第120章第3話【問題用務員と役者ども】
「問題児筆頭だ!!」
「気をつけろ、戦わせたら敵う相手なんていないぞ!!」
「逃げろ!!」
「遠距離から魔法をぶち込め!!」
そんな怒号が飛び交い、ユフィーリアめがけて閃光魔法だとか炎魔法だとか水魔法だとかその他の属性魔法とかが投げ込まれる。多数の魔法が発動される様は何と美しいことだろうか。色とりどりの星が煌めくようだ。
魔法とはいえ、所詮威力は一般人止まりである。長いこと七魔法王が第七席【世界終焉】として数多の魔女や魔法使いたちの頂点に立ち続けたユフィーリアの敵ではない。防衛魔法を使えば簡単に弾くことが出来る。
ユフィーリアは右手を振って展開した防衛魔法で飛んでくる無数の魔法を防ぎつつ、
「凄え元気だな」
「呑気なことを言ってる暇があったらとっととぶちのめしちゃいなよぉ」
背後でユフィーリアが展開する防衛魔法に守られるエドワードが、間延びした声で言う。
「こっちはショウちゃんとハルちゃんを抱えてるんだからぁ」
「何で?」
「こっち見てみなよぉ」
言われて、ユフィーリアは不思議そうに振り返る。
背後に佇んでいる巨漢の相棒は、両脇にショウとハルアの未成年組を抱きかかえていた。何やら未成年組は興奮気味な表情でジタバタとエドワードの腕の中で暴れている。彼らの武器である神造兵器も構えて準備万端な様子だ。
おそらく、生徒をまとめてぶちのめすことが出来る大義名分を与えられ、ここぞとばかりに暴力へ訴えようとしているようだ。手加減を知らない未成年組にそんなことを任せればどうなるか分かったものではない。最悪の場合、死人が出る恐れがある。
「ショウ坊、ハル。大人しくしてろ」
「そんなぁ!!」
「だってユフィーリア、ぶちのめしてもいいのだろう? だったらぶちのめしてしまおうではないか」
「手加減を覚えろ」
早く生徒たちをぶちのめしたくて仕方がないらしい狂戦士モードな未成年組の言葉をぴしゃりと一蹴するユフィーリアは、両手に握りしめた銀製の鋏を持ち直す。
「アイゼ、悪いが防衛魔法の維持を頼む。大部分はアタシの魔力で展開されてるが、ほつれた箇所から修復をかけてくれ」
「分かったワ♪」
アイゼルネに展開中の防衛魔法の維持を任せ、ユフィーリアは単身で防衛魔法の範囲外から飛び出す。
雨霰の如く飛んでくる魔法の数々を踊るように回避し、時には魔力看破で対処して魔法そのものを消し飛ばす。所詮は生徒の実力である。魔力看破で魔法を消し飛ばす方法など朝飯前だ。
数多くの魔法の攻撃を掻い潜り、ついに生徒の1人に肉薄したユフィーリアは銀製の鋏を握った右手を振るった。魔法の光が銀製の鋏に反射して幻想に煌めき、ユフィーリアが肉薄した男子生徒の首を刈り取った。
ところが、首を刈り取られた男子生徒は亡骸を晒すことなく忽然と姿を消してしまった。胴体と離れ離れになってしまった生首も、頭部を失った胴体もどこにもない。最初からそんなものなど存在しなかったと言わんばかりに、綺麗さっぱり消え失せていた。
「不思議か?」
ユフィーリアは銀製の鋏を肩に担いで問いかける。
「今年は我が愛する嫁の提案により、攻撃を受けた生徒は強制的に転移魔法で学校外にある湖に落ちるってことになった。今までは超絶手加減をしてきたが、今年は手加減しないで挑ませてもらうゾ☆」
ばちこーん、とウインクまで決めて宣告した。背後からショウが「ユフィーリアのファンサ!!」と騒いでいたが気にしない。
今年の追い出し式は1000周年ということもあって特別仕様である。ショウから「転移魔法で追い出せばいいじゃないか」という提案の元、攻撃をしたら強制転移する魔法兵器を副学院長のスカイが組み上げたのだ。
その魔法兵器は、ユフィーリアの両手首に嵌め込まれた腕輪である。真っ黒い見た目はまるで手枷のようにも見えるが、銀製の鋏で切り飛ばした相手は傷つくことなく強制転移で湖にダイブする仕様となっているので、今年ばかりはユフィーリアも手加減なしで喧嘩に臨めるという訳だ。ちなみにちゃんと問題児で実験済みであり、成功もしているので運用的には問題なしだ。
「汚えぞ、問題児!!」
「ショウちゃん、信じてたのに!!」
「俺のことを信じられても困りますよ。生徒の味方じゃなくて俺は永遠にユフィーリアの味方ですからね」
生徒から非難が飛んでくるが、ショウはどこ吹く風で受け流す。エドワードの手によって小脇に抱えられている様は格好つかないが。
魔法の攻撃を中断して苦しそうな表情で後退りする生徒たち。下手に攻撃できないと理解しているのだ。
何せユフィーリアは近接戦闘もさることながら、魔法による遠距離攻撃も同時にこなすオールラウンダーである。あらゆる戦場に適した戦い方をしてくるので、下手に挑めば強制転移で追い出されてしまう。それだけは避けたいのだろう。
形勢逆転かと思われたその時、生徒たちの中から1人の男子生徒が飛び出してきた。
「覚悟おおおおおおおおおお!!」
「おっと」
大上段から振り下ろされた棍棒を、ユフィーリアは銀製の鋏で弾き返す。
誰も問題児筆頭を相手に挑もうとしなかったが、果敢にも挑戦してきた勇者がいたとは想定外である。今回は棍棒を弾くだけに留めたが、体重の乗ったなかなかいい攻撃だったとユフィーリアは思う。
その相手は両手に棍棒を2本握った生徒だった。焦茶色の髪と琥珀色の双眸、凛々しい顔立ちには自信が満ち満ちている。やたら姿勢がいいのも彼の自信の表れか。
演劇同好会の元座長、アリオ・テゴーラである。役者らしく殺陣で勝負を仕掛けてくるとはいい度胸だ。
「ほーん、お前が喧嘩を売ってくるのか。勇敢を通り越して蛮勇だな」
「何、問題児筆頭に対抗できるのは俺たちしかいないと判断してな。この場の戦いは預からせてもらおう!!」
アリオが「出てこい!!」と卒業生たちの集団に号令をかけると、素早く数十名の生徒が棍棒を両手に握りしめて飛び出してきた。そしてアリオの背後に整列する。
演劇同好会としてアリオと一緒に舞台に立ち続けた生徒たちだ。彼らの顔には強い意思が見受けられる。「この場で問題児筆頭であるユフィーリア・エイクトベルを足止めするのだ」という力強い闘志が、ひしひしと伝わってきた。
ユフィーリアは挑発するようにニヤリと笑い、
「闘志だけあっても勝てねえぞ。それともあれか? 役者らしく得意の猿真似でも披露するつもりか?」
「そのまさかだ、ユフィーリア・エイクトベル」
アリオは言い当ててきたことに驚くことなく応じる。
「我々演劇同好会は、様々な役柄を演じてきた。英雄、邪悪な魔法使い、動物――そうして観客たちを楽しませてきた。『誰かに成り代わる』ことに関して言えば、我々演劇同好会は誰にも負けん!!」
そう言って、アリオは自らに魔法をかけた。
焦茶色の短い髪は艶やかな銀色の髪に。意思の強さを感じさせる琥珀色の双眸は、色鮮やかな青色の瞳に。凛々しい顔立ちは西洋人形の如き精緻な美貌に。スラリと高い身長が縮んで、女性らしくしなやかで小柄な体躯に。
そして極め付けに、纏う衣装は制服から両肩が剥き出しとなった黒装束に。両手に持っていたのは棍棒ではなく身の丈を超す銀製の鋏へと様変わりを果たした。
同じような変身を遂げたのが、アリオの他にも数十名。演劇同好会全員で、ユフィーリアの姿に変身したのだ。
「『猿真似だァ? 言うじゃねえか』」
桜色の唇から紡がれる声は、鈴の音を転がすかの如く美しさを誇りながらもなぞる言葉は粗野なもの。まさしくユフィーリアが言いそうな台詞選びだった。
「『だったらこれを見ても同じことが言えるんだろうなァ!!』」
「へえ、やるじゃねえか。似てる似てる」
ユフィーリアは演劇同好会の生徒たちの変身技術を褒めてやると、
「だったらオリジナルの実力を見せてやるよ、どこまで耐えられんだろうなァ!!」
そんな宣言と共に、ユフィーリアとユフィーリアに変身した演劇同好会による激しい衝突が勃発した。
《登場人物より一言》
【グローリア】やあ、みんな。ヴァラール魔法学院での生活はどうだったかな? 賑やかな1年間だったでしょう、ショウ君とか来たから余計にね。僕も悪戯や問題行動の標的にされたりしたけど、まあ楽しかったといえば楽しかったかな。どこかで出会える機会があったらまた見に来て……ちょっと待ってあの演劇同好会の子たち、ユフィーリアにそっくりどころか動きまでそっくりなんだけど!? どうなってるの!? え、身体能力増強魔法であんな動ける!?!!




