第一話 テラという世界
テラ
この物語は、まずテラから始まる。
テラ。ラテン語で「地球」を意味するその名の通り、本作においてもそれは、現実の地球とほとんど変わらぬ世界を指す。
青い海が広がり、大陸が連なり、無数の国家と民族、言語と文化が存在する星。人類は戦争と繁栄を繰り返しながら文明を築き、二十一世紀初頭には高層都市を築き、情報網を張り巡らせ、空と宇宙へ進出していた。
だがその発展は、決して全能を意味しない。海にも宇宙にも、まだ自在に住めるほどの技術はなく、人類の生存圏には明確な限界があった。
もっとも、テラは現実の地球と完全に同一ではない。
この世界には、明確な相違点が二つある。
一つは、技能の存在。
生命が持つ精神力を用いて、炎を起こし、水を操り、身体能力や感覚を常識を超えた領域まで引き上げる力。古くは奇跡と呼ばれ、やがて理論化され、現代では学問や制度の中に組み込まれている。
もっとも、それは便利な魔法ではない。技能は使えば必ず消耗し、限界を超えれば自らの命すら脅かす。ゆえに人類は、技能だけに頼ることなく、技術と併せて文明を発展させてきた。
そしてもう一つは、物質界と精神界という、二つの世界の併存である。
人間や動物が肉体を持って生きる物質界。精霊をはじめとした霊的存在が在る精神界。両者は普段、完全に切り離されているが、魂という根源においては同じ理の上に成り立っている。
生き物が死ねば魂は還り、精霊もまた存在を終えれば本来の形へ戻る。そして魂は再び、生物か霊体のいずれかとして新たな生を得る。
死は断絶ではなく、形の変化に過ぎない。
それが、この世界の法則だった。
だが、二つの世界があるからといって、人類に無限の可能性が与えられていたわけではない。
むしろ逆だった。
技能の存在は社会を支え、技術の進歩は暮らしを押し上げた。だからこそ人口は増え、消費は拡大し、資源の限界はますます深刻になっていった。人類は平和の中で繁栄しながら、同時に、自らの星の狭さを思い知らされつつあったのである。
この星は広い。
だが、無限ではない。
ならば、人類はどうするべきか。
限られた地上に留まり、やがて訪れる行き詰まりを待つのか。
それとも、技能と技術、知恵と意志のすべてを注ぎ込み、新たな生存圏を切り拓くのか。
後に箱庭世界パラディスムへと連なるすべての始まりは、ここにある。
人類が次の扉を開こうとしたのは、空想に酔ったからではない。
生き延びるためだった。
テラ。
それは終わりゆく世界ではない。
新たな世界を必要とした、始まりの世界である。




