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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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プロローグ

よろしくお願いします。


「クロエ・カサブランカ!!

貴様との婚約は今この時をもって破棄する!」


王立学園の卒業パーティーの最中、学園の卒業生とその保護者である貴族の面々が集う学園のダンスホール中央にて、声高に場違いな主張をするのはこのフローレン王国の王太子レオンハルト・フローレン。

金髪碧眼のいかにも王子様然とした風貌の青年で、この学園では生徒会長を務めている。

だが今は、いつもの王子様然とした美しい顔を醜く歪め、その青い瞳には件の令嬢への憎しみを惜しみなく乗せて睨みつけている。

彼の場違いな主張により、それまで和やかな雰囲気に包まれていたパーティー会場は、水を打ったように静まり返った。


そしてその言葉を投げつけられた、美しい銀髪と、右目はシトリンを思わせる美しい瞳、左目はアクアマリンを思わせる美しい瞳を持つ令嬢、クロエ・カサブランカは、カサブランカ公爵家令嬢にして王太子の婚約者である。今の所は。


「まぁ!王太子殿下!ありがとうございます!

なんて素敵なお言葉なのでしょう!

王太子殿下はそちらのご令嬢と真実の愛に目覚められましたのね!」


満面の笑顔で先の言葉を返すクロエに対し、レオンハルト、レオンハルトに庇われるように抱き寄せられているピンク色の髪に赤い瞳を持つ令嬢、そしてその2人の後ろに控えている他の生徒会メンバーである宰相令息、騎士団長令息、魔法師団長令息の面々も、面食らっている様子である。


「は…?はっ!!じゃなくて!

お前は私の大切なマリナに対し数々のいじめを行い、挙げ句の果てには階段から突き落としたであろう!?

そんな女に国母なんか務まらん!

よって!お前との婚約を破棄し、国外追放とする!」


「はい!承知いたしました!

それではこちらの書類にサインをお願いいたします!」


クロエが差し出してきた紙を受け取ったレオンハルトが、驚きながらクロエに問いかける。


「は?…何だこの紙は?」


「こちらはわたくし達の婚約を解消するための書類でございます。」


引き続き満面の笑みで答えるクロエに対し、レオンハルトはーーー


「はぁ!?どういうことだ!!

しかも公爵のサインに…父上のサインまであるぞ!?」


「当たり前でございます。

婚約解消の書類でございますから。

ご存知でしょうが、わたくし達の婚約は王家と公爵家が行ったもの。

そこにわたくし達の意思などございません。

ですから、婚約を解消するにしても、両家の長である国王陛下と公爵閣下のサインが必要なのでございます。

ささ、どうぞこちらにサインを。」


あまりにも用意周到なクロエに対し驚きながらも、自分にとってもまたとないチャンスであると書類の内容をきちんと確認せずにサインをするレオンハルト。


「書いたぞ。」


ポゥ…

レオンハルトがサインした直後、書類が淡い光を放った。


「ありがとうございます!

確かに。これで全員のサインが揃いましたわね。

あら?あちらにいらっしゃるのは宰相閣下とお見受けしますわ。

こちらの書類、提出いたします。

ご確認頂けますでしょうか?」


いかにも今、宰相を見つけたかのように振る舞い、婚約解消の書類を提出するクロエに驚きながらも、その一切を表情(おもて)に出すことなく、この国の宰相であるアイスバーグ公爵は書類を受け取り、内容と全員のサインが揃っている事を素早く確認した。


「…しかと受け取った。早速、手続きに入ろう。」


「どうぞよろしくお願いいたします。」


クロエがそう言って、宰相に笑顔を向けた瞬間ーーー


「クロエさん!待って!私はあなたに謝ってもらえればそれで良いのよ!」


レオンハルトに庇われるように抱き寄せられている令嬢マリナが、その赤い瞳に涙を浮かべ、小動物のように震えながらクロエに向かって叫んだ。


「大変失礼ですが…わたくし、あなた様と面と向かってお話しするのは初めてでございます…

王太子殿下と親しくされているので、王太子殿下が真実の愛に目覚められたご令嬢と認識しておりましたが…」


クロエが右頬に手を当てながら困ったように微笑み、戸惑いの言葉を告げる。


「そんなっ!あなたは私の教科書やお母様の形見、大切なものを隠したり壊したりしたし!それにっ!私を階段から突き落としたじゃないっ!!それって、私が、あなたが愛するレオンと恋に落ちたから、嫉妬してのことだったんでしょうっ!?

だから…そんな酷いことをっ…私は!あなたに謝ってもらえればそれでいいのよっ?だから、謝ってっ!?」


「マリナ…」


目に涙を浮かべ、震えながら必死に訴えるマリナをさらに抱き寄せるレオンハルト。


「うーん…面白いくらいに全て間違ったことを仰ってますが…とりあえずこれだけははっきりと否定しておきたいことがございますわ。」


「何だ。自分の罪に対する申し開きか。」


愛するマリナが必死にクロエに対して優しい言葉をかけているのに、なおも醜く申し開きしようとするクロエに苛々しながら問うレオンハルト。


「そこは正直どうでもよいのです。

わたくしがはっきりと否定したいのは、『私が、あなたが愛するレオンと恋に落ちたから、嫉妬してのことだったんでしょう?』の部分ですわ。

はっきり申し上げて、わたくしは王太子殿下と初めてお会いした時から、王太子殿下のことがずっと嫌いでしたの。

先程も申し上げましたが、わたくし達の婚約は王家と公爵家の利害が一致した上での契約でしかございません。

そこにわたくしや王太子殿下の気持ちは一切加味されてはおりませんの。

ですから、わたくしは今日この日をとても楽しみにしておりました。

この日のために、先程の婚約解消の書類も準備しておりましたから。

無事に婚約解消できて、本当に嬉しく思っておりますのよ。」


「嘘よ!だって、クロエはレオンのことが好きすぎて、追いかけまわしていたじゃない!!

意地を張っているだけでしょうっ!?」


「わたくしがいつ、王太子殿下を追いかけ回していたのでしょう?

学園生活を送っていて、一度も王太子殿下と学園内でお会いしたことはございませんでしたが…

ましてや王太子妃教育は王立学園に入学する前にほぼ終了しておりましたので、学園に入学後は王宮に行く機会も減りましたし…

学園入学後は数回だけ王太子妃教育で王宮を訪れましたが、王太子殿下にお会いする事は一度もございませんでしたわ。

一体いつ、追いかけ回したと?」


「そっ…それは…」


クロエのはっきりとした物言いに、マリナが言い淀む。

確かに、マリナはこの3年間、学園内でクロエとは一度も会わなかった。

クロエとレオンが一緒にいる所も見たことはなかった。


「もう良い!衛兵!罪人を捕らえよ!」


マリナが不利になるや否や、レオンハルトが叫んだ。




が。





「どうした!聞こえないのか!?

衛兵!罪人、クロエ・カサブランカを捕らえよ!!」


衛兵は誰一人として動かない。

当然である。

今回の王立学園の卒業パーティーは、王太子レオンハルトが卒業生の一人という事もあり、国王陛下と王妃殿下、レオンハルトの弟達の第二王子殿下と第三王子殿下も来賓として参加している。

よって、会場にいる兵は普段学園が雇っている警備兵ではなく、国王陛下の御身をお守りする近衛、第一騎士団の面々なのだ。

彼等は自分達の主人である国王陛下の命にしか従わない。

それに、クロエがまだ罪人と決まったわけではないのに、憶測だけで動くわけにはいかないのである。


「くっ…カルロス!!

そこの罪人を捕らえよ!!」


「あら、王太子殿下。

そんなことをしなくても、わたくしは速やかにこの国から出て行きますわ。

それでは皆様、ごきげんよう。」


レオンハルトが騎士団長令息のカルロスにクロエの捕縛を命じるも、クロエはそれを遮り、誰もが見惚れる最上級のカーテシーで会場中の面々に挨拶をしーーー






消えた。






「「「!!!!!!!?」」」


会場中の誰もが信じられないといった表情を浮かべていたが、いち早くレオンハルトが声を上げる。


「はっ!いや…何かの間違いだ!!

クロエはまだこの近くにいるはずだ!

カルロス!すぐに追いかけろ!クロエを探せ!」


「御意!」


(転移魔法!?いや…そんなはずはない!クロエは魔力が少ない上に、水の初級魔法を使うのがやっとだったはずだ!絶対に近くにいるはずだ!)


レオンハルトに命令されたカルロスが急いで会場を出る。

ざわめく会場の中、レオンハルトは一人、クロエがすぐに捕まると信じていた。




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