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はいはい、最強最強

 がたがたと整備されていない道を走る馬車三台。その三台目の中で揺られ。


「うー、お尻が痛いです」

「我慢しろ」


 辛そうなミルフィにそう言いつつも、マジックアイテムのリュックからクッションを出して手渡す。


「ありがとうございます、でもタカツグ様は平気なんですか?」

「俺の生まれ育った町は田舎だからな、こういう道は慣れてるんだよ」


 どこまでも続く田畑。コンビニとスーパーマーケットが一店舗ずつあるだけの何も無かった場所。少しだけ懐かしくもある。


「……タカツグ様?」

「何でもない」


 被りを振り、幌に空いた窓から外を見る。ちょうど山の麓道を通っていたらしく、緑が見える。


「ここいらから山に登り始めます。お二人とも更に揺れますが大丈夫ですかね」


 御者が声を掛けてくる。


「多分、大丈夫だろ」

「私は大丈夫じゃないですぅ」

「我慢しろって言っただろう、慣れろ……すまないな、気にしないでやってくれ」


 はいはい、と少しだけ苦笑いを浮かべて御者は巧みに馬に繋がれた綱を操り、出来る限り揺れないようにと道を選んでくれていた。


「なぁ、ミルフィ…俺の魔法って闇特化型って言っていたよな」

「そうですね、あと風と水もありますが」

「やっぱりあれか?魔族ってやつも闇系なのか?」

「タカツグ様の知識はちょっと偏ってませんか?闇だからと言って全ての魔族が使う訳じゃありませんよ」


 そりゃ悪かったな、と軽口を叩き。少し考え込む。


「……魔法適正はこちらに転移した時のご本人の精神状況にも影響されると聞きました」

「だからか」


 闇や水、風。

 連想されるのは流されると言ったイメージ。闇は楽したいと言った感情からだろう。


「でも、タカツグ様の魔力量は他とはけた違いだと言っておりましたし、あれから集中の鍛錬もなさったのでしょう?」

「まぁ、まだ初歩の初歩だけどな」


 レィティのスパルタ特訓を思い出し。


「あれ、澪もやってんのかな」

「………またミオ様の事考えていらっしゃるんですね」

「同じ転移者だしな、気にはなるさ」


 つーん、と向こうを向いてミルフィが丸まる。最近とみに多くなったミルフィの行動。

 まさかな、とは思うがヤキモチ妬かれている様な気がしないでも無い。だが、どうせ尋ねたところで機嫌を損ねるだけの話だ。


「ほら、景色が変わったぞ。山の中に入った」

「子どもじゃ無いんですからそんなのに興味ありません」


 打つ手無し。こうなった時のミルフィはほっとくに限る。


「若いっていいですねぇ」

「聞き耳立てるな、そしてそんなんじゃねぇ」

「はいはい」


 暇なのだろうか、御者の青年はくすくす笑いながら話しかけてくる。


「岩地だな、この辺りは」

「一応馬車の道は石をどけてありますが、時折落石もありますので油断は出来ないんですよ」


 そりゃ大変だな、と。改めて前方を見る。思っていた以上に標高は高くは無いのだろう。空気もそうは変わらない。


「おや?一台目が止まりました」


 その言葉に、何か異変があったのかと馬車から飛び降り商人のおっさんが乗っている一台目に近付く。


「どうしたんだ?」

「ちょっと厄介事がありまして……道を変えた方が良いかもしれません」

「そりゃまた何で」


 あれですよ、と商人の視線の先を見れば。食い散らかされた野生のヤギや羊の死体。


「肉食獣か?」

「町に来た道中には無かったんですがねぇ、こう言う時はなにやら嫌な予感がするんですよ」

「その勘来るときには働かなかったのかよ」

「……もう止めてくださいよ、耳が痛い」

「そうは言ってもな」

「タカツグ様ッ、近くにドラゴンが居ます!」


 馬車酔いでくだばっていたミルフィが声を張り上げている。


「ドラゴンだぁ???」

「逃げましょう」

「いや、こう言う時の為の護衛だろう」

「タカツグ様、流石にドラゴンには太刀打ちできませんっ!」

「こんな序盤で中ボス出てくる筈が……出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 巨大な影、高く空を飛んでいる姿はアニメで見たそれと同じで。


「あれも転移者か?」

「いや、ドラゴンは原種の筈です」

「なぁ、一度お前の所の上司とやら殴りに行ってもいいか?」


 何無駄に強い魔物作ってんだよ、ふざけんな。

 そう言いたいのを我慢し。


「ミルフィ、馬車の周りに防壁展開してくれ」

「タカツグ様はどうなさるんですか!?」

「どちらにしろこの道を引き返してもアイツに追いつかれる可能性がある。何とかして倒すしかないだろう」

「無理ですって、この世界で最強なんですよ。ドラゴン種は」

「俺だって最強魔導士だろう」

「人とドラゴン比べちゃだめでしょう!」


 こいつの言う事も分かる。だけど、やってみなくちゃ分からない。


「命まで賭けてやる事では無いでしょう!」

「うるせぇ!!!!」


 大声で怒鳴ると、びくっとミルフィが肩を竦め泣きそうな表情になるのを見て。


「怒鳴って悪かった、だがなどちらにしろ飛行タイプのあの手合いから逃げ切れる気はしねぇ…なら追われて食われるより向かってやられる方を俺は選ぶ」

「タカツグ様…」


 正直恐ろしくて仕方ない。周囲の動物の死体が自分に代わるかもしれない。

 だけど。


「<風羽>展開」


 空に魔法陣を描き、空気の刃を飛ばす。レティの魔法からヒントを得た新しい技。


「―――――――!!!!!」


 甲高い声が聞こえ、空中のドラゴンの金の目が俺を捕らえる。


「降りて来い、極上の餌が待ってるぜ」


 震える足をどうにか留まらせ、下降してくるドラゴンを睨み付ける。

 致命傷にはならないが少しずつドラゴンの身体を傷つける風刃を自在に操り、間合いを計る。

 痛みによるものなのか、それとも最強種と言われる奴らのプライドからなのか、怒り狂った鳴き声が上がる。


「来い」


 魔法陣を自分を中心に張り巡らせ、飛来を待ちドラゴンがその領域に入った瞬間に発動させる。


「キュ―――――――――ッ」


 飛来と言うか。


「落下してくんな――――っ!」


 やばい、逃げ道がねぇと俺を目がけて落ちてくる巨体に慌てふためく。


「タカツグ様っ」


 ミルフィの悲鳴にも似た声が響いた。


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