第8話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカです。
現在の時刻は朝7時半。
わたくしは朝食を頂いています。
メニューは、白パン、サラダ、スープ、プレーンオムレツ、オレンジジュースです。
白パンはふかふかと柔らかいのですが、ジャムやバターなどは添えられていません。
サラダはドレッシングではなく、塩とスパイスがこれでもかとふんだんにかけられています。
スープは貴族の家で作られたとは思えない程薄味で、具も気持ち程度に野菜がぷかぷかと浮いているだけ。
プレーンオムレツは文字通りにプレーンな卵だけの味。
いっそのこと白パンを半分にスライスして、オムレツとサラダを挟んで即席卵サンドにして頂きたいですが、マナーとしてはよろしくないようですので、それぞれ別で頂いています。
食事の間は侍女が壁際で控えていますので、マナー違反を報告されてしまっては困りますから。
唯一の癒しは、オレンジをそのまま搾った100%のオレンジジュースです。
これが無いと6歳児には辛いですわ。
むしろ、大人でも美味しいとは思えない食事かもしれません。
この世界の食事情はいったいどうなっているのか…
甚だ疑問です。
少なくとも、わたくしは毎朝このメニューの朝食です。
侍女が部屋まで運んできてくれるので文句は言えませんが。
まぁ…わたくし、生まれてこの方食堂で食事を頂いたことがありませんので、他のカサブランカ家の方々がどのような食事をしているのかは知りませんが…
「ごちそうさまでした。」
食事を終えると、侍女が食後の紅茶を淹れてくれます。
ありがたいわぁ…
あぁそうそう。
先程タオルで顔を拭いている時にふと思いましたが、この国って、化粧水や乳液などの基礎化粧品はあるのでしょうか?
それともわたくしがまだ6歳児だから、わたくしの部屋に置いていないだけなのでしょうか?
先程出かけた時に、日焼け止めも必要だと感じました。
それからクレンジングや洗顔料も欲しい所ですね…
もしこの世界に無いのなら、ネットショッピングで購入しておかなければいけません。
「お嬢様、本日はお勉強がお休みの日でございますが、どの様にお過ごしでしょうか?」
食後の紅茶を頂きながら考え事をしていると、侍女に話しかけられました。
「そうですわね…
今日は一日部屋でゆっくりいたしますわ。」
嘘ですけど。
「では刺繍道具か本を持って参ります。」
「いいえ、今日は部屋に置いてある本を読み進めますので結構ですわ。
お気遣いありがとう。」
侍女の気遣いはありがたいのですが、今日は家の間取りなど、詳細を決めておきたいのでお断りしました。
まぁ、部屋で過ごすのは本当なので許してください。
「かしこまりました。
何かご用命がございましたらお呼びくださいませ。」
「ええ、ありがとう。」
侍女が部屋から退出したのを確認して、スキルを発動ーーーーー
コンコンコン
「お嬢様、ご来客でございます。」
しようとしたら侍女が戻って来て、扉越しに来客の旨を伝えてきました。
この流れ…前にもあったような…
「来客?どなたかしら?」
「王太子殿下でございます。」
………何の用だよ。
「王太子殿下ですか?
一体何のご用でしょう?」
「何でも昨日の件を謝りに来たとの事です。」
いや、絶対国王と王妃に言われたから来ただけでしょ。
心がこもっていない謝罪をされに行くほどこっちは暇ではありません。
しかも、会えば胸糞が悪くなるのことは分かりきっているので、会いたいとすら思いません。
…ん?
「まぁ…それはそれは…お気持ちだけ受け取っておきますとお伝えくださるかしら?」
「それは…」
ドンッ!!!
「俺がわざわざ来てやったのに何て失礼な奴だ!
せめて顔くらい見せたらどうなんだ!!!」
おー危ない。
ドアに錠と結界をかけておいて正解でしたね。
「ナーシャ?一体どうしたというのかしら?」
あ、今更ですがわたくしの専属侍女の名前はナーシャといいます。
「申し訳ございません。
応接室でお待ちいただくよう申したのですが、殿下がお嬢様のお部屋まで行くと強引に…」
「そうだ!わざわざ来てやったんだぞ!
くそっ!なぜ開かない!おい!開けろ!!」
ガチャガチャッ!
ドン!ドンッ!!
「殿下っ!おやめください!」
侍女のナーシャが戻って来た時、嫌な予感がしたため観察で扉の外の様子をモニターで表示させて観察していましたら、バカ王子の姿が見えましたので、とっさに扉へ錠と結界をかけました。
案の定バカ王子は扉を無理矢理こじ開けようとしていますが、そんな事ではびくともしません。
開かないからと言って、扉をドンドンと叩いて、まるで襲撃犯のようです。おー怖。
そんな態度ではモテませんよ?
モテる以前に、誰からも好意を持ってもらえませんよ?
はぁ…
マジでバカじゃんこの王子。
バカ王子の侍従さんは慌てて諌めているけれど、聞く耳を持たれていないから全く態度が改まらない。
バカ王子の侍従さんも大変だな…
「まぁ…殿下…」
「どうだ!感謝されてやっても良いんだぞ!」
「殿下はまだ王太子教育が始まっていらっしゃらないのでしょうか?
未婚の男性が、家族でも無い未婚の女性の部屋に許可無く立ち入るのは非常識な行為でございますのよ?
王太子教育が始まれば、最初の方で教わるマナーでございましょうに。
ましてや感謝されても良いだなんて…
非常識に部屋を襲撃されて、感謝する人間など存在しませんわ。
この際はっきり申し上げておきますが、王太子になられるのであれば、お勉強は欠かせませんことよ?
だって、傲慢で非常識な方が王太子…ひいては国王になってしまっては、国は簡単に滅んでしまいますもの。」
バカに遠回しに言っても伝わらないので、言葉を選ばず正直に言いました。
これで不敬罪と言うならそれでも結構。
今すぐにでもあの場所へ行っても構いませんわ。
「なっ!!!?
貴様!!!無礼だぞ!!!」
「まぁ!面白いことを…
殿下の方こそ、わたくしのみならず他の方々に対しても無礼な振る舞いをされているではありませんか。」
「俺は王太子だぞ!えらいんだ!
だから俺はそれで良いんだよ!!!」
「それが傲慢だと申しております。
王太子であっても貴族であっても、人の上に立つ者は下で支えてくれる方々がいてこそ成り立つのです。
殿下はご自分でお部屋のお掃除は出来ますか?
ご自分のお食事のご用意は?
おひとりで身支度を整えられますか?
全て仕えてくれる使用人の方々がいてこそ、殿下は何不自由なく暮らすことが出来るのではないですか?
殿下が今の御年で王太子という立場になることが出来たのは、国王陛下と王妃殿下の最初の御子として生まれたからに過ぎません。
もしも殿下がそのお立場を維持したいとお考えであれば、周りの人間に感謝の気持ちを持って接すること、そして、自らの責任を果たすこと。
この二つは最低限行うべきです。
今の殿下はそのどちらも出来ていないようにお見受けします。
立太子されているならすでに王太子教育が始まっているのでは?
それなのに、昨日や今日の振る舞いをしているということは、王太子教育をきちんと受けていらっしゃらないのではないですか?
わたくしは、そんな方のお守りをする人生は真っ平ごめんでございます。」
「な…っ!!!!!?
俺の周りには俺のことを褒める者しかいないんだぞ!
お前は俺に説教するつもりか!?」
「はぁ…殿下の周りにはそのような者しかいらっしゃらないのですね。
そしてその意味も分かっていらっしゃらないとは…
それに、こんなにはっきりと申したのに理解できないないのであれば、殿下はやはり…残念な方…ということなのでしょう…」
頭がね。
「っ!!〜〜〜〜〜失礼する!」
あえて心の中で言った最後の一言が伝わったのか伝わっていないのかは分かりませんが、大きな足音を立ててバカ王子は走り去っていきました。
人んちの廊下で走るなよ。
いや、王宮でも走るなよ。
あーでもスッキリした。
そして改めてあのバカ王子とは結婚したくないと明確に思えたね。
良かった良かった。
まぁ、今回の件をバカ王子が国王夫妻に言ったところで録画しておいたから反論は十分にできますし、何ならあの契約書を早々に使うのも吝かではございませんことよ?
やりようはいくらでも…ね?
さーて、邪魔者はいなくなったし、ゆっくりと新居の案を考えましょう!
その後、食事の時間を挟みながらゆっくりと1日かけて新居案を作成しました。
度々失礼します。めいです。
お気づきかと思いますが、クロエもとい杏は聖人君子という訳ではありません。
レオンハルトのあまりのアホさ加減に呆れて、心の声はちょいと乱暴になったりなっていなかったりします。
キャラ崩壊という訳ではありません。
念の為に補足でした。




