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れいしょういっぱい  作者: 叢雲ひつじ
8セーブ目
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8セーブ目(5)

 双子が手際よく押し入れに玩具を仕舞い込むので、月照はただその様子を眺めているだけで何もしないまま終わった。

 様子というか胸ばかり見ていたのだが、作業を終えた双子が揃って首を傾げてこちらを見ていた事に気付いて、(てい)(さい)を整える為に最後の確認とばかりに押し入れの中を覗き見て、置き場所が極端に変わっていないかの確認をした。

「大丈夫だよ」

 後ろから灯が声を掛けてきた。

「私達、みっちゃんの部屋は知り尽くしてるからね」

 蛍がそれに続けた。

 双子の言う通り、押し入れの物は完璧と言って良い位元通りの場所に戻されていた。なんなら崩れかかっていた奥の方の箱まで丁寧に直してあった程だ。

(こいつら……)

 玩具を出す前に少し見た時も昔と同じかどうか言い当てていた。月照の事に対して、記憶力が良すぎてちょっと怖い。

(普段は忘れ物しまくって教科書や宿題を忘れるのなんて日常茶飯事のくせして……てかそんなに記憶力良いのに、なんで暗記教科の点数あんな酷いんだよ……)

 納得できない月照だった。

「みっちゃん以外の人がその押し入れに入った(こん)(せき)が無いのも確認したよ」

 月照が押し入れから頭を出して(ふすま)を閉じるのを見て、灯がVサインで得意気に言った。

「普通の客は押し入れになんて入るか!」

 立ち上がりながら言い返すと、

「普通の人で部屋に()れる位仲の良い人いるの?」

 蛍が真顔で聞いてきた。

「……い、いるかもしれないだろ」

 月照は反論と言うよりも独り言の様に呟くのが精一杯だった。視線は下を向いている。

 蛍に言われるまでもなく、中学の頃から今日に至るまで、この部屋に入った双子以外の普通の人間なんて母親位なものだ。

 父親は「普通か」と問われれば「違う」と答えたくなる性格をしているし、それ以外に部屋に入った事があるのは、園香を含めて全員霊だ。

(畜生……)

 しかも深く思い返すまでもなくそう断言できてしまうのが余計に悲しい。

(いや、待て! そういやこいつら、花押先輩が家に来る現場見てたじゃねえか!)

 園香は霊だが、双子はその事を知らないはずだ。だからむしろここでちゃんと反論しないと、園香の正体がバレる切っ掛けになりかねない。

 と、慌てて月照が口を開こうとした時。

「なるほど~、意地悪先輩はここには入れなかったんだね」

()しくは、みっちゃんはあの人を普通と思っていないのかも」

「どっちにしても、やっぱり大丈夫みたいだね」

「あれは嘘じゃなかったっぽいね」

「「ふうぁぁ~~」」

 双子が二人で何やら会話して、最後に(あん)()の様に息を漏らした。

 途中ぎくりとする発言もあったが、どうにも二人の雰囲気からして、園香が霊だと判断したわけではなさそうだ。

 まああれだけ存在感のある人物が、「実は霊かもしれない」なんて普通は考えないだろう。

「何の話だ?」

 安心した月照は、蒸し返さずそのままやり過ごす事にした。

「「ううん、何でもないよ」」

 双子はそう答えて、笑顔を見せながら部屋を飛び出した。

「次はゲームするんでしょ?」

「早く行こ!」

「「時間が勿体ないよ」」

 出たすぐそこで一旦振り返ってそう言い、有無を言わせずまたすぐにどたどたと走っていった。

「……おーい、家の中で暴れんなよー!」

 結局何が何やらよく分からない月照は、遅れて部屋を出て付いていくしかない。

 テレビゲームの最中や終わってすぐに、また双子がこの部屋へと飛び込まない様に部屋の扉はちゃんと閉め、少しでも防御を固めておく。まあ鍵が無いのであまり意味は無いだろうが……。

(それにしても、さすがのあいつらでも花押先輩が入ったなんて気付かなかったな)

 デートの日は双子の言う通りこの部屋には入れていない。

 だがその数日前に夜間安眠の札の性能チェックをしに来た時は、園香はこの部屋で半日ほど好き勝手して遊んでいた。いや好き勝手して遊ぼうとしていたのを力尽くで止めたのだが、その時にあの押し入れも漁っていた。

 だから押し入れは、その後に月照がいつも通りに片付けておいたのだ。本人がいつもの置き場所に戻したのだから、双子に人が入ったかどうかなんて分かるはずがない。

 園香がいた痕跡は、漫画が大量に入れてある本棚と机に入っていた「夜間安眠」の札の置き場所が少し変わった事くらいなものだ。

 しかし札の存在は双子も知らないし、本棚は意外にも園香が読んだ本をちゃんと元の場所に戻してくれていた。

 押し入れもそうしてくれていれば片付けせずに済んだのだが……。

 まあそもそも他人の家の押し入れを触るなという話ではあるが。

(……あれ?)

 その時、ふと疑問が頭を()ぎった。

(そういや、なんで花押先輩ん時はあんな全力で防御したんだっけ……?)

 あの時は床に響く位強烈なチョップを脳天に叩き込んだ。

 チョップの火力が双子相手よりも高かったのは、相手が霊なら死ぬ事はないと分かっていたからだ。

 しかしそれにしても、園香と会話したのはあの日が初めてと言っても良い。それ以前は「がおー」位しか話した事が無かった。

 そんなほぼ初対面とも言える(ろく)に知らない相手に、あんな高威力の攻撃というか、剥き出しの敵意を込めた暴力を振るったのだ。いくら何でも遣り過ぎた。そこまでムキになる事だったかと問われれば、回答に(きゅう)するだろう。

 いやまあそもそもとして良く知っている相手でも暴力は駄目なのだが、比較対象が双子の場合はその限りではない。

 月照の中では、双子相手には攻撃を放つのが既に当たり前になっている。双子の方も、チョップを期待して悪ふざけをする事が往々にしてあるので、もはやコミュニケーションの一つと言えるだろう。

 だから振るった暴力の単純な威力差で判断するのではなく、相手に対する感情がどうだったかで判断するべきだろう。

(俺の部屋で好き勝手されるのが嫌だった、ってのは今日と同じだよな?)

 だが双子相手なら一度注意(と言う名の攻撃)をしただけで後は好きにさせていたのに、園香にはその後も全力で注意(と言う名の(どう)(かつ)や攻撃)を続け、結局最後まで押し入れを触る事は許さなかった。

 それでも月照の入浴中に触った園香はさすがと言うしかない……。

(でも先輩がどこ触ったかなんて……本棚とか机の中とかは殆どそのまま放置してたのに――)

 机の中身は一応札と御神体だけきちんと確認したが、本棚なんて完全に放置だった。

 園香がちゃんと元の位置に戻していた事に気付いたのは今朝になってからだ。

 双子を待つ時間を潰すのにインターネットのサイトを色々と見ていたら古い漫画のネタがあったので、本棚に入れてある父の漫画で元ネタを確認しようとしたら、元通り仕舞ってあると分かった。

(なんで押し入れは割と直ぐに確認したんだ?)

 しかし押し入れだけは、翌日直ぐにどこをどう(いじ)られたのかを確認して元通りに戻した。

 あそこに入れてあった物なんて、双子が言っていた通り小学校の頃からずっとある物ばかりだ。

 手前の目立つ所にあるのは今日遊んだガラクタ同然の玩具類で、奥の方にあるのはもう使わない教科書などだ。懐かしい品々ではあるが、金銭的価値のある物なんて何も無い。

(……本当に、なんであんなムキになっちまったんだ?)

 月照は自分でも分からないまま、なんだかモヤモヤとした気分になった。

「「みっちゃーん! 早く来ないと、ゲーム機にDVDの代わりにバウムクーヘン入れるよ~」」

「食いもんを粗末にするな!」

「「ゲーム機は良いの!?」」

「良い訳あるか!」

 居間の方から掛けられた双子の言葉に間髪入れずに突っ込んで、月照は思考を切り替えた。

 これ以上この事を引き()ってもモヤモヤが増すだけで晴れる事はない。

 だったら今は、双子を暴走させない様に近くで監視するべきだ。

 最後にもう一度だけ部屋の方を振り返ってから、月照は居間へと急いだ。



 この三人でテレビゲームをするのは久しぶりだ。

 双子がどんなゲームを選んで待っているのかと思いながら居間に着くと、意外な事に園香が悲鳴を上げていたゾンビアクションゲームだった。

 まあ確かに二人共オカルト、特にホラー系が大好きなのでこのゲームも好きだったのは知っていたが、これは残念ながら一人用ゲームだ。みんなで遊ぶのには向かない。

 それに双子は対戦型パズルゲームが得意なので、それを真っ先に選ぶと思っていた。

 まあ()(まま)勝手な二人なので、行動を予測しようとする方が無理なのだが……。

 しかし()(ばつ)ではあっても単純な思考しかしていないので、逆に行動結果からその過程を推測するのは、付き合いの長い月照にはそれほど難しくはない。

(……ああ、そういや入れっぱなしだったな)

 園香とゲームをした後に本体からソフトを出さずに電源を切ったので、このゲームが入れっぱなしだった。電源を入れた時にこのゲームが動いたので、そのまま始める事にしたのだろう。

「「あ、みっちゃん遅いよ」」

 双子が見事にシンクロして振り返りながら言った。

「いや、まだスタート画面じゃねえか」

 双子が見ているのは、ロードするデータの選択画面だった。

「これ、久しぶりだから結構忘れてるし」

「どれが私達のデータか分かんなくなっちゃった」

「「だからみっちゃん、どれか教えて」」

「いや、残ってる訳ねえだろ」

 こんな仕様もない事にわざわざ連携トークをされても、何年も前にクリアしたデータなんて残しているはずもないし、残っていてもどれがどれだか分かる訳もない。

 今分かる唯一のデータは園香とプレイしていた物だけだ。

「ええ~。そんな意地悪言うなら、みっちゃんがしてるこのデータを使ってやる!」

 コントローラーを握っている灯が、日付の一番新しいデータにカーソルを重ねた。それは言うまでもなく園香のデータだ。

「おい、止めろ!」

 このゲームはデータの記録回数などをカウントしているので、勝手にプレイしたら園香に申し訳が立たない。

 月照は慌てて少し強引に灯の手からコントローラーを奪い取ろうとしたが、勿論大人しく従う灯ではない。自分の身体を使ってブロックし、腕を伸ばしてコントローラーをできるだけ月照から遠ざけた。

「止めるのはみっちゃんだ!」

 蛍も楽しそうに後ろから月照の身体を引っ張って妨害した。

「止めろって! それ、先輩のデータだから!」

 月照が隠さずそう言うと、双子の動きがピタリと止まった。

 その隙を見逃さず、月照はコントローラーを奪ってカーソルを避けた。

「……ったく、新規でノーセーブクリア目指せば良いだけだろ」

 このゲームが好きなだけあって、双子もこのゲームは何度もクリアしている。ブランクは三年ほどあるが、タイムアタックをしたり運悪く即死攻撃を受けたりしない限りそう簡単には死なないだろう。

「「む~~……」」

 月照が新しくゲームを始めてから灯にコントローラーを渡そうとすると、双子は揃ってへの字口で唸っていた。

「なんだよ?」

 受け取って貰えないコントローラーをプラプラ揺すりながら尋ねると、双子は爆発した様に連携トークを始めた。

「意地悪先輩のデータ残してるって事は」

「また遊ぶ予定があるって事だよね?」

「しかも家に連れ込むつもりって事だから」

「またこっそり親の不在を狙うって事だよね」

「そこでホラーゲームするって事は」

「相手を怖がらせて抱き付かせるつもりって事だよね!」

「「この下心丸出しのどスケベ!」」

「妄想が激しすぎだろ!」

 コントローラーを持って無かったらチョップを入れている所だ。

「そもそも花押先輩はそんな――」

 そんな面倒な事を画策しなくても先日既にかなり強く密着された、なんて言える訳がない。

「そんな、何?」

 蛍が(いぶか)しげに聞いてきた。

 なぜか()も言われぬプレッシャーの様な物を感じる。

「そ、そんな、そんな~……――あれ、あれだ」

「あれって何?」

 苦し紛れに指示代名詞で誤魔化そうとしたが、今度は灯が聞いてきた。ぶっちゃけ月照本人も「あれ」が何なのか知りたい。

(い、言い訳……というか上手い誤魔化し方……)

 別に園香と密着しようが双子にとやかく言われる筋合いはないはずなのだが、どうしてかしっかりと納得させなければならない気がする。

「あれ、っていうか、それだ」

「「だからどれ!?」」

 しかしそんなふわっとした感覚に突き動かされているだけなのに相手の求める回答なんて分かる訳もない。

 そもそも自分がどうしてそんな(しょう)(そう)(かん)に囚われてしまったのかも分からない。

(ああ、くそ! だからこいつらなんとなく苦手なんだよ!)

 普段はただ(うっ)(とう)しいだけなので、暴力も含めた様々なコミュニケーションを用いて簡単にやり過ごしている。だから日常的にはあまり苦手とは感じない事が多い。

 しかし時々、こんな風に心理的に追い込まれる事がある。

 それがどういう時なのかは月照にもよく分からない。

 無理に共通点を探し出すなら双子の機嫌が悪い時の様な気がしなくもないが、人間誰しも機嫌が悪い相手を前にしたらストレスを感じるので、それを原因視するのは早計だ。

「「むぅぅ~……みっちゃん!」」

 双子は語気を強めて更にプレッシャーを与えて来た。

 しかしどれだけ威圧されようとも、言えないものは言えない。

 この先を下手に少しでも口にしたら、二人は絶対変な方向に想像をエスカレートさせ無実の罪でしつこく噛みついてくるだろう。それは鬱陶しいだけではなく、うっかり園香が霊である事のヒントを口にしてしまうきっかけを生み出す。

(そりゃ、俺だって……)

 月照だって健全な男子高校生だ。

 女子に抱き付かれたら嬉しいし、もっと濃密な関係を妄想する事だってある。だからもし園香相手に本気でそれを望むのなら、双子の言う様な小細工も色々とするかもしれない。

 しかし月照は今のところそんな気は全く無い。

 園香が霊だから、という訳ではない。霊であっても彼女は充分に魅力的だと思う。可愛いは絶対正義だ。

 だから理由はもっと単純だ。

 ただ単に、月照にはそんな度胸が無い。先日証明済みだ。

「「そんな風に黙り込んだ時は、何か都合が悪い事を隠す時だって知ってるよ!」」

 追及を止めない双子に、月照はついに観念した。

「確かにまたゲームする約束はしたけど!」

 逆ギレという訳ではないが、ちょっとキレ気味に声を荒げている。

「と、とにかくだ! 下心がどうとかくだらねえ事言うな! あの人は家庭の事情でゲーム全然できないらしいから、それで(たま)にはウチでしても良い、って事になっただけだ!」

 諦めてみると意外とすらすらと言い訳が出てきた。

 最後まで声の調子が強過ぎたが、勢いでこの話を終わらせるには丁度良いだろう。

「む……」

「そういう事なら……」

 案の定、二人共勢いに圧されてそれ以上は何も言ってこなかった。

 もう一度月照が差し出したコントローラーを灯が受け取り、渋々といった感じでゲームをスタートした。

 誰も何も言わなくなった部屋の中には、不気味なゲームBGMと気不味い空気だけが流れていた。

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