めていた。
ちなみに中身がアラフィフのおっさんであることを知った時の反応はなかなか面白かった。
まぁ、そうだよね。
「田辺君は今までどうしてたの?」
「俺っスか?早々にランクアップはあきらめて、今は軽トラで運送の仕事してるっス。
量は無理でも早さは負けねぇっスから。」
という軽トラはすでにない。
自由に出し入れできるらしい。
「軽トラ、ここの住人に理解されてる?」
素直な疑問を口にした。
ひょっとして、この世界の住人って、俺が思っているより柔軟なんかな?
「いや、さすがに無理っぽいっス。
最初の頃は何も考えずに乗り回してたんスけど、なんか騒ぎになりだしてやめたっス。」
そりゃそうだよなぁ。
「今は、デカい背負子で町出て、人気のないところで軽トラ出して夜中移動してるんス。
キャンプ場使うときも人がいなくなった時に入るようにしてたんスけどね。
まさかこの時間に誰かいるとは。」
運べる量は少なくても確実で速く配達される、しかも価格も控えめ、ということでなかなか好評なんだそうだ。
軽トラは野盗や魔物からもしっかり守ってくれるそうで、外装がへこんだり窓にひびが入っても壊れたことは無いそうだ。
ゲームでもクラッシュでのリタイアは無いそうなので、ゲームの設定が有効になってるんだろう。
しかも、一度異空間にしまって召喚しなおすと新品同様になっているそうな。
何ともめちゃくちゃである。
「車しまえるってことは、荷物なんかも?」
「いや、しまえるのは車だけなんス。
なんで、結局背負子1つと手持ちできる分しか運べないんスよ。
荷車だと自分だけじゃ動かせないし、荷台に積んどいても車しまうと荷物が放り出されるんで。」
「なるほどねぇ。なかなかうまくはいかないもんだ。」
まぁ、俺はレベルさえ上がればかなり融通効くようになるけど。
「冷凍車出せるようになれば、海産物を内陸に運んでぼろ儲け、とか思ってたんスけどね。」
悔しそうに愚痴る。
「馬とか、馬車と競争とかじゃダメなんかな?」
ふと思いついたことを言ってみる。
「あ~、どうなんでしょう。
そもそもスタートとゴールがどういう基準なのかとか全然わかんないんスよ。
最初のころ何も考えずに軽トラで馬車追い越したりしてたけど、ランクは何も変わらなかったし。
そもそも気軽に使うのマズいことに気が付いて。」
それもそうだ。
だからこそ夜中移動なんだろうし。
「で、飯田さんはこれからどうするんスか?」
「とりあえずレベルアップしながらゼノ村を目指す予定だよ。
村に着いたら、しばらくはそこを拠点にレベルアップかなって思ってるんだけど。」
まぁ、一応念のためレベル30で第一貯蔵庫が使えることとかは伏せておいた。
一応ね。
「スゲぇ迷惑かもですけど、俺もついてっていいっスか?一人ってなんか不安で。
軽トラしかないし、この能力で戦うなんてちょっと考えつかなくて。
運送業も忙しいわりに大した金になんないし、この先どうやっていけばいいのか見当もつかないんスよ。
移動にはかなり役に立てると思うんスけど。」
少し考えた後、意を決したようにまっすぐこちらを見て言う田辺君。
「俺の方こそ願っても無いよ。
食料的にもあまり余裕がなくて、経験値稼ぐのキツイなぁって思ってたところだから。
移動で車使わせてくれるとすごく助かる。」
ということで、出会って早々強力タッグが誕生した。
田辺君は夜通し走ってきたそうで、テントで就寝。
俺はラサの煮込み完了を待ち、試しに一つ食べてみた。
「マズ。」
思わず声に出てしまった。
なんか負けた気がする。
熱いぐちゃぐちゃの、エグくてほんのり甘い物体だった。
やっぱり干さないとだめか。
エグみはなんとなくだけど生よりマシだった気がしないでもない。
干すとまた変わるのかな。
ということで、とりあえず枝に紐でくくって干してみる。
なんか、すごい無駄な時間を過ごしてる気になってきた。
いやいかん、美味、いや、普通の味への道を諦めちゃいけない。
料理経験はゲーム内限定だけど。
目指せ格安スーパー弁当レベル!
料理スキルで何とかなるはずだ。
たぶん。
タノムヨ。
干してる間に、テントの中に簡易貯蔵庫のドアを出して中を再点検。整理しておこう。
装備品:ローブ(防御力+1)・スモールシールド(ノックバック防止+1)
道具 :鍬・籠(農作業用)・包丁・鋸・作業台(調理)・作業台(木工)
素材 :丸太(3)・板(10)・鉄屑(12)
今使えそうなものは無いようだ。
期待はしてなかった。
まぁ、ヒマ潰しだしね。
それでも時間は余るもので、夕方まで仮眠をとる。
周囲がザワついてきて目が覚めた。
新しく商隊や旅人が入ってきたようだ。
起きてきた田辺君と夕食をとる。
朝食と同じ塩抜き干し肉の麦粥もどきはなかなか好評だった。
聞いたら、移動中は保存食と干し肉をそのままかじるだけ、町や村では食堂で強烈なエグみとしょっぱい煮込みを流し込む生活だったそうだ。
「マジか、飯田さん料理達人じゃないスか。
食堂で食ったメシよりずっとうまいスよ。」
と、料理とも言えない素人メシを田辺君がやたらと褒めたたえてくれた。
この世界、食事情はかなり問題あるからね。
デザート代わりに軽く干しただけの干しラサの実を味見、超微妙。
ちょっとはエグみが和らいだかな?
「あ、これって市場で見ましたよ、なんか、刻んで煮物に入れるとかって。」
「らしいね、俺は最初、生のままかじって無理やり飲み込んでたよ。
一口ごとに覚悟決めた食事はもう経験したくないな。」
ほんともう、あの食事は二度とごめんだ。
キャンプ地にはすでに2組の商隊がテントの設営を始めている。
田辺君の話だと、2つ先のキャンプ地は森で素材を集めるハンターをよく見かけるそうだ。
レベルアップなら効率がいいのではないか、という提案をうけて即採用となった。
善は急げと、テントをたたんで出発。
商隊の護衛さんからは何かいぶかしげな感じで見られてたな。
この時間に出発は自殺行為だから当然だけど、気にしちゃいられない。
徒歩で30分ほど移動してから田辺君が軽トラを呼び出す。
何もなかった道にいきなりパッと軽トラが現れた。
「んじゃ、行きましょうか。」
軽トラで夜中の移動。
ほどなく日本の道路事情がいかに素晴らしかったかをかみしめることになった。
ただ踏み固められただけのデコボコ道は、タイヤとサスペンションだけでは太刀打ちできないようだ。
振動抑止機能なんて無い馬車とかって、こんなもんじゃないんだろうな。
砂利道ではないからガタガタ振動はかなり吸収してくれてるけど、地面そのものが悪い意味で変化にとんだ形状だからかなりたいへん。
普段乗り物酔いしない俺だけど、ちょっと不安になるほどだった。
会話も無い。
舌嚙むから。
体感で2時間ほどすると少し道が良くなり、遠くにキャンプ地が見えてきた。
「ここは商隊が多いんでスルーします。」
と、道を外れてキャンプ地の入り口とは反対方向に迂回してまた道に戻り、再び北上。
「だれかが隣にいるってだけでもスンゲェ気が楽っスよ。
ここ、街灯なんてないし、道だってきっちり区分けされてるわけじゃないっスからね。
気が付くと道はずれてることもあったんスよ。
たまに獣がいたりして、真っ暗闇なんで最初のころは徐行でなんとか移動してたんス。」
わかる。
ライトがあるって言っても、白線とかの目印がない道はとてつもなく不安だ。
「つっても、今もせいぜい30km程度しか出てないスけどね。
これ以上出すと体が跳ねちゃって運転どころじゃないんで。」
「原始的なサスペンションつけて馬車無双なんて、現実的じゃないんだね。」
「馬車っスか、一度試しに乗ったんスけど、歩いたほうがましっスね。
貴族様の馬車にはクッションとかいろいろついてるみたいスけど、たぶんさっきまでみたいな田舎道じゃ何やっても無駄っスよ。」
「だねぇ、この世界の道はある意味凶器だよ。
金属の加工技術がどの程度か知らないけど、強力なバネは無さそうだし、木製サスペンションじゃすぐ壊れるだろうね。
異世界物の定番ウハウハ計画が次々潰されていくなぁ。」
食事、揚水ポンプに馬車、あと思いつくのは娯楽の王道、リバーシか?
でも、チェスっぽい遊戯はあるらしいんだよな。
流通も未熟だし、特許なんて概念無いからすぐマネされるだろうし、ウハウハは無理っぽい。
結局地道にレベル上げ、が俺にとってはウハウハへの一番の近道ってことか。
スルーしたキャンプ地からさらに2時間ほど、目的のキャンプ地が見えてきた。
「いつもは森の陰に入って、車で時間潰して商隊なんかが出てからからキャンプ地に入るんスけど、どうします?」
歩いて入るにしても、まだ暗いこの時間に入るのは不審がられるか。
「明るくなったら森へ入ってみようと思うんだけど。」
「スよねぇ、俺も興味あるんスけど、間違いなく足手まといになるからいつも通りにしまス。」
「そうだね、俺もまだ今は逃げてる方が多いくらいだから、レベル上がって十分フォローできるようになるまでは待ってほしいな。」
「了解っス。」
車内で夜明けを待つ。
田辺君は慣れているのか仮眠をとっている。
安全ってことは聞いているけど、やっぱり眠れない。
木の上での仮眠よりはずっと快適なんだけど、頭で安全と分かっててもすぐには無理だよね。
ウトウトしつつも仮眠まではとれず。
寝不足がちょっと不安だけど、ま、何とかなるでしょう。
周囲が明るくなるのを待ってから車外へ、荷台に積んでおいた装備を着こんで、保存食をかじる。
うん、安定のエグさだ。
さすがにここで調理はできないからね。
「気を付けてください。」
起きてきた田辺君に見送られて森の中へ。
1時間ほどの探索でリルベア再び。
物理が効かないのは学習したので、マジックアロー倍化を試してみよう。ダメならやっぱり逃げる。
射程ギリギリまで慎重に近づき、マジックミサイルを準備。
さらにレベルアップで魔力が増えているから、魔力を消費して威力を倍化させてから撃つ。
5本の矢全て命中し、リルベアの背中がはじけ飛ぶ。血しぶきがまき散らされてピクリとも動かない。オーバーキルってやつか。
倍化させなくても良かったかな。
一応学習してるので、素早くその場を離れる。
あれだけハデに血が飛んだなら、すぐにでも魔物が集まってきそうだ。
派手にはじけたし、皮はあきらめた。
種 族:ヒューマン
職業 :超越者
レベル:5
経験値:1002 次のレベルアップまで998
生命力:25/25 肉体的ダメージを受けると減る。0になると死ぬ
魔 力:20/26 魔法を使うと減る。0になると意識を失う
気 力:25 スキルを使うと減る。0になると意識を失う
筋 力:26 力の強さ。攻撃力などに関係
体 力:27 スタミナ。持久力などに関係
敏捷性:25 動きの素早さ
器用さ:26 手先の器用さやバランス感覚など
知 識:26 記憶力と知識量。魔法の発動や威力に関係
知 恵:25 頭の良さ。計算速度などに関係
魅 力:25 高いと人を引き付けたり、友好に思われやすくなる
魔法 :ライト(MAX)・マジックアロー(MAX)・マジックシールド(MAX)・
ライトヒール(MAX)・NEW スリープ(MAX)・NEW ボディプロテクション(MAX)
スキル:強撃(MAX)・応急処置(MAX)・見立て(MAX)・警戒(MAX)・簡易貯蔵庫(MAX)・NEW 強運(MAX)・NEW 静動(NEW)
さすがリルベア、経験値がおいしい。
今日一匹目で早くもレベルアップだ。
強制催眠させるスリープ、体に魔力の幕を張って防御力を向上させるボディプロテクション、2つの魔法が解放された。
スキルも2つ、強運はゲームではドロップ率アップの効果だったけど、そもそもドロップがないこの世界でどんな効果があるんだろう。
それともスキル名どおり運が良くなるとか?わからん。
パッシブ(常時発動)スキルだから調べようが無いな。
静動は、隠密の下位互換。
一定時間モンスターから認識されにくくなる。
現実だとどうなんだ?静かに動けるとかかな。
「あ!」
思わず出た声に自分でビックリしてしまった。
思い出したよ!“常識”さんが。
すべての魔物は心臓の一部が硬質化していて、それは魔石と呼ばれて取引されている。
皮を剝ぐより取り出しやすく小さいのでたくさん持ち運べる、お手軽素材なのだ。
取るのがグロいけど。
って、今更思い出すなよ!
皮剥ぎに苦労して失敗して、時間かけて追いかけられるよりよっぽど良いじゃないか。
今日のリルベアのも回収してないし、今更戻れないぞ!
・・・ふぅ。
気持ちを切り替えねば。
うん、切り替えた!
切り替えたったら切り替えた!
後ろ髪惹かれまくりながらも、新たな魔物を探すことにした。
レベルアップによって新しく思い出したってことなんだろうけど、ホントに厄介だな、これ。
新しい魔法やスキルの検証もしなきゃならない。
スリープは単体と範囲、2種類の使い方ができる。
範囲の方が複数を一度に眠らせられるから使いやすいけど、眠り自体は浅いから大きな音でも目を覚ましてしまう。
対して単体にかけると、昏倒に近い程の深い眠りなのでそれなりにダメージを与える攻撃でない限り数分は目を覚まさない。
ボディプロテクションも使い勝手の良い魔法だ。
特に近接戦闘ではしばらく必須になる。
静動は、次魔物見つけたら試そう。
問題はやはり強運か。
どうなるんだろう。そもそもが、まともに素材回収できていない現状でどうやって検証しようか。
うん、放置でいいや。
検証方法考えるのメンドイ。
パッシブだし、なんかしら効果あるんなら勝手に補正されるだろう。
それにしてもやっぱり魔物少ないなぁ。
いっそ、ラサの実でも探すか。
リルベアをあっけなく倒したことで油断、というより完全に気が緩んでいた。
右足に激痛が走るまで、接近するゴブリンに気が付かなかったとは。
尻もちをつくように倒れると、ようやく足に刺さった矢に気が付いた。
痛てぇ。
ギィイ!
さび付いた剣を振り上げて駆け寄るゴブリンが3匹。
慌てるなよ、こんな時ほど冷静に。
スリープ。
もちろん範囲攻撃だ。
走ったまま、くずおれるように倒れる3匹。
すかさずマジックミサイルを準備して、手前の2匹に2発ずつ、遠い1匹に1発、狙いをつける。
放とうとした時、寝たはずのゴブリンたちが起き上がる。
頭を振り、眠気を振り払うような動作をしながら立ち上がろうとする。
起きるの早すぎ!なんで?
走ってきたところにかけたから、倒れた時の衝撃で目を覚ました?
放ったマジックミサイルが2匹を即死させ、残りの1匹には肩口に命中した。
それでも、ゴブリンは逃げださずに鬼気迫った勢いでとびかかってきた。
あ!こいつ見たことある。
初めてゴブリンに遭遇した時、倒せなかった奴だ。
覚えてやがったのか。
「ボディプロテクション!」
声に出さなくてもいいのに、無意識に叫んでいた。
ゴブリンの錆びたファルシオンが肩にたたきつけられた。
ボディプロテクションが間に合ったおかげで、レザーアーマーに触れる前に刃が止まった。
ショートソードを抜きざまにゴブリンの腹を切り裂いて、無事な左足で蹴り飛ばす。
蹴り飛ばしたゴブリンはそのまま絶命したようだ、ピクリとも動かない。
ホッとすると、だんだん痛みが強くなってきた。
ライトヒールを使うにも、矢を抜かないといけない。
かなり怖い。
急がないと、また魔物が寄ってくる。
いくぞ。
・・・。
やっぱり怖い。
「大丈夫か?」
ふいにかけられた男の声にビクッとした。
「毒はねぇな。物取りじゃなく狩りの途中だったか。」
声をかけてきた男とは別の髭だらけの男が、弓を持っていたゴブリンの持ち物を見ながら言ってきた。
そうそう、ゴブリンの群れは原始的だけどしっかりと役割分担をしていて、食べるための狩りをするグループは毒を持たない。
うっかり毒矢を使って、毒の回った肉を食べてしまわないようにだ。
物取りグループは、人間を襲って道具や装備を奪うためのグループで、武器にはすべて毒が塗られている。
と、今“常識”さんが思い出した。
「普通、狩りの連中は人間を避けるんだがな、何か恨みでも買ったかい?」
買ったな・・・やっぱりそうだよね。
「ここじゃ抜かねぇ方がいいだろうな、ちっと痛いが我慢しろよ。」
いうが早いか、最初の男は足に刺さったままの矢を両手でつかむと、乱暴に短く折った。
無茶苦茶痛かった。
いや、やることが早すぎるし雑すぎるよオッサン!
たぶん俺よりずっと若いだろうけど!
「仲間はどうした?まさか全滅ってわけじゃねぇだろ?」
ハンターは基本複数でチームを作る。単独行動なんて、よほどの訳ありか腕が立つかだ。
ゴブリンにやられるくらいだから、チームだったか訳ありだろうって思われたようだ。
「キャンプにいます。自分は下見だけのつもりだったんで。」
と言ったとたんに形相が変わる。
「阿呆が!これだから勘違いしたガキは、魔法が使えるくらいで強くなった気になりやがる。」
ん?魔法?この世界だと・・・、あ、そうなんすね。
“常識”さんが今、アップデートされました。
一般人にはなじみのない魔法。
でも、最近は魔法学院や魔法の研究者なんかが研究の資金稼ぎにと、簡単な魔法を使える道具を販売しており、貴族や騎士たちにはそれなりに広まっているんだって。
ごく簡単なものは傭兵やハンターの中にも使うものが出始めているらしい。
ゴブリンの傷口を見て魔法だと分かるってことは、彼らも魔法を使うようだ。
「仕方ない、戻るぞ。」
髭のハンターがゴブリンの魔石を取り出しながら
「運賃だ、もらうぞ。」と言って腰のポーチに入れた。
はい、了解です。
逆らいませんです。
でも運賃?
そう、彼は俺を荷物のように肩の上に抱え上げると、そのままキャンプへと駆け出した。
いや、確かに早いけど!雑すぎない?
あと、もうちょっと説明を希望!