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れいしょういっぱい  作者: 叢雲ひつじ
4セーブ目
44/92

4セーブ目(6)

 土曜日、朝のホームルーム前の事だった。

「おい、咜魔寺いるか?」

 教室のドアが開かれると同時に、(がら)の悪そうな上級生の男子生徒が姿を見せた。

 ざわめく教室で、呼ばれた月照が立ち上がった。

「あ、つとむん先輩」

「つとむんじゃねえ! ってそんな事はどうでもいい。ちょっと(つら)貸せ」

 園香のつけた(あだ)()を即座に否定したところをみると、どうやらあまり気に入らない呼び方らしい。

「もうじきホームルームなんで無理です。休み時間にして下さい」

 全く(ひる)まずに拒否した月照に、クラスメイト達が更に動揺した。

(くそ、目立たずに過ごしたいのに!)

 ついさっき、夜の灯台の(ごと)く目立ちまくる双子をやっと追い払ったのに、今度は(ろく)に会話した事のない相手が(けん)()(ごし)で派手にやって来たのだ。

 こんな態度なら、先輩相手でも(おも)(わく)通りに行動してやる義理はない。

「いいから来いって!」

「良くないから行きませんって!」

 言い返すと、勉は思いっ切り舌打ちをして堂々と教室に入ってきた。

(ちっ、面倒な先輩だな……)

 月照は心の中だけで舌打ちをして、少し大きめの声を出す。

「先輩、それ以上近付いてくると後悔しますよ」

 強い拒絶の警告をするが、勉はお構いなしに歩いてくる。

 月照の近くの席にいたクラスメイト達が慌てて四方に散っていく。

「(何あれ、()(じょう)のもつれ?)」「(彼女に手出されたの?)」「(いや待って! あの咜魔寺だよ。あの人が彼氏で、女に浮気してんのがバレたんだよ!)」「(どっち? どっちが攻め!?)」「(ヤンキー同士の絡み!? 殴ってから(あご)クイして、『俺だけを見ろって言っただろ!』展開!?)」「(きゃー!!)」

 クラスの、隠す気があるのかどうか分からないひそひそ話が聞こえてくる。

「…………おい、咜魔寺」

 勉は月照の席の前までやってきて、低い声で言った。

「このクラス、どうなってんだ?」

「だから言ったでしょ、後悔するって……」

 むしろ素直に廊下まで出なかった事を自分の方が後悔させられた。

 まあここまで酷い内容のひそひそ話になるとは月照も思っていなかったが……。

 というか、初めて自分が腐った女子の()(じき)になっている事を知った。教室のどの辺りから聞こえて来たか、もっとちゃんと探っておけば良かった。

「こいつら、なんか俺の時だけ聞こえよがしに変な噂話するんで、こういう目立った登場は今後止めて下さい」

 月照がクラス中から集まる視線を睨み返しながら言うと、勉は本気で申し訳なさそうな表情になった。

「お、おう……。悪かった」

 嫌な視線はまだチラチラとこちらに向いているが、勉もあまり時間が無い。

 月照がここを動かない以上、長引けば担任が来てしまう。流石の勉も、その状況で月照と話すような愚行はしない。

 それ以前に、この居心地の悪い教室から一刻も早く退散したい。

「まあ真面目にホームルームでるんなら仕方ねえ、次の休み時間に部室まで――」

「あ、二時間目は移動教室ですから余裕無いです」

「――……じゃあその次!」

「それは移動教室から帰ってくる時間が必要です」

「じゃあその次だ!」

「そもそもなんで今言わないんですか?」

「だああ! ゴチャゴチャ言ってねえで、三時間目終わったら鍵掛かってても部室だ! 分かったな!」

 月照はほぼ初めて勉と会話したが、ここまで見た目通りに短気だと、あのベートーベンの仮装を良く引き受けたものだと変なところで感心してしまった。

「いや、分かりませんよ。鍵掛かってたら部室入れませんし。俺、部員じゃないから鍵借りられません」

「じゃあ廊下で待ってろ!」

「嫌ですよ! そもそも絶対あいつら付いてきますし」

 言うまでも無く、あいつらとは双子の事だ。

 しかし園香一筋で双子や他の女子に全く興味の無い勉は、月照達の関係をまるで知らない。

 勉が月照について知っているのは、「霊感が凄い」という事ぐらいだ。

「あ、あいつらってなんだ!? 幽霊か!?」

 だから勘違いして、月照にとってかなり都合の悪い事を平気で口走った。

「だああっ!? ちょおっと表出ましょうか、先輩!」

 月照は慌てて勉の手を取り歩き出そうとした。今でもクラス中の注目が集まっているのに、霊感の話なんてされては(たま)ったものではない。

「なんでだよ! ふざけんな、お前が出ねえっつったんだろうが!」

 しかし今度は勉が(がん)とした態度で踏み留まった。

「あんたのせいでだよ! そもそもこっちは話聞く義理もねえし、呼び出しに応じる義務だってねえんだ! なのに人の教室来て好き勝手に――」

 思わず声が大きくなった月照に皆まで言わせず、その手を振り解いた勉が逆に胸ぐらを掴んだ。

「こっちこそお前のせいなんだよ! 音楽室でお前があんな! あんな事――……」

 そこで勉の言葉が途切れた。

(あー……。うん、それは半分俺のせいかも……)

 残りの半分はあの霊のせいだ。

 半分だけとはいえ申し訳ない気持ちは充分あるので、直視できずに勉から視線を逸らした。

 すると、クラスの女子達の何人かがスマートフォンをこちらに向けているのが目に入った。

「わ、分かりました。三時間目終わったら行きますから、泣かないで下さい」

 本当に泣きたいのは自分だったが、そんな事を言えるはずも無い。

「泣くか!」

 月照をぶん投げる様に突き放し、勉はドスドスと教室を出て行った。

 最後に戸口で「絶対に忘れるんじゃねえぞ!」と念を押していく周到振りだったが、双子が付いて行っても良いのかは結局分からず仕舞いだった。

(いや、それより……)

 この場から逃げたらそれでおしまい、という勉を卑怯者と(ののし)ってやりたい位、クラス――主に女子の視線が不気味だった。



 その休み時間、双子に見付かる前にと急いで教室を出た月照だったが、結局廊下で見付かってしまった。

 約束があるから付いて来るなと一応警告したが、それで引き下がる双子ではない。

 二人で前後から廊下を(ふさ)ぎ、「隠れて尾行されるのと堂々と付いていくのと、どっちが良いか選べ!」と脅されたので、結局普通に連れてきた。

「失礼しまっす」

 双子と(ひと)(もん)(ちゃく)あって少し遅れたからか、部室のドアは開いていて中には勉が一人座っていた。

「遅えぞっ……って、なんでそいつら連れてきた!?」

「だから言ったでしょ、絶対こいつら付いてくるって」

「悪霊っつったじゃねえか!」

「なんでそんなもんわざわざ連れてくるんすか!? こいつらだけでも手一杯なのに!」

 朝の勘違いがどうやらそのまま彼の中で真実になっていたらしい。

「こらー、私達をお荷物みたいに言うな!」

「本当の荷物みたいに背中にしがみつくぞ!」

 更に双子が騒ぎ出したので厄介事二倍だ。

「うるせえ! 本当の荷物なら(しゃべ)らねえからお前等よりマシなんだよ!」

「「きゃんっ!?」」

 もう面倒なのでいきなり両手でチョップを入れて黙らせた。

(お? 右手もほぼ回復したか?)

 ()れはひいているがまだ紫色が残っているのでちょっと怖かったが、もうチョップしても痛くない程度には回復している様だ。まあかなり加減したのだが。

 双子もいつもより大分軽かったせいか、痛がらずに驚いてキョトンとしている。

(まあ静かになったから良いか)

 目的を達成できれば双子のダメージはどうでもいい。

「で、つとむん先輩。用件は?」

「つとむん言うな! つうか、そいつらいて話できっかよ」

 勉が双子を睨んだ。

「み、みっちゃん。大事な話ならそう言っておいてくれないと」

「わ、私達だって邪魔したい訳じゃなかったんだよ」

 双子は勉が苦手なのか、月照の後ろに隠れながら責任をなすりつけてきた。

「言っただろ! 目茶苦茶真剣に、この先輩から呼び出されたって! お前等邪魔になるって!」

 双子が怯えている事に気付いていても、月照は容赦なく事実を述べた。

 ここで甘やかして(かば)おうものなら、今後もっとエスカレートするだろう。(たま)には自分達の行動にきちんと責任を取らさないといけない。

「こ、この裏切り者!」

「みっちゃんがそんな卑怯者とは思わなかったよ!」

 警告したのに脅してまで付いて来て、怒られたら盾代わりにした挙げ句に「裏切り者」「卑怯者」呼ばわり……。

 これは黙っていられない。

「お前等、やっぱ思いっ切り喰らわせるから頭出せ!」

 月照が振り返りながらびしっ、と両手で手刀を構えると、双子は普段からは想像もできない俊敏な動きで手の届かない距離まで跳び退(すさ)った。

 更に(かま)(きり)みたいに両手を挙げ、なぜか片足立ちになって変な構えをしながら「しゃー」と()(かく)してきた。

 うん、全然怖くない。

 片足立ちに疲れたのかそれともふらついたのか、二人同時に上げていた足を地に着けた。

「「寄らば噛む!」」

 言いながら、曲げていた両手首を真っ直ぐに伸ばして頭の両脇に付け、なぜかウサギの物まねみたいなポーズになった。

 うん、久しぶりにちょっと可愛いと思ってしまった。

(卑怯者はどっちだよ……)

 双子の事だから計算なんて全くしていないのだろうが、「可愛い」に手を上げられない月照にとってこれは無敵の構えだった。

(というかなんで『噛む』なんだよ)

 斬ろうにも刃物がないのは分かるが、噛む必要性は感じない。

「ぐるるるる~」

「ぐ~るぐる~」

 灯と蛍が唸りだした。再び威嚇しているのだろう。

「片方、回ってるみたいになってるからな」

 突っ込みを入れられた蛍が嬉しそうに笑い、灯とアイコンタクトを取った。

「「ぐ~ぐる~」」

「検索サイトか!」

 超能力級の以心伝心をこれほどまでに無駄遣いされると、これ以上突っ込むのも馬鹿らしくなる。笑顔ではしゃぐ双子はもう相手にせず、勉の話を進めよう。

 そう思った月照が振り返ると、勉は廊下で鍵を持って立っていた。

「咜魔寺、殴られたくなけりゃとっとと部屋出ろ。そんで放課後お前だけで改めて来い」

 休み時間はまだもう少しあったが、やはり双子が邪魔で話にならなかった様だ。

「ええと……どこ行きゃいいんですか?」

「じゃあ一階の渡り廊下、部室棟側で待ち合わせだ」

「了解っす」

 軽い感じで返事をし、月照は双子を(うなが)して部室を出た。

 そのまま立ち去ろうとすると、後ろから勉が声を掛けてきた。

「今度は絶対、一人で来いよ!」

「俺じゃなく、こいつらに言って下さい」

 ノータイムで双子を指しながら答えると、双子がビクリと肩を振るわせた。

「わ、私達は」

「部活があるから」

「「だ、大丈夫!」」

(不良っぽい奴が怖いんなら最初から付いて来なきゃ良いのに……)

 知っている相手だからと気が大きくなっていたのだろう。

「おう、お前等絶対来んなよ!」

「「ひぅっ!?」」

 勉が本当に双子に釘を刺すと、双子はびくっとしてからしばらく動かなくなった。

「あ? どうした?」

 その様子に勉が少しドスの利いた声で尋ねると、双子はちょっと涙目になりながら。

「「花押先輩に言い付けてやる!」」

 言って、月照を置いて走り出した。

「はぁぁ!? ちょ、お前等何言って――!?」

 勉が止める間もなく、双子はあっという間に視界の外へと去っていった。

「……おい」

「俺が一番の被害者ですからね」

 ()(せん)を制した月照の言葉に、勉は大きく溜息を吐いた。

「……ああ、そうだな」

 見かけによらず、なかなか話の通じる先輩だった。



 渡り廊下と言っても一階部分は屋外になっていて、校舎間を繋ぐ部分にコンクリートを少し盛って通路を視覚化しただけ物だ。だから一階渡り廊下は移動時の最短距離でもない限り使う者は少ない。

 更に土曜日の放課後すぐは、部活組は教室か食堂で昼食を食べているので、部室棟側は全くと言って良い位ひとどおりが無い。

 それでも一階なので、H型になっている校舎間の屋外を歩く生徒や教師、業者の人間がそこそこいるのだが、校舎内に数メートル入れば死角になるのでまるで気にならない。

 だから密会には丁度良い穴場と言えるだろう。

「音楽室に居た、あの女の幽霊に会わせろ」

「はあっ!?」

 こんな風に、驚いて大声を上げなければ。

「(ちょ、お前声が大きい!)」

 勉が慌てて月照の口を押さえた。

 月照はしばらく「むがむが」と暴れていたが、勉がかなり本気で押さえに掛かっているので無理矢理振り解くのを諦めて大人しく解放を待った。

「俺にも色々あってな……。とにかくビビりっぱなしでいる訳にはいかなくなった」

 月照がこれ以上大声を出さないと分かると、勉はやっと押さえていた手を離した。

「でも先輩、あいつ怖くてトラウマになったって聞いてますよ? ショック死とかしません?」

 約束通り双子と別行動を取ったが、まさかこんな相談をされるとは思っていなかったので、月照は言葉を選ぶところまで頭が回らなかった。

「死、ぬ、か!」

 勉が不良漫画の番長張りの迫力で目を血走らせて首を傾けながら(どう)(かつ)し、顔を近付けてきた。これは本当に喧嘩慣れしてそうだ。

 月照は身体を鍛えているが、それは中学生時代のバスケットボール部でのトレーニングが根幹だ。接触を避ける前提のスポーツで殴り合いに強い身体になる訳がない。

 つまり、流石の月照でもこんな風に身体の大きい喧嘩っ早そうな相手はちょっと怖い。

(こういう人間を喧嘩腰のまま、あの坊さんに会わせたいと思うのは俺だけだろうか……)

 まあもっと遙かに恐ろしい相手を知ってしまった今の月照には、あくまで「ちょっと」しか怖くないのだが。

「いいか! トラウマになったのは認めてやるが、俺はそのまま終わる様な(やわ)な男じゃねえ! 次は俺の方からやってやる! やられっぱなしじゃ済ませねえ!」

 何をやるつもりなのかは分からないが、こんなちょっと首を伸ばせばチューできそうな至近距離でそんな大声を出されてもうるさくて頭に入ってこない。それに(つば)が掛かりそうで話どころではない。

 ついでに、校内で睨み合いなんてしていて、教師にでも見付かったら大騒ぎになりかねない。

「こ、こんな所で、止めて下さい!」

 ぐい、っと胸元を押し返して距離を取ると、月照は大丈夫だとは思いつつもなんとなく唾が掛かってないか気になって袖口で顔を(ぬぐ)った。

「俺を呼び出した理由がそれなのは分かりました。でも、やるって言ってもあそこにいつも出る訳じゃないですよ」

「あ? それを何とかするのがお前だろ! お前が頑張ってあそこに出せ! そしたら俺がやってやる!」

「いや、俺は触るとかはできますけど、感じるとかは無理なんですって! あそこじゃなかったらどこかなんて、感じないから分からないんですよ」

「感じろよ、俺の為に!」

「そんな、漫画みたいに突然覚醒したり新しい(きょう)()辿(たど)り着く様な事無理ですって」

「ぐちぐちと面倒な奴だな……もういい、お前が感じようが知った事か。とりあえずやりに行くぞ」

 勉が付いて来いと手招きしながら後ろを向いて歩き出した。

 しかし月照としては、音楽室はあまり不用意に近付く訳にはいかない。

 あの霊は月照の命を狙っているのだ。

 園香がいればポルターガイストなどで対抗してくれるだろうが、同行者が勉ではむしろ月照が彼を庇って余計に()(おもて)に立たされる事になる。

(いや、待てよ……?)

 しかしここでふと、月照はある事に気付いた。

 あの天井から逆さにぶら下がっていた着物の女は、勉と二人きりの時間を邪魔されたから月照に殺意を抱いているのだ。イベント後勉が音楽室に近付いていないのも、きっと殺意の原因になっているはずだ。

 ならば勉を連れて行けば、殺意が収まるのではないだろうか。

 勿論会えるかどうかは運任せだが、それは明日園香と一緒に行っても同じだ。それならむしろ、勉を(えさ)にした方が会える可能性が高い気がする。それに今なら吹奏楽部もまだ部活を始めていない。

「あ? どうした、早くしろ。 それとも行かねえつもり――っ!?」

 勉が振り返って(さい)(そく)してきた。

「いえ、一緒に行きましょう。てかもう少し優しく扱って下さいよ」

 イライラしていた勉を少し和ませるつもりで冗談めかして言ったのだが、肝心の勉は聞いておらず、振り返ったまま固まってこちらを見ている。

「先輩……?」

 声を掛けるが反応はない。じっとこちらを見て――いや、月照の背後を睨んでいる。

「あんた、何だ? 部外者が何してる」

 勉の言葉で月照も慌てて振り返った。

 勉の視線の先――渡り廊下の開きっぱなしの扉から、一人の女性がこちらを見ていた。どう見ても生徒ではない、大人の女性だ。

「(……げっ!?)」

 それは月照にとって見覚えのある顔だった。

 その女性も月照の顔を見るなり一瞬眉根を寄せて「げっ!?」という表情を見せたが、すぐに無表情に戻るとしばらく月照と勉を交互に見ていた。

 無言の睨み合いが続く事数秒、勉が(きん)(こう)を破って口を開いた。

「あ? あんた見た事あるな……ってああ、食堂のおば――」

 ギンッ!

 効果音の(げん)(ちょう)が聞こえる程凄まじい眼光で()(すく)められ、勉は言葉を途切れさせた。

 負けん気の強い不良を一瞬で黙らせるとは……。

「お、お姉さんは……」

 月照は言葉を選びながら恐る恐る話しかけた。

「近所のアパート一階の人、ですよね? ここの食堂で働いてたんですね。俺、学食行かないんで知らなかったです……」

 女性は月照の質問には答えず、代わりに感情をまるで感じさせない(のう)(めん)の様な表情で頭を下げた。

(間違いない、かみかみ先輩の下の階の人だ……)

 おそらく学食で料理を作った後、平日よりも利用者が少ないので何人かは先に帰宅できるのだろう。

 その帰り道に、さっき月照が驚いて出した大きな声を聞いて様子を見に来たのだろう。

「………………」

 女性はそのまま何も言わず、くるりと(きびす)を返して校舎から出て行った。


 ――さて。

 あの大声の少し後に、月照の背後から覗いたと仮定してみよう。

 男同士が密着するほど顔を近付けていて、やるだの感じるだのと会話していたこの状況……。

(あの人、今度マジで一回挨拶に行こう……)

 月照に親しい(?)顔馴染みが増えたのだった。



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